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番外・後日談
34. 危険信号と書いて手遅れと読む*
なんだろう、これ。きもちいいな。
ぬくくて適度な弾力に、すりすり、と顔をこすりつける。
「……?」
パカリと目が開いた。
はて。ここはどこだろう……。
いや。どこだろうじゃない、俺の寝室のベッドだ。
脇のあたりに感じる重みは、誰かの筋肉質な腕。顔をうずめていたのは、誰かの胸板だ。
顔をそろりと上に向けてみれば、それはもう最高にいい男な誰かさんの寝顔がそこに。
ああああぁ……。
セットしていない前髪がぱらりと顔にかかって、色気大爆発なくせにほんのちょっと幼くも見えるこの魅力を誰かと語り倒したいいぃ……。
ところで、昨夜は何時頃に戻ってきたのかな?
久々にブルーノ父と二人で酒を飲むと言うから、俺は先に休んどくと伝えて送り出したんだ。だって俺がいつまでも起きて待っていたら、二人とも気にしてすぐに切り上げちまうだろ。
今後もこういう親子の語らいを邪魔したくないし、だから昨夜は宣言通り先に休んだんだけど。
……あのぅ~、俺のおしりになんか、ナニかが入った後のよーな感じが残っているのですが?
具体的には、アレッシオさんのアレッシオが出入りした翌朝は、いつもこんな感じになるなあという感触が残っているのですけど?
もしや俺の寝込みを襲いやがったか?
いいや待つんだオルフェオくん、きみは以前アレッシオくんに濡れ衣をかけそうになったことがあるではないか。きちんと思い出してやりたまえ。
……。
あ、犯人俺だ。やっぱり一度立ち止まって考えるのは大事だね!
ぼんやりとだけど思い出したぞ。深夜に一度、アレッシオに起こされたんだ。
多分こいつが戻った直後だったんだろう。確か、苦しそうだったから起こしてくれたみたいなことを言ってたな。
ほらみろ、ダメじゃないかオルフェオくん、すぐアレッシオくんを疑うなんて。反省したまえよ。
あんまり憶えていないけれど、どうやら俺はうなされていたようだ。怖い夢じゃなく、なんというか……胸がギュッと苦しくて、悲しかったのは漠然と憶えている。
ほろほろ涙が勝手に零れ落ちてしまい、そんな俺をアレッシオは抱きしめてくれたんだ。
ホッとして抱き返したら、キスをしてくれて、それから俺の寝間着の裾に手が……そして胸を吸わ……押し倒さ……。
んんん?
あれぇ?
俺、やっぱり寝惚けてる隙に襲われたんじゃ?
だけど、起き抜けに縋りついたのは俺だし。
苦痛に感じることは何ひとつなく、むしろ気持ちよすぎて頭の中がドロド―――いや思い出すな。この爽やかな朝陽の中で思い出していいことではない。
俺は眉根を寄せながら、少し睨むように容疑者の寝顔を見つめた。
ゆっくりと片方の手を持ち上げ、彼の焦げ茶の髪を指でつまみ、顔の前からよけてやる。そのついでに、形のいい唇をふにふにと触った。
「あれは『自分から誘った』に数えられるのか、それとも『寝込みを襲われた』に入るのか、どちらなんだ……」
「おや、お忘れですか」
「!?」
飛びあがりそうになってズァッ! と手を離した。
腰は既に頑丈な腕で拘束され、後退できずに上半身だけのけ反る。
「おはようございます」
「おはよう。って、お、ま、え~……いつから起きてた……?」
「さて、いつからでしょう? ところで昨夜、いえ、もう日付が変わっておりましたが……何があったのか、憶えておりませんか?」
「い、いや、憶えているぞ、憶えているとも。ただな、その、ああいう展開で行為に至るには、果たして私は誘ったのか、襲われたのかどちらなのだろうという、ちょっとした疑問がだな。あ~、気にするな、自分でもくだらんと思った。忘れろ」
どうして俺はあたふたとこんな言い訳をしているのだろう。だんだんバカらしくなってきた。
ところがアレッシオはなんとなく形容しにくい微笑みを浮かべて、「憶えていないのですね」と言った。
憶えてるって言ったじゃん? 正確には思い出したんだがな。
「アレッシオ?」
「いえ……憶えていらっしゃらないようなので、きちんと教えてさしあげます。―――俺が襲いました」
ふおぁッ!?
自白した容疑者の声色がワントーン下がり、微笑みが妖艶にドロリととろけた。
爽やかで清浄な朝陽の中で浮かべて良い表情では断じてない。
「どうやって俺に襲われたのか、順番にじっくり思い出させてあげましょうか」
「ま、まま待て早まるな、じゃない早とちりはするなっ。どんな風にナニがあったのかはちゃんと憶えているともっ。その上でどちらなのだろうと、ちょっぴり疑問に思っただけだっ」
「ああ、そうなのですね。失礼いたしました。あれほど愛してさしあげたのに、綺麗さっぱり忘れられていたら気に入らないなと思ってしまいまして」
あ、ヤベ。
アレッシオにちょいSが降臨している。俺の頭の中で危険信号が鳴り始めた。拘束された後に鳴ったってもう遅いね!
しかしなんで、どこでスイッチが入ったんだ。
「あ、アレッシオ―――そうだ、時間! いま何時だ? 早く準備せねば。今日はイレーネやシシィと町に」
「ご安心を。まだ時間はたっぷりとありますので、今朝はゆっくりできますよ」
悪戯な手が尻を揉んできた。え、ほ、ほんとにすんの……?
戸惑っているうちに裾をたくしあげられ、尻の狭間に指が。
「あう……」
ぬくりと入ってきた。そこから全身に電流が走って、ぶるりと震えた。
際どいじゃれ合いじゃない。ほんとにするんだ……。
「まだ少しだけやわらかいですね。これならすぐに馴染みますよ」
「あ、れっしお……」
「今回はできるだけ、負担の少ない体勢でしましょうか」
言いながら俯せにされた。負担がかからないよう今朝はしないという選択はないのかな?
そんな俺の思考を見透かしたのかどうか、首の後ろをちゅうと吸われ、変な声が出そうになった。
彼はそのまま首や背中の筋に唇を落としながら、俺の腰をわずかに持ち上げ、先ほど指でいじっていた孔に先端をぴたりとくっつけてきた。
「あ、ぁ……あ……」
押し入ってくる。アレッシオの大きなものが。奥へ、奥へ。
だめだ、これ。この格好、ほんとに深く、入って。やばいのに。
ぎゅっとシーツを掴んだら、その上にアレッシオの手が重ねられた。
「今、あなたを襲っているのが誰なのか、しっかり憶えてくださいね……?」
「ひぅ……! や、ふかいっ……アレッシオっ、ゆるし……」
「ダメです。もう少し、奥まで行きましょうね」
「いあぁ……! やぁっ、やあぁ……!」
「俺でいっぱいになって。俺だけを考えて。悲しみだろうが苦しみだろうが、俺以外に囚われるなんて許しませんよ。あなたには、俺がいることを、思い出しなさい」
「んあっ、アレッシオ、あっ、あぁあ……っ」
深々と貫かれ、ゆっくり、じっくりと。
いい加減に起きねばならない時間が来るまで、俺は文字通り、身も心も念入りに彼のものだと思い知らされてしまった……。
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