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番外・後日談
47. お呪いと子猫
いつも読みに来てくださる方、偶然立ち寄られた方もありがとうございます!m(_ _m)
パラレル番外で別枠になるかと思いましたが、続き物として入れることにしました。登場人物が多いのでほんのりささやか(…?)なお呪いになっております。
ご存知ない方へ→本編の連載途中にある『★感謝お礼SS』の続き的なお話です。
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亜麻色の髪、青灰色の瞳を持つ、かつては理想的な紳士と呼ばれていた男がいた。
そう、かつては……。
「ここはどこだ」
彼は何故か真っ白な空間にいた。天井は真っ黒闇だが、壁や床は白く、何やらつるつるとしている。
今度は何事だろう。近頃、彼は立て続けに奇妙な出来事に襲われていた。ある日突然、後頭部に広々と風通しの良い空白地帯が生じ、気を付けていても足の小指を角にぶつけ、靴を履けば小石が刺さり……空白地帯を隠蔽すべく帽子や被り物を用意しても、どこからともなく鳥の群れが集まって……。
ここも転びやすそうだ。重々気を付けねばなるまい。何もないところで滑る、躓く、上空から何かが落ちて来る等、さまざまな危険を警戒せねば。
しかし奇妙なことはまだあった。そこにいるのは彼だけではない。
学生時代から付き合いのある友人達、さまざまな『便宜』を図ってやった知人や部下、かつて本邸で料理長をさせていた男、それから母方の祖父の侯爵……いや、祖父は亡くなったはずだ。最悪ほかの者は納得できても、この祖父は何故ここにいるのだろう。
「な、なんですかい、これは?」
「なんなのだろう……おや、きみは我が孫ではないかね? 随分いい男に育っているではないか!」
怯えた顔の二人に声をかけられ、しかし亜麻色の髪の男は嫌な予感を覚えて返事をしなかった。
これまでのパターン上、ろくなことにはならないに違いない。しかも集まっている面子が面子だ。
ところが二人の声が呼び水となり、わらわらと他の人々まで集まって来てしまった。こうなれば相手をするしかないが……数名が何もないところで転倒したり、「痛っ!?」と叫んでは靴を脱いだりしていた。逆さまにした靴からコロリと転がり出るのは、尖った小石。やはり、うかつに動いてはならないようだ。
そして妙に地味なトラブルに見舞われつつも、なんとか全員がそこに集まったのだが。
「きみ達、何やら臭くないかね? いい香水をつけたまえよ」
誰もが察しつつ何も言わなかったことを、空気の読めない祖父が顔をしかめてズバリと言ってしまった。
ビシリと空気に亀裂が走り、口をひらいたのはこめかみに青筋を浮かべた元料理長だ。
「お言葉ですがね、侯爵様。あんたも臭いですよ」
「何だと!? 何を言っているのかね、この無礼者は。だいたいおまえは平民だろう、貴き我らの中で意見していいと思うのかね!」
醜い争いが始まった。しかしこの場合、反論した元料理長の発言が正しいのである。この場に居るのはざっと数十名の男達だが、その全員から何とも形容しがたい悪臭が漂っているのだ。
「これはいったい、どうしたことか」
「はて……何やら恐ろしいことがあった気がするのだが」
「うっ……頭痛が!? お、思い出したくないような……」
亜麻色の髪の男も、この時ばかりは紳士的な笑みが鳴りを潜めている。この状況下で笑っていられるほうがむしろおかしいだろう。
元料理長は、彼も何やら嫌な予感に怯えているのか、破れかぶれになっている様子で侯爵に噛みついていた。そして侯爵がまたもや言ってはならないことを口にした。
「この私にさっきから、躾のなっていない使用人だね。しかし……ぷぷっ。その哀れでおかしな頭は随分笑かせてくれるから、それに免じて許してあげようかね? ぷぷぷっ」
これも、誰もが察しつつあえて口にしていないことだった。ここに集合するまでの間、彼らは友人知人の後頭部にギョッとし、次にやけにスウスウする己の後頭部に青ざめ、手触りを確かめていたのだ。
誰もが目を逸らしていた現実が、とうとう突き付けられた。
「はあぁっ!? 何を仰ってんですかねえ、あんたの頭もおんなじですよっ!! 触ってみりゃいいでしょ!!」
「何だと? 妙なことを―――はッ!? えッ!? ここ、これは何かね!? どういうことだね、私の髪がッ!?」
半狂乱で己の頭をぐしゃぐしゃし始めた侯爵。見た目が甘ったるい雰囲気の、女好きそうな優男である分、その頭部の現状はいっそう哀れだった。
何とも言えない沈黙とともに目を逸らす者が続出する中、ほがらかな笑い声が響いた。
「はっはっは、皆様、何を気になさっているのですかな? たかが残り本数ごときで、臆病な方々ですなあ」
彼は後頭部どころか、額から頭頂まで既にツルツルの紳士だった。比較的若い頃から額が怪しくなっていたため、この騒ぎをむしろ愉快そうに眺めている。
「皆様全員、いっそ私と同じお気持ちを味わえばよいと前々から思っておりましたよ……くくく」
「き、きさま……」
「なんという……」
その笑顔のほがらかさには、いっそ狂気を感じた。気まずそうに視線を足元に落とす者もいれば、カチンときた者もいる。
「おのれ、この床のような頭以前に、みっともない鼻毛を晒しおって! そちらのほうが間抜け面ではないか、ははははは!」
「なんだと!? おまえこそズボンの前が全開ではないか! ははっ、よく見ればあなたも!」
「うぐっ!? ここ、このおおっ……」
「私の父の従姉弟に言えばきさまなど!」
「自分の母の妹のはとこにお願いすればおまえなど!」
「いいや、我が妻の父の義実家に頼めば……!」
さらにしょうもない争いが勃発し始めた。
亜麻色の髪の男は、その争いの中心からすす……と離れた。
付き合ってはいられない。この者どもは事態がよくわかっていない愚か者だ。
自分は違う。一緒にされてなるものか。
ぷすり。
「くっ……また小石か!」
片方の靴を脱いで逆さまにすれば、コロンと出て来る鋭利な小石。念のためもう片方も確認したが、石は出ない。
このパターンは経験済みだ。靴を履き直して歩き始めれば、どうせまた「ぷすり」とくるのだろう。
しかし歩けど歩けど、足の裏を刺す感触は来なかった。何もなければないで、嫌な予感しかしないとは……まるで小石に「ひとときの幸運を喜べ」と嘲笑われているかのようだ。
つるつるの床でツルリと滑り、何もないところでつんのめり、それでも紳士の矜持として四つん這いだけはならぬと、神経を使って端に到達する。
奇妙な白い壁だった。壁というより、急角度の上り坂のようだ。下を見ると角がなく、湾曲して伸びている。
拳で軽く叩いてみたら、コツコツではなくキンキンという音が返った。……陶器だろうか?
友人知人や元料理長、祖父侯爵は、どうやら取っ組み合いを始めたらしい。が、みなツルツルとすべって転んで踏ん張りがきかないようだ。
無様な奴らは放置し、自分だけはここから助かろう、どうにかして逃げ出そうと彼は目論んでいた。
だが。
『みゅっふっふ~♪ みんなイキがいいねえ♪』
「……っ!?」
ちょうど彼の前にある壁の向こうから、真っ暗な天井にぬう、と白い顔が現われた。
―――とんでもなく大きな猫である。
薄氷色の目は丸く爛々とし、瞳は縦に細い。
とてつもなく巨大な白い子猫は、にんまああ、と嗤った。
「も、もしやここはっ……!!」
彼は悟った。これは壁ではなく、ここは部屋ではない。
猫皿の中だ。
『いっただっきまぁ~す♪』
「っっぎゃあああっ!?」
「ひいいいいっっ!?」
「なな、なんだありゃあああっ!?」
「な、なんだねなんだね、あれは何だね!? はっ、そうかこれは夢だね、夢に違いない!! きみ、ちょっと確認してきたまえ!!」
「知らん、私は知らん!! きさまが自分で確認してこい!!」
「きみ私をいったい誰だと思っているのかね!!」
「きさまこそこの私を誰だと―――わあああっ!!」
『みゃんっ♪ みゃんっ♪ うみゃっ♪』
巨大な肉球が振り下ろされ、ダシンッ、ダシッ、と皿の底を打つ。
そのたびに哀れな獲物達が子猫の爪に引っかかり、大口の中にひょいぱく、ひょいぱく、と……。
やがて最後に、一人だけ隅に逃げていた男が残った。
「こ、こんな……わ、私は、私はこんなところで終わる男ではっ……!!」
迫り来る前足から逃れようと、すくみそうな足を叱咤し、横に一歩を踏み出した。
ぷすり。
足の裏に小石が突き刺さった。
「…………」
『みゃっ♪』
ひょい、ぱく。
そして皿の中には何も残らなかった。
器の中で負の感情がたっぷり高まり、食べ頃になった獲物達をすっかり平らげ、子猫は唇をなめなめした。
『けふ。……ん~、ちょい食べ過ぎちゃったニャ』
お腹がパンパンで丸くなっている。普段から子猫を可愛がっている赤髪の青年に、時々『毛玉』と表現されることもある子猫だったが、今はまさにころころん、と転がりそうな毛玉になっていた。
『僕は断じて太ってニャイぞ! ……お腹がこなれるまで、もうちょいここにいるかぁ』
子猫は満足げにくあ、と欠伸をし、コロンと仰向けになった。その姿はまさに、ふわふわコロコロの毛玉である。
うみゅうー、と伸びをして、ヘソを天に向けたまま、子猫は満足げにくふくふと寝息を立て始めた。
■ ■ ■
「ぶフォッ!!」
―――覚醒間際に変な吹き出し方をしてしまった。
自分の吹き出す声で目が覚めるとか。おまけに、隣で寝ていたアレッシオもそれで起こしてしまった。
くっそ~、恥ずかしい!
「すまん、アレッシオ……」
「別に構いませんが、どのような夢だったのです?」
「……なんと話せばいいのか」
笑って起きちまったわけだけど、思い返してみればいろいろと微妙な夢だ。
幸い真夜中ではなかったらしく、カーテンから薄く光が入っている。早朝の光に室内の輪郭が浮かび、猫用ベッドでくふくふ眠っている毛玉も見えた。
冬はくるんと丸まっていることが多いのに、今朝はヘソ天で寝ているな。妙に満足げな顔に見える。
……。
一月一日。
もしや今年の俺の初夢って、コレか。
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読みに来てくださってありがとうございます。m(_ _"m)
更新のお知らせ:
所用により次回は11/6以降の更新になります。
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