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番外・後日談
48. やっと決まった日程とロッソ家の騎士について
いつも読みにきてくださる方々、ふらっと来てくださった方もありがとうございます!!
一日遅くなってしまいましたが投稿再開いたしますm(_ _m)
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何故あんな妙な初夢を見てしまったんだろうと、自分の頭に首を傾げつつ数日後。
特段何事もない平穏な日々は、使者の来訪とともに一旦終わりを迎えてしまったようだ。
―――やっと、ようやく陞爵の儀の日取りが決まった。三月末日だ。
王都やヴィオレット公爵領とを繋ぐ街道上に駅の数を増やし、冬場でもこまめに融雪剤を撒いたり、除雪作業を行わせるようにしている。ゆえにロッソ領への連絡は楽だし早くて良いと、毎度使者の方々からは好評をいただいていた。
彼らにも行き先ガチャというものがあるようで、「行け」と命じられればどんな雪深い山奥にでも使者として出向かねばならないらしい。大変ですなあと同情しつつ、暖炉に火を入れた応接間で温かいお茶と美味しいお菓子を出し、カイロの温石も持たせて大満足させてから玄関まで見送った。
使者が帰った後、執務室に側近を集めた。アレッシオ、ニコラ、ラウルといういつものメンバーに、何故か護衛騎士隊長のジェレミアも加わっている。今日彼は俺につく当番ではなかったのだが、誰かが呼んだのだろうか。
俺の視線から疑問を読み取ったのか、ジェレミアが言った。
「私も必要になるかと考えましたので、当番の者と交替しました」
彼はプライベート時にはいつもひょうひょうとしているが、今は真面目な騎士モードだった。ジェレミアが必要になる話とはいったい……。
ともあれ、使者が口にしていた概要だけは、真っ先に皆へ話しておくとしよう。
「三月の末日とは、中途半端に早いですね? 僕はてっきり五月頃に伸びるかなと思っていました。新教科が開始することもあり、社交シーズンより早い段階で済ませておくことにしたのでしょうか」
ニコラが首を傾げた。実のところ、俺もそのぐらいになるかなと思っていた。王都の社交シーズンが四月後半から始まることを考えると、三月中にというのはタイミングがやや早い。
ということは、社交シーズンとはあえて時期をずらす方向で行くことにしたのだろうか? しかしラウルは「いえ」と首を横に振った。
「単純に、その他の功績ある方々の表彰式と合わせることに落ち着いたんだと思いますよ。毎年だいたい四月前後にあって、自分と関わりのある貴族の叙勲や陞爵でもなければ、代理人を出席させて済ませるのが一般的なんです。表彰される者は平民が多いですからね、地方役人とか学者とか芸術家とか」
ああ、そういえばあったな、そういうのが。今までの人生、全然縁がなかったからつい失念してしまう。
確か、その表彰式と俺の陞爵を一緒にしてもいいかどうかっていうのも争点だったっけ? ニコラも思い出して少し恥ずかしそうにしているが、仕方ないと思うよ。俺なんか放置され過ぎて、もうこのまま立ち消えになるんじゃないかな~別にそれでもいいよとすら思い始めてたもん。
しかしラウルの家はまさしくその表彰式の場で叙爵されており、俺達よりもその式典が他人事ではないのだった。
「ちなみに褒賞のほとんどは金品や地位ですから、身分自体はそうそう動きません。今年は閣下お一人だけですよ、身分が上がるの」
マジか~。ラウルはそこんところもチェック済みだったらしい。
やはりこの手の話になると一番強いのはラウルだな。アレッシオは数少ない弱点の中に、平民として育った年月が長いことと、俺がこれっぽっちも興味を示さない分野には疎くなりやすいというのがある。
そのアレッシオよりさらに疎いニコラは、事務的な処理能力に関して最も強い。アレッシオはラウルとニコラのちょうど中間という絶妙な立場にいて、ここにジルベルトが加わったらどんな立ち位置になるかなと夢想するのは、また後日だ。
「手続きだけしておいて、式典を省略するというのはダメなのだろうか」
「ダメですって」
ラウルだけじゃなく、その場の全員に首を横に振られた。言ってみただけなんだから、皆そんな呆れた顔をしないでお願い。
まぁ、グダグダしている王宮にハッキリ決めてくれよといろんな人々が言っていたのは、絶対に省略してはいけない儀式がいくつかあり、叙爵や陞爵がそのひとつだからだ。
役所でサインをすれば手続き完了、なんて性質のものじゃなく、正式な場で国王陛下直々にそれを口にしてもらうことが一番重要なんだよ。
―――そして、今後の俺のスケジュールが側近達の間で練り直された。
唐突に詰め込まれた、それはもうキツキツの、キッツキツなスケジュールに俺はしばし呆然とし、現実逃避をしたくなってきた。
秋祭りときたら春祭りだったのに、どうやら今年は諦めなきゃならない。領民の皆さんにはもちろん、予算は出すからやっちゃってと言っているけれど、俺は不参加確定だ。ちくしょう。
だから早く決めてよって言ってたじゃん!! ……手の平返し? 知りませんね。
ともかく、他家の方々と比べて、俺はその日までに準備しておかねばならないことが大量にある。
式典用の衣装はもう用意してあるから、そこは問題じゃない。
まず『ロッソ伯爵』と記載されていた箇所がすべて『侯爵』に変わるため、書き換えるか新たに作り直すしかないものが山ほどあるんだ。爵位の入っている家印もそう。確定していない段階では注文や申請を行えないものもあって、ぶっちゃけ何もかも新たに始める叙爵よりも面倒だ。一個でも『伯爵』になったままのものが残っていたらいけないんだから。
残り日数、あと何ヶ月よ? にわかに殺気立つ俺達に、ジェレミア隊長が遠慮がちに「あの~」と口を挟んできた。
「申し訳ありません、閣下。使者殿から預かった書状ですが、まだ読まれておりませんよね?」
あ、そうだった。概要を聞いただけでもう開封しなくていい気分になっちゃってたな。
アレッシオが取り出したペーパーナイフを受け取り、封の内側に入れて引いた。丁寧に折りたたまれた紙を広げ、美しい筆記に目を通し、読み終えた頃には俺の目が点になっていた。
まじまじとその箇所を読み直し、見間違いでも目の錯覚でもないことを確認して、ジェレミアに改めて目をやった。
「おまえが騎士団に?」
ジェレミアはどことなくホッとした顔で頷いた。どうやら、俺がこの話題を出してくれるのをずっと待っていたようだ……すまん。
「はい。これまではヴィオレット公爵家より派遣されていた騎士という立場でしたが、正式にロッソ騎士団として閣下にお仕えすることになります」
側近達が目を見開いた。
そうかなるほど、だからこの場におまえの同席も必要だったんだな。
ニコラはひたすらびっくりするだけだったが、アレッシオとラウルはすぐに「そうかそれもあった」みたいな顔になっていた。え、おまえ達これを予測してたの?
「では、とうとう公爵閣下から正式な通達があったということでしょうか」
「仰る通りです、アレッシオ殿」
「それはおめでとうございます。実に頼もしいですね」
「ありがとうございます。我々もこの日を楽しみにしておりました」
執事と騎士隊長が微笑み合っているけれど、それ以外は全員呆然としたままだ。
「はぁ……予想はしてましたけど、実際そうなってみるとすごいですね」
ラウルでさえ溜め息をついている。だよな、もしかしたらこの書状の中で、これが一番度肝を抜かれる内容かもしれない。
アルティスタ王国の騎士団事情について、なんだが。
たしか『俺』のいた世界の歴史でもそうだった気がするけれど、矢狭間のある建築物とか、城塞としての能力を備えた建物の建設は国王の許可が必要になるんだ。それ以外にも貴族が無断で戦力を得る行為は、よほどの緊急事態でもない限り重い罪に問われる。
国王以外に騎士団を所有していいのは、基本的に公爵家のみ。
侯爵家は国王の許しがあれば所有できることになっているものの、現在騎士団を持つ侯爵家は存在しない。
伯爵家以下は完全に不可だ。
……だけど俺の場合、「騎士団を作ってもいいよ」じゃなく、「作れ」になってない?
ついうろんな目でジェレミアを見つめてしまったら、彼はほんのり苦笑しながら捕捉してくれた。
「まず、閣下の事業や、今後のロッソ領の発展状況なども踏まえると、騎士団は絶対に必要です」
俺はブルーノ父や公爵閣下からもお墨付きをもらっているんだけれど、侯爵家当主としての教育がほぼ不要と言っていいレベルらしい。ただしジェレミアが言うには、唯一『騎士団の主人』としての教育はまったく足りていないんだそうだ。
当たり前だ。まず自分とは無縁と思っていたものだから、最低限の知識しかない。これについては俺に限らず、ロッソ家の全員(使用人含め)同じことが言えるので、あらためて教育が必要だという。
それだけじゃない。
いざ『ロッソ騎士団』ができたとして、それをどこにどう置くか。
規模は。人数は。今後の採用条件は。給金の設定は。
騎士団用の建物の建設、騎士団の制服、騎士団の旗も必要になる。
ジェレミアが騎士団長を拝命することになるだろうが、それ以外のもろもろすべて、今から準備を開始しておかねばならない。
おまけに、作ればハイ終わりというわけにはいかなかった。
忠誠の儀なるものを経て、彼らは初めて『~の騎士』と名乗れるようになるそうだ。
俺の陞爵の儀と同じく、省略できない。
俺が忠誠を捧げられるの? マジで?
しかもこの、おそろしくギッシリ詰まりに詰まりまくったスケジュールのどこでやるの……事前にはできないからやっぱり表彰式の後か?
要するにいつ? 侯爵になった直後なんて、絶対に鬼忙しくなってるよね?
ニコラがハラハラしながらこちらを見ていたから、俺の目は間違いなく据わっていたのだろう。
―――早く別荘を建てよう。そうだ、それがいい。
以前もチラっと思った、温泉付きのやつがいいな。のんびりできる隠れ家的な。
そんでもって俗世のことなんて一切忘れて、アレッシオと一緒に入るんだ!
現実逃避? 知りませんよそんなことは。
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