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番外・後日談
49. 大所帯、王都へゆく
怒涛の二月が過ぎ去り、三月に入った。
あまりに忙し過ぎて、もう二月中に何があったかなんてほとんど憶えていない。
我が家の天使二人と一緒に晩ゴハンを食べながら活力をもらったり、定期的にアレッシオからよしよしされて癒やしてもらった記憶しか残っていなかった。
あれ、結構幸せ?
それは置いといて、少し早めに王都入りしておくことにした。イレーネとシルヴィアも出席するので同行者に加わり、あとはアレッシオ、ニコラ、ラウルももちろん一緒だ。
今回、残念ながらエルメリンダはお留守番……。一緒に来たがっていたし、俺も連れて行きたかったんだけれどね。彼女は今つわりが始まったばかりで、旅を避けたほうがいい時期なのだ。
それからジェレミア含む護衛騎士隊、二十騎全員。一介の伯爵ごときが騎士を帯同させているだけでも目を引くのに、二十騎なんてえらい数だよ。しかもこれだけ人数がいると、彼らの用を聞くための使用人も大勢連れて行く必要があり、使用人の乗る馬車や荷馬車も続いて、いつもより増し増しの大行列になってしまっている。
道行く人々に「なんだなんだ」と注目されているのが窓越しに見えた。中には今回の俺の用事を知っている物知りな領民もいて、周囲に広めて歓声を上げてくれたりもした。
そういう人々には軽く手を振ってやるのがマナーだな。歓声がでかくなり過ぎてビビったけど。
心の中で唱える呪文は『俺はパンダ』だ。
しかし旅の間は仕事量も制限されているし、村長や町長のもてなしを受けることもあったけれど、当然ながら旅の疲れを落とすことを最優先にしてもらえた。目をキラキラさせてアイドルみたいに見られるのは少々困ったものの、腹黒い野心家にすり寄られることを想像したら百倍いい。
普通は馬車の旅なんて、乗り心地悪いし何日もかかるしで疲労が溜まりやすいのに、俺の場合はこれまでが激務続きだったのもあって、却ってよく休めてしまったぐらいだ。
俺の目の下にクマがちょっとでも生じた途端、血相を変える面子が周囲にたくさんいるもんで、おかげさまで顔色も良好である。
「道が以前よりよくなったと実感しますね。私も前ほど疲れを感じなくなりましたし、こんな大所帯なのに日数が思ったほどかかっていません」
アレッシオが感心しながらそう言ったのは、本邸を発って三日目のことだ。
確かに、馬車が何台も続く旅となると、先頭が進み始めてから最後尾が動き始めるまでに何分もかかる。その中の一台でもトラブルがあれば全体がゆっくり止まって、解決すればまたゆっくり出発……という風に、とにかく行動ひとつに時間がかかるのだ。一台でも取り残してはいけないから、下手に急げないし。
だから単騎で往復するよりも遥かに日数がかかり、それを見越して早めに本邸を出発したんだ。だけど、なんなら十二歳の頃の俺がエルメリンダと一緒に初めて王都へ向かった時と、そんなに変わらないぐらいスムーズに日程が消化できている。
「道幅を拡張し、路面も舗装した結果として、行き来が盛んになったのはもちろんですけど。全体的に道の周辺の治安が良くなっているようです」
頷きながら言ったのはニコラだ。舗装というのはむろんアスファルトじゃなく、煉瓦や石畳である。
やわらかい土の道のほうが馬の蹄にはいいとか、車輪から伝わる衝撃が少ないんじゃないかっていう意見も当時はあった。だけど土が剥き出しの地面ていうのは、雨が降ったらぬかるむんだよ。
雨量の少ない土地であっても、全然降らないわけじゃない。悪天候の後に轍の跡が残りやすくなって、後続の馬車の車輪が嵌まって壊れることがザラにあったし。
溝のデコボコに足を取られた馬が骨折して……ていう、悲しい事故も起きていたからな。
そうでなくとも、土の中に埋まっていた小石が表に出てきて、車輪がそれを踏むたびにガタガタ大きく揺れる。
だから領主の一声ということで完全に舗装させる方針でいったら、前より揺れが少なく安全になったそうな。
それ以外にも、うねうね蛇行していた道を直線路に変え、細い川の上に新たな橋を架けたりもした。敵が攻めにくいよう、わざと悪路にしていた歴史があり、それが現代に入ってもずっと手つかずになっていただけで、技術面では改善が充分に可能だったんだ。
俺は道を綺麗にできて、地元民は治安が良くなり、人力に頼る部分が大きいから雇用も増えて労働者もハッピー。
―――まあ、今のところはうちの領内限定の話なんだけど。
領地の境界を越えれば、途端に悪路へ様変わりした。無駄に広さだけはある侯爵領だ。
今回、この騎士含めた大所帯で王都へ向かうにあたり、ヴィオレット公爵領を経由させてもらったほうがいいんじゃないかという意見も出た。
ここの侯爵を刺激するかもしれないというのが理由だ。
でもさ、俺がもらうことになっている土地をしっかり見ておきたいし、どのみちそうなった時は刺激するどころの話じゃないだろ。
なので、気にせず通過させてもらうことにした。
今はまだヴィオレット公爵の紋章を掲げた騎士達が、こういう時は特に頼もしい。もちろんいつだって頼もしいんだが、こいつらを妨害することは、すなわち公爵閣下に対する妨害行為だぞっていう脅しにもなるからね。
俺が十二歳だった頃とまるで変わらない道の状態に辟易させられつつ、それでもたいしてトラブルもなく順調に王都へ入った。
例の侯爵からのもてなしは一度もなかった。一応、「ここ通らせてもらいますんでよろしく~」という連絡を事前に入れさせていたんだけど、やっこさんは既に王都入りしていて不在だったそうだ。
タイミングが合わなかっただけだろう、きっとね。会って何を話せばいいんだってカンジだし。
侯爵本人に会えなかったことは全然どうということもい。そんなことより、道中、宿泊した所の村長や町長が実に興味深い反応を見せてくれたよ。
必死に俺をもてなそうとしてくれる者、完全に無視を決め込む者、中には『無視を命じられているために堂々とおもてなしできず失礼をお詫びいたします』みたいな使者を宿に寄越してくれた者もいた。
「やはり僻地に住む者ほど切実度が高かったな」
俺が総括すると、アレッシオが「そうですね」と相槌を打った。
「王都へ近付くにつれ、横柄な者が増えていた印象です。自分の立場が閣下よりも上だと勘違いをしている者もいたようですし」
いたなあ、何人か。俺と側近達の頭には、きっと同じ人物が浮かんでいる。
王都近くの町で、経済的に余裕があり、侯爵の庇護下にある自分は『たかが』伯爵の俺よりも偉いと見当違いな自負を持っているようだった。そいつ自身は平民なのにな。
そして、俺の爵位がもうすぐ彼らのあるじと同格になることも、領地の大半がごっそり俺のものになることも、どうやら知らない。
この先もまだ町長でいられたらいいね~。
大所帯が王都邸に到着したのは、三月半ばの夕方近くだった。
「兄様、母様、お久しぶりです! シルヴィアも元気だった!?」
三人目の天使が王都邸で出迎えてくれた。
ジルベルトは今月の一日、とうとう学園を卒業した。だからこれからは、俺の新米側近として働けることになると張り切っている。
身長は前回会った日から伸びておらず、アレッシオを超えることはできなかったようだ。
そんだけ伸びたら悔しがらなくていいじゃん? 俺なんて、アレッシオとニコラに挟まれたらすんげ~ぇ小さく見えるんだぞ?
左右に山、真ん中の俺が谷だ! 比較対象の暴力!
なんて思っちゃったことなんておくびにも出さず、出迎えに礼を言ったとも。
「ジル兄様、これからはずっと(オルフェ兄様と)一緒にいられるのね?」
「うん、ずっと(兄様と)一緒にいられるよ!」
俺の自慢の弟妹が仲良くハグしている。あー、眼福。
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