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番外・後日談
63. 途中で抜け出すためのアレ
せっかく皆の頑張りによって完成の日を見た教科書を、じっくり見ないのは失礼だと思う。
けれど俺の……俺の顔がババンと載っているものを冷静に読める自信がない……。
目の前のおじさん達が賑やかになればなるほど、俺の心はゴリゴリとすり減ってゆく。
救助は、救助はまだか!?
いや、救助されて到着した島がここなのだ。やつらの群れからせっかく逃げ切れたと思って辿り着いた島が、実はやつらに支配されていたのである。やつらとは何か? 当てはまるものを三つ以上挙げましょう(練習問題その一)。
現実逃避のスキルばかりどんどん磨かれてゆく昨今、俺のソファの斜め後ろ、手がギリギリ届かない程度の距離で「ご歓談中失礼いたします」と侍従が声をかけてきた。
「ロッソ様のお身内の方より、至急のご用件があるとのことです」
「私に?」
「ふむ、残念だが引き留めてはならぬな」
「ロッソ殿はご多忙ゆえ、早く戻られたほうがよかろう」
「もう少しお話したかったのだが……今度また試験のコツなどを教えていただければ嬉しい」
「わたくしも楽しかったですわ。お二人のそのお衣装、とても素敵でしてよ」
やったーっっ! 何か知らないけど至急の用件、『身内に不幸があった』以外なら大感謝だ! ありがとう!
そして王妃様もありがとう! 根掘り葉掘り突っ込まず、さよならの挨拶にさらっと入れてくれるところ、あなたこそ素敵です! 衣装と言いながら、さりげに視線がクラバットピンの家紋に注がれているところも最高です!
「それでは私は失礼させていただきますが、まことに楽しく快いひとときでございました。皆様のいっそうのご多幸をお祈り申し上げます」
「ふはは、よいよい! 堅苦しい挨拶などいらぬぞ!」
うむうむ、とにこやかに頷くおじさま達。挨拶いらんと言いながら、挨拶できる若者はお好きなんですよね、承知しておりますとも。
オリーヴァ公爵令息が何か言いかけたけれど、貴族院の院長さんに声をかけられ、そっちを向いた。ラッキー。
なんかこの公爵令息、ルドヴィクと違って、よくわからんけど近付かないほうがいいような気がするし。あっちに気を取られているうちに席を立っちゃえ。
「お見送りいたします」
ローザ男爵令息もさすがだ。あの恐ろしいロイヤル空間から、俺をダシにして鮮やかに離脱したぞ。しかも同行じゃなく見送りということは、そこそこの場所まで俺に付き添った後、パーティー会場に戻って情報収集でも継続するのかね。
俺のアンテナがアレッシオとジルベルトに特化しているのを除いても、こいつは俺が声をかけるまで全然目立っていなかったんだよな。こんなに目立つ容姿なのに、目立たず綺麗に埋没していたのがすごい。
スキップしたい気持ちで三人を伴い、広間から出て、侍従の案内でロッソの控え室に戻る。道順を憶えていたとしても、王宮内を勝手に歩いてはならないのだ。
「では、私は会場に戻り、アランツォーネの皆様やロッソの皆様と交流を深めたいと存じます」
ここからは自分は関わってはいけないと判断したのだろう、ローザ男爵令息は如才ない微笑みと会釈を残して広間に戻って行った。。
できるな、あいつ……。婚約が既に決まっていてよかった。ないと思いたいけれど、ローザ男爵令息(サーモンピンク髪)を主人公とした幻のBLゲーム構想が本当に存在していて、なおかつ彼がフリーだったとしたら危ないところだった。
アレッシオを狙ってはだめだぞ。この男は攻略不可なのだ。あげんからな。
でもいつか、アレッシオと一緒に執事服のコスプレをして並んで立ってもらいたい気がしなくもない……
「閣下?」
うおっ、ゾワッと来た!?
いかん、ローザ男爵令息の背を見つめ過ぎた。見ればアレッシオが、とても上品な笑顔で青い炎を背負いながら、開いたドアを上品に示していらっしゃる……。笑顔だけどわかるぞ、これは説教不可避なやつだ。「どうぞお入りください」じゃなく「とっとと入りやがれ」の意ですね。かしこまりました!
心持ち早足で室内に入ると、そこには。
「ヴィク様?」
ヴィオレット公爵令息、ルドヴィクが椅子に座って紅茶のカップを片手に、「やあ」ともう一方の手を挙げた。
―――なんと緊急の用件とやらは、ルドヴィクのことだった。
「実はおまえが危険であると判断された場合、あの場から退避させるよう父や陛下と打ち合わせ済みだったのだ。合図役はジルベルトだ」
「ジルが?」
「はい」
どうも最初から、いよいよ俺がピンチだと判断された場合、ジルベルトがこっそり指でサインを出し、それを目にした侍従がルドヴィクに連絡をよこす手筈になっていたそうだ。
そしてルドヴィクは俺に緊急の用事があるとロッソの使用人に伝え、ここで待機。さらにロッソの使用人から侍従に伝言が頼まれ……。
めちゃくちゃまどろっこしいけれど、ここはそういう手順が必要になる場所なのだ。
参加者でもないルドヴィクがここにいられる理由は、親戚のおうちだからである。さらにお父さん同士が友達だ。参加せずとも、警備に支障のない範囲で訪問することは許されている。
「もちろん事前にお伺いもせず訪問してはならないが、今回は非公式とはいえ陛下にお招きいただいた立場だからな」
これは、あれではないか? 強制参加させられた集まりを途中で堂々と抜けられるよう、「〇時頃に携帯鳴らしてね、お願い!」と、あらかじめ友達か誰かに頼んでおくやつ。
王宮という場所で、それはできないと思っていたのに。そりゃあ陛下の全面協力があればできるんだろうけど、王様にそんなの頼めるわけないじゃないか。
「もしやあの場にいらした皆様は、全員ご存知だったのでしょうか?」
アレッシオの質問に、ルドヴィクは首を横に振った。
「殿下と王妃様、もちろんオリーヴァ殿もご存知ない」
え? 殿下と王妃様とオリーヴァ殿以外は、全員知っていたということか?
なんでまた。
「どういうことです……?」
俺は首を傾げた。多分ジルベルトは俺の口から魂が出そうになっているのを察して、「兄様がピンチ!」とサインを出してくれたのだろうけれど、そもそも俺を幽体離脱の危機に陥れたのは陛下だろうに。その陛下達が、俺を避難させる方法を打ち合わせていたって?
すると、室内にいる全員の視線が俺に集中した。な、なんなんだ?
「アレッシオ。どうもオルフェはわかっていないように見えるのだが」
「おそらく、ご自分はその手のことに無関係と思っていらっしゃるかと」
ちょっと待ってくれ。アレッシオ、さっきの質問からして、おまえもこのことは知らなかったんだよな? 何故あっさりルドヴィクと通じ合っているんだ?
そんな俺にルドヴィクは呆れ気味に言った。ほんと、昔に比べると表情豊かになったな。
「オリーヴァ殿が独身である理由だ。もし彼が一目でもおまえを見たら、興味を引かれない道理がない。ゆえに父も陛下も、彼がお前に関わらぬよう、オリーヴァ家へは情報を小出しにしていたのだ。オリーヴァ殿の人品や能力に問題はないが」
変に関わったら個人的に揉めそうだろう? とルドヴィクはアレッシオに言い、アレッシオは嫌そうな顔で深々と頷いている。
……独身の理由。
……。
「もしや私が、そういう意味で狙われそうだったのだろうか」
「そうですよ兄様?」
「ご理解いただけて何よりです」
全員に「やっと理解したか」という溜め息をつかれた。
わーん!
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