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番外・後日談2
『鏡の精霊~』からの出張編 (2)
よその人には内緒にするようにとお願いすれば、我が家の使用人は皆、ちゃんと言うことを聞いてくれるはずだ。
そう思ったんだが、アレッシオが「お待ちを」と止めてきた。
「あなたが他言無用とお命じになれば、確かに従うでしょう。しかし本当のことをそのまま説明するのは、さすがに……いかがかと思います」
「私もどうかと思うぞ。こちらの事情に明るくはないが、いきなり妙なことを言い出したと正気を疑われるのではないか?」
するとレムレス殿までアレッシオに加勢した。
え~、でもさぁ……。
「私の部屋の中に、いきなり二人も人間が現れたことを説明しようがないだろう?」
それも、ユウマ殿とレムレス殿だよ。
ごく普通の人だったら、無理やりそれっぽい話を作れそうだけど、この二人はそんなの無理じゃん。
服はまだしも、オーラがどう見ても一般人ではない。何を言っても「あ、これは嘘だな」とわかるんだから、いっそ本当のことを話しても結果は同じなんじゃないの?
「なるほど、それはそうかもしれません。ただ閣下、そもそもあなたが彼らを強引に連れてくるとお決めになったのではありませんでしたか? すべて行き当たりばったりの無計画、ゴリ押しで片付ける心づもりであったということでよろしいですね?」
うっ!? アレッシオが執事の微笑とともに追い詰めてくる!?
正論だから反論できない。子猫さんに助けを求めようにも、「知~らニャイ」と先手を打たれてしまっていた。
どうする、これはあとできっちり怒られるやつだ。アレッシオって俺がその場だけ適当に誤魔化そうとしたら、時間差で倍にして返してくるタイプなんだよ。
「今は誤魔化されてあげますけど後ほどきっちり回収させてもらいますね」ていう蓄積型。
俺がここでどんなに素晴らしい言い訳を披露したとしても、数日後の俺が間違いなくピンチです。
「あのう、ちょっといいですか?」
「お、なんだユウマ殿?」
「何をどう話しても僕らは怪しい人ですし、だったら『詳しいことは言えないけれど黙っていてほしい』だけではいけないんですか? この家の使用人さんは、秘密にしてほしいことをちゃんと守ってくれそうな人達なんですよね?」
「その通りだ。よし、そうしよう」
「閣下……」
「…………」
アレッシオとレムレス殿が呆れた目を向けてくる。
いやだって、俺としては本当のことをぶっちゃけても構わないと思ってたんだってば。
もちろん子猫の正体に関わることは内緒にして、あっちの世界の犯罪者が異世界人の召喚魔法を使ったら、偶然俺らが引っかかった……みたいな設定にしようと思ったんだ。
よくあるじゃん、特別な力を持った勇者召喚の話。それ目当てで召喚したはいいものの、そいつらが素人集団だったものだから魔法陣に穴があり、俺達は結局何の力も授からなかった。そして困り果てた俺達を、ユウマ殿が拾ってくれたと。
これでいけると思ったんだがなぁ。
でもアレッシオとレムレス殿とユウマ殿と子猫、つまり俺以外の全員の意見が「本当のことを話すぐらいなら『何も話せない』で通すのが一番マシ」で一致していた。
圧倒的多数決による敗北。
……俺、自分の発想とか思考回路、ちょっと見直したほうがいい?
ほんのりショックなのはさておき、まずは客人達に部屋を用意せねばならない。俺の用事より、彼らが寝泊まりする場所の準備が先だ。
執事のブルーノと専属メイドのミラ、復帰したエルメリンダをまずは呼び、彼らに二人を紹介する。
「こちらはレムレス殿、こちらはユウマ殿だ。数日ほど我が家に滞在する。彼らがどこの何者で、どうやってここに現れたのかは深く訊かないでくれ」
「……かしこまりました」
ブルーノがお手本のような執事の笑みを浮かべ、客人それぞれに挨拶をした。
笑顔の下では、あとで彼の息子さんを問い詰める予定でも立てているかもしれない。
それにしても、我が家の執事と専属メイド達はさすがだ。この二人を前にして、驚きをまったく表に出さないとは。
ミラも昔の彼女ならもう少し動揺していそうだけれど、最近ますます隙がなくなっている。
ブルーノの指示によって速やかに客室の手配が始まり、それまでは一旦、俺の部屋に茶と菓子が用意されることになった。
何も言わずともブルーノ達はささ……と退室し、部屋の中は再び俺達だけになる。
「――すごいですね、さっきの人達。本当に落ち着いてましたよ」
ユウマ殿がブルーノのお茶をおいしそうに飲みながらそんなことを言い、俺はつい彼の顔をじっと見つめてしまった。
人の心が読めるのは子猫の専売特許と思っていたんだが、実はユウマ殿にも読めたのか?
「あ、違いますよ。気配とかで感情の揺れが少しわかるんです。あの執事さんとメイドさん達は、驚くには驚いていたけれど、一瞬で静かになったというか……」
「そりゃ、あきらめの境地ってヤツじゃね?」
「……あはは」
気遣い屋さんのユウマ殿がせっかく言い淀んでくれたのに、子猫がスパッと言ってしまった。
しかし、あきらめの境地か。
また閣下が変なことをしていらっしゃるとか、また閣下が変なことを始められたとか、また閣下がとんでもないご友人をお招きになったとか、そんな風に思われているのかな。
共通項は『また』―――この部分にすべての真理が集約されている。
つまらぬことはさておき、約束していた報酬をさっそく前払いせねばならない。
これは性質上、後払いのきかないものだからな。
「おま、マジで僕を報酬にすんな!」
「さぁユウマ殿、心おきなくなでなでしてやるがいい」
「わーいっ、ありがとうございます!」
「みゅっ? ……ふみ~…………っっ!? う、腕を上げた、だと……!?」
この俺の黄金の指(猫専用)のワザを少々伝授したからな。
ユウマ殿は勉強熱心な上に、とても呑み込みのいい生徒だったぞ。
「みゅ……みゃ~ん♪ ……レムレスよう、おまえ伴侶止めなくていいわけ? ヨクナイだろこういうの?」
「…………《ラスキウス》」
おっ、レムレス殿の影の中から黒猫がにゅっと出てきた!
こっちの世界に戻る直前、彼が水鏡の泉という不思議な場所で召喚し、主従契約を交わした『使役霊』である。
なんとなくユウマ殿みたいに、しっとり系のスマートな黒猫さんなのだが、これは弱くて位も低いと言っていたっけ。
どうやら《ラスキウス》は、主人にユウマ殿の奪還を命じられたようで、彼の足元にスリスリしようとしたみたいなんだが……あや、子猫にびびって距離を置いてしまったぞ。
子猫は「おいっ、あきらめんな!」と新米猫を励ましてあげている。
レムレス殿は目を閉じて額に指を当てつつ「ふー……」と溜め息をついていた。
ユウマ殿は手の中の子猫と黒猫さんを見比べ、ものすごく迷っていた。
黒猫さんはレムレス殿と一緒にいる限り永久ものだけど、こっちの子猫は期間限定品だもんな。
アレッシオはそんな彼らの攻防をなんとも言えない瞳で見つめ、茶菓子のプチケーキにフォークを刺しつつぽつりと言った。
「どうやらこちらの世界でも、魔法は変わらずに使えるようですね」
彼の顔の下あたりに、「誰も指摘しないので仕方なく私が言いました」みたいな字幕が見えた気がした。
す、すまん。
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