文字の大きさ
大
中
小
146 / 195
番外・後日談2
『鏡の精霊~』からの出張編 (16)
公開を押したつもりがうまくいってませんでした(汗)
別作品とほぼ同時公開になってすみません。
--------------------------
「ちゃんとあっちに戻れたみたいだぞ」
子猫が教えてくれた瞬間、どうわっ! と目の水分が増量した。
くっそ~、我慢できると思ったのにな!
アレッシオがハイハイわかっていましたよ、と言っていそうな顔で、俺に向けて両腕を広げた。
読んでいらっしゃいましたか、おさすがです。
その広い胸は俺用ですね。
お邪魔します!
「うう~……」
「よく我慢しましたね」
そんな甘ったるい褒め言葉を、甘やかしながら耳元で言わないでほしいのだが!?
ますます涙腺が崩壊してしまうではないか……!
彼らと出会ってから、日数的にはごくわずかしか経っていない。
それでも印象深く、心に残る日々だった。
あちらの世界の『俺』の記憶は、本当は俺自身が体験していたものではなくとも、まるで故郷の人間にバッタリ会ったような感覚だったのだ。
それが性格もよくて楽しくて可愛い人物だったとなれば、郷愁に胸が引き絞られるような錯覚をしても無理はない――ってこら子猫よ。
俺がしんみり浸ってんのに、後足で耳のうしろをかいかいしてんのはわざとか、ほんとに痒いのかどっちだ。
「僕、も~疲れた。ねる」
そうか疲れたか……お疲れさん。
彼らを帰してあげるのに、魔法っぽいの使ってたもんな。本当に疲れたのかもしれない。
かっこよかったぞ。
「フン」
いつもながら反応がクールな子猫だ。
思えば俺は不思議とこいつに、そういう力を使ってみて! と強請ったことはない。
一緒にいることが当たり前で、これからもそう。そこに何やら不思議な力があろうがなかろうが、何が変わることもないのだ。
細い尻尾をフリフリしながら、いつものように猫用ベッドヘ歩いて行く子猫の小さなお尻を見送り、俺はどことなく安心感を覚えていた。
その夜はアレッシオにあやしてもらいながら寝た。
文字通りの添い寝だ。俺は切なくなっているだけであって、落ち込んでいるわけじゃないからな。
それに友人達もいるんだから、変なことなんてできやしない。
しかし俺はことあるごとにアレッシオからよしよししてもらっているけれど、逆のパターンが滅多にないな。
記憶にある限り、本気で落ち込んでいるこいつを慰める側になったのって、俺が生死の境を彷徨ったあの一回ぐらいしか覚えがないぞ。
それ以外だと、何かあったっけ?
ん~……やっぱり思い出せん。
俺が何かをしてやる前に、アレッシオってだいたい自分で解決しちまうんだもんな。
オールラウンダーなチート持ちは、人からは羨まれることが多いだろう。
けれど弱音を吐く機会がない、ヘコんだ時に慰められた経験がそんなにないっていうのは、それはそれでつらいんじゃなかろうか。
多分彼が子供の頃は、その役目を父親のブルーノが果たしていた。
でもアレッシオのことだから、そんな父親に迷惑をかけないようさっさと精神的に自立してしまい、本当に幼い子供だった時代はマジで一瞬だったんじゃないかと俺は想像している。
もしもこいつが子供になって目の前に現れたら、ここぞとばかりに可愛がり倒してやるのにな。
大人でもチャンスがあらば、甘やかして可愛がるのもやぶさかではないが。
――そんなことを想像しながら眠ったせいか、アレッシオが本当に子供になって現れる夢を見た。
細部は夢らしく曖昧なんだが、いや、めっちゃくちゃ楽しい夢だったわ。
この世界この時代、気軽に片手でパシャリとできる写真技術なんてないし、俺は彼の子供時代を見たこともない。
でも、アレッシオが子供だったらまさにこんな感じ、というお子様が出てきてくれたのである。
あ~、マジ可愛かった。
前夜の切なさもどっかへ行き、打って変わってご機嫌な気分で目覚めた俺だったが、アレッシオが何やら微妙な顔をしているではないか。
「どうした?」
「少々、妙な夢を見まして。悪い夢ではなかったと思うのですが」
「へぇ。どんな?」
「……あまり覚えていないのです」
妙な夢だったのはわかるけれど、目覚めた瞬間に記憶が飛ぶというやつか。
あるある、そういうこと。
忘れちゃったなら仕方ないな。
朝食は各自の部屋で摂り、俺は部屋を出て家族や友人達に会うと、あの不思議な客人二人が帰ったことを伝えた。
挨拶もなく急な話だったので、当たり前だが皆は驚いていた。
「残念だわ……もっとお話を聞きたかったのに」
「私も、もっとお話しできると思ってました……」
ごめんな~、イレーネ。シルヴィア。ぶっちゃけ、昨夜のあれも本当は「やめとけ」って止められていた案件だったのを、俺が独断で強行しただけだったんだよ。
でも、どうしてもみんなに見せてあげたくってさ。
しょんぼりしつつ、あまり詳しく追及してくることはないおまえ達には感謝だよ。
それに、皆は俺の目もとをさりげなくチラリと見ていた。
ああうん、こっぱずかしいお話ですが、昨夜ちょっとばかり涙腺がこう、ね。
アレッシオがケアしてくれたけれど、やっぱりバレてしまうよな。
「昨夜の夕食会は楽しかったぞ」
「本当……楽しかったわ」
「僕も楽しかったです。人生に何度もない、特別な日になりました」
ヴィオレット兄妹とジルベルトの言葉に、皆は笑顔で頷いていた。
ただしアレッシオはブルーノにちろりと視線を向けられ、すっとぼけた顔で返している。ごめんな、強敵だと思うけれど切り抜けてくれアレッシオ。
あの客人達はそれこそ夢のような存在だったが、彼らが現実の存在だという証拠はきちんと残っている。
言わずもがな、レムレス殿の描いてくれた設計図もろもろだ。
ニコラは何も言わず、命令通りそれを書き写してくれた。知らない文字なのにどうしてか読めてしまう、あちらの言語で書かれた文章を、こちらの言語にきっちり直して。
「では、このように頼む」
「かしこまりました」
そうして、この世界からすると時代を先取りしたあれこれをギュッと詰め込んだ俺の別荘が、これで完成することになった。
感想 882
あなたにおすすめの小説
真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~
由香皇帝の仕事が面倒だったレインは、信頼する幼なじみアレクシスに表向きの皇帝を任せ、自身は陰から帝国を支えていた。
だがある日、婚約者エミリアは「権力も将来性もない」と彼を見限り婚約破棄を宣言する。
しかし彼女は知らなかった。
帝国を動かしていた真の支配者が誰なのかを。
これは全てを持ちながら隠していた男と、見るべきものを見失った者たちの後悔の物語。
【完結】悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
本編完結済です。
もっちもっち感謝祭で、リクエストいただいたお話を更新しています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
皆の動画をつくりました!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
表紙や動画にAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
『捨てたはずのΩが運命の番でした ~今さら愛してると言われても、もう遅い~
雪兎あらすじ
Ωである朝霧湊は、事故のような一夜をきっかけに、名門企業の御曹司α・九条玲司と関係を持つ。
しかし玲司は「ただの過ちだ」と湊を切り捨て、政略結婚のためβの婚約者との未来を選んだ。
深く傷ついた湊は、彼の前から姿を消す。
数か月後――。
湊の身体は、これまで誰も知らなかった希少な『遅咲きΩ』として覚醒する。
その瞬間、玲司は初めて湊こそが運命の番だったと知る。
「戻ってきてくれ」
今さら必死に追いかけてくる玲司。
だが湊の隣には、自分を支え続けてくれた医師のα・神崎伊織がいた。
「あなたは俺を捨てたでしょう」
後悔に苦しむα、執着する第二のα、そして希少Ωを巡る陰謀。
もう二度と傷つきたくないΩが最後に選ぶ相手とは――。
捨てた側の後悔と執着が加速する、すれ違いオメガバースBL。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
婚約破棄から50年後
あんど もあ王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!