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番外・後日談2
ミニ閣下 (1) -sideアレッシオ
しおりを挟む先日、お目覚めになった閣下がやたら機嫌のよさそうな顔で笑っていた。
どのような夢を見たのか聞き出したら、なんと俺が七歳の子供になっていて、閣下にお仕えする身でありながら求愛などをしたらしい。
あの御方ご自身も仰っていた通り、未熟な使用人が当主に仕えることなど普通はなく、明らかに夢だ。だが、もし幼い頃の俺がこの人にお仕えしていたら、間違いなくほのかな想いを抱いていたろうなとは思った。
そんな会話を交わしたからだろうか。
朝起きると、ベッドの隣で寝ていた閣下が、小さな子供になっていた。
「……夢だな」
あの会話がもとになっているとすると、多分これは七歳ぐらいのお姿なのだろう。
ふっくらとしたやわらかそうな頬、ぱっと見で性別が判断できない可愛らしいお顔立ち。
幼い頃はきっとこのようなお姿をしていたに違いない。俺だけでなく、皆がそんな風に納得しそうなお姿だった。
「んむ……」
澄んだ高い声を漏らし、幼子はパチリと瞼を明けた。
「アレッシオ、おはよ……んん?」
俺がおはようございますと返す前に、小さな閣下はパチパチと瞬きし、ご自分の喉に手を当てた。
そして上半身を起こし、しげしげとご自分の身体や手足を見つめている。
……お小さくなったせいか、仕草がいちいち可愛らしい。
この御方は普段からお可愛らしいがそういう話ではなく、強いて言えば成長とともに備わった凛々しさや強靭さといった要素をすべて取り除き、愛らしさだけが残ったような生き物になっていた。
「あれ? なあアレッシオ。わたし、なんでちいさくなっているのだ?」
「―――ということは。心は子供にはなっていないのですね?」
俺も身体を起こしてみたら、横になっていた時と比べ、当たり前だが体格差がすごい。
初めてお会いした時、この方は十二歳だった。あの頃はとうに成長期が始まっていて、大人の女性かそれよりも上背があるぐらいだったから、今のこのお姿は本当に小さく感じる。
だがこの美しい緋色の髪と瞳、勝気そうな切れ長の目尻などは、間違いなく閣下だ。
「まあ、ちいさくなったものはしかたがない。おきてしたくをするぞ、アレッシオ」
「……かしこまりました」
仕方ないで片付けていい現象ではないと思うのだが。
まあ、夢だからな……
しかし声やたどたどしい口調が愛らしさを倍増させており、若干の危機感を覚えた。
さすがにこんな小さな子供相手にどうこうという感情は湧かない、はずなのだが―――愛しい恋人が子供になってしまった場合、もとから持っていた感情はどうすればいいんだ?
俺がこの人に捧げている愛情、執着、その他もろもろ、一旦脇へ置くには大きすぎるのだ。
この夢はもしやアムレート様の悪戯だろうかと部屋を捜してみるも、普段アムレート様がお休みになっている猫用ベッドはどこにもなかった。
あの不思議な子猫は、この夢の中には登場しないのか。
「アレッシオ? どうしたんだ?」
「申し訳ございません。すぐに準備いたします」
ここは閣下のお部屋だ。勝手知ったる衣装部屋に足を踏み入れてみたら、そこにある閣下の服は、どれもお子様仕様になっていた。
「…………」
微妙な気持ちで上下を選び、小さなブーツも持って部屋に戻ると、次は洗顔のお手伝いだ。
―――待て、このお子様椅子はいったいどこから来た?
そして閣下、なぜあなたは何の疑問もなく「うんしょ」と座って……いや、夢だ。これは夢。
気付けば用意した覚えのない水の張った洗面器がテーブルの上にあるしな。こういうものなのだと納得するしかない。
防水性を持たせた布を、ちょこんと座ったお子様の身体の前にかけて洗顔を手伝う。閣下がラウル殿と一緒に開発した浴布で水気をぬぐい取り、その後は寝間着から日常着へのお着替えを手伝った。
……脱ぎ着をする際、「うむん」だの「んしょっ」だの「ぷは」だの、掛け声がいちいち可愛らしいのだがわざとじゃないよな。
この御方、本当に精神年齢は大人のほうなのだろうか? 実は心も子供返りしていないか?
悶々としつつお着替えを完了すると、そこには実に愛らしいお子様がいた。
「けさのしょくじは何だろう?」
「ただいまお持ちいたしま……」
言いかけて口を閉ざした。
いや、今は俺が食事を運ぶ係ではなかった。俺は閣下の側近の下位貴族になっているのだから、執事としてふるまっていいのは部屋の中だけ。
しかし俺が今身につけているのは―――いつの間に着替えたのか記憶にないんだが―――以前よく着ていた執事服だった。
デザインをそれに似せて仕立てた貴族服ではなく、着慣れたお仕着せで間違いない。
当たり前に執事用の手袋も嵌めている。
「アレッシオ?」
「いえ……」
もしやこの夢の中では、昔のように俺が食事を運んでこなければならない?
アムレート様がいないのに、この小さく愛らしい主人を一人この部屋に残して?
何者かに攫われてしまわないだろうか、と本気で不安になってしまった。
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