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31. 至福の時
しおりを挟むいつも読みに来てくだってありがとうございます!
たまたま立ち寄られた方も楽しんでいただければ嬉しいです!
ストーリーには影響のない部分ですが、3話目のミッテちゃんの声「性別不明の大人の声」の部分を修正しました。
見た目とアンバランスな声という設定だったんですけど、偶然流れてきたアニメでチ●ッパーの声が耳に入った瞬間から、ミッテちゃんの声で脳内再生されるようになってしまいまして(汗)
(見た目は某様からいただいた感想の「シマエナガ」、嘴と足を黄色にして尾っぽを短くしたらイメージぴったりです!)
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俺が昨夜のやらかしを思い出したのは、翌日の朝、専属メイドに「坊ちゃま、朝でございますよ」と起こされた時だった。
なんたる不覚。母上様のお膝で寝落ちしてしまった!
しかもせっかくのお膝の記憶が、一秒分ぐらいしか残っていないとは。なんてもったいない……!
「悔しがるのか嬉しいのかどっちなのですか」
今朝もピヨ? と可愛い声でクールなセリフのミッテちゃん、呆れ気味に朝のご挨拶ありがとう。おはよう!
どちらかと問われれば、断然「嬉しい」だな。でもそれが一秒しか残っていないのが悔しいのだ。
それにしても、母上様のお隣にいると、ほんわりフローラル系の香りが漂って意外だった。貴婦人の必需品ではあるけれど、高価な贅沢品だから節約しそうだなと思っていたんだ。
でもお膝に頭を乗せた瞬間、それが衣装に焚きしめた香だとわかった。お洒落であると同時に、どうやら布のにおいを消す用途もある。ちゃんと洗濯していても、女性の衣類は生地が多い分、余計なにおいが移りやすいんだろう。
「坊ちゃま。アデリナお嬢様が、朝食をリシェル様と三人でご一緒しましょうとのことです」
「お姉様が!?」
リシェルと一緒に!? もちろんご一緒させていただくとも!
俺はウッキウキとドッキドキ半分で朝の支度を手伝ってもらい、メイド達にくすくす笑われてしまった。
白い絹地のタイツを穿いて、ゆったりした膝下丈のズボンを穿き、長袖の白シャツの上にベストを着る。
身内の気軽な朝食なので上着は着ない。ズボンの丈については、だいたい十代半ばぐらいまでは短めで、それ以降はみな長ズボンになるそうだ。
ベストとズボンの色は深緑色。俺は自分の髪と瞳が微妙な気持ちになるから嫌なのであって、この色自体は好きなんだよ。
室内履きから黒い革靴に履き替え、どこもおかしいところはない? としつこく訊いて笑われて、いざ、朝食の席へ!
と、その前にミッテちゃんも抱っこだ。
「ピピ……こほん。そのう……粟はあるのでしょうか?」
遠慮がちにリクエストしてくるミッテちゃん。
そうだったね、それを頼まなきゃ。
「粟でございますか? かしこまりました、もしご用意がなければお持ちいたします」
アデリナお姉様の食事係に確かめてくれるようだ。ごめんね、ありがとう。
場所は滅多に使わない食堂ではなく、お姉様のお部屋の居間だ。家族の部屋それぞれに居間があり、今までお茶に誘われて何度かお邪魔したことはあるけれど、お食事をご一緒するのはこれが初めてである。
緊張しつつも弾みそうな足取りで廊下を進み、お姉様のお部屋に着くと、俺の前にいた従僕がドアの前で呼びかけを行った。
入室の許可を得て、従僕に開けてもらったドアをくぐる。
……そこには桃源郷があった。
朝食のテーブルの向こう、とてつもなく美麗で愛らしいお人形さんが二人座っている。
一人は、白金の髪に鮮やかな天色の瞳の美少年。肌は白磁のようにつやつやと白く、ひらひらレースの白いシャツの上に、パステルカラーの水色のベストを重ねている。ちゃんと身体に合ったサイズで、細さと小ささが際立っていたけれど、初日に着せられていた不格好な服とは比較にならないほど似合っていた。
その隣に、長い銀色の髪と水色の瞳の美少女。氷の女王陛下はストレートだけれど、こちらは少しウェーブが入っていて、目尻がほんの少しだけ優しげだ。パステルカラーの水色のドレスは、ひょっとしなくともお揃いではないか?
「おはよう、ランハート」
「お……おはよ、ぅ……ございま、す……ランハート……」
にこりと上品に微笑みながら、朝のご挨拶をしてくれる超絶綺麗なお姉様。
俺を見てカチコチに緊張しながらも、頑張ってご挨拶をしてくれる超絶綺麗なリシェル。
あかん。これはダメだ。よその人に見せたら攫われてまう……!
「外に出したくない……」
煮えた頭の中身がツルっと口から出てしまった。
咄嗟に口を塞いでも時既に遅く、お姉様とお姉様のメイド達に「あらあら」と微笑まれてしまったのだが。
何故かそれを聞いたリシェルが「ぁ……」と真っ青になり、小さく震えながら俯いた。
えっ、なんでどうして!?
「ご……ごめんな、さい……。わたし、が、はずかしい子だ、から……」
――っあああ、そうか!? 『家の恥だから外に出るな』って言われてたんだな!
「違う、違うぞリシェル! おまえが可愛らしくて攫われそうだから外に出したくないと言ったんだ!」
リシェルが恥ずかしい子なんて、そんなことは絶対ないからね! むしろ自慢して回りたいぐらい可愛いから! でもそれをやるとリシェル目当ての変な奴が寄ってきそうで嫌なだけだから! もちろん俺が全力で守ってあげるから心配しなくていいよ!
ということを必死で訴えたら、今度はきょとんとした後、耳まで真っ赤になって俯いてしまった……。
「うふふ……よかったわね、リシェル」
お姉様の言葉に、ますます真っ赤になったリシェル。
あ、あれ? なんか俺まで顔が赤くなってない……?
そんな感じで俺こそが恥ずかしい奴になりつつも、朝食の席は天国だった。ミッテちゃんも粟のお皿が追加され、ご機嫌でつつつんと食べる姿がリシェルとお姉様の笑顔を誘う。
あとは母上様も交えた夢の共演を拝むだけである。
それにしても、リシェルが思ったより元気そうでよかった。初日の印象が強くて、今もつらそうにしていたらどうしようと心配していたのだ。
でもお姉様や使用人が優しく構いまくってくれたおかげで、表情に強く染みついていた怯えは、だいぶ剥がれ落ちて消えている。
細い身体もやせてはいるけれど、昔の俺ほどの細さはない。あの時の俺は、ほとんど骨と皮だけになっていたからなぁ。
当時の料理人達は『急にたくさん食べさせたら今度はショック死するかも』と医師に脅されて、最初の数日間、とにかく神経を使いまくったらしい。薄いスープの上澄みしか出ないことがあったのは、単に水分補給の目的じゃなく、あれが食事だったんだなと後でわかった。厨房の皆さん、ほんとごめんありがとう……。
レースに隠れて首元は見えにくいけれど、リシェルの頬や手指はそこまで薄くなかった。
子供は弱るのが早い代わりに、回復も早いんだよね。メイド達が毎日ちゃんと手入れをしてあげて、きちんと食事を摂り、たっぷり眠る日々を続けてきた子供は、その結果が明らかに出る。
「おりんご、おいしい、です。あまい……」
スライスした林檎の甘煮にカスタードクリームをかけたデザートを、一生懸命ナイフで切ってフォークに刺し、ぱくり。
その瞬間、ほんわぁ~……と浮かんだ至福の笑顔の、言語を絶する可愛らしさときたら……!
キミは俺を悶え殺す気かね!?
可愛いを百回ぐらい叫びたくてつらい。
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