どうやら悪の令息に転生したようだ

日村透

文字の大きさ
184 / 261
かつて悪(役)だった令息との結婚

183. 優先順位の付け方

しおりを挟む

 黒幕に会った?
 何があっていきなりそんなことになったんだ。

 あとで時間が欲しいと言われても、どうやって作ろう。俺は朝食を終えたら、すぐに執務室へ向かうことになる。
 ほとんどの仕事は前倒しで片付けていた分、これから待っているのは後回しにできない仕事だ。

「申し訳ありませんランハート。裏技で話そうかとも思ったのですけれど、聞かれてしまう恐れがありましたので……」

 裏ワザとな?
 どうやら俺の知らない間に、ミッテちゃんは新たなスキルに目覚めていたようだ。
 もしかしてその黒幕とやらも、それでわかったのかな?

「その通りです。正確には接触ができて話もしたのですが、現在その者がどこの何者であるかは不明なのです。ただ、正体はわかりました」

 ……どこの何者か不明なのに正体はわかる? 謎かけかな。
 ちなみにこの間も、俺はリシェルと母上様、おまけのヨハンと会話をしながらミッテちゃんの言葉を聞いている。
 母上様とリシェルの視線は、時々ミッテちゃんに注がれていた。俺を見上げたままお皿をつつかないヒヨコの様子が気になったようだ。
 ミッテちゃん、まず先にそれ食べちゃって。母上様とリシェルが心配そうにしているから。

「おっと、これはいけません。食欲がないのかと心配されておりますね」

 慌てて皿をつつき始めたヒヨコに、母上様とリシェルがホッとしていた。

「わたくしの傍では寂しかったのでしょうか。ランハート、その子はあなたに返しますよ」
「お母様。この子はお母様に大切にしていただいたことをきちんとわかっています。寂しいのではなく、久々に会った僕のことを単純に注目しているだけですから」

 ミッテちゃん、きみも母上様にフォローをするのだ!

「もちろんですよ! イゾルデ、あなたの世話に不服など一切ありませんからね!」

 ピヨピヨヨ! と元気いっぱいに羽をパタつかせるミッテちゃんに、母上様の目元が和んだ。
 よかった、ちょっと気分が上向いたみたいだ。母上様、小鳥とか小動物お好きだもんな。
 食事を終えると、俺はヒヨコを肩に乗せた。
 ――ごめんけどミッテちゃん、仕事中でも構わないから、もうそのまま話してくれる?
 いつもと違う行動を取ったらみんなに深読みされそうだし、就寝時にはリシェルがいる。あとでいつ時間を確保できるかわからないからさ。

「そうですか? 私はいいのですけれど……」

 俺はリシェルと母上様を伴って執務室に向かうと、側近達に迎えられて仕事を再開した。
 そこで俺は休んでいた期間の報告を受けながら報告書にも目を通し、
 可・不可の判断が必要な提案書に目を通して分類しつつサインを書き、
 スパスパと意見を出しつつ書類をさばいてゆくリシェルと母上様に見惚れ、
 結婚前よりも色気が爆増ししているリシェルに若い男の側近が見惚れた直後に青ざめて俺に目を向けてくるのを『見惚れるだけなら許してあげるよ、見るだけならね』という意味を込めて微笑みかけ、
 ミッテちゃんの獲得した裏ワザの詳細とティバルトやルチナの反応とようやく姿を見せた黒幕とのやりとりに耳を傾けるという作業をほぼ同時に行った。

 本日のタスクが渋滞しているけれど、一個一個処理していけばまぁ片付けられんことはないだろ。
 重要な項目はミッテちゃんの件と、リシェルに新しい耳飾りを用意して贈ろうという件だな。
 特に結婚後の贈り物は大事だ。たとえリシェルが幼い頃からずっと同じ耳飾りと首輪をしていても、高価な白金を使っている時点で、伴侶に金をかけていないだのみすぼらしいだのという陰口は発生しない。
 だが、間違っても手抜きなどという有り得ない誤解を広められたくはないので、目に見える新たな贈り物はしたほうがいい。
 というかリシェルに貢ぎたい。
 結婚前からプレゼントを準備していなかったのかって?
 考えてはいたさ。でもリシェルは物欲がないし、俺の贈った物なら何でも喜んでくれるから、かえって贈り物に悩むんだよ。

 白金と『天の雫』を使った装飾、そして首輪と統一したデザインは必須として、何か特別感を付加できればいいな。
 あとは黒幕処理のタスクの優先順位だが……リシェルは大分類、黒幕は小分類にして『優先度高・至急』に設定しておくか。

「ランハート? あなた本当に、あちらの世界で何をされていたのですか?」

 俺にすべてを報告し終えたミッテちゃんは、何故か俺に引いていた。
 う~ん、以前もそれを訊かれたような気がするけど、この世界に存在しない職業だから説明が難しいんだよなぁ。
 簡単に言うと、我が家の仕事は待ってくれるけれど、クレーマーは待ってくれなかったんだよ。
 昼メシよりもトイレ休憩よりも俺様を優先しろ、俺様がこの世の常識でありこの世の法律だ。それがクレーマー。
 で、ミッテちゃんがコンタクトを取ったっていうその黒幕、潜伏タイプのクレーマーっぽい気がするんだよね。

「何やら恐ろしげな怪物に聞こえるのですが……それに似ているのですか? 潜伏タイプとは?」

 うん。俺がいた会社独自の隠語だったんだけどね。
 さも自分は違いますよという態度を取りながら、実はそのものっていう人。
 文句なんて言いませんよと口だけはおおらかなのに、実はこちらの失言やミスをずっと待ち構えていて、その瞬間を逃さず食らいついてくる人なんかもそう。
 ぶっちゃけ、俺の部署での優先度はそう高くはなかった。もっと大暴れしているのがいっぱいいたもんでね。

「そ、そうなのですか。ですがあの者は」

 俺やルーディを死に追いやり、多分ほかにも多くの者に『導き』とやらをやっている。救うためではなく、試練と名付けた悲劇を与えるために。
 それを正しい行いだったと言い切るような奴。
 だから、俺の中でそいつの優先度は『高・至急』にした。

 それにそいつはミッテちゃんに、おまえ達は試練を乗り越えたから自分はもう何もしない、なんて言っていたんだろう?
 でもな、俺はそういう奴のセリフはまったく信用できないと思っている。
 ――あの言葉を真に受けたのか愚か者め。いつでも試練に耐えられるよう準備を怠るべきではなかろう?
 な~んて、それっぽい偉そうな理由つけて、同じようなことをやるんじゃねぇの?
 誰がそのような約束をした? とか言ってな。

「い、言いそうです……! ものすごく言いそうです……! 確かにそのような輩ですよあれは!」

 だろ?
 だから対処方法は早めに考えるよ。
 ところで、精神世界を介してのやりとりは盗聴のリスクが高いけど、こんな風に会話をしている分には聴かれないんだよな?

「その点については大丈夫です。私も説明が難しいのですが、この会話を遠方からこっそり聴こうとすると『力』を外向きに発することになり、どうしても他の『同族』に感知されてしまうのです。一度とんでもない誤りをお伝えしてしまいましたから、信用できないかもしれませんが」

 いやいや、ミッテちゃんは信用してるって。悪いのは全部その不法侵入野郎だから。
 ところで……。
 俺は融合前の『ランハート』だった頃の自分や、ミッテちゃんがことも含めて、きっちりそいつにお礼をするつもりだ。
 ――いいよね? 

「ええ、いいですとも。あれは我々の掟を破った者です。あなたが私をのけ者にして全部秘密でやる、などということがない限りはご自由にどうぞ」

 もちろんだよ~、のけ者になんてしないって~。
 俺はニッコリと嗤いたくなるのを我慢した。
 周りに人がいるからな。


しおりを挟む
感想 822

あなたにおすすめの小説

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

偽物勇者は愛を乞う

きっせつ
BL
ある日。異世界から本物の勇者が召喚された。 六年間、左目を失いながらも勇者として戦い続けたニルは偽物の烙印を押され、勇者パーティから追い出されてしまう。 偽物勇者として逃げるように人里離れた森の奥の小屋で隠遁生活をし始めたニル。悲嘆に暮れる…事はなく、勇者の重圧から解放された彼は没落人生を楽しもうとして居た矢先、何故か勇者パーティとして今も戦っている筈の騎士が彼の前に現れて……。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

処理中です...