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かつて悪(役)だった令息との結婚
183. 優先順位の付け方
しおりを挟む黒幕に会った?
何があっていきなりそんなことになったんだ。
あとで時間が欲しいと言われても、どうやって作ろう。俺は朝食を終えたら、すぐに執務室へ向かうことになる。
ほとんどの仕事は前倒しで片付けていた分、これから待っているのは後回しにできない仕事だ。
「申し訳ありませんランハート。裏技で話そうかとも思ったのですけれど、聞かれてしまう恐れがありましたので……」
裏ワザとな?
どうやら俺の知らない間に、ミッテちゃんは新たなスキルに目覚めていたようだ。
もしかしてその黒幕とやらも、それでわかったのかな?
「その通りです。正確には接触ができて話もしたのですが、現在その者がどこの何者であるかは不明なのです。ただ、正体はわかりました」
……どこの何者か不明なのに正体はわかる? 謎かけかな。
ちなみにこの間も、俺はリシェルと母上様、おまけのヨハンと会話をしながらミッテちゃんの言葉を聞いている。
母上様とリシェルの視線は、時々ミッテちゃんに注がれていた。俺を見上げたままお皿をつつかないヒヨコの様子が気になったようだ。
ミッテちゃん、まず先にそれ食べちゃって。母上様とリシェルが心配そうにしているから。
「おっと、これはいけません。食欲がないのかと心配されておりますね」
慌てて皿をつつき始めたヒヨコに、母上様とリシェルがホッとしていた。
「わたくしの傍では寂しかったのでしょうか。ランハート、その子はあなたに返しますよ」
「お母様。この子はお母様に大切にしていただいたことをきちんとわかっています。寂しいのではなく、久々に会った僕のことを単純に注目しているだけですから」
ミッテちゃん、きみも母上様にフォローをするのだ!
「もちろんですよ! イゾルデ、あなたの世話に不服など一切ありませんからね!」
ピヨピヨヨ! と元気いっぱいに羽をパタつかせるミッテちゃんに、母上様の目元が和んだ。
よかった、ちょっと気分が上向いたみたいだ。母上様、小鳥とか小動物お好きだもんな。
食事を終えると、俺はヒヨコを肩に乗せた。
――ごめんけどミッテちゃん、仕事中でも構わないから、もうそのまま話してくれる?
いつもと違う行動を取ったらみんなに深読みされそうだし、就寝時にはリシェルがいる。あとでいつ時間を確保できるかわからないからさ。
「そうですか? 私はいいのですけれど……」
俺はリシェルと母上様を伴って執務室に向かうと、側近達に迎えられて仕事を再開した。
そこで俺は休んでいた期間の報告を受けながら報告書にも目を通し、
可・不可の判断が必要な提案書に目を通して分類しつつサインを書き、
スパスパと意見を出しつつ書類を捌いてゆくリシェルと母上様に見惚れ、
結婚前よりも色気が爆増ししているリシェルに若い男の側近が見惚れた直後に青ざめて俺に目を向けてくるのを『見惚れるだけなら許してあげるよ、見るだけならね』という意味を込めて微笑みかけ、
ミッテちゃんの獲得した裏ワザの詳細とティバルトやルチナの反応とようやく姿を見せた黒幕とのやりとりに耳を傾けるという作業をほぼ同時に行った。
本日のタスクが渋滞しているけれど、一個一個処理していけばまぁ片付けられんことはないだろ。
重要な項目はミッテちゃんの件と、リシェルに新しい耳飾りを用意して贈ろうという件だな。
特に結婚後の贈り物は大事だ。たとえリシェルが幼い頃からずっと同じ耳飾りと首輪をしていても、高価な白金を使っている時点で、伴侶に金をかけていないだのみすぼらしいだのという陰口は発生しない。
だが、間違っても手抜きなどという有り得ない誤解を広められたくはないので、目に見える新たな贈り物はしたほうがいい。
というかリシェルに貢ぎたい。
結婚前からプレゼントを準備していなかったのかって?
考えてはいたさ。でもリシェルは物欲がないし、俺の贈った物なら何でも喜んでくれるから、却って贈り物に悩むんだよ。
白金と『天の雫』を使った装飾、そして首輪と統一したデザインは必須として、何か特別感を付加できればいいな。
あとは黒幕処理のタスクの優先順位だが……リシェルは大分類、黒幕は小分類にして『優先度高・至急』に設定しておくか。
「ランハート? あなた本当に、あちらの世界で何をされていたのですか?」
俺にすべてを報告し終えたミッテちゃんは、何故か俺に引いていた。
う~ん、以前もそれを訊かれたような気がするけど、この世界に存在しない職業だから説明が難しいんだよなぁ。
簡単に言うと、我が家の仕事は待ってくれるけれど、クレーマーは待ってくれなかったんだよ。
昼メシよりもトイレ休憩よりも俺様を優先しろ、俺様がこの世の常識でありこの世の法律だ。それがクレーマー。
で、ミッテちゃんがコンタクトを取ったっていうその黒幕、潜伏タイプのクレーマーっぽい気がするんだよね。
「何やら恐ろしげな怪物に聞こえるのですが……それに似ているのですか? 潜伏タイプとは?」
うん。俺がいた会社独自の隠語だったんだけどね。
さも自分は違いますよという態度を取りながら、実はそのものっていう人。
文句なんて言いませんよと口だけはおおらかなのに、実はこちらの失言やミスをずっと待ち構えていて、その瞬間を逃さず食らいついてくる人なんかもそう。
ぶっちゃけ、俺の部署での優先度はそう高くはなかった。もっと大暴れしているのがいっぱいいたもんでね。
「そ、そうなのですか。ですがあの者は」
俺やルーディを死に追いやり、多分ほかにも多くの者に『導き』とやらをやっている。救うためではなく、試練と名付けた悲劇を与えるために。
それを正しい行いだったと言い切るような奴。
だから、俺の中でそいつの優先度は『高・至急』にした。
それにそいつはミッテちゃんに、おまえ達は試練を乗り越えたから自分はもう何もしない、なんて言っていたんだろう?
でもな、俺はそういう奴のセリフはまったく信用できないと思っている。
――あの言葉を真に受けたのか愚か者め。いつでも試練に耐えられるよう準備を怠るべきではなかろう?
な~んて、それっぽい偉そうな理由つけて、また同じようなことをやるんじゃねぇの?
誰がそのような約束をした? とか言ってな。
「い、言いそうです……! ものすごく言いそうです……! 確かにそのような輩ですよあれは!」
だろ?
だから対処方法は早めに考えるよ。
ところで、精神世界を介してのやりとりは盗聴のリスクが高いけど、こんな風に会話をしている分には聴かれないんだよな?
「その点については大丈夫です。私も説明が難しいのですが、この会話を遠方からこっそり聴こうとすると『力』を外向きに発することになり、どうしても他の『同族』に感知されてしまうのです。一度とんでもない誤りをお伝えしてしまいましたから、信用できないかもしれませんが」
いやいや、ミッテちゃんは信用してるって。悪いのは全部その不法侵入野郎だから。
ところで……。
俺は融合前の『ランハート』だった頃の自分や、ミッテちゃんが昔からお世話になっていることも含めて、きっちりそいつにお礼をするつもりだ。
――いいよね?
「ええ、いいですとも。あれは我々の掟を破った者です。あなたが私をのけ者にして全部秘密でやる、などということがない限りはご自由にどうぞ」
もちろんだよ~、のけ者になんてしないって~。
俺はニッコリと嗤いたくなるのを我慢した。
周りに人がいるからな。
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