どうやら悪の令息に転生したようだ

日村透

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かつて悪(役)だった令息との結婚

184. この命の秘密を打ち明ける

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 緊急事態なので、ミッテちゃんはこれまでぼかしていた部分もしっかりと教えてくれた。

 まず、そいつはミッテちゃんの同族でありながら、本来ならば絶対にやってはならない、他者の試験への介入をやってしまっている。
 これはどんな事情があろうと、罪は罪。
 しかもそいつはバレないようにコソコソ行動し、「おまえは我が試練を乗り越えた(ピカー)」なんて格好をつけながら、自首する様子はない。
 己の正義のためなら罰を受けることもいとわないなんて、そこまでの覚悟はないのだ。
 ならばミッテちゃんが他の同族とやらへ、そいつのことを訴えられないか?

「それが、今はできないのです」

 そもそも試験自体が、同族による邪魔を想定した内容になっておらず、ミッテちゃんが途中で仲間を呼べる条件は二つだけだという。


 一、進化の申請を行う時。
 これが通ればミッテちゃんはランクアップし、今よりも大きな権限を得られる。

 二、試験に失敗し、助けを求める時。
 いかなる理由でもこれをやると、撤回はできないし事情の考慮もされない。
 妨害者の存在を訴え、そいつを罰してもらうことは可能だが、失敗は失敗となる。
 再試験を受けたければ、そこそこ長い期間の再修業が必要。


 二つ目、厳し過ぎねえ?
 明らかな妨害が入ってんのに、それも考慮されないの?

「これは『失敗しても構わない』という、軽い気持ちで挑ませないために厳しくしているのです」

 やるからにはマジ真剣にやれよ、ということか。
 だからこそミッテちゃんみたいに、真面目なタイプが試験に臨む。
 しかしそのせいで、仮に二番目の手段を使うとしたら、ミッテちゃんが大損することになる。ミッテちゃんだけじゃなく、この世界に住む者全員もだ。
 真面目に頑張ってきたうちのミッテちゃんが、モグリ天使のせいで失格の烙印を押され、俺達もそいつにやられっ放しで終わり。
 冗談じゃねえっての。

 多分無理だろうけど、今の段階で進化の申請ってやつはできる?

「無理ですね。申請のためには、全盛期の『力』が必要なのですよ」

 成功していれば弱体化なんてしない。そこが合格の最低ラインになっているってことか。 
 ついでに、この『会話』を聴かれる心配がない根拠も詳しく教えてもらった。
 例えば夢や精神世界を使った接触方法は、相手と自分の心同士を直にくっつけるようなもので、いわばゼロ距離での情報のやりとりだ。
 しかし今の俺とミッテちゃんの会話を聴こうとすると、電波みたいに『力』を飛ばす必要がある。
 そうすると、この世界の管理者たるミッテちゃんはもちろん、この世界にいない他の同族にも「なんか違う奴がいるぞ」というのがビビッと伝わるらしい。

「ですから私と異なり、あの者はこの世界の人間に化けて紛れ込んでいるはずです。あなたの思った通り、王の侍従かその辺りですね。推測ですけれど、どこかのタイミングで人間の肉体に入り込み、その魂に融合したのではないでしょうか」

 げげっ!
 この世界の人間を洗脳したらミッテちゃんにバレるって言ってたけど、それとは違うわけか?

「操るのではなく、この世界の魂と融合するわけですから……私にも他の同族にも一切知られぬまま、この世界に居続けることができるのです。そして本来の魂は、もとから自我が非常に弱く、自覚のないまま呑み込まれたのではないかと。呑み込まれて消滅し、人格その他はコピーされているでしょうね」

 ……うえぇ~。
 俺も本来の『ランハート』と融合したけどさ、そいつのやったことって完全に乗っ取りじゃんよ。
 ヒヨコは渋い顔でピヨ、と頷いた。

「むしろ今この瞬間に盗聴してくれたら話は早いのですがね。試験官のお役目を持つ同胞に、呼ばずとも向こうから来ていただけますので」

 なるほどねぇ。
 ところでその試験官ていうのも、監視カメラみたいなので四六時中チェックしているわけじゃないんだね。

「ひたすら監視していても、口出しなどできないのですから時間の無駄ですよ」

 そりゃそうだな。
 本当なら妨害野郎だって、そうそう出てくるもんじゃないんだろうし。
 …………。

「ランハート?」

 ミッテちゃんがピヨ、と首を傾げた。
 うん。あのさ……
 俺、リシェルに全部打ち明けるわ。

「ええぇぇっ!?」



   ■  ■  ■ 



 リシェルに話すべきか、話さないべきか。
 ぶっちゃけミッテちゃん側としては、話すことを別段禁じてはいないとのことだった。
 人間が知ると不都合なことは、そもそも俺だって聞いていない。
 その中でも俺はミッテちゃんの関係者として、人より多くの範囲を教えてもらうことが許されているだけだ。

 ――で。
 リシェルは俺の伴侶。
 この先ずっと一緒にいる。
 伴侶であれば一から百まで教え合わないといけないなんて、そこまでは思わない。
 ただ、俺がこの世界に存在しているルーツみたいなもの、ミッテちゃんとの関係性なんかも含めて、これはリシェルには知っておいてもらうべきだし、知ってもらいたいとも思うのだ。

 夕食を終えて部屋に戻ると、俺はカイやノア、メイド達には退室してもらい、リシェルに「大事な話がある」と切り出した。
 ソファでリシェルの左側に座り、なんとなく彼の左手と俺の右手で恋人繋ぎをする。
 ――とてつもなく緊張した。
 俺、この世界に来てからこんなに緊張したのっていつぶりだっけ……あ、リシェルと初エッチの夜もこのぐらい緊張したかも?
 とにかく心臓がバクバク叫び、喋る前から喉もカラカラになっていた。

 それでも話した。
 さすがにあのBLゲームのことは言えなかったけどね。説明しようがないし、あの闇鍋やみなべゲーム。
 その要素だけを外して、それ以外は全部話した。

 俺はミッテちゃんに別の世界から魂が召喚され、本来の『ランハート』と融合してこの世界に転生したこと。
 ミッテちゃんの正体や、この世界でこれまで起きていたこと。
 俺がミッテちゃんにどんな役目をお願いされたのか。
 巻き戻し前のリシェルがどんな目に遭っており、俺はそれをミッテちゃんから事前にいて、だから我が家へ迎え入れるために婚約という手段を使ったのだということまで。
 ほかに抜けはないか、思い付かないぐらい全部話した。

 リシェルはまばたきをしたり、目を丸くしたりしつつ、それでも遮らずに最後まで聞いてくれた。

「いきなりこんな話をしてごめんね」

 そう締めくくると、リシェルは長い溜め息を吐いた。
 ほんとごめんね。こんなのを一気に聞かされて、びっくりしたろ。
 俺は判決を待つ囚人の気持ちになりながら、彼が頭の中で噛み砕き、呑み込むのを待った。
 するとやがて、リシェルはローテーブルの上に目を向けた。そこには、ちょこんと俺達に向かい合うヒヨコの姿がある。

「……ミッテちゃん。わたしの言葉が理解できるなら、その場で三回跳んでみてもらえるかな?」
「任せなさい!」

 ミッテちゃんはシュバッと片手――じゃなく片羽を挙げ、その場でピヨピヨピヨッとジャンプしてみせた。
 どうでもいいけど白い毛玉なヒヨコが跳ねる姿、めっちゃ可愛いな。

「ほ、本当にわかるんだ!?」

 さすがだなリシェル、この話が事実か否か、良い確認方法だ。
 ――でもなんで頭を抱えて真っ赤になってんの?

「ランハート。リシェルに、『あなたが秘密にしたいと思っていたことはランハートには秘密にしておりますので安心してください』と伝えてください」

 待って俺には秘密にしたいことって何!?
 いやさっき自分で『一から百まで教え合う必要なし』とは思ったけどさ!?
 それでも一応、ミッテちゃんの言葉を通訳してみたら、リシェルが完全に撃沈してしまった。
 俺は慌てて部屋置きの水差しとグラスを用意し、ローテーブルへ突っ伏すリシェルに差し出した。

「あ、ありがとう……」

 俺も喉が渇いたから、自分の分も入れてごくごく。
 あー、カラッカラだったわ。
 そして未だに緊張が残ったままテーブル上にグラスを置き、リシェルが落ち着くのを待って尋ねた。

「……俺のことが嫌になった?」
「え? どうして」
「どうしてって……」
「今の話のどこに、ランハートを嫌になるところがあったの?」
「…………っ」
「わっ?」

 リシェルが飲みかけのグラスを慌ててテーブルに戻した。
 ごめん、唐突にギュウギュウ抱きついちゃって。
 でもよかった。マジでよかった。

「事前にリシェルの状況を知っていたから近付いたなんて、幻滅されて嫌われやしないかと思ったんだよ……!」
「ランハート……」

 本気で怖かったんだ。
 嫌われたらどこへ監禁しようとか練るぐらいには。
 さすがにそれは内緒だけど――ってミッテちゃん、俺の後頭部でジャンプすんのはヤメテ。髪がボサボサになっちゃう。

「……覚えているよ、あの怖い男のこと。もしランハートがわたしを婚約者にしてくれなければ、わたしはあいつに襲われていたんでしょう? 昔も今も、会えてよかったとしか思わないよ」

 俺の背中を抱き返してくれるリシェルの優しい声に、何年ぶりかの涙がこぼれそうになった。


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