どうやら悪の令息に転生したようだ

日村透

文字の大きさ
213 / 261
堕ちた天使を狩る

212. あの日からずっと……

しおりを挟む

 ミッテちゃんがヒヨコの顔をどことなく愉快そうに歪め、「そういうことですねぇ」と肯定してくれた。
 片方の羽をくちばしに添え、もう一方の羽を腰に当てているポーズは、いわゆる高笑いポーズではなかろうか。

『そんな……私の、私の力が無い……羽も消えている……!? 嘘だ! 何故この私がっ!?』

 案の定、エンデは叫んだ。罰を素直に受け入れられる奴じゃないのは知っていたけど、とことん往生際が悪いな。
 何故じゃねえよ、おまえが罪人だからだよ。先輩方も最初っからそう仰っているだろ?

『――きさまなどに訊いてはいない!! 口を挟むな下等生物ごときがっ!!』
『はっはっは、きがいいなぁ下等生物のエンデくん! 今日からおまえも俺と同じ下等生物の仲間入りだ! よろしくな!』
『私はきさまなどとは違う!! 私は!!』
『ははは混乱するのも無理はないさ、下等生物のエンデくん! だがもう少しばかり、への口の利き方や態度や表情を学んだほうがいいぞぉ? なんたってきみは、下等生物人間の中でも、さらに下等な〝罪人〟なのだからな!』

 きっと俺のセリフには♪マークが飛びまくっている。
 しかし寄生天使改めエンデの野郎は、何を言われたのかいまいちわかっていないようだ。
 性懲りもなく俺に怒りを向けつつ、その中に困惑を滲ませている。
 俺はこれから彼に待ち受けている現実を、丁寧に言い聞かせてやった。

『なあエンデくん、俺の身分はなんだ? 公爵だ。さて、エンデくんの身分は何かな? ――爵位なしの貴族だ』

 さらに今回の件で、貴族階級からの除籍処分はもう確定している。
 すなわちエンデくん、きみは平民であり、平民の中でも最低な罪人という『身分』なのだ。
 詐欺、殺人、国家転覆未遂、罪状はたんまりあるぞぉ?

『呑み込みの悪いおまえのために、大事なことだからもう一度言ってあげよう。俺は公爵。おまえは一般市民ですらない犯罪者。が高い、控えおろう~!』
『……!!』

 エンデが俺を凝視し、次いで首から上がぐつぐつとだった。
 リシェルの茹でダコはあんなに可愛いのに、こいつの茹でダコ顔は愛らしさの微塵もないな。相変わらずこの俺に対し、怒りを燃え立たせているみたいだし。
 俺はフンと鼻で嗤った。

『てめぇごときに俺を怒る権利なんざねえって言ったのを、もうさっぱり忘れたか? ほんと、記憶力の乏しい野郎だな』
『なんだと!?』
『もう間違えんなよ? ――俺が、てめぇに、怒ってるんだよ』

 毎日毎日苦しみ続けた『ランハート』。
 ミッテちゃんはおまえと違い、『ランハート』の魂を消すことを許さなかった。俺も肉体を奪いたいとはこれっぽっちも思わなかったから、ごく自然と融合した状態で安定したのだ。

 苦痛の中で意識を何度も飛ばしかけながら、寝心地のよさそうな棺桶を夢想していた幼い子供を、俺はよく覚えている。
 あの時、俺は自分自身となったその子に、こう語りかけた。



   ■  ■  ■ 



『なあ、ここで終わってやるのはまだ早いぜ。先にやることがあるだろう?』
『やること? なあに?』
『はは、そんなの決まっているじゃねーか。……引きずり出してやるんだよ』

 誰が、『俺』を、こんな目に、
 遭わせやがったかってことをな……!



   ■  ■  ■ 



 ドロリとが蠢いた。
 今は肉体から一時的に離れた精神体であるはずなのに、生身の肉体と大差のない実感がある。
 俺の存在を形作る核が胸の中心にあり、そこからマグマが溢れ出ていた。
 名付けるとするならば、『憤怒』が最も近いだろう。
 なのに心の中には極寒の氷山が流れ、唇にはゆるりと微笑が浮かんでいた。
 エンデが後退ろうとでもしたのか、巻きついた鎖がじゃらりと音を立てている。

 なあ、エンデよ。想像したことはあるか?
 この日が来るのを、俺がどれだけ楽しみにしていたか。
 おまえを安全な巣から引きずり出し、地べたに這いつくばらせ、早く棺桶で休みたいと切望する日々を与えることが――

 ツツツツン!! と足に衝撃がきた。

『痛たたたっ! ミッテちゃん!?』

 あのね、俺の足は木の幹じゃないからね!?
 そこに巣穴を開けるのはヤメテ!?

「正気に戻りましたか」
『あのうミッテちゃん、俺はいつだって正気ですよ?』

 ――って、この世界、痛覚があるのか。前にミッテちゃんと会った時は、そんなのなかったんだけどな。
 それでも通常の痛覚とは別物なのか、ジンジンとした痛みが長引くことはなかった。ヒヨコのくちばしにそこまでの攻撃力がないだけかもしれないけれど。

「疑似的な痛覚を再現しているのですよ。転生前と異なり、あなたの今の姿が魂にすっかり馴染んでおりますので。……言っておきますがそれ、あなたが自分でやっているのですからね?」

 え、俺が?
 きょとんとしたら、先輩天使の皆様が『その者の言う通りだ』と教えてくれた。

『我らはおまえをこの空間に招きはしたが、姿形の指定はしていない。おまえが無意識に、己の姿を反映させているのだ』
『痛覚もそれと同じ。痛みを感じぬのは〝不自然〟とおまえ自身が感じておるゆえに、それに近い感覚が再現されておるだけだ』

 ほえ~。そうなんですね。
 きっちり説明してくださる先輩方にふむふむと感心していたら、何やらまたも微妙な視線をそそがれている。
 顔立ちすら不明な発光体なのに、どうして表情がわかるんだろう。
 ミッテちゃんも横で「ふうピヨ」みたいに溜め息をついている。

 そういえばさっき、ほんのちょっぴり怒りかけていたのに、なんか有耶無耶になっちゃったな。


しおりを挟む
感想 823

あなたにおすすめの小説

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

妹に婚約者を取られるなんてよくある話

龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。 そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。 結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。 さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。 家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。 いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。 *ご都合主義です *更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

偽物勇者は愛を乞う

きっせつ
BL
ある日。異世界から本物の勇者が召喚された。 六年間、左目を失いながらも勇者として戦い続けたニルは偽物の烙印を押され、勇者パーティから追い出されてしまう。 偽物勇者として逃げるように人里離れた森の奥の小屋で隠遁生活をし始めたニル。悲嘆に暮れる…事はなく、勇者の重圧から解放された彼は没落人生を楽しもうとして居た矢先、何故か勇者パーティとして今も戦っている筈の騎士が彼の前に現れて……。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

処理中です...