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最後の仕上げ
215. 最後のお掃除
しおりを挟む俺や俺の好きな人々に苦痛を与えた輩を引きずり出し、己の罪の程度をたっぷり味わわせてやろうという野望は、これで叶えられることになる。
言いたいこともほぼ言い尽くしたから、もうこいつと口をきいてやる時間すらもったいない。
俺は看守くんに、今日俺がぶっ倒れたことは内緒ね? と笑顔でお願いし、彼が快く頷いてくれたのに満足すると、リシェルを伴って帰途についた。
■ ■ ■
ところで、よくよく考えれば、ミッテちゃんとの契約について完了宣言をするにはまだ早い。
ミッテちゃんの望みは『滅びのシナリオの破壊』――ならばまだひとつ、お掃除しなきゃいけない箇所が残っている。
それを放置したままでは、リヒトハイム王国が滅びる未来が完全に消えたとは言えない。
俺の前世は清掃活動が得意な人種。最後まで手抜きせず、きちんと綺麗にいたしますよ。
さて、それからの話である。
リヒトハイム王の侍従とその親族、裏組織の人間と思しき者は一人残らず捕えることができた。ヴェルクの義父上様が上手に四公騎士団を動かしてくれたのはもちろんのこと、俺がファーデンから呼び寄せた養成所の騎士見習い達も大活躍だったらしい。
どうも彼らは怪しい気配に敏感で、こそこそ逃げようとする奴がいたら、真っ先に発見するのがファーデンの者だったそうだ。隠し武器や仕掛けもいち早く察知し、奴らがこっちの裏をかこうとしてもあっさり見破ってしまうので、あとで義父上様に「おまえは特殊部隊でも作っているのか」と疑われてしまった。
そんなことないよ!
……多分。
それはさておき、王妃の侍女も半分ぐらいは捕縛対象になった。なんでも昔、貴族令嬢だった頃の王妃に加担し、前王妃への嫌がらせをしていたみたいでね。情報源は他国で暮らしている前王妃だ。
実は俺が公爵になって少し経った頃、元王妃様と文通友達になってさ~。
だってあのオークと夫婦やってた御方なんだぞ。どんな女性なのかなって気になるじゃん。
でもって、彼女がむかつく思いをさせられた女どもを一掃する見返りとして、リヒトハイムにちょっかいをかけようと目論む連中を牽制してくれる約束になっているんだよ。
前王妃は数年前にその国の公爵に見初められ、再婚して幸せに暮らしているらしい。それはそれとして、自分を虚仮にしてくれた者達への恨みを忘れたことはなかった。
だからこの件に関しては、夫婦ともども俺達に全面協力すると力強いお手紙をいただいている。
『あなたならば徹底的に成し遂げてくださると、心より信頼しております』
お友達にそんなことを書かれたら、期待に応えたくなりますな。
しかしこれで、我が国の王と王妃は、身の回りの世話をする者がゼロに近くなってしまった。
王族の近くに侍る侍女や侍従は専門職であり、ホイホイ補充できるものではない。
さて、どうしよう?
大丈夫。
そんなのいなくても問題なくなるから。
「――というわけだ、宰相殿。あなたはこの事態について、誰よりも憂慮していた方と認識しているが、いかがだ?」
俺はムスター邸に宰相殿をお招きし、他の三公も同席の上で大事な今後の話をした。
国に巣食っていた負の遺産を一掃したはいいものの、まだ最大の問題が残っている。
この件について、他の三公は全員が俺の意見に賛同してくれて、渋る者はいなかった。
全員が何かしら大迷惑を被っている上に、あれを後生大事に守って国が滅びては元も子もないしな。
俺達は玉座に置かれた肉塊を守るためにいるのではない。
この国を守るために存在している。
そのあたり、この宰相殿は説得するまでもなく理解してくれるだろうと信じていた。
思った通り、彼は驚きはしても悩む素振りはさほどなく、その瞳は決意に満ち――期待でキラキラギラギラ興奮しているように見えるのは気のせいだ――はっきりと頷いてくれた。
■ ■ ■
数日後、俺達四公は再び国王によって呼び集められた。
そんなに急がずとも、近々俺達のほうから会いに行くつもりだったってのに、せっかちな御方だなぁ。
新しい世話係の質が悪い上に人数が少なくて気に入らないとかで、この間から夫婦揃って周囲に文句をつけまくっているらしい。
それに捕えた罪人どもはどうなったか、これからどうするつもりなのかいろいろ訊きたいようだ。
はいはい、喜んでご説明いたしますよ。
俺達は四公騎士団を連れて悠然と王宮に参じ、謁見の間に入った。各大臣達もずらりと席に座っている。王が気まぐれで誰かを呼び付けるたびに、彼らも賑わせ要員として出席を強要されるみたいなので、内心面倒がっている方々は多そうだ。
今日は王妃の姿もある。自分の侍女を減らされて不満タラタラだったようなので、今日は旦那と一緒に俺達をサンドバッグにするつもりなんじゃないかな。
でも残念ながら宰相がこっちについた時点で、あんたらのターンももう終わりだ。
前触れもなく宰相が歩き出し、俺達の側に立ったことで、国王夫妻は怪訝そうに眉を顰めた。大臣席からもざわめきが生じる。
「何をしておる、宰相よ?」
王が尋ねた。
それに対し、宰相はどこまでも冷静な顔で答えた。
「事態の経過報告をせよとのことですので、わたくしの口からもご説明させていただきます。恐れながら陛下。このたび四公騎士団の捕えた罪人どもによって、陛下の御身は長年にわたり毒に蝕まれておいでと判明いたしました」
「なっ、……何ぃ!? ど、ど、毒!? 余が、毒に、だと!?」
王は重そうな瞼を見開き、王妃もさすがにぎょっとしている。
大臣席からのざわめきがいっそう大きくなったが、宰相は構わず続けた。
「猛毒にございます。よって、まことに残念ではございますが、陛下のお身体ではこれ以上、リヒトハイムの頂という重責を担い続けられることは困難でしょう。本日よりその重責からは解放され、離宮にてご回復に専念なされませ」
「は?」
「――なんですって?」
ざわめきがぴたりと止まった。
その言葉の意味するところに気付き、誰もが目を剥いている。
立ち上がったのは王妃だった。
「おっ、おまえっ! よりによって、陛下に退位を迫っているのですか!? その者どもにそそのかされ、下克上に加担するとは、恥を知りなさいッ!!」
「な、なんだと!? 余に退位せよと申しておるのか!?」
いくら大嫌いな夫でも、『国王の妻』という立場は失いたくないらしい。
キンキン声で叫ぶ王妃に、宰相のセリフがようやく脳に到達したらしい王が激昂しそうになる。
そこで俺は一歩前に出て、宰相の身体の前にすっと腕を伸ばした。ここからは俺が代わるという合図だ。
王と王妃は、いったい俺が何を言う気なのだと警戒したか、静かになってくれた。
俺は彼らに、とびきり優しそうな微笑で応えた。
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