1 / 1
身の振り方
しおりを挟む
「お前は……自由に生きなさい」
その言葉と共に皇帝陛下は後宮の寝室で息を引き取った。
私にとって親代わりと言えるくらいの長い時間を過ごした夫との別れの瞬間だった。
「南苑君、瑠煌親王殿下がお呼びでございます。陛下の葬儀についてお話があるとのことでございます」
皇帝の寝室に入ってきた宦官が私に向かってそう告げた、
「……分かりました」
夫であり父であり、恩人でもある皇帝陛下に最後の別れを心の中で告げ寝室をあとにする。廊下を進みながら十五年の月日を過ごした後宮に思いを馳せる。十歳にも満たない頃、地方官僚であった親を内乱で亡くして途方に暮れていた私を皇帝陛下は宮殿に連れて帰り男妃としての地位を与えてくれた。本当は養子にしたかったみたいだけど、それは叶わなかった。地方の田舎貴族を皇室に列するなど許されることでは無いと猛反発を受けたからだ。だけど皇帝陛下は私を後宮で本当の孫のように育ててくれた。私に南苑君という称号を授け、誰からも害されないようにしてくれた。それだけで私は幸せだった。
「はぁ……」
だけど、そんな幸せな思い出も今日で一旦終わりだ。
皇帝陛下は天寿を全うされ、先程旅立たれた。未亡人となった皇帝の妃は再婚を許されず、宮殿の隅の方での幽閉生活が待っている。まだ二十代だというのに我ながら不憫なものだ。
「久しぶりですね、南苑君」
後宮の中でも許可された者だけが入室を許される応接の間で私の苦手な人物の一人、瑠煌親王が何人かの侍従を引連れて待っていた。
「えぇ、春の剣舞会以来でしょうか?親王殿下もお元気そうで何よりです」
「ほっほっほ、貴方も愛しい夫が亡くなったというのに存外にお元気そうだ」
もう敵意を隠す気もないらしい。
これまでは一応は皇帝の側室として一定の敬意を表し、線引きはしてくれていたように感じるが皇帝陛下が居なくなった途端にこれだ。
「……ここは陛下が心からくつろぐことのできる癒しの場、側室である私が涙を流すなど陛下亡きあとでも許されることではないと心得ております。」
「まぁ何の役にも立ちませんが、良き心がけだと思いますよ。あぁ、それと今日は貴方への皇太子殿下からの通達をお伝えしにきたのです」
私の話など興味もなさそうに親王はすぐに自分の用件に話をすげ替えた。皇太子殿下からの通告ということは私の今後についてという事だろう。
「南苑君には二つの選択肢を用意しております。一つ目はしきたり通りに宮にて余生を過ごす。もちろん再婚は許されませんし、皇帝の所有物である貴方は後宮を出たあとも宮殿から出ることは許されません」
「それ以外の選択肢があると?」
「慈悲深き皇太子殿下が男とはいえ義母にあたる貴方にわざわざ別の選択肢を用意してくださったのですよ。我が従兄ながらお優しいことだ」
親王は皇太子殿下の印が押された紙を私に手渡した。そこにはもう一つの選択肢について明記されていた。
「もう一つの選択肢は輝遠将軍に嫁ぐというものです」
輝遠将軍、後宮のことしか知らない私でも聞き覚えがある名前だ。昨年に終結した戦争で大活躍した平民出身の将軍だったはずだ。褒美として故郷の村とその周辺の山々を領地として与えられと聞いている。
「南の蛮族との長きに渡る戦争が終結し、国庫を圧迫し続けていた戦争費がなくなり財政も潤いつつあります。しかし、いくら国の英雄とはいえ田舎出身の成り上がりの軍人に渡す報奨金など我が国の国庫にはありません」
「それと私が輝遠将軍に嫁ぐことになんの関連が?」
将軍が英雄として称えられていることは分かった。だかしかし報奨金を払う余裕が無いからと言って私が嫁ぐ意味が分からない。
「将軍自身が報奨金ではなく貴方を下賜してくれと望んだそうですよ」
「莫大な報奨金ではなく、私を嫁に望んだと?」
「えぇその通りですとも。南苑君は男をも惑わす悪魔のごとき美しさですからな。将軍のもとにも噂が届いたのやもしれませんぞ。今年に入ってから陛下の体調のこともあり共に床に上がれず、溜まるものも溜まっているでしょう?」
この男は汚い笑みを浮かべながらそんなことを言った。私がこの男を苦手とする理由は数え切れないくらいあるが、一番苦手なのは男同士の婚姻を不快に思っているくせにこういった時に私を持ち上げ、自分の都合の良いように私の思考を解釈するところだ。
「まぁ元々商家出身の傭兵上がりですから金は十分あるんでしょうな。そういった意味では南苑君とも共通点が……」
「いいでしょう。亡き皇帝陛下の悲願であった蛮族との国境問題を解決した功労者、輝遠将軍が私を望んでいるのなら喜んで嫁ぎましょう」
これ以上、不快な親王の話を聞いていられず私は了承の意を返した。親王は途端に笑みを浮かべ、すぐに準備をすると言って後宮から出ていった。
翌日以降、私は荷物を宦官にまとめさせいつでも嫁げる準備をした。だが荷物は身につけるもの以外は全て置いていくように皇太子殿下から命じられ、私は皇帝陛下から頂いた物をいくつか手放さなければならなくなった。だが服や装飾品は品位保持のために持ち出しを許されたので、遠慮なく荷物に詰め込んだ。特に皇帝陛下はよく髪の長い私のために簪を送ってくださったので、それは一本残らず荷物に詰め込んだ。
◆◇◆
数週間後、私は馬車に揺られて都から遠く離れた田舎村にやってきた。下賜された皇帝妃とは思えないほど質素な馬車に少ない護衛と召使いたちを連れて、私は輝遠将軍が待つ屋敷へと目を向けた。村の中心部にある大きな平屋建ての屋敷は高い塀で囲まれており、田舎貴族の屋敷としては大きすぎるように見えた。それに周りののどかな風景に比べて一つだけ豪華絢爛といった造りのようだ。
「南苑君、到着しましたよ。はっ、どうやら将軍閣下自らお出迎えのようです」
馬車が停車し窓から外を伺った侍従が面倒そうにそう告げた。
「ご苦労さまでした。貴方たちはこれで都に帰るのですね?」
「もちろんです。荷物を下ろしたらすぐにでも」
田舎の将軍妃となることが決定した私相手に取り繕う必要なしと思っているのだろうな。都を出発してからこの侍従の態度はとても元とはいえ皇帝妃に対する態度とは言えない。
「南苑の君、開けてもよろしいか?」
侍従の言動に眉を寄せていると、馬車の外から声がかけられた。私は慌てて髪が乱れていないかを確認し、扉を開けて外に降り立った。
「失礼。少し髪を治しておりました」
「美しい南苑の君、私は今回の戦で将軍の地位と貴方を授かりました。命に変えて大切にいたします」
そう言って私に深々と頭を下げた男は非常に整った顔をしていた。平民出身にはとてもじゃないが見えないし、軍人ということもあって背も高く肩幅も大きい。それに私より年下ではないだろうか?
「皇帝の側室と聞いて麗しい女子を想像されていたのでは?断るなら今のうちですよ」
「と、とんでもない!私は南苑の君だから、貴方のような美しい人を娶りたくて……」
輝遠将軍はそう言っているうちに顔を赤くして俯いてしまった。なんだか悪い人では無さそうだ。
「そう言って頂き、ありがたい限りです。これから伴侶として過ごしていくのですから、私のことは"南苑の君"ではなく、"小宸"とお呼びください」
「小宸、ですね。承知しました。では私のことも気軽に輝遠とお呼びください」
そんな風に始まった輝遠との生活は後宮のように堅苦しいものではなく、とても穏やかで自由な生活だった。彼は私の行動を尊重してくれ、屋敷内でのことは自由にさせてくれた。
「待って!小宸!」
私のことを大型犬のように追いかけ回すこの優しい男の唯一の欠点、それは過度な心配症だ。
「市場に行くんだろう?俺も一緒に行くよ」
「輝遠には仕事があるだろう?私は暇だから市場で果物でも買ってくるよ。ちゃんと護衛も連れて行くから」
「ダメだ。君を攫うために大軍を引き連れてきたらどうするんだ。君は羽のように軽い。あっという間に攫われてしまう」
こんな田舎で誰が将軍妃なぞ攫うというのだ。この男の心配症もここまで来ると微笑ましい。ここに来て一年がたち、一度もそんな危険な目に会ったことは無いというのに
「俺が君に惚れたのは宮殿で開かれた進軍式の時に皇帝陛下の隣にいたからだ。あんなに遠くからでも分かる君の美しさは──────」
「その話は聞き飽きた」
私は輝遠の口元をわし掴みにして黙らせた。週に一度はこの話を聞かされる身にもなって欲しいものだ。
「まったく。この一年で心配症が酷くなってるんじゃないか?」
「これは妻への愛だ」
「妻と言うな。私は将軍妃であって女ではないのだからな」
「……ち、ちがう!そんなことを言いたかったのではなく君はそれほど美しく愛らしいという意味で……!」
「ははっ、そんなに慌てなくていいさ。このやり取りも何回目だ?」
「……」
「数え切れないのだろう?心配せずとも君の愛は私に伝わっているよ」
この一年、嫌という程この男から愛を囁かれた。
だが愛は言葉にされるだけで私の身体をこの男が欲することはなかった。毎晩眠る床は同じなのに湯浴みも共にせず一向に手を出してこない。そろそろご褒美をくれてやってもいいのかもしれない。
「今日、先に湯浴みをして寝台で待っていてくれないか」
「え?ど、どどどどうしたんだ!?」
「今日は君の妃になってちょうど一年が経った」
私は顔を真っ赤にして狼狽える愛しい夫の首に手を回して耳元で囁いた。
「私の身体ごと、愛してはくれないか?」
下級貴族の孤児であった私が皇帝の側室となり、今は国の英雄の妃になった。波乱万丈な私の人生はこの男と出会うためにあったのかもしれない。
そう思えるほど私もこの男に惚れていたのだ。
─────────────
久しぶりの単話です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ではまた逢う日を願って 紅林
その言葉と共に皇帝陛下は後宮の寝室で息を引き取った。
私にとって親代わりと言えるくらいの長い時間を過ごした夫との別れの瞬間だった。
「南苑君、瑠煌親王殿下がお呼びでございます。陛下の葬儀についてお話があるとのことでございます」
皇帝の寝室に入ってきた宦官が私に向かってそう告げた、
「……分かりました」
夫であり父であり、恩人でもある皇帝陛下に最後の別れを心の中で告げ寝室をあとにする。廊下を進みながら十五年の月日を過ごした後宮に思いを馳せる。十歳にも満たない頃、地方官僚であった親を内乱で亡くして途方に暮れていた私を皇帝陛下は宮殿に連れて帰り男妃としての地位を与えてくれた。本当は養子にしたかったみたいだけど、それは叶わなかった。地方の田舎貴族を皇室に列するなど許されることでは無いと猛反発を受けたからだ。だけど皇帝陛下は私を後宮で本当の孫のように育ててくれた。私に南苑君という称号を授け、誰からも害されないようにしてくれた。それだけで私は幸せだった。
「はぁ……」
だけど、そんな幸せな思い出も今日で一旦終わりだ。
皇帝陛下は天寿を全うされ、先程旅立たれた。未亡人となった皇帝の妃は再婚を許されず、宮殿の隅の方での幽閉生活が待っている。まだ二十代だというのに我ながら不憫なものだ。
「久しぶりですね、南苑君」
後宮の中でも許可された者だけが入室を許される応接の間で私の苦手な人物の一人、瑠煌親王が何人かの侍従を引連れて待っていた。
「えぇ、春の剣舞会以来でしょうか?親王殿下もお元気そうで何よりです」
「ほっほっほ、貴方も愛しい夫が亡くなったというのに存外にお元気そうだ」
もう敵意を隠す気もないらしい。
これまでは一応は皇帝の側室として一定の敬意を表し、線引きはしてくれていたように感じるが皇帝陛下が居なくなった途端にこれだ。
「……ここは陛下が心からくつろぐことのできる癒しの場、側室である私が涙を流すなど陛下亡きあとでも許されることではないと心得ております。」
「まぁ何の役にも立ちませんが、良き心がけだと思いますよ。あぁ、それと今日は貴方への皇太子殿下からの通達をお伝えしにきたのです」
私の話など興味もなさそうに親王はすぐに自分の用件に話をすげ替えた。皇太子殿下からの通告ということは私の今後についてという事だろう。
「南苑君には二つの選択肢を用意しております。一つ目はしきたり通りに宮にて余生を過ごす。もちろん再婚は許されませんし、皇帝の所有物である貴方は後宮を出たあとも宮殿から出ることは許されません」
「それ以外の選択肢があると?」
「慈悲深き皇太子殿下が男とはいえ義母にあたる貴方にわざわざ別の選択肢を用意してくださったのですよ。我が従兄ながらお優しいことだ」
親王は皇太子殿下の印が押された紙を私に手渡した。そこにはもう一つの選択肢について明記されていた。
「もう一つの選択肢は輝遠将軍に嫁ぐというものです」
輝遠将軍、後宮のことしか知らない私でも聞き覚えがある名前だ。昨年に終結した戦争で大活躍した平民出身の将軍だったはずだ。褒美として故郷の村とその周辺の山々を領地として与えられと聞いている。
「南の蛮族との長きに渡る戦争が終結し、国庫を圧迫し続けていた戦争費がなくなり財政も潤いつつあります。しかし、いくら国の英雄とはいえ田舎出身の成り上がりの軍人に渡す報奨金など我が国の国庫にはありません」
「それと私が輝遠将軍に嫁ぐことになんの関連が?」
将軍が英雄として称えられていることは分かった。だかしかし報奨金を払う余裕が無いからと言って私が嫁ぐ意味が分からない。
「将軍自身が報奨金ではなく貴方を下賜してくれと望んだそうですよ」
「莫大な報奨金ではなく、私を嫁に望んだと?」
「えぇその通りですとも。南苑君は男をも惑わす悪魔のごとき美しさですからな。将軍のもとにも噂が届いたのやもしれませんぞ。今年に入ってから陛下の体調のこともあり共に床に上がれず、溜まるものも溜まっているでしょう?」
この男は汚い笑みを浮かべながらそんなことを言った。私がこの男を苦手とする理由は数え切れないくらいあるが、一番苦手なのは男同士の婚姻を不快に思っているくせにこういった時に私を持ち上げ、自分の都合の良いように私の思考を解釈するところだ。
「まぁ元々商家出身の傭兵上がりですから金は十分あるんでしょうな。そういった意味では南苑君とも共通点が……」
「いいでしょう。亡き皇帝陛下の悲願であった蛮族との国境問題を解決した功労者、輝遠将軍が私を望んでいるのなら喜んで嫁ぎましょう」
これ以上、不快な親王の話を聞いていられず私は了承の意を返した。親王は途端に笑みを浮かべ、すぐに準備をすると言って後宮から出ていった。
翌日以降、私は荷物を宦官にまとめさせいつでも嫁げる準備をした。だが荷物は身につけるもの以外は全て置いていくように皇太子殿下から命じられ、私は皇帝陛下から頂いた物をいくつか手放さなければならなくなった。だが服や装飾品は品位保持のために持ち出しを許されたので、遠慮なく荷物に詰め込んだ。特に皇帝陛下はよく髪の長い私のために簪を送ってくださったので、それは一本残らず荷物に詰め込んだ。
◆◇◆
数週間後、私は馬車に揺られて都から遠く離れた田舎村にやってきた。下賜された皇帝妃とは思えないほど質素な馬車に少ない護衛と召使いたちを連れて、私は輝遠将軍が待つ屋敷へと目を向けた。村の中心部にある大きな平屋建ての屋敷は高い塀で囲まれており、田舎貴族の屋敷としては大きすぎるように見えた。それに周りののどかな風景に比べて一つだけ豪華絢爛といった造りのようだ。
「南苑君、到着しましたよ。はっ、どうやら将軍閣下自らお出迎えのようです」
馬車が停車し窓から外を伺った侍従が面倒そうにそう告げた。
「ご苦労さまでした。貴方たちはこれで都に帰るのですね?」
「もちろんです。荷物を下ろしたらすぐにでも」
田舎の将軍妃となることが決定した私相手に取り繕う必要なしと思っているのだろうな。都を出発してからこの侍従の態度はとても元とはいえ皇帝妃に対する態度とは言えない。
「南苑の君、開けてもよろしいか?」
侍従の言動に眉を寄せていると、馬車の外から声がかけられた。私は慌てて髪が乱れていないかを確認し、扉を開けて外に降り立った。
「失礼。少し髪を治しておりました」
「美しい南苑の君、私は今回の戦で将軍の地位と貴方を授かりました。命に変えて大切にいたします」
そう言って私に深々と頭を下げた男は非常に整った顔をしていた。平民出身にはとてもじゃないが見えないし、軍人ということもあって背も高く肩幅も大きい。それに私より年下ではないだろうか?
「皇帝の側室と聞いて麗しい女子を想像されていたのでは?断るなら今のうちですよ」
「と、とんでもない!私は南苑の君だから、貴方のような美しい人を娶りたくて……」
輝遠将軍はそう言っているうちに顔を赤くして俯いてしまった。なんだか悪い人では無さそうだ。
「そう言って頂き、ありがたい限りです。これから伴侶として過ごしていくのですから、私のことは"南苑の君"ではなく、"小宸"とお呼びください」
「小宸、ですね。承知しました。では私のことも気軽に輝遠とお呼びください」
そんな風に始まった輝遠との生活は後宮のように堅苦しいものではなく、とても穏やかで自由な生活だった。彼は私の行動を尊重してくれ、屋敷内でのことは自由にさせてくれた。
「待って!小宸!」
私のことを大型犬のように追いかけ回すこの優しい男の唯一の欠点、それは過度な心配症だ。
「市場に行くんだろう?俺も一緒に行くよ」
「輝遠には仕事があるだろう?私は暇だから市場で果物でも買ってくるよ。ちゃんと護衛も連れて行くから」
「ダメだ。君を攫うために大軍を引き連れてきたらどうするんだ。君は羽のように軽い。あっという間に攫われてしまう」
こんな田舎で誰が将軍妃なぞ攫うというのだ。この男の心配症もここまで来ると微笑ましい。ここに来て一年がたち、一度もそんな危険な目に会ったことは無いというのに
「俺が君に惚れたのは宮殿で開かれた進軍式の時に皇帝陛下の隣にいたからだ。あんなに遠くからでも分かる君の美しさは──────」
「その話は聞き飽きた」
私は輝遠の口元をわし掴みにして黙らせた。週に一度はこの話を聞かされる身にもなって欲しいものだ。
「まったく。この一年で心配症が酷くなってるんじゃないか?」
「これは妻への愛だ」
「妻と言うな。私は将軍妃であって女ではないのだからな」
「……ち、ちがう!そんなことを言いたかったのではなく君はそれほど美しく愛らしいという意味で……!」
「ははっ、そんなに慌てなくていいさ。このやり取りも何回目だ?」
「……」
「数え切れないのだろう?心配せずとも君の愛は私に伝わっているよ」
この一年、嫌という程この男から愛を囁かれた。
だが愛は言葉にされるだけで私の身体をこの男が欲することはなかった。毎晩眠る床は同じなのに湯浴みも共にせず一向に手を出してこない。そろそろご褒美をくれてやってもいいのかもしれない。
「今日、先に湯浴みをして寝台で待っていてくれないか」
「え?ど、どどどどうしたんだ!?」
「今日は君の妃になってちょうど一年が経った」
私は顔を真っ赤にして狼狽える愛しい夫の首に手を回して耳元で囁いた。
「私の身体ごと、愛してはくれないか?」
下級貴族の孤児であった私が皇帝の側室となり、今は国の英雄の妃になった。波乱万丈な私の人生はこの男と出会うためにあったのかもしれない。
そう思えるほど私もこの男に惚れていたのだ。
─────────────
久しぶりの単話です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ではまた逢う日を願って 紅林
608
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
出戻り王子が幸せになるまで
あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
初恋の相手と政略結婚した主人公セフィラだが、相手には愛人ながら本命がいたことを知る。追及した結果、離縁されることになり、母国に出戻ることに。けれど、バツイチになったせいか父王に厄介払いされ、後宮から追い出されてしまう。王都の下町で暮らし始めるが、ふと訪れた先の母校で幼馴染であるフレンシスと再会。事情を話すと、突然求婚される。
一途な幼馴染×強がり出戻り王子のお話です。
※他サイトにも掲載しております。
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
💛