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第1話 竜との出会い(前編)
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「で…案の定こうなった訳だが」
ふてくされたアラドが吐き捨てるように言う。
ガストがユイの案に乗ったため、一行は砂漠となった旧市街地にやって来た。
だが、着いて早々、岩陰にいた盗賊の船に気付かずに目の前を堂々と横断してしまった。
盗賊の船からSAが発進し、追いかけっこが始まり今に至る。
「ま、まぁ、こういうこともあるわよね~」
「新聞の占いは当てにならないな。今日の運勢、1位だったんだぜ?」
2人の言葉に大きくため息をつくアラド。
しかし、いまさら2人を責めても状況が変わるわけでもない。
今は逃げ切ることが先決だろう。操縦桿を握る手に力が入る。
「しっかし、あいつらもしつこいな。もう30分くらい付いて来てんぞ」
ガストはそんなアラドを尻目に、レーダーを見ながら呟く。
船の後ろに3機のSAが追って来ている。更にその遥か後方には盗賊の船がゆっくりとついて来ていた。
盗賊が使用しているのは『リザッド』と呼ばれるレオーネ製のSAだ。
リザッドは開戦当初のレオーネ軍の主力だった。後継機である飛行可能なSA『ワイバン』が登場しても終戦までにかなりの数が生産された。
戦争でその多くが破壊されたが、ジャンク屋が回収・修理したものが民間に流通している。
そのため、こうした盗賊が使用することも多いのだ。
「撃ってこないのを見るに、この船を無傷で手に入れたいんだろう」
「おかげで逃げ切れそうね。こっちはまだスピード出せるし」
「とは言え今日の仕事は無理だなぁ…」
盗賊の追跡から逃れるために予定のルートから大幅に外れてしまっていた。
ここから盗賊たちの目を掻い潜ってネメアに帰るとなると日が暮れるだろう。
「仕方がないさ。これに懲りたら次からは―――」
と、アラドの言葉を遮るように盗賊のリザッドが武器を構え、発砲した。
バズーカの砲弾が船の後ろから迫ってくる。
「アラド!」
「分かってる!」
ガスト掛け声よりも早く、アラドは舵を切っていた。バズーカをギリギリの所でなんとかかわす。
しかし、他の2機も呼応して攻撃を開始してくる。
先ほどまでの静寂が嘘のように熾烈な攻撃が始まった。
「クソッ、あいつらムキになりやがって!傷物にしたらこんなボロ船、金になんねぇぞ!」
「ちょ、ちょっとヤバくない…?」
「ああ、3機掛かりの攻撃となると…」
盗賊のリザッドは3機ともバズーカを装備していた。連射は効かない武器だが、3機がお互いの攻撃の合間を埋めるように撃ってくる。
連携のとれた攻撃に長くは持たないと考えたアラドは周囲を確認する。
今は荒れた砂漠だが、かつては街だった場所だ。ビルなどの廃墟があるが、どれも盾にしてもすぐ壊されそうな物ばかりである。
そんな中、前方に見える1つの建造物に目が留まる。工場らしき機械的な外壁に包まれたソレは巨大で、中に隠れる事もできるだろう。
正面に見える入口は1つだけだ。ならば、とアラドは思いついた作戦を2人に伝える。
「ガスト、ユイ、あの正面に見える建物に逃げ込む。いいか?」
アラドが提案すると即座に2人が頷く。
ガストもユイも議論している暇はないことは分かっている。
そもそも代わりの案など考えつかない2人ではあるが。
「よし…ガスト、機銃砲の準備を頼む」
「そりゃ構わねぇけど、この距離じゃ…」
ガスト達の輸送艦には2つの改造が加えられている。
1つは回収作業用のクレーンアーム。もう1つは機関砲だ。
どちらも船体の上部に取り付けており、ブリッジから操作が可能となっている。
機関砲は無いよりマシと、SAの代わりに自衛用に用意した物だが、1基しかない上にSAの厚い装甲に対して効果はあまり期待出来ない。
ましてやこれほど距離が開いてる状況では尚更である。
「いや、使うのはあの中に入ってからだ。天井に撃ち込んで入口を崩落させれば、あいつらはしばらく入って来れない」
「なるほど」
「そのあとは、あいつらが侵入して来たのを見計らって別口から脱出だ。上手くいけばそのまま逃げ切れる」
作戦が分かった所でそれぞれが作業に取り掛かる。
アラドとユイは回避に専念し、ガストは機関砲のシステムを立ち上げる。取り付けてこれまで使う機会が無く、ロクに整備してなかったが問題なく動いてくれた。
巨大建造物は目前に迫っているが、盗賊の攻撃も続いている。
何発かは避け切れずにブリッジにも衝撃が伝わる。
だが、アラドの操縦技術のおかげか機関部への直撃はない。
輸送艦はスピードを落とさず進み続け、入口は目前に迫った。
そして、急制動を掛けながら建造物内部へと侵入する。ブリッジが大きく揺れ、ユイが悲鳴を上げる。
そんな中、ガストはしっかりと機関砲のトリガーを保持していた。
「ガスト、頼む!」
「おうよ!」
機関砲が火を吹く。次々と放たれる弾が天井に吸い込まれ破壊していく。瓦礫が落下し、入り口を完全に塞ぐ。
リザッドの装備でもこの壁を突破するのは一苦労だろう。ましてや相手は追撃で弾薬を消費している。補給するには後続の母艦の到着を待つことになる。
「これで一安心ね」
ふう、とユイが安堵の息をつく。
「とは言えのんびりはしてられない。内部の探索に移ろう」
盗賊たちが補給を受けて瓦礫を吹き飛ばすか、他の入口を見つけて侵入してくるかは分からないが、その前に脱出口を確保しなければならない。ここからは時間との勝負になる。
建物の中は所々から光が差し込み、真っ暗とまではいかないが薄暗い。
サーチライトで行く手を照らす。
かつては工場だったのか、辺り一面は機械部品が散乱している。こんな状況でなければ嬉々として回収していただろう。
周りの構造をスキャンし、データベースにあるマップと照らし合わせる。廃棄された工場に来るのは初めてではない。
「この手の工場の構造からして出入口は…あっちにありそうだな」
「アラドさんは頼りになるなぁ」
「茶化すな…行くぞ」
呑気に言うガストに釘を刺し、アラドは艦を移動させ始めた。
ガスト達が工場内に隠れて1時間が経過した。
盗賊が侵入してくることを恐れていたが、依然として侵入された気配は無い。
だが、ガスト達も脱出せず、工場内に留まっていた―――と言うより出られない状況だった。
「まさか他の入口が全て封鎖されていたとは…」
アラドが頭を抱えて呟く。
工場内の入口全てを見て回ったが、いずれも強固な扉で閉じられていた。
入口が閉じられているという事は出ることも不可能だ。
「すまない…俺の考えが浅はかだった」
「気にするなよ。あのままじゃやられてた」
「そうそう。それにそんなこと言いだしたら、ここに来た原因は私にあるんだから」
2人の言葉は慰めではなく本心だった。
あの状況で素早く対応してくれたアラドにとやかく言う気は起きなかった。
それよりもこれからの行動を考えるほうが重要だ。
「とにかく探索のやり直しだ。工場だったなら、何か使える物があるかもしれないぜ?」
アラドが顔を上げると、ガストが探索用のヘッドライトを用意していた。
ガストは2人の分を投げ渡すと、ニヤリと笑って付け足した。
「ついでに高く売れるお宝もな」
アラドはその現状を楽しんでいるような態度に脱力し、大きなため息をつく。
だが、おかげで気持ちを切り替える事が出来た。
昔から変わらないこの神経の図太さには時折救われる。
調子に乗るから本人には絶対言わないが。
「ついでの方に夢中になるなよ?」
ただし釘は刺すのは忘れない。ガストはうへっと小さく悲鳴を漏らした。
「これもダメだな」
「こっちも~」
床に散乱しているジャンクを確認するが、中々使えそうな物は見つからなかった。
SA用の装備もいくつかあったが、弾が無かったり、修理不能な状態の物ばかりだ。
別の区画に移動しようとした時、ガストの視界に気になるものが映った。
「なあ、あれ…」
ガストが指差した先には瓦礫が大きな山のように積み上げられていた。それが3つもだ。
その場所だけはジャンク品が転がっておらず、辺りから切り離されたような空間になっている。
「不自然に積まれた瓦礫の山…なんだか匂うな」
「匂うって…ただのゴミ山じゃない」
「まぁ、アテも無いしな…ユイ、クレーンを頼む」
ユイが艦に戻り、クレーンを操作する。
巨大な瓦礫はクレーンで退かし、小さなものは男2人がかりで片づけていく。
撤去作業を続けていると、瓦礫の中から驚くべく物が文字通り顔を出した。
「こいつは!」
3人が驚愕する。
現れたのはSAの頭部だった。さらに瓦礫を退かすと首より下の部分もちゃんとあることが分かる。
この放棄された工場に完全な形のSAが埋もれているとは思いもしなかった。
瓦礫は仰向けに横たわっているこれを隠すために積まれたのだろうか。
「こりゃとんでもない拾いモンだな」
「この機体は…見たことないタイプだ」
見つけたSAはガスト達の知るいずれとも異なるものだった。だがリザッドやワイバンと似た意匠がある。
少なくともレオーネのものであることは間違いなさそうである。
「これ動くのか?」
そう言うとガストは残りの瓦礫を退かしながら、胸部にあるコックピット周りを弄る。
小さくある開閉のスイッチを見つけ、押し込むとハッチは開いた。どうやら中身も壊れてはいないようだ。
乗り込み、システムをチェックをする。
「どうだ?」
「ああ、動きそうだ。起動させる」
小型のモニターにシステムログが流れていく。
エネルギー…ほぼ満タン。機体制御…問題なし。武器類…問題なし。機体コード…『ドラーケン』起動。
コックピットからは見えないが、頭部の2つの目に光が灯る。
「アラド、下がってろ!」
覗き込んでいたアラドが飛び退き、コックピットのハッチが閉じる。
正面のメインモニターに天井が表示される。機体の上半身を起こし、手をついて立ち上がる。
上にあった瓦礫が落ち、その全身が露わになる。
全身を重そうな装甲で包み、その背中には翼のような大型スラスターが存在している。ハの字のように縦に垂れているそれは装甲で重くなった機体を無理やり動かすものだろう。
そのスラスターの間には機体と同じくらい巨大な大剣『オールスレイヤー』が装備されている。
他にも腰部に収納されている2本の短剣『ファングナイフ』、両腕に内蔵された2連のマシンガンと近接戦の武装が揃っていた。
「武器は大剣、ナイフにマシンガンと……はは、こいつは清々しいまでの近接機だな」
武器を確認すると、その極端な設計思想につい笑ってしまう。この機体を作ったのは中々イカれてる人物のようだ。
操縦の感覚を確かめるために手足を動かしていると、興奮した様子のユイから通信が入る。
「ねぇ、それで残りの瓦礫も退かしてみない?」
残りと言うのは、このドラーケンが埋まっていた横にある2つの瓦礫の山だ。
この機体を見つけただけでも驚愕だが、もしかするとまだ掘り出し物があるかもしれない。
そうだな、と返すとガストは期待して瓦礫を払い除け始めた。
「こりゃすげぇ…」
ガストは思わず呟いた。
思った通り、残りの瓦礫の山にもSAが埋もれていた。目の前には新たに見つけた2機が立っている。
その外観はガストたちの知るSAとは大きく異なっていた。
アラドが乗り込んだ『グリフォス』という機体は細身のボディで、ドラーケン同様、背中に翼を持っていた。
だが、前への加速を重視したドラーケンのものとは異り、地面と平行に伸びた翼は空を飛行するためのものだった。
ワイバンにも同じようなフライトユニットが装備されているが、翼は大型化している。
その大きな翼の下部にはガンポッドが装備されており、両手にビームライフルも合わせて、近接戦用のドラーケンとは対照的に中・長距離戦を意識した機体だった。
「しかし、何故これほどのSAがこんな所に…それも完全な状態で」
「いいじゃない。あるものは貰っときましょ♪」
機体の出どころを疑問に思うアラドを他所に、ユイは興奮した様子で乗り込んだ『スフィンク』を動かしている。
このスフィンクという機体はドラーケン、グリフォスと違い、背中に翼は付いていない。
その代わりに両肩部にガトリング砲を2門装備していた。ビームライフルも一般の物より大型化した物を2挺装備している。
また、それらを支える機体のフレーム・装甲も強化されており、シルエットもゴツくなっている。いかにもな砲撃戦用の機体である。
この機体の火力を持ってすれば、封鎖されている扉や入口の瓦礫であろうと吹き飛ばせるだろう。
思わぬ収穫も手に入り、これ以上ここに長居する理由もない。
「脱出の算段もついたし、逃げるか?」
「借りを返してからな」
ニッと笑みを浮かべながらガストが答える。
入口に向かうドラーケンの背中を見ながらアラドは肩をすくめた。
ふてくされたアラドが吐き捨てるように言う。
ガストがユイの案に乗ったため、一行は砂漠となった旧市街地にやって来た。
だが、着いて早々、岩陰にいた盗賊の船に気付かずに目の前を堂々と横断してしまった。
盗賊の船からSAが発進し、追いかけっこが始まり今に至る。
「ま、まぁ、こういうこともあるわよね~」
「新聞の占いは当てにならないな。今日の運勢、1位だったんだぜ?」
2人の言葉に大きくため息をつくアラド。
しかし、いまさら2人を責めても状況が変わるわけでもない。
今は逃げ切ることが先決だろう。操縦桿を握る手に力が入る。
「しっかし、あいつらもしつこいな。もう30分くらい付いて来てんぞ」
ガストはそんなアラドを尻目に、レーダーを見ながら呟く。
船の後ろに3機のSAが追って来ている。更にその遥か後方には盗賊の船がゆっくりとついて来ていた。
盗賊が使用しているのは『リザッド』と呼ばれるレオーネ製のSAだ。
リザッドは開戦当初のレオーネ軍の主力だった。後継機である飛行可能なSA『ワイバン』が登場しても終戦までにかなりの数が生産された。
戦争でその多くが破壊されたが、ジャンク屋が回収・修理したものが民間に流通している。
そのため、こうした盗賊が使用することも多いのだ。
「撃ってこないのを見るに、この船を無傷で手に入れたいんだろう」
「おかげで逃げ切れそうね。こっちはまだスピード出せるし」
「とは言え今日の仕事は無理だなぁ…」
盗賊の追跡から逃れるために予定のルートから大幅に外れてしまっていた。
ここから盗賊たちの目を掻い潜ってネメアに帰るとなると日が暮れるだろう。
「仕方がないさ。これに懲りたら次からは―――」
と、アラドの言葉を遮るように盗賊のリザッドが武器を構え、発砲した。
バズーカの砲弾が船の後ろから迫ってくる。
「アラド!」
「分かってる!」
ガスト掛け声よりも早く、アラドは舵を切っていた。バズーカをギリギリの所でなんとかかわす。
しかし、他の2機も呼応して攻撃を開始してくる。
先ほどまでの静寂が嘘のように熾烈な攻撃が始まった。
「クソッ、あいつらムキになりやがって!傷物にしたらこんなボロ船、金になんねぇぞ!」
「ちょ、ちょっとヤバくない…?」
「ああ、3機掛かりの攻撃となると…」
盗賊のリザッドは3機ともバズーカを装備していた。連射は効かない武器だが、3機がお互いの攻撃の合間を埋めるように撃ってくる。
連携のとれた攻撃に長くは持たないと考えたアラドは周囲を確認する。
今は荒れた砂漠だが、かつては街だった場所だ。ビルなどの廃墟があるが、どれも盾にしてもすぐ壊されそうな物ばかりである。
そんな中、前方に見える1つの建造物に目が留まる。工場らしき機械的な外壁に包まれたソレは巨大で、中に隠れる事もできるだろう。
正面に見える入口は1つだけだ。ならば、とアラドは思いついた作戦を2人に伝える。
「ガスト、ユイ、あの正面に見える建物に逃げ込む。いいか?」
アラドが提案すると即座に2人が頷く。
ガストもユイも議論している暇はないことは分かっている。
そもそも代わりの案など考えつかない2人ではあるが。
「よし…ガスト、機銃砲の準備を頼む」
「そりゃ構わねぇけど、この距離じゃ…」
ガスト達の輸送艦には2つの改造が加えられている。
1つは回収作業用のクレーンアーム。もう1つは機関砲だ。
どちらも船体の上部に取り付けており、ブリッジから操作が可能となっている。
機関砲は無いよりマシと、SAの代わりに自衛用に用意した物だが、1基しかない上にSAの厚い装甲に対して効果はあまり期待出来ない。
ましてやこれほど距離が開いてる状況では尚更である。
「いや、使うのはあの中に入ってからだ。天井に撃ち込んで入口を崩落させれば、あいつらはしばらく入って来れない」
「なるほど」
「そのあとは、あいつらが侵入して来たのを見計らって別口から脱出だ。上手くいけばそのまま逃げ切れる」
作戦が分かった所でそれぞれが作業に取り掛かる。
アラドとユイは回避に専念し、ガストは機関砲のシステムを立ち上げる。取り付けてこれまで使う機会が無く、ロクに整備してなかったが問題なく動いてくれた。
巨大建造物は目前に迫っているが、盗賊の攻撃も続いている。
何発かは避け切れずにブリッジにも衝撃が伝わる。
だが、アラドの操縦技術のおかげか機関部への直撃はない。
輸送艦はスピードを落とさず進み続け、入口は目前に迫った。
そして、急制動を掛けながら建造物内部へと侵入する。ブリッジが大きく揺れ、ユイが悲鳴を上げる。
そんな中、ガストはしっかりと機関砲のトリガーを保持していた。
「ガスト、頼む!」
「おうよ!」
機関砲が火を吹く。次々と放たれる弾が天井に吸い込まれ破壊していく。瓦礫が落下し、入り口を完全に塞ぐ。
リザッドの装備でもこの壁を突破するのは一苦労だろう。ましてや相手は追撃で弾薬を消費している。補給するには後続の母艦の到着を待つことになる。
「これで一安心ね」
ふう、とユイが安堵の息をつく。
「とは言えのんびりはしてられない。内部の探索に移ろう」
盗賊たちが補給を受けて瓦礫を吹き飛ばすか、他の入口を見つけて侵入してくるかは分からないが、その前に脱出口を確保しなければならない。ここからは時間との勝負になる。
建物の中は所々から光が差し込み、真っ暗とまではいかないが薄暗い。
サーチライトで行く手を照らす。
かつては工場だったのか、辺り一面は機械部品が散乱している。こんな状況でなければ嬉々として回収していただろう。
周りの構造をスキャンし、データベースにあるマップと照らし合わせる。廃棄された工場に来るのは初めてではない。
「この手の工場の構造からして出入口は…あっちにありそうだな」
「アラドさんは頼りになるなぁ」
「茶化すな…行くぞ」
呑気に言うガストに釘を刺し、アラドは艦を移動させ始めた。
ガスト達が工場内に隠れて1時間が経過した。
盗賊が侵入してくることを恐れていたが、依然として侵入された気配は無い。
だが、ガスト達も脱出せず、工場内に留まっていた―――と言うより出られない状況だった。
「まさか他の入口が全て封鎖されていたとは…」
アラドが頭を抱えて呟く。
工場内の入口全てを見て回ったが、いずれも強固な扉で閉じられていた。
入口が閉じられているという事は出ることも不可能だ。
「すまない…俺の考えが浅はかだった」
「気にするなよ。あのままじゃやられてた」
「そうそう。それにそんなこと言いだしたら、ここに来た原因は私にあるんだから」
2人の言葉は慰めではなく本心だった。
あの状況で素早く対応してくれたアラドにとやかく言う気は起きなかった。
それよりもこれからの行動を考えるほうが重要だ。
「とにかく探索のやり直しだ。工場だったなら、何か使える物があるかもしれないぜ?」
アラドが顔を上げると、ガストが探索用のヘッドライトを用意していた。
ガストは2人の分を投げ渡すと、ニヤリと笑って付け足した。
「ついでに高く売れるお宝もな」
アラドはその現状を楽しんでいるような態度に脱力し、大きなため息をつく。
だが、おかげで気持ちを切り替える事が出来た。
昔から変わらないこの神経の図太さには時折救われる。
調子に乗るから本人には絶対言わないが。
「ついでの方に夢中になるなよ?」
ただし釘は刺すのは忘れない。ガストはうへっと小さく悲鳴を漏らした。
「これもダメだな」
「こっちも~」
床に散乱しているジャンクを確認するが、中々使えそうな物は見つからなかった。
SA用の装備もいくつかあったが、弾が無かったり、修理不能な状態の物ばかりだ。
別の区画に移動しようとした時、ガストの視界に気になるものが映った。
「なあ、あれ…」
ガストが指差した先には瓦礫が大きな山のように積み上げられていた。それが3つもだ。
その場所だけはジャンク品が転がっておらず、辺りから切り離されたような空間になっている。
「不自然に積まれた瓦礫の山…なんだか匂うな」
「匂うって…ただのゴミ山じゃない」
「まぁ、アテも無いしな…ユイ、クレーンを頼む」
ユイが艦に戻り、クレーンを操作する。
巨大な瓦礫はクレーンで退かし、小さなものは男2人がかりで片づけていく。
撤去作業を続けていると、瓦礫の中から驚くべく物が文字通り顔を出した。
「こいつは!」
3人が驚愕する。
現れたのはSAの頭部だった。さらに瓦礫を退かすと首より下の部分もちゃんとあることが分かる。
この放棄された工場に完全な形のSAが埋もれているとは思いもしなかった。
瓦礫は仰向けに横たわっているこれを隠すために積まれたのだろうか。
「こりゃとんでもない拾いモンだな」
「この機体は…見たことないタイプだ」
見つけたSAはガスト達の知るいずれとも異なるものだった。だがリザッドやワイバンと似た意匠がある。
少なくともレオーネのものであることは間違いなさそうである。
「これ動くのか?」
そう言うとガストは残りの瓦礫を退かしながら、胸部にあるコックピット周りを弄る。
小さくある開閉のスイッチを見つけ、押し込むとハッチは開いた。どうやら中身も壊れてはいないようだ。
乗り込み、システムをチェックをする。
「どうだ?」
「ああ、動きそうだ。起動させる」
小型のモニターにシステムログが流れていく。
エネルギー…ほぼ満タン。機体制御…問題なし。武器類…問題なし。機体コード…『ドラーケン』起動。
コックピットからは見えないが、頭部の2つの目に光が灯る。
「アラド、下がってろ!」
覗き込んでいたアラドが飛び退き、コックピットのハッチが閉じる。
正面のメインモニターに天井が表示される。機体の上半身を起こし、手をついて立ち上がる。
上にあった瓦礫が落ち、その全身が露わになる。
全身を重そうな装甲で包み、その背中には翼のような大型スラスターが存在している。ハの字のように縦に垂れているそれは装甲で重くなった機体を無理やり動かすものだろう。
そのスラスターの間には機体と同じくらい巨大な大剣『オールスレイヤー』が装備されている。
他にも腰部に収納されている2本の短剣『ファングナイフ』、両腕に内蔵された2連のマシンガンと近接戦の武装が揃っていた。
「武器は大剣、ナイフにマシンガンと……はは、こいつは清々しいまでの近接機だな」
武器を確認すると、その極端な設計思想につい笑ってしまう。この機体を作ったのは中々イカれてる人物のようだ。
操縦の感覚を確かめるために手足を動かしていると、興奮した様子のユイから通信が入る。
「ねぇ、それで残りの瓦礫も退かしてみない?」
残りと言うのは、このドラーケンが埋まっていた横にある2つの瓦礫の山だ。
この機体を見つけただけでも驚愕だが、もしかするとまだ掘り出し物があるかもしれない。
そうだな、と返すとガストは期待して瓦礫を払い除け始めた。
「こりゃすげぇ…」
ガストは思わず呟いた。
思った通り、残りの瓦礫の山にもSAが埋もれていた。目の前には新たに見つけた2機が立っている。
その外観はガストたちの知るSAとは大きく異なっていた。
アラドが乗り込んだ『グリフォス』という機体は細身のボディで、ドラーケン同様、背中に翼を持っていた。
だが、前への加速を重視したドラーケンのものとは異り、地面と平行に伸びた翼は空を飛行するためのものだった。
ワイバンにも同じようなフライトユニットが装備されているが、翼は大型化している。
その大きな翼の下部にはガンポッドが装備されており、両手にビームライフルも合わせて、近接戦用のドラーケンとは対照的に中・長距離戦を意識した機体だった。
「しかし、何故これほどのSAがこんな所に…それも完全な状態で」
「いいじゃない。あるものは貰っときましょ♪」
機体の出どころを疑問に思うアラドを他所に、ユイは興奮した様子で乗り込んだ『スフィンク』を動かしている。
このスフィンクという機体はドラーケン、グリフォスと違い、背中に翼は付いていない。
その代わりに両肩部にガトリング砲を2門装備していた。ビームライフルも一般の物より大型化した物を2挺装備している。
また、それらを支える機体のフレーム・装甲も強化されており、シルエットもゴツくなっている。いかにもな砲撃戦用の機体である。
この機体の火力を持ってすれば、封鎖されている扉や入口の瓦礫であろうと吹き飛ばせるだろう。
思わぬ収穫も手に入り、これ以上ここに長居する理由もない。
「脱出の算段もついたし、逃げるか?」
「借りを返してからな」
ニッと笑みを浮かべながらガストが答える。
入口に向かうドラーケンの背中を見ながらアラドは肩をすくめた。
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何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
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