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第2話 目覚めて新天地(前編)
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「ん…」
ガストが目を覚ますと見知らぬ天井を見つめていた。
家の自分の部屋でもないし、船中の昼寝スポットでもない。
思考がはっきりしてきた。意識を失う前のことを思い出す。
盗賊に追われ、逃げ込んだ廃工場で見慣れぬSAを見つけた。そして、それを使って盗賊を撃退した。
だが、安堵したのもつかの間、突然の攻撃にアラドとユイの機体は行動不能にされた。
ガスト自身も猛スピードで切りかかって来たSAにやられて気を失ったのだ。
そこまで思い出したガストはベッドから飛び起きた。
(アラドとユイは?そもそもここは…)
「よぉ、気が付いたか」
聞き慣れた声がして、横を見ると、少し離れたテーブルにいる2人と目が合った。
どちらも傍から見た様子ではケガをしていることもなさそうだ。
ひとまず、そのことに安堵する。
「何だよ、心配させやがって…」
「そりゃこっちのセリフだ」
「そうよ、頭打って気絶してたあんたと比べれば全然平気」
アラドとユイが苦笑いして答えた。
2人に言われて頭を触ってみる。タンコブはできているが出血は無さそうだ。石頭でよかったと思う。
仲間の無事が確認できた所で、ガストは部屋を見渡した。
広いとは言えないがベッドにテーブル、本棚などの家具が揃っている。
掃除も小まめにされているのか、ガストの部屋よりよほど綺麗だった。
「ここは? 牢屋にしちゃ随分綺麗だけど」
「それなんだが…ちょっと待て」
そう言うとアラドは卓上にあったPギアを操作し始めた。
Pギアは一般的に普及している携帯端末機で、通話やメール、情報の管理など多くの用途で重宝されている。
「Pギア盗られてないのかよ」
「お前が起きたら連絡するよう言われてるんでな」
「誰に?」
「それが…あ、もしもし?…はい、大丈夫そうです…ええ…」
通話が繋がり、ガストの質問に答える前にアラドは何者かと話し始めてしまった。
ガストは仕方ないのでユイに襲って来た連中について聞いてみる。
「私たちを拘束したのは軍人みたいよ」
「軍!? じゃあここは―――」
「ネメアの基地内ってこと」
まさか自分が気絶して知らない間に街に戻ってきていたとは驚きだ。
しかも、軍の人間が自分たちを拘束しているとは…。
「俺たちが何したってんだよ、まったく」
「さあな、それをこれから説明してくれるんだろ」
Pギアの通信を切ったアラドが会話に戻ってくる。
「いきなり狙撃して切りかかって来るとかどうかしてるぜ、軍のやつ」
「まぁ、向こうにも何か事情が―――あ」
ここで何かを思い出した素振りをみせたアラドがニヤニヤとガストの顔を見る。
「何だよ、気色悪い…」
訳の分からないガストはぶっきらぼうに返す。だがアラドは気にした様子もなく、ガストに告げる。
「ガスト、これから来るのはあの赤いSAのパイロットさんだぞ」
「はぁ?」
赤いSAというのはガストを気絶させたアレだろう。超スピード突撃からの斬撃を思い出して身震いする。
コックピットは狙っていなかったが、オールスレイヤーで受け止めなければ右腕と頭部は吹き飛んでいただろう。
あれを操縦していたパイロットとは…。
SAと同等の大きさを誇るオールスレイヤーを恐れず、ドラーケンに突っ込み、下した相手だ。さぞかし歴戦の勇士なのだろう。
だが、それとアラドのニヤついている理由の関係が分からなかった。
「それがなんだよ?」
「多分驚くぞ、お前も」
お前も、とはアラド自身も驚いた口ぶりだ。
おそらくガストが気絶している間、ネメアに帰ってくるまでに会ったのか。
「なんだよ、そんなにヤバい奴なのか?」
「どうだろうな?」
これ以上は聞いても適当にはぐらかされてしまう。
ガストは諦めてテーブルの椅子に当てつけのようにドカっと座る。
待つこと数分。
部屋の扉が開き、1人の軍人が入って来た。
アラドの言う通り、ガストはその軍人―――赤いSAのパイロットを見て驚いた。
若い女性だった。ガストよりは年上のようだが、二十代半ばだろうか。
ポニーテールを結んでいる機体色と同じ赤い髪が印象的だった。
モデルでもやってそうな美人だが、その凛々しい雰囲気から確かに軍人なのだと感じられる。
驚いたガストは女性を凝視し、フリーズする。その様子をアラドは勝ち誇ったような顔で眺めていた。
女性がガストの視線に気付き、声をかける。
「どうした? ボーっとして」
「あ、いや、ナンデモナイデス…」
動揺で変な片言になってしまい少々恥ずかしい。
だが女性は特に気にした様子もなく、テーブルの反対側に座る。
「あんたが…あの赤いSAのパイロット?」
「そうだ。私はフラム・ラーミナ。特務隊シェリフ所属のレオーネ軍人だ」
フラムと名乗った女性ははっきりと答えた。
アラドが自分をからかかう嘘を言ったのではと思ったが軍人と名乗った本人が言うのだから疑う余地もない。
さらに、彼女が所属していると言ったシェリフという部隊―――ガストにも聞き覚えがあった。戦後に各国が共同で設立した治安維持部隊だ。
これはもしかたらかなりの厄介ごとに巻き込まれたのかもしれない。
「シェリフの軍人さんが、なんで俺たちを襲ってこんなとこに閉じ込めてんだ?」
「それを答える前に一つ聞かせてもらう。お前たちが乗っていたあの3機のSA、どこで手に入れた?」
フラムは問い質すような口調で喋る。その迫力に圧されて黙ってしまう。
こちらにやましい事情はないのだが。
一瞬の沈黙の後、真面目な顔に戻ったアラドがガストの代わりに答える。
「あの廃工場です。俺たちは盗賊に追われて、あの中に逃げ込みました。それで探索中に瓦礫に埋もれてた3機を見つけて…まぁ、自衛のため戦闘を」
「ふむ…」
一連の流れを簡単に説明するアラド。
フラムは眉間に僅かにシワを寄せて3人を見つめる。今の話を嘘かと疑っているのかもしれない。
確かにガストたち自身もあんな場所にSAがあるなんて思いもしなかった。
だが、事実は事実である。フラムもこちらが嘘は言っていないと感じたのか、表情を和らげた。
「先の問いに答えよう。お前たちが見つけた機体は軍の試作機だ。重要機密である機体を無断で使用したお前たちは罪に問われ、現在拘束されている」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
すぐさまガストが噛みつく。
簡潔に語ってくれたがとんでもない状況だ。盗賊に襲われて戦った結果、保護されるどころか罪人扱いとは。
「無断で使用したって、そもそもなんで軍の試作機があんな廃工場に埋もれてるんだよ!?」
ガストの主張はもっともだ。あの3機が、フラムの言う通り重要機密である物なら、あのような場所に放置されているはずがない。
もしかしたら自分たちから機体を取り上げたいがためにでっち上げた嘘なのでは?と疑ってしまう。
だが、フラムは顔色一つ変えずに答えた。
「それは調査中だ。あの3機はトライアルに提出された後、開発者と共に行方不明になっていた」
フラムは持参したファイルを開き、数枚の写真を取り出した。
写真にはトライアル試験中であろう3機の姿が写っている。
それを見て、ガストも渋々引き下がる。
「我々は旧市街地に居ついた盗賊を捕らえるために出撃した。到着後、行方不明の試作機が戦闘を行っていたのでな、少々強引に押さえさせてもらった」
フラムは続けてあの時の彼女側の状況を語った。
確かにあれ程の機体に加えて、搭乗者が何者か分からない状況では警告無しで仕掛けるのは当然なのかもしれない。
と、事情も分かった所でユイが口を開く。
「それで私たちはどうなるの?」
「繰り返しになるが、軍の重要機密…それもSAの無断使用は重罪だ。かなりの長期間拘束されることになるだろう」
「そんな!」
ユイは泣きそうに叫ぶ。
薄々は予想していたが、やはりこのまま話をして帰してくれる訳はない。
とは言えガストからすれば軽率だったとしても自衛を行って、捕まるなどたまったものではなかった。
ガスト同様、アラドも納得出来ていないのか険しい表情を浮かべている。
そんな中、フラムが静かに告げる。
「…だが処分を免れる方法もある」
それを聞きガストとユイがパッと明るい表情になる。
だが、アラドは表情を変えずにフラムを見つめる。
自分たちが子供とは言え、治安維持部隊の者が善意で見逃すとは思えない。
「俺たちはどうすればいいんです?」
「私の部下になれ。そうすれば罪には問わん」
「はぁ!? どういうことだよ!?」
思わずすっとんきょうな声を上げるガスト。
部下になれというのは軍に入れということだろうか。
突拍子のない提案にガスト以外も思考が追い付かない。
その反応はフラムも想定していたのかゆっくりと説明を始める。
「戦後、レオーネに限らず、各国は問題が山積みだった。人口の減少による労働力の低下、戦場から大量に流出したSAによる無法行為。それに加えて生き残った官僚や政治家が自らの利権に拘ったせいで行政、治安も悪化した」
フラムの言う通り、当時のガストたちの生活は苦しかった。
今でこそ街の近場は安全だが、終戦直後はそこら中に転がる兵器のパーツを求めてジャンク屋と盗賊が殺到して争っていた。
ガストたちも売り物1つ回収するだけでも一苦労だったのだ。
「その不満に対するポーズとしてシェリフは設立された。テロリストや盗賊といった犯罪者を処罰し、市民の安全を確保する…そう謳ってな。だが、軍の上層部は先の大戦で痛手を負った部隊の再編成に重点を置き、シェリフ側にはろくに人員を送っていない」
確かにガストの周りでもシェリフの評判を耳にするが、対応が遅いだの無視されるだの不評が多かった。旧市街地もその1つだ。
これは、今の話を聞くにフラムの言う人員不足が原因なのだろう。
目の前の真面目そうな軍人が、私情で仕事をサボっているとは思えない。
「情けない話だが、現状の我々だけでは手が足りないんだ…特にパイロットがな」
「もしかして、それで俺たちを?」
「そうだ。盗賊との戦闘データを見たが、お前たちにはセンスがある。その力をシェリフに…人々のために使ってみないか?」
フラムは3人を真っ直ぐ見つめる。
珍しくガストも真面目に考える。
フラムが語ったシェリフの実情は芳しくない。
そもそもが見せかけで創られたものだ。
だが、フラムは本気だった。
少なくとも彼女は全力でシェリフの任務に尽くしているとガストには感じられた。
その上で、多少訳ありだが自分たちに声をかけてきた。
シェリフに入れば戦闘にも駆り出される。しかし、誰かがそうしないと街の人々に安全は無い。
「いいぜ。シェリフに入って悪党退治でも何でもやってやるよ」
このネメアに来て、多くの人に世話になった。そんな彼らのため、自分に出来ることがあるなら迷いはなかった。
「ったく、どういうことか分かってんのかね、こいつは…。まぁ、刑務所よりかは有意義だろうし、やってみるか」
「あんたらだけに任せてられないからね、私も行くわよ」
アラドとユイも口ではこう言っても、2人とも自分と同じ考えになったとガストには分かった。だからこそ嬉しい。
答えは出た。その答えはフラムにとっても満足するものだった。
「わかった、お前たちをシェリフに入隊させる…今日の所は家に戻ってくれて構わん」
話が決まってからは早かった。
ガストたちはフラムに案内されて基地の正門から外に出る。外は既に暗くなっていた。
ガストは大きく背伸びをして深呼吸する。数時間居ただけだが、出所のような気分だった。
「明後日までに身支度を済ませておけ。こちらもお前たちの部屋を用意しておく」
「分かったよ、フラムさん」
ガストたちは軽く会釈をし、家に向かって歩き出す。
これからどんな事態が待ち受けているかは分からない。
だが、今日は無事に乗り切った。3人にとってそれだけで十分だった。
帰路の途中、基地から離れた所でアラドが口を開く。
「なんだかえらいことになったな」
「いいじゃない、大変だろうけど稼ぎはいいでしょ」
ニヒヒとがめつく笑うユイにアラドは呆れる。やけにあっさり決めたと思ったら、給料目当てだったのかと。
それに気付いたユイは恥ずかしそうに両手を振り弁解する。
「いやいや、もちろん街のみんなのためが第一よ!?」
「本当かよ…」
とは言え、完全歩合制のジャンク屋とは違い、安定した収入が期待できるのは確かだった。そよかぜへの仕送りも楽になる。
だが、その前にそよかぜ側には事情を説明しておくべきだろう。
「明日、カーム先生にも伝えとかないとな」
「そうね。いきなり仕送り額が上がったら、カーム先生、ビックリするわよ」
そよかぜの院長であるカーム・キンドとはネメアに来てから長い付き合いだ。
そそっかしい所もあるが、穏やかで孤児たちのことを第一に考える彼女だからこそ安心して村の子供たちも任せられる。
彼女や子供たちのためにシェリフ入隊を決めたが、彼女は心配するだろう。
アラドがなんとか安心してもらえるように話を考えていると…。
「ん? ガストはどうした?」
いつもなら話に乗ってくるガストが喋らない…というより居ない。
先程まで横に居たはずだが。
「え~っと…あ、後ろ」
周りを見渡したユイが後ろを指を指す。
その指先の向こうで、ガストはうずくまって唸っていた。
「ガスト!」
アラドとユイが慌てて駆け寄る。
今になって頭を打った症状が出て来たのだろうか。病院に行くか、軍の基地に戻ってちゃんと診てもらった方がいいか。
考えながらアラドが肩を貸して支える。
そうするとガストの絞り出すような言葉がはっきり聞き取れた。
「腹減った…」
「…」
支える手を離し、スパンとガストの頭をひっぱたく。石頭のガストがこの程度で大怪我をするわけがなかった。
「痛ってぇ! 俺、怪我人だぞ!?」
「人騒がせなんだよ」
一安心したせいかガストだけでなく、アラドとユイも揃って腹が大きな音で鳴る。
確かに朝食を食べて以降、今日は食事を取る余裕がなかった。
そして現在の時間は20時過ぎ。昼食どころか夕食を食べる時間だ。
いざ空腹を意識すると我慢が出来なくなってくる。
「今から晩飯の準備は…」
アラドがちらりと視線を向けるとユイが首を大きく横に振る。
疲れて空腹なのは彼女も同じだ。この状況で3人分の夕食を作らせるのはあまりに酷だろう。
「…しょうがない、どこかで食って帰るか」
「マジ!? じゃあ『大味亭』に行こうぜ! 俺、カツ丼大盛な!」
「奢りなら私も大盛頼もうかな~」
「誰も奢るとは言ってねぇよ!」
ガストとユイの笑い声、アラドの悲鳴が夜の街に溶けていった。
ガストが目を覚ますと見知らぬ天井を見つめていた。
家の自分の部屋でもないし、船中の昼寝スポットでもない。
思考がはっきりしてきた。意識を失う前のことを思い出す。
盗賊に追われ、逃げ込んだ廃工場で見慣れぬSAを見つけた。そして、それを使って盗賊を撃退した。
だが、安堵したのもつかの間、突然の攻撃にアラドとユイの機体は行動不能にされた。
ガスト自身も猛スピードで切りかかって来たSAにやられて気を失ったのだ。
そこまで思い出したガストはベッドから飛び起きた。
(アラドとユイは?そもそもここは…)
「よぉ、気が付いたか」
聞き慣れた声がして、横を見ると、少し離れたテーブルにいる2人と目が合った。
どちらも傍から見た様子ではケガをしていることもなさそうだ。
ひとまず、そのことに安堵する。
「何だよ、心配させやがって…」
「そりゃこっちのセリフだ」
「そうよ、頭打って気絶してたあんたと比べれば全然平気」
アラドとユイが苦笑いして答えた。
2人に言われて頭を触ってみる。タンコブはできているが出血は無さそうだ。石頭でよかったと思う。
仲間の無事が確認できた所で、ガストは部屋を見渡した。
広いとは言えないがベッドにテーブル、本棚などの家具が揃っている。
掃除も小まめにされているのか、ガストの部屋よりよほど綺麗だった。
「ここは? 牢屋にしちゃ随分綺麗だけど」
「それなんだが…ちょっと待て」
そう言うとアラドは卓上にあったPギアを操作し始めた。
Pギアは一般的に普及している携帯端末機で、通話やメール、情報の管理など多くの用途で重宝されている。
「Pギア盗られてないのかよ」
「お前が起きたら連絡するよう言われてるんでな」
「誰に?」
「それが…あ、もしもし?…はい、大丈夫そうです…ええ…」
通話が繋がり、ガストの質問に答える前にアラドは何者かと話し始めてしまった。
ガストは仕方ないのでユイに襲って来た連中について聞いてみる。
「私たちを拘束したのは軍人みたいよ」
「軍!? じゃあここは―――」
「ネメアの基地内ってこと」
まさか自分が気絶して知らない間に街に戻ってきていたとは驚きだ。
しかも、軍の人間が自分たちを拘束しているとは…。
「俺たちが何したってんだよ、まったく」
「さあな、それをこれから説明してくれるんだろ」
Pギアの通信を切ったアラドが会話に戻ってくる。
「いきなり狙撃して切りかかって来るとかどうかしてるぜ、軍のやつ」
「まぁ、向こうにも何か事情が―――あ」
ここで何かを思い出した素振りをみせたアラドがニヤニヤとガストの顔を見る。
「何だよ、気色悪い…」
訳の分からないガストはぶっきらぼうに返す。だがアラドは気にした様子もなく、ガストに告げる。
「ガスト、これから来るのはあの赤いSAのパイロットさんだぞ」
「はぁ?」
赤いSAというのはガストを気絶させたアレだろう。超スピード突撃からの斬撃を思い出して身震いする。
コックピットは狙っていなかったが、オールスレイヤーで受け止めなければ右腕と頭部は吹き飛んでいただろう。
あれを操縦していたパイロットとは…。
SAと同等の大きさを誇るオールスレイヤーを恐れず、ドラーケンに突っ込み、下した相手だ。さぞかし歴戦の勇士なのだろう。
だが、それとアラドのニヤついている理由の関係が分からなかった。
「それがなんだよ?」
「多分驚くぞ、お前も」
お前も、とはアラド自身も驚いた口ぶりだ。
おそらくガストが気絶している間、ネメアに帰ってくるまでに会ったのか。
「なんだよ、そんなにヤバい奴なのか?」
「どうだろうな?」
これ以上は聞いても適当にはぐらかされてしまう。
ガストは諦めてテーブルの椅子に当てつけのようにドカっと座る。
待つこと数分。
部屋の扉が開き、1人の軍人が入って来た。
アラドの言う通り、ガストはその軍人―――赤いSAのパイロットを見て驚いた。
若い女性だった。ガストよりは年上のようだが、二十代半ばだろうか。
ポニーテールを結んでいる機体色と同じ赤い髪が印象的だった。
モデルでもやってそうな美人だが、その凛々しい雰囲気から確かに軍人なのだと感じられる。
驚いたガストは女性を凝視し、フリーズする。その様子をアラドは勝ち誇ったような顔で眺めていた。
女性がガストの視線に気付き、声をかける。
「どうした? ボーっとして」
「あ、いや、ナンデモナイデス…」
動揺で変な片言になってしまい少々恥ずかしい。
だが女性は特に気にした様子もなく、テーブルの反対側に座る。
「あんたが…あの赤いSAのパイロット?」
「そうだ。私はフラム・ラーミナ。特務隊シェリフ所属のレオーネ軍人だ」
フラムと名乗った女性ははっきりと答えた。
アラドが自分をからかかう嘘を言ったのではと思ったが軍人と名乗った本人が言うのだから疑う余地もない。
さらに、彼女が所属していると言ったシェリフという部隊―――ガストにも聞き覚えがあった。戦後に各国が共同で設立した治安維持部隊だ。
これはもしかたらかなりの厄介ごとに巻き込まれたのかもしれない。
「シェリフの軍人さんが、なんで俺たちを襲ってこんなとこに閉じ込めてんだ?」
「それを答える前に一つ聞かせてもらう。お前たちが乗っていたあの3機のSA、どこで手に入れた?」
フラムは問い質すような口調で喋る。その迫力に圧されて黙ってしまう。
こちらにやましい事情はないのだが。
一瞬の沈黙の後、真面目な顔に戻ったアラドがガストの代わりに答える。
「あの廃工場です。俺たちは盗賊に追われて、あの中に逃げ込みました。それで探索中に瓦礫に埋もれてた3機を見つけて…まぁ、自衛のため戦闘を」
「ふむ…」
一連の流れを簡単に説明するアラド。
フラムは眉間に僅かにシワを寄せて3人を見つめる。今の話を嘘かと疑っているのかもしれない。
確かにガストたち自身もあんな場所にSAがあるなんて思いもしなかった。
だが、事実は事実である。フラムもこちらが嘘は言っていないと感じたのか、表情を和らげた。
「先の問いに答えよう。お前たちが見つけた機体は軍の試作機だ。重要機密である機体を無断で使用したお前たちは罪に問われ、現在拘束されている」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
すぐさまガストが噛みつく。
簡潔に語ってくれたがとんでもない状況だ。盗賊に襲われて戦った結果、保護されるどころか罪人扱いとは。
「無断で使用したって、そもそもなんで軍の試作機があんな廃工場に埋もれてるんだよ!?」
ガストの主張はもっともだ。あの3機が、フラムの言う通り重要機密である物なら、あのような場所に放置されているはずがない。
もしかしたら自分たちから機体を取り上げたいがためにでっち上げた嘘なのでは?と疑ってしまう。
だが、フラムは顔色一つ変えずに答えた。
「それは調査中だ。あの3機はトライアルに提出された後、開発者と共に行方不明になっていた」
フラムは持参したファイルを開き、数枚の写真を取り出した。
写真にはトライアル試験中であろう3機の姿が写っている。
それを見て、ガストも渋々引き下がる。
「我々は旧市街地に居ついた盗賊を捕らえるために出撃した。到着後、行方不明の試作機が戦闘を行っていたのでな、少々強引に押さえさせてもらった」
フラムは続けてあの時の彼女側の状況を語った。
確かにあれ程の機体に加えて、搭乗者が何者か分からない状況では警告無しで仕掛けるのは当然なのかもしれない。
と、事情も分かった所でユイが口を開く。
「それで私たちはどうなるの?」
「繰り返しになるが、軍の重要機密…それもSAの無断使用は重罪だ。かなりの長期間拘束されることになるだろう」
「そんな!」
ユイは泣きそうに叫ぶ。
薄々は予想していたが、やはりこのまま話をして帰してくれる訳はない。
とは言えガストからすれば軽率だったとしても自衛を行って、捕まるなどたまったものではなかった。
ガスト同様、アラドも納得出来ていないのか険しい表情を浮かべている。
そんな中、フラムが静かに告げる。
「…だが処分を免れる方法もある」
それを聞きガストとユイがパッと明るい表情になる。
だが、アラドは表情を変えずにフラムを見つめる。
自分たちが子供とは言え、治安維持部隊の者が善意で見逃すとは思えない。
「俺たちはどうすればいいんです?」
「私の部下になれ。そうすれば罪には問わん」
「はぁ!? どういうことだよ!?」
思わずすっとんきょうな声を上げるガスト。
部下になれというのは軍に入れということだろうか。
突拍子のない提案にガスト以外も思考が追い付かない。
その反応はフラムも想定していたのかゆっくりと説明を始める。
「戦後、レオーネに限らず、各国は問題が山積みだった。人口の減少による労働力の低下、戦場から大量に流出したSAによる無法行為。それに加えて生き残った官僚や政治家が自らの利権に拘ったせいで行政、治安も悪化した」
フラムの言う通り、当時のガストたちの生活は苦しかった。
今でこそ街の近場は安全だが、終戦直後はそこら中に転がる兵器のパーツを求めてジャンク屋と盗賊が殺到して争っていた。
ガストたちも売り物1つ回収するだけでも一苦労だったのだ。
「その不満に対するポーズとしてシェリフは設立された。テロリストや盗賊といった犯罪者を処罰し、市民の安全を確保する…そう謳ってな。だが、軍の上層部は先の大戦で痛手を負った部隊の再編成に重点を置き、シェリフ側にはろくに人員を送っていない」
確かにガストの周りでもシェリフの評判を耳にするが、対応が遅いだの無視されるだの不評が多かった。旧市街地もその1つだ。
これは、今の話を聞くにフラムの言う人員不足が原因なのだろう。
目の前の真面目そうな軍人が、私情で仕事をサボっているとは思えない。
「情けない話だが、現状の我々だけでは手が足りないんだ…特にパイロットがな」
「もしかして、それで俺たちを?」
「そうだ。盗賊との戦闘データを見たが、お前たちにはセンスがある。その力をシェリフに…人々のために使ってみないか?」
フラムは3人を真っ直ぐ見つめる。
珍しくガストも真面目に考える。
フラムが語ったシェリフの実情は芳しくない。
そもそもが見せかけで創られたものだ。
だが、フラムは本気だった。
少なくとも彼女は全力でシェリフの任務に尽くしているとガストには感じられた。
その上で、多少訳ありだが自分たちに声をかけてきた。
シェリフに入れば戦闘にも駆り出される。しかし、誰かがそうしないと街の人々に安全は無い。
「いいぜ。シェリフに入って悪党退治でも何でもやってやるよ」
このネメアに来て、多くの人に世話になった。そんな彼らのため、自分に出来ることがあるなら迷いはなかった。
「ったく、どういうことか分かってんのかね、こいつは…。まぁ、刑務所よりかは有意義だろうし、やってみるか」
「あんたらだけに任せてられないからね、私も行くわよ」
アラドとユイも口ではこう言っても、2人とも自分と同じ考えになったとガストには分かった。だからこそ嬉しい。
答えは出た。その答えはフラムにとっても満足するものだった。
「わかった、お前たちをシェリフに入隊させる…今日の所は家に戻ってくれて構わん」
話が決まってからは早かった。
ガストたちはフラムに案内されて基地の正門から外に出る。外は既に暗くなっていた。
ガストは大きく背伸びをして深呼吸する。数時間居ただけだが、出所のような気分だった。
「明後日までに身支度を済ませておけ。こちらもお前たちの部屋を用意しておく」
「分かったよ、フラムさん」
ガストたちは軽く会釈をし、家に向かって歩き出す。
これからどんな事態が待ち受けているかは分からない。
だが、今日は無事に乗り切った。3人にとってそれだけで十分だった。
帰路の途中、基地から離れた所でアラドが口を開く。
「なんだかえらいことになったな」
「いいじゃない、大変だろうけど稼ぎはいいでしょ」
ニヒヒとがめつく笑うユイにアラドは呆れる。やけにあっさり決めたと思ったら、給料目当てだったのかと。
それに気付いたユイは恥ずかしそうに両手を振り弁解する。
「いやいや、もちろん街のみんなのためが第一よ!?」
「本当かよ…」
とは言え、完全歩合制のジャンク屋とは違い、安定した収入が期待できるのは確かだった。そよかぜへの仕送りも楽になる。
だが、その前にそよかぜ側には事情を説明しておくべきだろう。
「明日、カーム先生にも伝えとかないとな」
「そうね。いきなり仕送り額が上がったら、カーム先生、ビックリするわよ」
そよかぜの院長であるカーム・キンドとはネメアに来てから長い付き合いだ。
そそっかしい所もあるが、穏やかで孤児たちのことを第一に考える彼女だからこそ安心して村の子供たちも任せられる。
彼女や子供たちのためにシェリフ入隊を決めたが、彼女は心配するだろう。
アラドがなんとか安心してもらえるように話を考えていると…。
「ん? ガストはどうした?」
いつもなら話に乗ってくるガストが喋らない…というより居ない。
先程まで横に居たはずだが。
「え~っと…あ、後ろ」
周りを見渡したユイが後ろを指を指す。
その指先の向こうで、ガストはうずくまって唸っていた。
「ガスト!」
アラドとユイが慌てて駆け寄る。
今になって頭を打った症状が出て来たのだろうか。病院に行くか、軍の基地に戻ってちゃんと診てもらった方がいいか。
考えながらアラドが肩を貸して支える。
そうするとガストの絞り出すような言葉がはっきり聞き取れた。
「腹減った…」
「…」
支える手を離し、スパンとガストの頭をひっぱたく。石頭のガストがこの程度で大怪我をするわけがなかった。
「痛ってぇ! 俺、怪我人だぞ!?」
「人騒がせなんだよ」
一安心したせいかガストだけでなく、アラドとユイも揃って腹が大きな音で鳴る。
確かに朝食を食べて以降、今日は食事を取る余裕がなかった。
そして現在の時間は20時過ぎ。昼食どころか夕食を食べる時間だ。
いざ空腹を意識すると我慢が出来なくなってくる。
「今から晩飯の準備は…」
アラドがちらりと視線を向けるとユイが首を大きく横に振る。
疲れて空腹なのは彼女も同じだ。この状況で3人分の夕食を作らせるのはあまりに酷だろう。
「…しょうがない、どこかで食って帰るか」
「マジ!? じゃあ『大味亭』に行こうぜ! 俺、カツ丼大盛な!」
「奢りなら私も大盛頼もうかな~」
「誰も奢るとは言ってねぇよ!」
ガストとユイの笑い声、アラドの悲鳴が夜の街に溶けていった。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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