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第2話 目覚めて新天地(後編)
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翌日、朝食を済ませたガストたちはフラムに言われた通り準備に取りかかった。
「そんで支度ってどうするんだ? 俺、持っていく物なんか無いぞ?」
「確かにお前は物を買うより食う方ばっかりだしな。まぁ、俺も音楽のディスクが少しくらいか…ユイは?」
「私は漫画のコレクション全部持っていくわ」
「は?」
ジャンク屋での儲けから生活費の利用方法は三者三様である。
ガストは基本的に近場の食堂での飲食に費やし、アラドは雑誌や音楽鑑賞だった。
そしてユイはと言うと漫画だった。元いた田舎の村では手に入らなかった物で、ネメアに来てから暇潰しに読んでみたらどっぷりハマってしまったのだ。
今ではそのコレクション(主に少女漫画)は、100冊近くの量を誇る。
「お前、遊びに行くんじゃないんだぞ…大体、全部しまうスペースあるのか?」
昨日、フラムと話した部屋を思い出す。
備え付けの本棚はあったが、ユイのコレクションを収納出来る大きさではなかった。
「心配しなくても向こうで落ち着いたら本棚買うわよ。それまではあんたたちの部屋に置いとくわ。どうせ本なんて持ち込まないでしょ?」
「マジかよ…」
確かにその通りだが、他人に言い切られるのは何とも言えない気分だった。
とは言えここで言い返したら不毛な争いが起こることは間違いないなかった。
アラドもそれを察してか、自室の本棚を素早く諦め、次の問題に移っていく。
「後は…残ってる食料は処理しといた方がいいな」
家の冷蔵庫には買い込んだ食料がたっぷりある。
流石にこれは基地に持っていくことは出来ないので、なんとかする必要がある。
これに対して待ってましたと言わんばかりにガストが反応した。
「なら全部食っちまおうぜ。腐らせるのはもったいないし」
「あんたね…さっき食べたばかりでしょ。それに作る身にもなりなさい」
「お前が無駄に食わなくても、チビたちが食うだろ。食料はそよかぜに持って行こう」
「ぐっ…しょうがねぇな…」
2人から即座にダメ出しをくらい、引き下がる。
アラドはともかく、ユイの同意が得られないとせっかくの食料も食べられる状態にならない。
この時ばかりは料理の出来ない自分を呪ったガストだった。
「ガスト、部屋の片付けが終わったら、ジャンク屋に行って車借りてきてくれ。その間に俺とユイは食料まとめとくから」
「りょーかーい…」
2人は意気消沈したガストの態度にほんの少しだけ申し訳なく思うが、すぐに気にしないようになる。
ガストが食べ物のことで一喜一憂するのはいつものことだ。
特に物が無いので、自室の片付けが早々に終わったガストはジャンク屋協会の本部に来ていた。
ジャンク屋協会では回収して直したSAの他に自動車類もレンタルしている。
車に関しては、その街のジャンク屋ならレンタル料のが無く、燃料費を払えば乗り放題なため、ガストたちはこれをよく利用していた。
「ん? ありゃあ…」
本部の入口に近づくと、タバコを吸っている中年の男が目についた。それはガストもよく知る人物だった。
男もガストに気がつき、笑って手をあげた。
「おお、ガストじゃねぇか。相変わらず頭悪そうな面してんな」
「ローグさん程じゃないって」
違いねぇと豪快に笑う男―――ローグ・ハバリーはネメアのジャンク屋協会の代表だ。
ネメアに来た当初、ジャンク屋の仕事をガストたちに教えてくれた人物でもある。
ガストたちが不慣れな頃は一緒に回収作業に出ることもあったが、会長に就任してからは事務仕事が主になり、本人もよくそのことを愚痴っている。
「外でタバコなんか吸って…サボりか?」
「ちげーよ、ちょっと客の見送りに出たんでな。そのついでに一服だ」
それはサボりではないのかと思ったが、これ以上は口に出さない。性に合わない事務仕事で疲れもあるのだろう。
ローグはフーっと煙を吐き出して、それを携帯灰皿にしまった。
「んで、お前こそどうしたんだ? 1人でここに来るなんて珍しいじゃねぇか」
「ちょっと荷物を運ぶから車貸してもらいにな」
「ああ、それでか。SAはともかく車はあまりまくってるからな、好きなの乗ってけ」
ジャンク屋でレンタルしている自動車類は廃車の修理品のため、古い物や外装がボロい物が多い。
ジャンク屋としても出来る限り綺麗にしたり、一般のレンタカーより安価にはしているが、借りる者は少数だった。そのおかげでガストは自由に使っているが。
「サンキュー! …あっ、そうだ」
ここで会ったのはちょうどいい。
カームだけでなく、ローグにもこれからのことを伝えておかなければならないだろう。
「俺たち軍に…っていうかシェリフに入ることになってさ。ジャンク屋の仕事はしばらく出来そうにないんだ」
「お前らがシェリフだぁ?どういうこったよ」
ガストは目を丸くしたローグに昨日の出来事を語った。
偶然見つけたSAで盗賊と戦ったこと、シェリフに捕まり、入隊を条件に解放されたこと。
改めて言葉にすると、自分でも信じられない体験をしたものだと思う。
「なるほどね…お宝を見つけたと思ったら、とんでもないやぶ蛇だったわけだ」
話を聞いたローグは腕を組み、険しい表情になる。
人手が減るのは痛いかもしれないが、ガストたちがシェリフの仕事をすれば、間接的にもローグたちジャンク屋のためになる。
出来れば納得してもらいたかった。
「急で悪いけどさ、式典の準備も終わったし、この通り!」
「なに、お前らが決めたんなら止めやしねぇさ」
ローグがいつもの強面だが優しげのある表情に戻る。その様子でガストもホッと胸を撫で下ろす。
「けどな、せっかくあの戦争を生き残ったんだ。盗賊やテロリスト相手にして死んじまったらつまんねぇからな…ヤバくなったらちゃんと逃げるんだぞ?」
今度は真面目な顔でになったローグは語る。
本人の意思は尊重するが、若者たちがまた大人の都合で犠牲になるのはローグには我慢ならなかった。
気負い過ぎないよう忠告したつもりだが、目の前のバカな少年に伝わったかは微妙な所だ。
「うん、あんがと。みんなが大丈夫そうなら、きっちり逃げるからさ」
「ったく…まぁ、頑張んな。お前らの仕事が耳に入ったら食い物でも送ってやるからよ」
「任せとけって! そんじゃ車借りてくよ、夕方には返すと思うから」
ローグは車の保管エリアに走って行くガストの背中を見つめながら、新しいタバコに火を点けた。
ジャンク屋から小型のトラックを借りたガストは家に戻り、アラドとユイが準備した荷物を積み込んだ。
メインと思われた食料よりもユイの漫画コレクションの方が苦労させられたが…。
なんとか昼前には出発できて一安心だ。運転をいつものようにアラドに任せ、3人掛けの狭いシートでくつろぐ。
ガストが後ろにある食料たちに未練たらしく思いを馳せていると、ふと疑問が浮かんできた。
「そういや、軍人ってのは何食ってるんだろうな」
「たぶん、基地の中に食堂とかあるんだろ。ユイも飯の心配が無くなってホッとしてるんじゃないか?」
「…当然よ。うちの食べるだけの男どものお守りは大変なんだから」
ユイは口ではそう言うものの、その表情からは僅かな寂しさがガストには見て取れた。
横に目をやると、アラドは運転に集中してユイの様子には気付いてない。
これまでガストから見ても、アラドが料理を褒めた時のユイの喜び様(本人は顔に出してないつもりだろうが)はバレバレだったが、この朴念仁は気付かないらしい。
でなければこうは言うまい。心の中でため息をつき、ガストはアラドに声をかける。
「でも、これからユイの作る飯が食べれないのは残念だよな? アラドさん?」
「ん? …ああ、確かにいつもの慣れ親しんだ味が食えなくなるのは寂しいな」
しんみり呟くアラドに、ユイは顔を赤くしながら答える。
「ま、まぁ、たまにならキッチン借りて作ってあげなくもないわ」
「そうか、楽しみだな」
世辞の欠片もないその言葉が嬉しかったのか、赤くなった顔がさらに赤くなる。
その様子を2人に挟まれたガストはニヤニヤしながら観察していた。
グッと親指を立てて、やったなとジェスチャーを送ると、余計な世話だったのか肘鉄を食らわされる。
うぐっと嗚咽をあげるガスト。せっかくいい雰囲気にしてやったのに、その礼がこれとは…。
「何だよ!」
「何でもないわよ!」
「何やってんだ、お前ら……よし、着いたぞ」
トラックが停止してアラドが運転席から降りる。
ガストとユイも続き、そよかぜの正面に降り立つ。
そろそろ昼食の時間だが、広場には多くの子供たちが元気そうに遊んでいた。
広場に入ると、何人かがガストたちに気が付いて近寄ってくる。
「にーちゃん、ねーちゃん、久しぶり~」
「おう、元気してたか?」
「うん! 式典の準備終わったの?」
「ええ。それと今日はご飯を持って来たのよ」
「やった! ありがとう、にーちゃん、ねーちゃん!」
アラドはきちんとお礼を言う子供たちの頭を撫でてやる。みんな歳はまだ10にも満たないが、ガストよりしっかりしているかもしれない。
さっそく子供たちと一緒にボール遊びを始めたガストを見ているとそんな気持ちになる。
「ガスト、遊ぶ前に用事済ませるぞ…カーム先生はどこにいる?」
「先生ならお客さんと話してるよ」
「客?」
「うん、さっき来たの。あっち」
その子が指差した先には、木陰のベンチに座っているカームの姿が見えた。
その横には見慣れない少女と黒服の男がいる。
帽子を被っていて、顔はよくみえないが少女はガストたちと同い年くらいだ。
そよかぜに新しく来た子供というわけではなさそうだった。
カームと少女は何か話してる様で、来るタイミングが悪かったかもしれない。
そんな事を考えていると。
「呼んで来てあげる! にーちゃんたちはちょっと待ってて!」
「あっ、おい!」
1人の少年―――アスがガストの制止も聞かず駆け出してしまった。
「アスの奴…余計なことを…」
「うーん、最悪荷物だけ先に運び込ませてもらうか」
アスがカームの元でガストたちの来訪を伝える。
カームは立ち上がり、少女に頭を下げて、こちらに小走りで近づいてくる。
しょうがないのでガストたちも向こうに歩み寄る。
子供たちもそうだが、カームとも久しぶりの対面だ。
カームはいつもと変わらない優しい笑顔で3人を出迎える。
「3人とも久しぶりね。式典の準備、お疲れ様」
「すみません、カーム先生。人が来てるとは思ってなくて」
「こっちこそごめんなさいね。でも、今来てるお客様はちょっと特別で…」
「カーム院長、こちらが先程話されていたの方たちですか?」
突然の声にカームは驚いて振り返る。
気が付けば、ベンチにいた少女と黒服も近くに来ていた。
「フウカさん!? 確かにそうですけど…」
「やっぱり♪ はじめまして皆さん」
少女は慌てるカームと頭を抱えている黒服をよそに、ガストたちの前に歩み寄る。
帽子を取り、美しい銀髪を揺らしながら名乗った。
「私、フウカ・クレープストと申します」
「そんで支度ってどうするんだ? 俺、持っていく物なんか無いぞ?」
「確かにお前は物を買うより食う方ばっかりだしな。まぁ、俺も音楽のディスクが少しくらいか…ユイは?」
「私は漫画のコレクション全部持っていくわ」
「は?」
ジャンク屋での儲けから生活費の利用方法は三者三様である。
ガストは基本的に近場の食堂での飲食に費やし、アラドは雑誌や音楽鑑賞だった。
そしてユイはと言うと漫画だった。元いた田舎の村では手に入らなかった物で、ネメアに来てから暇潰しに読んでみたらどっぷりハマってしまったのだ。
今ではそのコレクション(主に少女漫画)は、100冊近くの量を誇る。
「お前、遊びに行くんじゃないんだぞ…大体、全部しまうスペースあるのか?」
昨日、フラムと話した部屋を思い出す。
備え付けの本棚はあったが、ユイのコレクションを収納出来る大きさではなかった。
「心配しなくても向こうで落ち着いたら本棚買うわよ。それまではあんたたちの部屋に置いとくわ。どうせ本なんて持ち込まないでしょ?」
「マジかよ…」
確かにその通りだが、他人に言い切られるのは何とも言えない気分だった。
とは言えここで言い返したら不毛な争いが起こることは間違いないなかった。
アラドもそれを察してか、自室の本棚を素早く諦め、次の問題に移っていく。
「後は…残ってる食料は処理しといた方がいいな」
家の冷蔵庫には買い込んだ食料がたっぷりある。
流石にこれは基地に持っていくことは出来ないので、なんとかする必要がある。
これに対して待ってましたと言わんばかりにガストが反応した。
「なら全部食っちまおうぜ。腐らせるのはもったいないし」
「あんたね…さっき食べたばかりでしょ。それに作る身にもなりなさい」
「お前が無駄に食わなくても、チビたちが食うだろ。食料はそよかぜに持って行こう」
「ぐっ…しょうがねぇな…」
2人から即座にダメ出しをくらい、引き下がる。
アラドはともかく、ユイの同意が得られないとせっかくの食料も食べられる状態にならない。
この時ばかりは料理の出来ない自分を呪ったガストだった。
「ガスト、部屋の片付けが終わったら、ジャンク屋に行って車借りてきてくれ。その間に俺とユイは食料まとめとくから」
「りょーかーい…」
2人は意気消沈したガストの態度にほんの少しだけ申し訳なく思うが、すぐに気にしないようになる。
ガストが食べ物のことで一喜一憂するのはいつものことだ。
特に物が無いので、自室の片付けが早々に終わったガストはジャンク屋協会の本部に来ていた。
ジャンク屋協会では回収して直したSAの他に自動車類もレンタルしている。
車に関しては、その街のジャンク屋ならレンタル料のが無く、燃料費を払えば乗り放題なため、ガストたちはこれをよく利用していた。
「ん? ありゃあ…」
本部の入口に近づくと、タバコを吸っている中年の男が目についた。それはガストもよく知る人物だった。
男もガストに気がつき、笑って手をあげた。
「おお、ガストじゃねぇか。相変わらず頭悪そうな面してんな」
「ローグさん程じゃないって」
違いねぇと豪快に笑う男―――ローグ・ハバリーはネメアのジャンク屋協会の代表だ。
ネメアに来た当初、ジャンク屋の仕事をガストたちに教えてくれた人物でもある。
ガストたちが不慣れな頃は一緒に回収作業に出ることもあったが、会長に就任してからは事務仕事が主になり、本人もよくそのことを愚痴っている。
「外でタバコなんか吸って…サボりか?」
「ちげーよ、ちょっと客の見送りに出たんでな。そのついでに一服だ」
それはサボりではないのかと思ったが、これ以上は口に出さない。性に合わない事務仕事で疲れもあるのだろう。
ローグはフーっと煙を吐き出して、それを携帯灰皿にしまった。
「んで、お前こそどうしたんだ? 1人でここに来るなんて珍しいじゃねぇか」
「ちょっと荷物を運ぶから車貸してもらいにな」
「ああ、それでか。SAはともかく車はあまりまくってるからな、好きなの乗ってけ」
ジャンク屋でレンタルしている自動車類は廃車の修理品のため、古い物や外装がボロい物が多い。
ジャンク屋としても出来る限り綺麗にしたり、一般のレンタカーより安価にはしているが、借りる者は少数だった。そのおかげでガストは自由に使っているが。
「サンキュー! …あっ、そうだ」
ここで会ったのはちょうどいい。
カームだけでなく、ローグにもこれからのことを伝えておかなければならないだろう。
「俺たち軍に…っていうかシェリフに入ることになってさ。ジャンク屋の仕事はしばらく出来そうにないんだ」
「お前らがシェリフだぁ?どういうこったよ」
ガストは目を丸くしたローグに昨日の出来事を語った。
偶然見つけたSAで盗賊と戦ったこと、シェリフに捕まり、入隊を条件に解放されたこと。
改めて言葉にすると、自分でも信じられない体験をしたものだと思う。
「なるほどね…お宝を見つけたと思ったら、とんでもないやぶ蛇だったわけだ」
話を聞いたローグは腕を組み、険しい表情になる。
人手が減るのは痛いかもしれないが、ガストたちがシェリフの仕事をすれば、間接的にもローグたちジャンク屋のためになる。
出来れば納得してもらいたかった。
「急で悪いけどさ、式典の準備も終わったし、この通り!」
「なに、お前らが決めたんなら止めやしねぇさ」
ローグがいつもの強面だが優しげのある表情に戻る。その様子でガストもホッと胸を撫で下ろす。
「けどな、せっかくあの戦争を生き残ったんだ。盗賊やテロリスト相手にして死んじまったらつまんねぇからな…ヤバくなったらちゃんと逃げるんだぞ?」
今度は真面目な顔でになったローグは語る。
本人の意思は尊重するが、若者たちがまた大人の都合で犠牲になるのはローグには我慢ならなかった。
気負い過ぎないよう忠告したつもりだが、目の前のバカな少年に伝わったかは微妙な所だ。
「うん、あんがと。みんなが大丈夫そうなら、きっちり逃げるからさ」
「ったく…まぁ、頑張んな。お前らの仕事が耳に入ったら食い物でも送ってやるからよ」
「任せとけって! そんじゃ車借りてくよ、夕方には返すと思うから」
ローグは車の保管エリアに走って行くガストの背中を見つめながら、新しいタバコに火を点けた。
ジャンク屋から小型のトラックを借りたガストは家に戻り、アラドとユイが準備した荷物を積み込んだ。
メインと思われた食料よりもユイの漫画コレクションの方が苦労させられたが…。
なんとか昼前には出発できて一安心だ。運転をいつものようにアラドに任せ、3人掛けの狭いシートでくつろぐ。
ガストが後ろにある食料たちに未練たらしく思いを馳せていると、ふと疑問が浮かんできた。
「そういや、軍人ってのは何食ってるんだろうな」
「たぶん、基地の中に食堂とかあるんだろ。ユイも飯の心配が無くなってホッとしてるんじゃないか?」
「…当然よ。うちの食べるだけの男どものお守りは大変なんだから」
ユイは口ではそう言うものの、その表情からは僅かな寂しさがガストには見て取れた。
横に目をやると、アラドは運転に集中してユイの様子には気付いてない。
これまでガストから見ても、アラドが料理を褒めた時のユイの喜び様(本人は顔に出してないつもりだろうが)はバレバレだったが、この朴念仁は気付かないらしい。
でなければこうは言うまい。心の中でため息をつき、ガストはアラドに声をかける。
「でも、これからユイの作る飯が食べれないのは残念だよな? アラドさん?」
「ん? …ああ、確かにいつもの慣れ親しんだ味が食えなくなるのは寂しいな」
しんみり呟くアラドに、ユイは顔を赤くしながら答える。
「ま、まぁ、たまにならキッチン借りて作ってあげなくもないわ」
「そうか、楽しみだな」
世辞の欠片もないその言葉が嬉しかったのか、赤くなった顔がさらに赤くなる。
その様子を2人に挟まれたガストはニヤニヤしながら観察していた。
グッと親指を立てて、やったなとジェスチャーを送ると、余計な世話だったのか肘鉄を食らわされる。
うぐっと嗚咽をあげるガスト。せっかくいい雰囲気にしてやったのに、その礼がこれとは…。
「何だよ!」
「何でもないわよ!」
「何やってんだ、お前ら……よし、着いたぞ」
トラックが停止してアラドが運転席から降りる。
ガストとユイも続き、そよかぜの正面に降り立つ。
そろそろ昼食の時間だが、広場には多くの子供たちが元気そうに遊んでいた。
広場に入ると、何人かがガストたちに気が付いて近寄ってくる。
「にーちゃん、ねーちゃん、久しぶり~」
「おう、元気してたか?」
「うん! 式典の準備終わったの?」
「ええ。それと今日はご飯を持って来たのよ」
「やった! ありがとう、にーちゃん、ねーちゃん!」
アラドはきちんとお礼を言う子供たちの頭を撫でてやる。みんな歳はまだ10にも満たないが、ガストよりしっかりしているかもしれない。
さっそく子供たちと一緒にボール遊びを始めたガストを見ているとそんな気持ちになる。
「ガスト、遊ぶ前に用事済ませるぞ…カーム先生はどこにいる?」
「先生ならお客さんと話してるよ」
「客?」
「うん、さっき来たの。あっち」
その子が指差した先には、木陰のベンチに座っているカームの姿が見えた。
その横には見慣れない少女と黒服の男がいる。
帽子を被っていて、顔はよくみえないが少女はガストたちと同い年くらいだ。
そよかぜに新しく来た子供というわけではなさそうだった。
カームと少女は何か話してる様で、来るタイミングが悪かったかもしれない。
そんな事を考えていると。
「呼んで来てあげる! にーちゃんたちはちょっと待ってて!」
「あっ、おい!」
1人の少年―――アスがガストの制止も聞かず駆け出してしまった。
「アスの奴…余計なことを…」
「うーん、最悪荷物だけ先に運び込ませてもらうか」
アスがカームの元でガストたちの来訪を伝える。
カームは立ち上がり、少女に頭を下げて、こちらに小走りで近づいてくる。
しょうがないのでガストたちも向こうに歩み寄る。
子供たちもそうだが、カームとも久しぶりの対面だ。
カームはいつもと変わらない優しい笑顔で3人を出迎える。
「3人とも久しぶりね。式典の準備、お疲れ様」
「すみません、カーム先生。人が来てるとは思ってなくて」
「こっちこそごめんなさいね。でも、今来てるお客様はちょっと特別で…」
「カーム院長、こちらが先程話されていたの方たちですか?」
突然の声にカームは驚いて振り返る。
気が付けば、ベンチにいた少女と黒服も近くに来ていた。
「フウカさん!? 確かにそうですけど…」
「やっぱり♪ はじめまして皆さん」
少女は慌てるカームと頭を抱えている黒服をよそに、ガストたちの前に歩み寄る。
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