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第3話 風に舞う雪のように(前編)
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フウカ・クレープスト。
目の前の少女はそう名乗った。
どこかで見たか聞いた名前だが思い出せない。
すっきりしないガストだが、とにかく名乗られた以上こちらも返すのが礼儀だろう。
「ああ、俺はガスト。んで、こっちがアラドとユイ。よろしくな」
「なんであんたが紹介してんのよ!…えっと、よろしくね、フウカ」
「はい!」
女の子同士ということもあり、珍しくユイも穏やかな態度だ。
それに引き換えアラドは驚いた顔でフウカを見つめている。
まさか一目惚れでもしたかと思ったが、ガストはその考えをすぐに一蹴した。
この男に限ってそれはない。
「おい、アラド。いつも以上にだんまりだけど、どうした?」
アラドはフウカと黒服の方をチラリと見る。
フウカは笑顔で応え、黒服は諦めたように目を伏せた。
アラドは少し悩む素振りを見せたが、結局口を開いた。
「お前たちが普通に話してるその子はキャンディアの王女だぞ」
「「えっ?」」
アラドの言葉にユイがフリーズする。
そう言われてガストも思い出した。
記念式典にやってくる王女の親善大使、それが目の前にいるフウカ・クレープストだ。
驚いている2人の様子に困った顔になるフウカ。
「バレちゃいましたね、カナード」
「当然でしょう…」
カナードと呼ばれた黒服の男は小さくため息をつく。
なんとなく態度がアラドとに似ている。
「どうしてここに?」
「失礼、申し遅れました。私はカナード・グダムと申します。現在、フウカ様は式典前にレオーネへの理解を深めようと、各地を訪問している最中です。本人がこのような様子ですが、一応お忍びなので…」
「そういうことですか…ガスト、ユイ、分かってるな?」
真面目な波長が合うのか、アラドとカナードが言葉を交わして状況を確かめる。
つまり、仕事を兼ねた観光で、口外するのは遠慮してくれということだ。
確かに既に王女がネメアに来ていると知れ渡ったら観光どころではないだろう。
「へいへい、別に言いふらさねぇって」
「ガストはともかく私にも釘を刺す必要ある?」
「おい! いちいち喧嘩を―――」
ガストはいつものように食ってかかるが、フウカの手前、矛を納める。
初対面、それも王女様の前で低レベルな喧嘩は恥ずかしい。
それを察してか、フウカも場の流れを変える。
「ええと…皆さんは今日、どうしてこちらに?」
「それがカーム先生に話と届け物があって来たんだけど…」
「それでしたらそちらのお話をどうぞ。私のせいで皆さんを待たせてしまうのも悪いですし」
「フウカさん、でも…」
カームが申し訳なさそうにフウカを見る。
「私はその間、子供たちに相手をしてもらうのでどうかお構い無く」
ニッコリと笑うフウカは譲らない。
困ったカームはチラリとカナードの顔色を伺う。
カナードは諦めた表情でその視線に頷き返す。
フウカの性格を理解している故に、もう何を言っても無駄だと感じたのだろう。
「じゃあ…そうさせてもらおうかしら」
「悪いな、フウカ。まぁ、すぐに終わるさ」
「いえ、ごゆっくり」
ガストたちはフウカの言葉に甘えてカームと一緒に施設に入っていく。
ガストが振り返ると子供たちと仲良くボールで遊ぶフウカが見えた。
「そんなことが…」
「そういうわけでしばらく来れないかもしれませんが、心配は無用です」
「給料もアップすると思うから期待しててね」
心配をかけないようにおちゃらけた態度でユイが話すが、カームの表情は晴れなかった。
激しい戦争は終わったが、その小さな残り火も危険なことに変わりない。
SAという強力な兵器で戦うということは、それだけ危険な仕事に駆り出される。
自分たちも親を失った子供だと言うのに、さらに小さい子供たちのために必死で働いてきたガストたちだ。
きっと自分たち以外の人間のために、今回のことも決めたのだろう。
それが分かっているから、ガストたちを止めることがカームには出来なかった。
カームは出来るだけ明るい顔を作り、自分の精一杯の気遣いを伝える。
「どうか無茶はしないでね?」
「大丈夫だって。シェリフにはすげー強い人もいるし…細かい立ち回りはアラドが考えてくれる」
ガストなりにカームを安心させる言葉なのだろうが、後半に無視出来ない内容があったのでアラドは突っ込んでおく。
「やれやれ…こっちの身にもなれよ。一応でも軍人になるんだ。少しは自分の頭も使ってくれ」
「…そうだな。また、出口のない廃工場に閉じ込められるのは勘弁だしなー」
「それを蒸し返すか!?」
「お前が先に仕掛けてきたんだろ!」
ガストとアラドが取っ組み合いを始めて、いつもと変わらない様子にカームは作ってない笑顔を浮かべた。
カームの表情を見てユイも一安心した。
目の前の喧嘩は放っておこうと思ったが、こちらを優先させてくれたフウカのこともあるので止めることにする。
だが、ユイのゲンコツが炸裂する前に、勢いよく開かれたドアの音が部屋に響き渡る。
何事かと目をやると息を切らせたカナードがいた。
カナードはこちらを確認すると、似合わない慌てた声で叫ぶ。
「カーム院長! フウカ様が…」
「カナードさん、フウカさんがどうかしました?」
「フウカ様がいなくなってしまった!」
「はぁ?」
ガストたちは顔を見合せた。
興奮するカナードを落ち着かせ、ガストたちは外に戻ってきた。
「木に引っかかったボールを私が取っている間にどこかに行かれたようで…」
状況を確認すると、カナードが少し目を離した間にいなくなったようだ。
フウカの王女らしからぬ性格は先程少し話しただけでも分かったが、1人で出ていくとは考えにくい。
一緒に遊んでいた子供たちに話を聞く。
「フウカねーちゃんならアスと一緒に外に出て行ってたよ」
そう言われるとアスの姿も見えない。
2人でどこに行ったのかは分からないが、外に行ったことは間違いないようだ。
やっかいなことになったと一同が頭を抱えていると、広場の入口にアスが帰ってきた。
急いで捕まえ、話を聞く。
「アス! フウカは? 一緒じゃないのか?」
「そ、それが…」
歯切れの悪い言葉が返ってくる。
つまり、それだけ良くないことになったのだろう。
「怒らねぇから早く!」
「…フウカねーちゃんが街の中を見て回りたいっていってたから、俺が案内してあげようと思って外に出たんだけど…気付いたらいなくなってた…」
「ったく、バカタレが!」
ごつんとアスの頭にゲンコツを食らわせる。
アスの目が涙に滲むが、自分のやったことを理解してるのか泣いたりはしなかった。
やっぱり反省ができるだけガストよりはしっかりしてるんじゃないか、と思うアラドであった。
アスの話を聞いて、カームはカナードに謝りっぱなしだ。
「すみません、カナードさん…なんとお詫びしたらいいか…」
「いえ、悪いのは自覚の足りないフウカ様ですので…この少年はフウカ様の気持ちに応えただけです」
流石にカナードは子供を責めたりはしないようで、ガストは安心する。
ゲンコツを食らわせておいてなんだが、これ以上アスがどうこう言われるのはかわいそうだ。
迷子のフウカを探す段取りを考えていると、ふと思い付いく。
「フウカもPギアは持ってるんだろ? カナードさんが連絡すればどこにいるか分かるんじゃないか?」
「それも当然考えたのですが…舞い上がって連絡に気付かないのか応答しません…」
ガストは呆れた。旅先で迷子になって心配をかけるとは、王女というよりただの悪ガキのようだ。
状況を理解したあちらから連絡もあるかもしれないが、カナード胃を考えるとそれを待つ余裕は無さそうである。
「それじゃ俺たちが探してくるよ。話も終わったし」
「申し訳ございません…私ではこの辺りの地理には疎いので…」
カナードが頭を下げる。
年上の人に頭を下げられるのは何だか申し訳ない。
「気にしないで。私たちに任せてよ」
「もし帰って来たらカームさんから俺たちに連絡してください」
「わかったわ。気を付けてね」
ガストたちはアスからおおよその場所を聞き、三手に別れて王女探しに向かう。
「しっかし、とんだ王女様だよなぁ…」
街を案内してくれていたアスの姿が消えてから10分、フウカは自身の置かれている状況を理解した。
(アス君が迷子になるなんて…)
自信満々に語る少年の誘いもあり、つい外に出てしまったが軽率だったと後悔する。
見慣れない街に見とれて少し目を離した間に幼い少年は姿を消してしまった。
自分がついていながら
(さみしい思いをしてなければいいけど…)
アスを探してしばらく歩いたが、一向に見付からない。
ただ、幸いにもフウカを見て、キャンディアの王女だと気付く人間はいなかった。
深く被った帽子のおかげか、そもそもそれほど顔が知られていないのか。
どちらにせよフウカにとっては好都合だった。
店が多く並ぶメインストリートから離れて、人の少ない通りに入る。
なんとなく不気味であまり長居はしたくない場所だが、アスを探すには見ておかなければならない。
フウカがキョロキョロと辺りを見回していると、不意に声をかけられた。
「お嬢ちゃん、見ない顔だな」
フウカが振り返ると柄の悪い2人組がニヤニヤとこちらを見ている。
嫌な予感が的中した。だが地元の人間ならアスの顔見知りかもしれない。
フウカは勇気を出して
「はい、ちょっと観光に」
「へぇ…こんなとこ見るものないだろ?」
「いえ…今、ここの子供と遊んでいたんですけどはぐれてしまったみたいで…」
「そりゃ大変だ。探してやらないと」
フウカはその言葉にホッとする。
どうやら良い人のようだ。人を見かけで判断するのは間違っていた。
「ありがとうございます! あの、アスという名前の―――」
さっそくアス探しを手伝ってもらうとするが、フウカの言葉を男が遮った。
「あー、俺たち頭悪いからよ。ささっと言われた説明じゃ分かんねぇんだ」
「え、えっと…」
「つーわけで…ちょっと茶でも飲みながらゆっくり話そうや」
そう言うと男たちはフウカに近づいてくる。
やはりと言うか迷子探しを手伝ってくれる好漢ではないようだ。
フウカはジリジリと後ろに下がるが、逃げた先は行き止まりの路地だった。
逃げ場が無くなり、男がフウカの手を掴む。
フウカも抵抗するが力で敵うはずもなく、強引に引っ張られてしまう。
「やめてください!」
「まあまあ、そんなに邪険にすんなよ…へへへ」
男がいやらしい笑みを浮かべる。
フウカは自分の無力さに唇を噛んだ。
そして、恐ろしさにうっすらと涙を浮かべる。
(誰か…誰か助けて!)
助けを求める言葉は声にならなかった。
だが―――。
「ちょっと待ったぁ!」
発せられなかった助けに応える声が、路地に響き渡った。
目の前の少女はそう名乗った。
どこかで見たか聞いた名前だが思い出せない。
すっきりしないガストだが、とにかく名乗られた以上こちらも返すのが礼儀だろう。
「ああ、俺はガスト。んで、こっちがアラドとユイ。よろしくな」
「なんであんたが紹介してんのよ!…えっと、よろしくね、フウカ」
「はい!」
女の子同士ということもあり、珍しくユイも穏やかな態度だ。
それに引き換えアラドは驚いた顔でフウカを見つめている。
まさか一目惚れでもしたかと思ったが、ガストはその考えをすぐに一蹴した。
この男に限ってそれはない。
「おい、アラド。いつも以上にだんまりだけど、どうした?」
アラドはフウカと黒服の方をチラリと見る。
フウカは笑顔で応え、黒服は諦めたように目を伏せた。
アラドは少し悩む素振りを見せたが、結局口を開いた。
「お前たちが普通に話してるその子はキャンディアの王女だぞ」
「「えっ?」」
アラドの言葉にユイがフリーズする。
そう言われてガストも思い出した。
記念式典にやってくる王女の親善大使、それが目の前にいるフウカ・クレープストだ。
驚いている2人の様子に困った顔になるフウカ。
「バレちゃいましたね、カナード」
「当然でしょう…」
カナードと呼ばれた黒服の男は小さくため息をつく。
なんとなく態度がアラドとに似ている。
「どうしてここに?」
「失礼、申し遅れました。私はカナード・グダムと申します。現在、フウカ様は式典前にレオーネへの理解を深めようと、各地を訪問している最中です。本人がこのような様子ですが、一応お忍びなので…」
「そういうことですか…ガスト、ユイ、分かってるな?」
真面目な波長が合うのか、アラドとカナードが言葉を交わして状況を確かめる。
つまり、仕事を兼ねた観光で、口外するのは遠慮してくれということだ。
確かに既に王女がネメアに来ていると知れ渡ったら観光どころではないだろう。
「へいへい、別に言いふらさねぇって」
「ガストはともかく私にも釘を刺す必要ある?」
「おい! いちいち喧嘩を―――」
ガストはいつものように食ってかかるが、フウカの手前、矛を納める。
初対面、それも王女様の前で低レベルな喧嘩は恥ずかしい。
それを察してか、フウカも場の流れを変える。
「ええと…皆さんは今日、どうしてこちらに?」
「それがカーム先生に話と届け物があって来たんだけど…」
「それでしたらそちらのお話をどうぞ。私のせいで皆さんを待たせてしまうのも悪いですし」
「フウカさん、でも…」
カームが申し訳なさそうにフウカを見る。
「私はその間、子供たちに相手をしてもらうのでどうかお構い無く」
ニッコリと笑うフウカは譲らない。
困ったカームはチラリとカナードの顔色を伺う。
カナードは諦めた表情でその視線に頷き返す。
フウカの性格を理解している故に、もう何を言っても無駄だと感じたのだろう。
「じゃあ…そうさせてもらおうかしら」
「悪いな、フウカ。まぁ、すぐに終わるさ」
「いえ、ごゆっくり」
ガストたちはフウカの言葉に甘えてカームと一緒に施設に入っていく。
ガストが振り返ると子供たちと仲良くボールで遊ぶフウカが見えた。
「そんなことが…」
「そういうわけでしばらく来れないかもしれませんが、心配は無用です」
「給料もアップすると思うから期待しててね」
心配をかけないようにおちゃらけた態度でユイが話すが、カームの表情は晴れなかった。
激しい戦争は終わったが、その小さな残り火も危険なことに変わりない。
SAという強力な兵器で戦うということは、それだけ危険な仕事に駆り出される。
自分たちも親を失った子供だと言うのに、さらに小さい子供たちのために必死で働いてきたガストたちだ。
きっと自分たち以外の人間のために、今回のことも決めたのだろう。
それが分かっているから、ガストたちを止めることがカームには出来なかった。
カームは出来るだけ明るい顔を作り、自分の精一杯の気遣いを伝える。
「どうか無茶はしないでね?」
「大丈夫だって。シェリフにはすげー強い人もいるし…細かい立ち回りはアラドが考えてくれる」
ガストなりにカームを安心させる言葉なのだろうが、後半に無視出来ない内容があったのでアラドは突っ込んでおく。
「やれやれ…こっちの身にもなれよ。一応でも軍人になるんだ。少しは自分の頭も使ってくれ」
「…そうだな。また、出口のない廃工場に閉じ込められるのは勘弁だしなー」
「それを蒸し返すか!?」
「お前が先に仕掛けてきたんだろ!」
ガストとアラドが取っ組み合いを始めて、いつもと変わらない様子にカームは作ってない笑顔を浮かべた。
カームの表情を見てユイも一安心した。
目の前の喧嘩は放っておこうと思ったが、こちらを優先させてくれたフウカのこともあるので止めることにする。
だが、ユイのゲンコツが炸裂する前に、勢いよく開かれたドアの音が部屋に響き渡る。
何事かと目をやると息を切らせたカナードがいた。
カナードはこちらを確認すると、似合わない慌てた声で叫ぶ。
「カーム院長! フウカ様が…」
「カナードさん、フウカさんがどうかしました?」
「フウカ様がいなくなってしまった!」
「はぁ?」
ガストたちは顔を見合せた。
興奮するカナードを落ち着かせ、ガストたちは外に戻ってきた。
「木に引っかかったボールを私が取っている間にどこかに行かれたようで…」
状況を確認すると、カナードが少し目を離した間にいなくなったようだ。
フウカの王女らしからぬ性格は先程少し話しただけでも分かったが、1人で出ていくとは考えにくい。
一緒に遊んでいた子供たちに話を聞く。
「フウカねーちゃんならアスと一緒に外に出て行ってたよ」
そう言われるとアスの姿も見えない。
2人でどこに行ったのかは分からないが、外に行ったことは間違いないようだ。
やっかいなことになったと一同が頭を抱えていると、広場の入口にアスが帰ってきた。
急いで捕まえ、話を聞く。
「アス! フウカは? 一緒じゃないのか?」
「そ、それが…」
歯切れの悪い言葉が返ってくる。
つまり、それだけ良くないことになったのだろう。
「怒らねぇから早く!」
「…フウカねーちゃんが街の中を見て回りたいっていってたから、俺が案内してあげようと思って外に出たんだけど…気付いたらいなくなってた…」
「ったく、バカタレが!」
ごつんとアスの頭にゲンコツを食らわせる。
アスの目が涙に滲むが、自分のやったことを理解してるのか泣いたりはしなかった。
やっぱり反省ができるだけガストよりはしっかりしてるんじゃないか、と思うアラドであった。
アスの話を聞いて、カームはカナードに謝りっぱなしだ。
「すみません、カナードさん…なんとお詫びしたらいいか…」
「いえ、悪いのは自覚の足りないフウカ様ですので…この少年はフウカ様の気持ちに応えただけです」
流石にカナードは子供を責めたりはしないようで、ガストは安心する。
ゲンコツを食らわせておいてなんだが、これ以上アスがどうこう言われるのはかわいそうだ。
迷子のフウカを探す段取りを考えていると、ふと思い付いく。
「フウカもPギアは持ってるんだろ? カナードさんが連絡すればどこにいるか分かるんじゃないか?」
「それも当然考えたのですが…舞い上がって連絡に気付かないのか応答しません…」
ガストは呆れた。旅先で迷子になって心配をかけるとは、王女というよりただの悪ガキのようだ。
状況を理解したあちらから連絡もあるかもしれないが、カナード胃を考えるとそれを待つ余裕は無さそうである。
「それじゃ俺たちが探してくるよ。話も終わったし」
「申し訳ございません…私ではこの辺りの地理には疎いので…」
カナードが頭を下げる。
年上の人に頭を下げられるのは何だか申し訳ない。
「気にしないで。私たちに任せてよ」
「もし帰って来たらカームさんから俺たちに連絡してください」
「わかったわ。気を付けてね」
ガストたちはアスからおおよその場所を聞き、三手に別れて王女探しに向かう。
「しっかし、とんだ王女様だよなぁ…」
街を案内してくれていたアスの姿が消えてから10分、フウカは自身の置かれている状況を理解した。
(アス君が迷子になるなんて…)
自信満々に語る少年の誘いもあり、つい外に出てしまったが軽率だったと後悔する。
見慣れない街に見とれて少し目を離した間に幼い少年は姿を消してしまった。
自分がついていながら
(さみしい思いをしてなければいいけど…)
アスを探してしばらく歩いたが、一向に見付からない。
ただ、幸いにもフウカを見て、キャンディアの王女だと気付く人間はいなかった。
深く被った帽子のおかげか、そもそもそれほど顔が知られていないのか。
どちらにせよフウカにとっては好都合だった。
店が多く並ぶメインストリートから離れて、人の少ない通りに入る。
なんとなく不気味であまり長居はしたくない場所だが、アスを探すには見ておかなければならない。
フウカがキョロキョロと辺りを見回していると、不意に声をかけられた。
「お嬢ちゃん、見ない顔だな」
フウカが振り返ると柄の悪い2人組がニヤニヤとこちらを見ている。
嫌な予感が的中した。だが地元の人間ならアスの顔見知りかもしれない。
フウカは勇気を出して
「はい、ちょっと観光に」
「へぇ…こんなとこ見るものないだろ?」
「いえ…今、ここの子供と遊んでいたんですけどはぐれてしまったみたいで…」
「そりゃ大変だ。探してやらないと」
フウカはその言葉にホッとする。
どうやら良い人のようだ。人を見かけで判断するのは間違っていた。
「ありがとうございます! あの、アスという名前の―――」
さっそくアス探しを手伝ってもらうとするが、フウカの言葉を男が遮った。
「あー、俺たち頭悪いからよ。ささっと言われた説明じゃ分かんねぇんだ」
「え、えっと…」
「つーわけで…ちょっと茶でも飲みながらゆっくり話そうや」
そう言うと男たちはフウカに近づいてくる。
やはりと言うか迷子探しを手伝ってくれる好漢ではないようだ。
フウカはジリジリと後ろに下がるが、逃げた先は行き止まりの路地だった。
逃げ場が無くなり、男がフウカの手を掴む。
フウカも抵抗するが力で敵うはずもなく、強引に引っ張られてしまう。
「やめてください!」
「まあまあ、そんなに邪険にすんなよ…へへへ」
男がいやらしい笑みを浮かべる。
フウカは自分の無力さに唇を噛んだ。
そして、恐ろしさにうっすらと涙を浮かべる。
(誰か…誰か助けて!)
助けを求める言葉は声にならなかった。
だが―――。
「ちょっと待ったぁ!」
発せられなかった助けに応える声が、路地に響き渡った。
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