鋼鉄幻獣ドラーケン

夏大好き

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第4話 リスタート(後編)

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食堂でガストたちは、ダンの奢りを厨房から受け取る。
ガストとユイは最初、ステーキ定食を頼もうとしたがダンの懇願とアラドにたしなめられた結果、無難な唐揚げ定食に落ち着いた。

「おっ、ちょうどいい」

ダンは食堂内を見渡して誰かを見つけたようで、空いてるテーブルを無視して進んでいく。
ダンの目指すテーブルの先客2人は食事を終えて、雑談中のようだが。
しかし、見た感じでは女性が隣の男に一方的に話している。男の方は頬杖をついて居眠りでもしているかのようだ。
テーブルに近づき、ダンが声をかける。

「どうも、御両人。お早い昼食で」
「なんだ? わざわざ嫌味を言いに来たのか、ダン」

男は顔を動かさずに答えた。

「違いますよ。旦那たちに新人を紹介しとこうと思って」
「新人?」

男は言われて、ガストたちの存在に気づいたようで、ようやく顔をこちらに向けた。
気だるげそうな、ダンやフラムより少し年上の男性だ。
ガストたちの顔を一瞥して口を開きかけたが…。

「お前らが例の試さ―――」
「君たちが噂の新人さん!?」

言いかけた男を押し退け、隣の女性がガストたちの前に身を乗り出してきた。
女性は興味津々といった様子でガストたちを見つめる。

「えっと…」
「私はアルシェ・モワノ! 第二小隊の副隊長をやってるの。違う隊だけど仲良くしてね!」
「ど、どうも。俺たちは…」
「ガスト君にアラド君、それとユイちゃんだよね? 面白そうな新人さんが来るって聞いてたから会うの楽しみだったんだ!」

アラドが言う前にアルシェはガストたちの名前を答えた。
面白そうな新人と言うが、事前にどんな噂を流されたのやら。
ダンは流し目でそっぽを向いて口笛を吹いている。

「は、はぁ、どうも」
「あの、その人は…?」

それより先程から、アルシェの平手で顔面を押し退けられている男性が放置されているが、それはいいのだろうか?
アルシェは言われるまで気付かなかったようだが、それでも悪びれなく続けた。

「え? ああ、いいのいいの。どうせ無愛想でろくに喋らないし」
「…いい加減にしろ、このアホ」

耐え兼ねた男は手を伸ばし、アルシェのこめかみをビシッと弾く。
中々の威力なのかアルシェは男を離して椅子から飛び退いた。

「いったぁ! ちょっとちょっと、暴力反対ですよー隊長!」
「お前が言って聞かないからこうなるんだよ」
「今回はまだ何も言ってなかったでしょ…」

今回は、ということは普段から同じようなやり取りをしているのだろうか。
痛そうにこめかみを擦っているアルシェだが、ギスギスしたような雰囲気は感じられない。
それは隊長と呼ばれる男も同様だった。
フラムとダンとはまた違った信頼関係が2人にはあるのだろう。

「第二小隊のクロウ・フリューゲルだ。まぁ、顔と名前くらいは覚えておけ…それと突っ立ってないで、さっさと座ったらどうだ?」
「そいつはどうも。んじゃ、飯にするか」

ダンは何もなかったように席に座る。
腹を空かせているガストも我慢の限界で座るや否や、すぐに唐揚げに食らいつく。
この食堂の唐揚げは大味亭に勝るとも劣らない味で、ガストを大いに満足させた。





ガストたちも昼食を食べ終わり、新たに知り合った第二小隊の2人と話をする。
といってもクロウは特に話に入らず、タバコを吸って1人でのんびりしている。
アルシェの話し相手をガストたちが引き受けたおかけで面倒が減ったのか、機嫌が良さそうになった。

「へぇ~、あの3機、そんなゴミ捨て場みたいなところにあったんだ。よく見つけたね」
「俺の勘が冴え渡った結果だな」

ふふんとガストが胸を張って答える。
確かにゴミ山が怪しいと踏んだのはガストだが、SAがあるとは夢にも思っていなかった。
だが、アルシェは感心した様子で。

「ふふ、いいね~。私も結構勘に頼るタイプだよ」
「お前はもう少し頭を使え。部下ができても、ロクに指導出来ないんじゃ先が思いやられる」
「てへへ…」

聞いていないようで、話を聞いていたクロウに釘をさされる。

「さて…そろそろ休憩も終わりだな。お前ら午後は?」
「メテウスさんの講義の後、シミュレーターで訓練っすね」
「え!? 訓練あんの? 聞いてないけど」

講義はともかく、シミュレーター訓練は初耳だ。
だが、講義だけで午後が潰れるとは思えない。そう考えると当然ではある。
初日だからと言ってのんびりはさせてもらえないようだ。

「言ってなかったからな。ま、座学だけで終わってもつまんないだろ?」
「確かにガストなら聞いてる振りどころか、寝て終わるかもしれません」
「そんなわけ! …あるかも」

会ったばかりの人前で好き勝手言ってくれる。
ガストは講義するが、若干の眠気を感じて自信がなくなった。
講義の前に顔を洗っておこうと決めたガストだった。

「ウチもヒヨッコどもにシミュレーターをやらせる予定だから、そこで顔合わせだな。せいぜい仲良くやってくれ」
「それじゃ、またねー」

楽しい雑談ももう終わりだ。
第二小隊の2人と別れ、ガストたちも食堂をあとにした。





ブリーフィングルームに戻ったガストたちを出迎えたのは、メテウスの笑顔と分厚い機体のマニュアルだった。

「やぁ、おかえり。ご飯の後で眠くなるかもしれないがキッチリ聞いてくれよ」
「うっ!」

メテウスは軽口のつもりだろうが、ガストからすると食堂での会話を聞かれていたのかと疑いたくなる発言だ。
もちろんそんなことはなく、ガストのリアクションにメテウスは不思議そうな顔を浮かべた。

「どうしたんだい?」
「い、いや何でもない」
「そうかい? じゃあ始めよう」

メテウスが巨大なモニターを起動させる。
フラムは壁に寄りかかったままだが、ガストたちは席に座り、マニュアルをめくる。
ガストは気合いを入れてマニュアルを見るが、全然頭に入って来なかった。
文字による理解を早々に諦め、メテウスの話に耳を傾ける。

「まず、君たちの機体は3機での同時運用を前提として開発された。これはトライアル時に提出された運用データなんだが…」

モニターにマップ上に丸い駒で3機が表示された。
3機から離れた位置に大きな円が存在している。これが敵陣ということだろう。

「ドラーケンが敵陣に突撃、グリフォスはその上空援護を行う。そして混乱している敵をスフィンクの砲撃で撃破する…というのが3機のコンセプトだね」

モニター上ではドラーケンとグリフォスが敵陣に入り込み、大きかった円が別れて散り散りになった。
そこへスフィンクの砲撃が加わり、敵は直ぐに消滅した。

「まず、ドラーケン。この機体は他の2機と違って近接用の武器しかない。それもそのはず、さっき言った通り、こいつは真っ先に敵陣に突っ込むのが仕事だ」
「そんなことして大丈夫なんですか?」

パイロットのガストではなく、なぜかアラドが質問している。
ガストからすれば、このような運用方法でも性に合っているので特に気にならなかった。

「う~ん、正気を疑う設計だが、そのための機能は揃ってるんだ。飛行より前への加速を重視したブースター。リザッドより分厚い全身の装甲、さらに肩に仕込まれたエネルギーシールドでの前面への防御力…まさに特攻機だね」
「俺は接近戦の方が好きだし、頑丈なのはいいことだな」

改めて自分の機体と相性の良さを確認したガストは満足気に頷いている。

「それと完全な陸戦仕様という訳でもないけど、機体の重量から考えて飛行能力はおまけ程度に考えた方がいいよ」
「どれどれ…うっは、素のドレーク以下っすか」

後ろでマニュアルを眺めていたダンがぼやく。
午前中の会話でドレークは飛行可能時間が短いと聞いたが、ドラーケンはそれより酷いらしい。

「そういえば格納庫にドレークが2機あったんですけど、かなり装備に違いがありましたね」

ドレークの名前を聞いたアラドは格納庫での光景を思い出した。

「ああ、あれはパイロットの要望でね。黒い方は第二小隊の―――」
「さっき食堂で会いましたよ。アルシェも一緒に」
「そうか。彼は空中でのガンファイトが得意なんだ。だからフライトユニットを後つけして、多数の火器を装備してる、空飛ぶ弾薬庫だね」
「よくあんなチューンするよなぁ、旦那も」

フラムのドレークと比べると一般的な仕様かと思ったが、ダンの態度から察するに相応の技量がないと乗りこなせないものらしい。

「逆にフラムは剣一本での接近戦だから、装甲は少し厚くしたけど、機体の重心が高くなる装備はつけてない。一応、腕部に補助用の小型シールドなんかもあるけどね」
「ふ~ん」

パイロットに合わせてSAの武器を選択するのは知っていたが、ここでは機体本体にも手を加えているようだ。
問題集もあるが、ドレークという機体は拡張性に優れているようだ。

「おっと、フラムの視線が怖くなってきたから話を戻そう。次はグリフォスだね。この機体も中々厄介だ」
「正直、ドラーケンやスフィンクほど極端な機体ではないと思いますが」

それがアラドの率直な感想だった。
接近戦、砲撃戦と役割がはっきりしている2機と違ってグリフォスは普通な印象を受ける。
射撃がメインになるだろうが、ビームソードも装備しているので接近戦も可能だ。

「うん、確かに武装面で言えばワイバンやクロウのドレークに近い機体。だけど、この機体は敵陣に突っ込むドラーケンに追従する機動力を得るため、かなりの軽量化が施されている」
「…つまり、脆いということですか?」
「そういうこと。威力が低いマシンガン一発でもこの機体なら脅威となる…対処法はあるけど」
「それは?」
「当たらなければいいのさ」
「…了解です」

参考にならないアドバイスを頂く。
技術的な対処法はないと分かっただけでも、よしとする。
今度、クロウに話を聞こうと決めたアラドだった。

「あと気をつける点としてはライフルだね。実際使ったアラド君は気づいただろうけど、この機体のライフルは左右で違う物なんだ」
「そうなの?」

盗賊と戦闘した時に横で見ていたユイはライフルの違いに気付かなかった。見た目も同じ物だ。
だが、アラドには思い当たる節があった。

「確かに左右で連射速度が違ったような…」
「そうなんだ。右手に持っているイグル・ライフルは威力がある代わりに連射は出来ない。逆に左手のレーオ・シューターはその穴を埋めるように連射速度に優れている…威力はそれなりだけどね」
「相手を見て使い分けたり、組み合わせて使用する必要があるわけですね」
「ああ、アラド君ならきっと使いこなせるさ」

確かに特性を知っていれば使いようはある。
それにガストとユイでは気にせず扱うであろうことを考えると、この機体はアラドが適任だ。

「さて、最後にスフィンクだけど」
「ようやく私ね!」

待ってましたとユイが声を張り上げる。

「この機体の役目は、先の2機が暴れ回った後の残敵掃討だ」
「SAに乗ってもこいつらのお守りなの…」
「飯以外された覚えはねぇよ!」
「…」

一気にテンションが下がるユイ、情けない反論をするガスト、無視するアラド。
3人のリアクションでダンは吹き出しそうになった。
壁際のフラムも珍しく口元に笑みを浮かべている。

「あはは…話を続けるよ。と言ってもこの機体はシンプルだね。広範囲に攻撃する両肩の重ガトリング、チャージ式で高火力も発揮できるビームライフル…この2種を使って相手を牽制して撃破するようになるかな」
「要は撃ちまくればいいってことね」

メテウスの話を聞いているのか疑問に思うレベルだが、ユイ本人からしたらそういうことらしい。
実際、高度な戦術は求められていないのか、誰もツッコミをいれない。

「注意点としては、この機体に飛行機能が無いのと、肩のガトリングは射角が制限されるから空の敵には注意だね」
「その辺は味方頼みかぁ」
「あと、コックピットが操縦士と砲手の複座式になっているけど、ユイ君がやったように1人でも戦闘は可能になってる」
「まず1機に2人乗せるほど人がいないからな」

皮肉っぽくダンが冗談を言うが、フラムは気に入らなかったようで一睨みで黙らせた。
講義はここまでだ。
メテウスは一息ついてモニターを切る。

「さて、こんなところかな」
「わざわざすまなかった、メテウス」
「いやいや、データのためにもガスト君たちには頑張ってもらわないといけないからね。これくらいお安いご用さ。それじゃ」

笑顔で手を振りながらメテウスはブリーフィングルームから出ていった。
残されたガストたちだが、このまま終わりという訳ではない。
即座にフラムが口を開く。

「この後はシミュレーターでの戦闘訓練だ。及第点になるまで今日は終わらんからな」

及第点がどれ程のものかは聞いてないが、フラムが基準になるのなら厳しいことになるだろう。
そして、注意すべきところは、そこに到達するまで今日は休めないということだ。

「終わらないって…」
「いきなりキツくないですか…冗談ですよね?」
「私がつまらん冗談を言うと思うか?」

ガストとユイが怯えた様子で尋ねるが、フラムは不敵な笑みのまま言いきった。

「ダン少尉から隊長は話の分かる人だと聞きましたが…」
「ほう、私の部下が適当を言ったようですまないな。責任を取ってダン少尉も訓練に参加してもらおう」
「えええ! マジっすか!」

巻き込まれダンが悲鳴を上げる。
それほどフラムの訓練は厳しいのだろう。
道連れもできたのでガストたちは諦めて、フラムに連れられてシミュレータールームに向かった。
そして、釈然としないダンも含めてこってりと絞られたのだった。





日が完全に沈むまで訓練をしたガストたちはようやく夕食を終え、それぞれの部屋に戻った。
あの後、シミュレータールームでは、正門で会った第二小隊の面々と改めて顔合わせになり、合同での訓練となった。
今日1日で多くの人と出会い過ぎた。
アラドは疲れ果て、ベッドで横になる。

「ふぅ…中々にハードだったな」

一言呟き、天井を見つめる。
防音などはしっかりしているのか、隣の部屋にやかましいガストがいるはずだが、物音一つ聞こえない。
これまで過ごした家と違ってガストのいびきに悩まされることはなさそうだ。
疲れから眠気が押し寄せてくる。

「寝てしまう前にレポートか…」

今日の戦闘訓練について簡単にまとめておくよう、フラムから指示されたのを思い出す。
力尽きる前に最低限のことは終わらせておかねば。
ベッドから起き上がり、ノートパソコンの元へ行こうとした瞬間。
勢いよく部屋のドアが開かれ、聞き慣れたやかましい声が響いた。

「アラドー、遊びに来たぜー!」

ガストが遠慮もなく部屋の中に入ってくる。
言いたいことは山ほどあるが、とりあえずまず1つ言っておく。

「ノックをしろ」
「悪い悪い、ロックされてなかったからつい」

悪いと言いつつ、全く悪びれてないガストは空いてる椅子に座った。
そして、脇に抱えていたノートパソコンをテーブルの上に置く。
大体の流れは読めた。
だが、1%あるかないかくらいの可能性を信じて、アラドはガストに用件を尋ねる。

「それはなんだ?」
「いやー、戦闘結果のレポートとか言われても訳分からんから、一緒にやろうと思ってな」

可能性はなかったようだ。
そして、レポートに関してガストの言う一緒にとは、アラドの思うお互い協力する作業とは違うものだろう。
なんとか追い返す方法を考えていると、再び部屋のドアが開いた。

「アラドー、一緒にレポートやりましょー…げっ、ガスト」
「おいおい、そんな邪険にすんなよ」

同じようにノートパソコンを抱えたユイが部屋主のアラドを放っておいて入ってきた。
邪険にしたいのアラドだが、2人はそっちのけで言い合いを始めている。
先程までの静寂が嘘のようだ。

「勘弁してくれ…」
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