久遠の海へ ー最期の戦線ー

koto

文字の大きさ
15 / 36
最期の連合艦隊

3-3

しおりを挟む
 旗艦響は純然たる駆逐艦だ。列強各国の駆逐艦建造に大きな影響を与えた吹雪型は、間違いなくこの海上挺身隊最大戦力であった。なぜなら、残り3隻は駆逐艦でさえないからだ。

 その3隻は“択捉”、“笠戸”、“福江”である。そう、択捉型海防艦である。艦隊戦を意識していない海防艦3隻が挺身隊の残りの戦力なのである。
 さらに、その3隻はほとんど無傷であり、かつ北海道付近に停泊していた、というだけで今回の作戦に選ばれたに過ぎない。艦隊行動などは初めて行われた、本当に寄せ集めでしかなかった。
 
「艦長!占守島から無線連絡!!」
 ソ連軍の占守島への上陸から既に3日が経過していた。占守島そのものは上陸可能な海岸が限られるため、戦力の集中による防衛力は決して小さくないと考えられている。しかし、それでも本土防衛のため戦力が減少しており、増援も見込まれない現状では、いつ壊滅してもおかしくはない。
 その占守島から連絡があるという事は、それだけまだ玉砕していないことの証明でもあった。

「読み上げろ」
 響艦長の宇久奈が発する。無線は暗号化されておらず、また敵味方を問わず送られていた。
「は!。“我ら、未だ健在。竹田浜にて遅滞戦闘中”。以上です!!」
「全艦艇に通達!艦隊目標変更なし、占守島はなおも戦闘継続中。」
 
 艦橋に配属される全乗組員が声を上げる。この連絡は宇久奈にとって、また海上挺身隊総員にとって、士気向上につながった。それは、同じ連絡を受け取った残存日本軍にも同じであった。
 もっとも、それがいつまでも続くわけではない。既に満州では戦線が大きく後退したと報告があった。物量で劣る日本に勝ち目がないのは明白だった。
「占守島へ連絡を。平文で構わない!“連合艦隊、現在北上中。弾薬満載”と」
 
 もちろん、宇久奈たちは海上挺身隊だ。世界に名をはせた連合艦隊はもういない。しかし、それでも日本国民にとって連合艦隊は誇りであった。それは、海軍とは犬猿の仲とも言える陸軍にとっても同じであった。
 この無線が届けば、少しばかりではあるかもしれないが戦意高揚に繋がるかもしれない。そんなかすかな期待がこの一文の正体であり、現在できる最大の支援だった。
 
 
 さて、その海上挺身隊が占守島にたどり着くのは予定通りとはいかなかった。
 日ソ両艦隊による艦隊戦の1つ、“パラムシル沖海戦”が生じたためだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小日本帝国

ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。 大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく… 戦線拡大が甚だしいですが、何卒!

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。 徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。 堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる…… 豊臣家に味方する者はいない。 西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。 しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。 全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

暁の果てに火は落ちず ― 大東亜戦記・異聞

藤原遊
歴史・時代
―原爆が存在しなかった世界で、大東亜戦争は“終わらなかった”。― 硫黄島、沖縄、小笠原、南西諸島。 そして、九州本土決戦。 米軍上陸と同時に日本列島は泥濘の戦場と化し、 昭和天皇は帝都東京に留まり、国体を賭けた講和が水面下で進められる。 帝国軍高官・館林。 アメリカ軍大将・ストーン。 従軍記者・ジャスティン。 帝都に生きる女学生・志乃。 それぞれの視点で描かれる「終わらない戦争」と「静かな終わり」。 誰も勝たなかった。 けれど、誰かが“存在し続けた”ことで、戦は終わる。 これは、破滅ではなく“継がれる沈黙”を描く、 もうひとつの戦後史。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

処理中です...