侵略すること負のごとし

ゴナ

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第二話

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アスファルトで覆われた地面から見上げても雲に阻まれて天辺の見えない巨大ビルが何本もはえている。
この光景を見ればどんなに鈍い奴でもここが大変に栄えて[いた]ことがわかるだろう。
…………そう栄えていたのだ。
あたり一面を覆いつくしていたアスファルト道路にはいくつもの亀裂が走り、見上げても見上げきれない巨大ビルは窓という窓が割れ壁にひびがはいり、人が住んでいない事が遠目にも分かった。
「本当に人っ子一人いねぇな。」
亀裂のせいで段差だらけの道路の真ん中を歩きながら金髪碧眼の青年ルドルフがいかにもつまらなそうにぼやいた。
直後
「俺はこういうの嫌いじゃないけど。」
ルドルフとは対称的に楽しそうな声が響いた。
ルドルフがチラッと横に視界をやると赤髪赤目…………正確には赤に近いピンク色だが、とにかくあまりにも刺激的過ぎる色が目に入った。
「大和、お前な遊びに来たわけじゃないんだぞ。」
大和の呑気な発言にルドルフは溜息をつきながら応じた。
これから始まる仕事の結果次第では冗談抜きに死ぬこともありえると言うのに。
そんなことは大和も重々承知しているばずだが。
「そう固いこと言うなよ、今回は雑魚狩りだろ、作戦どうりにやれば何てことないって。」
知ってはいたが奴はそれだけのことでは止まらないらしい。
「そうだな。」
ルドルフは小さく呟いた。
目的地までは5分ほどかかる、その間ずっと大和と下らない話しをするだけで特に面白いこともなかったがそう悪い気はしなかった。
「着いたな。」
「情報によるともうすぐここに奴らの大軍が来るらしい。」
だからせめて武器くらい構えとけよと思いながらルドルフは懐から一組のガントレットを取り出した。
[ガントレットと言っても中世騎士が着けるようなものではなく、何て名前なのかも分からない金属で出来たパワードスーツのようなものだが。]
それを手際よく見に着けると両手を握ったり閉じたりして具合を確かめる、………悪くない。
「プルルルルル」
とポケットからやかましいアラームが響いた、ルドルフは直ぐに右ポケットに手を突っ込んで電話にでる。
「ルドルフ、準備はいいですかー。」
すると妙に間延びした声が携帯から聞こえてきた。
「ニーナか、こっちは準備OKだ、………何かお前の声聞いてるとこの作戦の事とか割りとどうでもよくなるな。」
「エエー!それはダメですよー、一度依頼を受けたんですからー、しっかり最後までやらないとー。」
「冗談だよ。」
するとニーナは電話の向こうでほっと息をついた。彼女は今ここから1キロ近くも離れた廃ビルの中にいるはずだがそこで彼女が慌てたり、ほっとしたりしている姿を想像すると自然に笑いがこみ上げてきた。
「ああ!今笑いましたねー!」
心の中だけで笑ったつもりだったがどうやら声に出てたらしい。
自分自身でその事に驚きながら、悪い悪いと返していたそのとき。
ぞっと背筋に悪寒が走り全身に刺すような殺気を向けられた。
「チッ!」
ルドルフは舌打ちをして携帯をポケットに突っこみ両拳を構え真上を見上げる。
そこには全長3メートルもある巨大なセミのような怪物が何十匹も浮かんでいた。
「団体様がお出ましだ!」
横から大和の状況と全く合っていない大声が耳に飛び込んできたがルドルフはそれを無視して目の前の敵を見据える。
奴らは王類、いつ頃か…………今よりずっと昔ということしか分からないがとにかく突如地球上に出現した人類の敵。
奴らは人間を見つけると自身の持つ能力全てを最大限活用して殺しにくる。
そして殺すだけ殺してなにもしない、食べるでもなんでもなく本当に殺すことだけが目的。
あの巨大ゼミは王類の中でも知能が高く、肉体も強靱で戦闘機でも太刀打ちできない。
「ギェェェェェ!!!」
大群のうちの一匹がけたたましく吠えながらルドルフに向かって砲弾の様な速度で突っ込んだ。
次の瞬間、百分の一秒もたたないうちにルドルフの身体は粉々にくだけ散る。
絶体絶命の状況にも拘らずルドルフは眉ひとつ動かさず、ここにくるまでと同じ無表情のままでボソッともらした。
「やっぱ虫だな。」
直後ルドルフの両拳から大気全体を震わせるような轟音とともに嵐の様な突風が吹き荒れた。
「ギギャーーーー!!!」
突風は眼前に迫っていたセミを容易く吹き飛ばし百メートル以上も離れた群れの方までも吹き飛ばす。


超能力…………かつて王類の手によって絶滅の危機にひんした人類から呼び覚まされた力。
ルドルフの持つ能力は送風、両拳から風を吹き出し一メートル以内に限りある程度操作できる。
その威力は絶大で戦闘機ですら敵わない巨大ゼミの群れは羽虫の様に蹴散らされもみくちゃにされていた。
だが見方を変えればただ吹き飛ばしただけ、死には至らない。
セミは直ぐに体制をととのえ逆襲にくるだろう。
「いつまで回ってんだ、虫共が。」
ルドルフが吐き捨てるように言った直後。
ズガガガガガ!!!!!!
凄まじい爆発音が響き、セミの群れの右側から紅く輝く熱線が幾本も飛来しセミの頭を正確に射ぬいていった。
「ワオ!ニーナの奴いい仕事するじゃん、俺も負けてらんねぇな。」
大和が戦闘中にも関わらず感心したように騒ぎ立て。
「お前今回はほとんど出番ないだろ。」
それにルドルフが冷静に突っこみを入れる。
今回は事前に群れの位置を特定できていたので、仲間の少女・ニーナには予め高台に陣取って粒子砲で狙撃を頼んでいたのだ。
ニーナの粒子砲によって巨大ゼミは次々と風穴を開けられ撃ち落とされていく。
しかし奴らも馬鹿ではない直ぐに狙撃されないようビルの影に身を隠していく。
いや、そればかりかビルの影に隠れたままルドルフの方へ突進していく。
「クソが!」
そう吐き捨てながらルドルフは自身の持つ二つ目の能力、パワーアッパー[超能力者なら程度の差こそあれだれでも持っているとされる単純な身体能力強化]を起動しニーナとは反対方向の左手にあるビルに向かって飛び上がった。
ズドン!と音を立てルドルフの身体が二十メートル以上もはねあがりビルの割れた窓から中へ吸い込まれるように入り、大和も同じくパワーアッパーを起動しあとに続いた。
そのままビル内の古びた机やイスを蹴散らしながら、弾丸の様な速さで走る。
ドギャ!という音が後ろから聞こえてきた。
恐らくセミが強引にビルに侵入してきた音だろうと思いながらルドルフはかける。
「なあ、やっぱこんなん回りくどくねえか。」
後ろから大和が走りながら話しかけてきた。
それにルドルフは捕走りながら話すと余分に体力を消耗することを自覚していながら返事をする。
「あの大群と闘うのは骨が折れる、それにいくら雑魚狩りと言っても油断は禁物だ。」
「真面目だねー。」
「俺が真面目になるのも、こんなに口うるさくなるのもお前にだけだぞ。」
ビルを抜け、二キロ近い距離をあっという間に通りすぎ右に曲がる。
「なにそれひどいじゃん。」
「戦闘中にまでヘラヘラしてる奴…………まあいなくもないがお前はあんまりに酷すぎる。」
若干言葉に詰まりながらも他愛ない会話してる間にまたも二キロを過ぎ右に曲がった。
次の瞬間左のビルの中から勢いよく巨大ゼミが飛び出した。
「ギェーーーー!!!」
と同時に腹に槍のようなものを受けて墜落した。
見れば大和の額からユニコーンの角のようなものがセミに向かって孤を描きながらのびている。
大和の能力セルフディフェンスホーンだ。
この能力は常時発動していて五メートル以内の生物の殺意や敵意などに反応して伸び相手を突き刺す、刺したあと角はとれて生え変わる。
一度に大勢の相手は出来ないが不意打ちが効かず、レーダーがわりにもなり、手数が増えることから、単純ながら強力な能力だ。
「虫のくせして不意討ちとかありかよ!」
「ありだろ、奴ら馬鹿な人間よりは賢いしな、恐らく俺らが曲がったのをずっとうしろで見てたんだろ。」
「んだよそんなん虫じゃねぇじゃん!」
「いいや虫だぜ。」
「?」
どういうことかいぶかしむ大和にルドルフは珍しく笑いながら話した。
「虫が人間と同じ思考なんざ出来る訳ねぇ、……時間制限がある、ほんの数分で考えたこと忘れちまうんだよ。」
右に曲がりながらルドルフは饒舌に語る。
「奴らも知っちゃあいるんだ、左に行ってから三回右に曲がるともとの位置に戻ることくらい、でも憶えてなきゃ意味ないよな。」
そう言いながらルドルフは一気に加速する。
そのあとを巨大ゼミが追跡する。
そして。
ズガガガガガ!!!!!!
爆発音とともに熱線が幾本も飛来し、一度見たはずなのにまるで生まれて初めて見たかのように巨大ゼミはことごとく撃ち落とされていく。
「やっぱ虫だな。」







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