いつか君に巡り逢える

原口源太郎

文字の大きさ
44 / 47
がんばれ、私

がんばれ、私

しおりを挟む
 私は無事、彼と同じ高校に合格した。大きな緊張が去って、大きな安堵が訪れると同時に、また大きな緊張がやってきた。
 高校に合格したら、彼に私の気持ちを打ち明けると決めた。そのために一年間、頑張って勉強してきた。
 でも、想いを告げるということは、とても勇気がいることだ。
 だって彼は私の存在すら知らないのだから。

 中三の頃、絵梨香は別のイケメンに熱を上げていたけれど、その一年前に築き上げた情報網は健在で、私の気持ちを知ってか知らずしてか、とにかく私に時々、彼の高校での様子を教えてくれた。
 彼は高校でも女子の注目の的らしいけれど、女嫌いというのも健在で、付き合っている人はいないとのことだった。
 でも私が告白したところで、振られるのは目に見えている。
 そう思ったけれど、彼と付き合うのが目的じゃない。私の想いを彼に伝えるのだ。結果はどうでもいい。いや、どうでもいいわけじゃないか。
 時々思い浮かべる。
 彼と楽しそうに歩いている自分。想像するのに結構苦労する。
 彼に振られて泣いている自分。これなら安易に想像できる。
 だけど、泣いている自分のために告白するんじゃない。私の気持ちを打ち明けないと、私自身がおかしくなってしまいそうだ。

 私は高校入学前の春休みに、告白を決行することにした。どうせなら早い方がいい。高校に入って、バタバタしてて、落ち着くのを待っていたら、いつになるかわからない。
 で、どうするかだ。
 私は彼の連絡先を知らない。絵梨香なら知っているかもしれないけれど、そんなことを相談するのも嫌だし。
 彼の家なら知っている。中学の時、絵梨香に連れられて彼の家の近くまで行ったことがある。彼が家から出てこないかなと、二人でしばらく眺めていたけれど、そんなに都合よくいくわけもなく、諦めて帰ってきた。
 もう一度、彼の家に行ってみよう。

 私は自分の部屋を出るとき、そして家を出るとき、行こうか止めようか、行こうか止めようか、その思考を何度も繰り返してから、やっと出かけた。
 彼の家の近くまで来てはみたものの、家のチャイムを鳴らす勇気はなくて、しばらくその辺をぶらぶらして帰ってきた。中学の時に惠梨香と来たのと同じ結末だ。
 こんなことをしていても埒が明かない。どうすればいいのだろう。私は数日、考えて過ごした。
 高校の入学式が済んだら学校で・・・・
 いやいや、とてもそんな勇気はない。周りの目がある。
 こうなったら彼の家に突撃だ。チャイムを鳴らして、彼が出てくれることの幸運を祈るしかない。

 そう意気込んで家を出てきたものの、彼の家の前まで来て足が動かなくなった。やっぱりチャイムを押す勇気がない。
 私は近くの壁際に立って待った。
 何を待っているのだろう。
 彼が家から出てきて、私を見つけてくれる幸運。
 このまま何事もなく時間が過ぎて、今日という日が終わること。
 明日から新学期が始まる。
 もし今日がダメだったら、諦めるつもりだった。これだけ頑張ったんだ。自分のできる事は目いっぱいやったつもり。これ以上は無理。
 でも、彼のことは好き。
 これからどうなっていくのかはわからない。
 ずっと片想いのまま、遠くから彼のことを眺めて幸せな気持ちでいるのだろうか。それとも別の好きな人ができるのかな。
 私はビルの陰に隠れようとしている太陽を見た。
 タイムリミットの日没まで、あと少し。

 もう帰ろう。そう思った時だった。
 彼だ。こっちに歩いてくる。
 まさか。どうしよう。本当に?
 どうしよう。
 今まで何度も心の中で練習してきたじゃない。
 でもダメだ。
 いけない、いけない。勇気を出すんだ。
 私は彼のところに駆け寄った。
「あの、すみません」
 できるだけ笑顔、笑顔。
 私はそれだけを自分に言い聞かせる。
 何を言ったらいいのか、わからなくなった。
 彼が私を見ている。
「私とお付き合いしてください」
 しまった。もっと違う言葉を言うはずだったのに。
 不審そうに私を見た彼は、そのまま家のほうに歩いていこうとする。
「私、高校に合格したら、あなたに告白したいと思っていました」
 できるだけ笑顔、笑顔。泣き出したい気持ちを必死になってこらえる。
 彼が足を止めた。
「中学生の時からあなたに憧れていました。あなたが高校に行ってから、私も同じ高校に入ると決めて、必死になって勉強しました。そして合格したら、絶対に想いを打ち明けるんだと決めていました」
 彼は怒ったような目で私を見ている。
 しまった。やめておけばよかった。
 急に涙が浮かんできて、もう抑えきれない。
「ごめんなさい」
 彼の顔が見られなくなって俯いた。
 彼はじっと動かずにいる。
 私もどうしていいのかわからなかった。
 でも、これで私の願いは叶えられたわけだ。
 私は彼の顔を見ることができずに、背を向けて帰ろうとした。
「待って」
 彼が言った。
「いきなりだったから、すぐに返事はできない。どんな答えになるかわからないけれど、必ず返事はするから、取りあえず連絡先を教えてくれ」
 私は必死になって涙をこらえながらスマホを取り出だした。



                   終わり (様々な恋の行方 短編集にて公開したものを再掲載) 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】前代未聞の婚約破棄~なぜあなたが言うの?~【長編】

暖夢 由
恋愛
「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」 高らかに宣言された婚約破棄の言葉。 ドルマン侯爵主催のガーデンパーティーの庭にその声は響き渡った。 でもその婚約破棄、どうしてあなたが言うのですか? ********* 以前投稿した小説を長編版にリメイクして投稿しております。 内容も少し変わっておりますので、お楽し頂ければ嬉しいです。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。

毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...