ヒーロマン

原口源太郎

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 銀行内では二人の銀行強盗が床で伸びている。
 銀行員と客たちに安堵の表情が広がっていた。
 ヒーロマンは倒れていた少女に手を差し伸べて助け起こしてやる。
 微笑みかけた少女の顔が恐怖に変わった。
 ヒーロマンのこめかみに拳銃の銃口が押し付けられる。拳銃を持っているのは客として少女らと共に怯えていた若い女。
 女はいつの間にか犯人が持っていた布袋を持っている。袋の中にはまだお札がたくさん残っていた。
「よくも邪魔してくれたね」
 女が言った。
 ヒーロマンは凍り付いたように身動きせず、目だけを目いっぱい横に寄せて女を見ようとする。
「何のことだ? 私は正義の」
 女が拳銃の引き金を引いた。
 ヒーロマンが床に崩れ落ちる。それと同時に拳銃も音を立てて床に落ちた。
 周りでまた悲鳴が上がる。
 若い女は驚いた顔をして、血まみれになった自分の手を見ている。
 ヒーロマンが再び、むくっと起き上がった。
「さすがにこれは効いた。だが体もコンピューターも異常はなさそうだ」
 女は恐怖に目を見開いている。
「私の体は拳銃の弾は通さないよ。だから私の体に銃口を押し付けて弾を発射するなんて無茶しちゃ駄目だ」
 ヒーロマンは女に説教するように言った。
 女はヒーロマンを見、だらだらと血の流れる自分の手を見て気を失い倒れた。
 ヒーロマンは少女の前に立つ。
「驚かせてしまって済まない。それじゃ、さよならだ。私のことは内緒にしておいてくれ」
 ヒーロマンは小声で少女に言った。
 そして周りの人々を見まわす。
「私は正義の味方、ヒーロマン。さらばだ!」
 銀行内の人々は事件が無事に解決して喜んでいたが、改めてヒーロマンの異様な姿に気付き唖然となる。
 ヒーロマンはそんなことはつゆ知らず、踵を返すと手を振りながら走り去っていく。

 銀行からヒーロマンが走り出てきた。
 一斉にカメラのフラッシュが遠方で光る。
 ヒーロマンは立ち止まり、腰に両手を当てて周りをぐるりと見る。
「安心しなさい、全ては無事に解決した。さらばだ!」
 ヒーロマンは「わははは」と笑いながらシュタタタタタッと一瞬にして走り去る。
 残された数十人の警官たちは、ただぼけーと突っ立ってその姿を見送った。

 ビルとビルが触れ合うようにして建っている。
 ごみの散乱した薄暗く狭い路地の陰で一人の男がせっせと着替えていた。
 黒と青と赤と白のスーツを脱ぎ、トランクス一枚になっているのはまさしくヒーロマン。
「きゃー!」
 ズボンを履きかかったところで悲鳴が上がった。
 買い物カゴを持った母と幼い娘が、驚いた様子でヒーロマンを見ている。
「はははは。私はヒーロマンではないぞ。さらばだ」
 ヒーロマンから一般人に戻りかけた翔平は地面の荷物をがばっと拾い上げ、履きかけのズボンを引っ張り上げると、一瞬にしてその場から走り去って姿を消した。



                                   終わり
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