10 / 35
第二章
2
しおりを挟む
遊園地のネズミにもう一度尋ねると、北に街があるからそこに行ってみろと教えられ、真人たちは北を目指した。
「あれは何?」
走る車の中でトレーシーが指さした先には、パリのエッフェル塔と凱旋門があった。周りの街並みがないから、ひどく寂しく見える。
「あの鉄塔がパリのエッフェル塔で、アーチの門が凱旋門。トレーシーのお国の近くだから知っているだろ?」
「知らなーい」
トレーシーは無邪気に言った。
トレーシーの家族が日本に来て三年になる。トレーシーの両親は大学で日本の学生を相手に教鞭をとっている。真人たちが新しいマンションに引っ越した時、同時期にお隣に引っ越してきたのがトレーシーたちだった。
真人の家族がそこに引っ越す前に住んでいたマンション部屋の隣に謙太郎の家族が住んでいた。真人の家族は元々近所の人達との付き合いがよく、真人も謙太郎を弟のようにかわいがっていた。
謙太郎が新しい真人の引っ越し先に遊びに来た時、トレーシーを見かけ、一発でそのブロンドに夢中になってしまった。元々このドライブは謙太郎とトレーシーを友達にするという名目で真人が考えたことだった。
「あれは何?」
トレーシーが指さした先に巨大な廃墟があった。
「あれは多分バベルの塔だと思う。絵で同じようなものを見たことがある。実在はしないはずなんだけど」
「ふーん、変なの」
「バベルの塔って言っても知らないか」
「知らなーい」
「お、あれかな?」
目の前に寂れた街が見えてきた。
木の看板、木の建物、キーキーと風に吹かれて鳴く扉。
「こりゃあ、西部劇に出てくるような街だな」
「汚いところ」
トレーシーは不機嫌そうに埃にまみれた街を見まわした。
「誰か人がいたら訊いてくる。一緒に来る?」
「私、ここで待ってる」
真人は車を降り、近くの建物の扉を開けた。
中にはカウンターと幾つかのテーブルがあり、カウンターの後ろに何本ものボトルが並んでいた。テーブルのカウボーイハットの男たちとカウンターの中のバーテンが真人を見た。
「いらっしゃい」
バーテンがグラスを拭きながら言った。
「ちょっとお尋ねしたいんですが、黒い髪の七歳の男の子か、十八歳の女性を見ませんでしたか?」
真人はバーテンに尋ねた。
「さあね、この町にもそんな子は何人かいるけど」
「東洋人なんです」
「それじゃ知らないな。お客さんに訊いてみな」
真人はバーテンに言われた通りにした。
「さあね。坊主、人にものを訊ねるときは、それなりのものがいるんだぜ」
「それが礼儀ってもんだ」
腰にガンベルトを巻いた西部劇そのままの男たちは、ガハハと品なく笑った。
真人は腹を立てながら酒場を出ようとした。
その時、銃声が轟いた。
「伏せろ!」
誰かが叫んだ。
真人は床に伏せた。
舗装されていない道を、もうもうと砂煙を上げて馬に乗るインディアンたちが駆け抜けていく。
真人は扉から顔を出した。幸い車は何もされていない。トレーシーは無事らしい。
不意に真人は襟首を掴まれて、中に引っ張り込まれた。
「危ねえだろ。インディアンに頭を吹っ飛ばされるか、頭の皮を剥がされたいのか」
そう言ったのはカウボーイハットの一人だった。
パンパンと幾つかの銃声が響き、ガラガラバリバリと物の壊れる音がした。
やがてインディアンたちは来た道を引き返し始めた。真人の車のほうで何やら話し声がする。
もう一度真人が扉から顔を出して見ると、インディアンたちが車を取り囲んでいた。
「あれは何?」
走る車の中でトレーシーが指さした先には、パリのエッフェル塔と凱旋門があった。周りの街並みがないから、ひどく寂しく見える。
「あの鉄塔がパリのエッフェル塔で、アーチの門が凱旋門。トレーシーのお国の近くだから知っているだろ?」
「知らなーい」
トレーシーは無邪気に言った。
トレーシーの家族が日本に来て三年になる。トレーシーの両親は大学で日本の学生を相手に教鞭をとっている。真人たちが新しいマンションに引っ越した時、同時期にお隣に引っ越してきたのがトレーシーたちだった。
真人の家族がそこに引っ越す前に住んでいたマンション部屋の隣に謙太郎の家族が住んでいた。真人の家族は元々近所の人達との付き合いがよく、真人も謙太郎を弟のようにかわいがっていた。
謙太郎が新しい真人の引っ越し先に遊びに来た時、トレーシーを見かけ、一発でそのブロンドに夢中になってしまった。元々このドライブは謙太郎とトレーシーを友達にするという名目で真人が考えたことだった。
「あれは何?」
トレーシーが指さした先に巨大な廃墟があった。
「あれは多分バベルの塔だと思う。絵で同じようなものを見たことがある。実在はしないはずなんだけど」
「ふーん、変なの」
「バベルの塔って言っても知らないか」
「知らなーい」
「お、あれかな?」
目の前に寂れた街が見えてきた。
木の看板、木の建物、キーキーと風に吹かれて鳴く扉。
「こりゃあ、西部劇に出てくるような街だな」
「汚いところ」
トレーシーは不機嫌そうに埃にまみれた街を見まわした。
「誰か人がいたら訊いてくる。一緒に来る?」
「私、ここで待ってる」
真人は車を降り、近くの建物の扉を開けた。
中にはカウンターと幾つかのテーブルがあり、カウンターの後ろに何本ものボトルが並んでいた。テーブルのカウボーイハットの男たちとカウンターの中のバーテンが真人を見た。
「いらっしゃい」
バーテンがグラスを拭きながら言った。
「ちょっとお尋ねしたいんですが、黒い髪の七歳の男の子か、十八歳の女性を見ませんでしたか?」
真人はバーテンに尋ねた。
「さあね、この町にもそんな子は何人かいるけど」
「東洋人なんです」
「それじゃ知らないな。お客さんに訊いてみな」
真人はバーテンに言われた通りにした。
「さあね。坊主、人にものを訊ねるときは、それなりのものがいるんだぜ」
「それが礼儀ってもんだ」
腰にガンベルトを巻いた西部劇そのままの男たちは、ガハハと品なく笑った。
真人は腹を立てながら酒場を出ようとした。
その時、銃声が轟いた。
「伏せろ!」
誰かが叫んだ。
真人は床に伏せた。
舗装されていない道を、もうもうと砂煙を上げて馬に乗るインディアンたちが駆け抜けていく。
真人は扉から顔を出した。幸い車は何もされていない。トレーシーは無事らしい。
不意に真人は襟首を掴まれて、中に引っ張り込まれた。
「危ねえだろ。インディアンに頭を吹っ飛ばされるか、頭の皮を剥がされたいのか」
そう言ったのはカウボーイハットの一人だった。
パンパンと幾つかの銃声が響き、ガラガラバリバリと物の壊れる音がした。
やがてインディアンたちは来た道を引き返し始めた。真人の車のほうで何やら話し声がする。
もう一度真人が扉から顔を出して見ると、インディアンたちが車を取り囲んでいた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる