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一年経ち、私は吹奏楽部の部長職を中西に譲った。
彼は恵まれ過ぎるほど恵まれた環境と才能を持っているにも関わらす、プロとして音楽に関わっていくつもりはないらしかった。
「プロのスポーツ選手だって同じでしょ? 裕福な生活ができるのは、ごく一部の特別な才能と運に恵まれた人たちだけだって。僕はそんなものに自分の人生を賭けたくないですね」
そんなことをほざいている。
私は中西のパートナーになるとは思ってないし、お付き合いの申し出によろしくお願いしますと手を差し出すつもりもない。ただ、中西がパラポンパラ星人に造られたロボットだと知っている人間は私一人だし、その事について二人で話しをする機会が増えたのは事実だ。
ただの部活の先輩後輩の間柄以上に二人でいる時間は多かったが、だからといって付き合っているというほど深いものでもなかった。
中西が話してくれたことをまとめると、中西の両親もロボットで、中西を育てる、ではなくて改造するために存在しているとのことだった。人間に限らず、地球上のほとんどの生命は成長といわれる方法で姿を変えていく。
だから中西を子供として面倒を見ることになった両親は、小型のロボットを世に出してから少しずつ改造して大きくしていった。
大人といわれる程度に大きくしたら、あとは自分で行う。それは年相応に老けていくということだ。そして中西は地球で最後に造られたパラポンパラ星人によるロボットだった。
それまでに存在したロボットたちによって、地球の中心にエネルギーを蓄える作業と地球の外殻を強化する作業の段取りはほぼ終わっている。最後のロボットの中西はそれらの作業の仕上げが担当だった。
「何でパラポンさんはそんなことをするの?」
私は中西と、広い川の見える堤防の土手に座って景色を眺めていた。いちいちパラポンパラ星人というのも面倒くさいのでパラポンさんと縮めている。
「地球人が嫌いだからです。地球人じゃなかった、人間が」
「人間が嫌いな理由は?」
「さア、生理的に受け付けないんじゃないですか? 姿を見るのも嫌だって聞いたことがあるし、特に話す言葉は波長が合わないみたい」
「言葉の音域?」
「言葉にしろ、楽器の奏でる音にしろ。パラポンパラ星人はもっと全然違う音域で通信をしてて、人間の聞こえる音域、もっと言うと人間が普段話している音域と音質が凄く嫌みたいです」
「それでさっきの質問の答えは?」
「何でしたっけ?」
「あなた本当にロボット?」
「人間並みに造られてるって言ったでしょ。思い出した。何でそんなことをするかというと、地球内部に溜めたエネルギーを一ヶ所から勢いよく放出するためです。すると地球は自転しながら公転軌道を外れて太陽から遠ざかっていきます。やがて熱や大気を奪われてほとんどの生物は死滅します。そこでパラポンパラ星人が登場します」
「パラポンさんたちは何をするの?」
「資源に乏しいパラポンパラ星人たちは地球から様々な資源を頂いていくんです」
「それはいつ頃の話?」
「今から261年後に富士山からエネルギーの放出を始める予定です」
「あなたはそれまで生きているの?」
「さあ。それよりずっと前に僕のやらなければならない作業は完了しているから、どうかな? いちよう261年後より後にも、すべきことはプログラムされていますけど」
「じゃあ、261年後に人類は絶滅しちゃうんだ」
「はい。人類だけでなくほとんどの地球上の生物は死に絶えます」
そんな話をしながらも私はまだ中西がロボットだなんて信じてはいなかった。
それから十年経った。251年後に富士山は大噴火することになっている。
私は籍を入れ、翔太と夫婦になった。
翔太というのは中西の名前で、十一年前のまさかのプロポーズの結果が今の私たちだ。
私は十一年付き合って籍を入れるという直前に本心を打ち明けた。
「実は私、あなたがパラポンさんに造られたロボットだなんて本気で思ったこと、一度もなかったんだ」
「ええ!?」
翔太は本気で驚いたようだった。
「僕がロボットだって嘘ついていたの、わかってたの?」
「もちろん、ていうか、あなたは私が本気で信じてると思ってたの? ロボットの癖に?」
つい今までの癖でロボットだと言ってしまった。
「いや、だって本当はロボットじゃないから・・・・」
最後の方の言葉は徐々に小さくなっていく。
「ほらやっぱり。何だか信じてるふりをするのも、もういいかなって。疲れちゃったし」
「僕ももういいかなとは思ってたんだ。だけど何だか言い出せなくて」
「この段階でチャラにできたんだから良かったんじゃない?」
「うん。僕がパラポンパラ星人に造られたロボットだって言わなきゃ、美咲は僕と付き合ってくれなかっただろうし」
「そうだよね。あの頃私、あなたのこと大嫌いだったし」
「大嫌い!?」
「うん、凄く嫌いだった」
翔太が肩を落として落ち込む。
「でも、今は大好きだからいいじゃない」
「うん」
翔太が笑顔になって私を見た。
僕は251年後の富士山の噴火をどんな思いで見るのだろう。美咲はその時はすでにいない。その大惨事を知らずに死んでいくことが救いに思えた。
終わり
彼は恵まれ過ぎるほど恵まれた環境と才能を持っているにも関わらす、プロとして音楽に関わっていくつもりはないらしかった。
「プロのスポーツ選手だって同じでしょ? 裕福な生活ができるのは、ごく一部の特別な才能と運に恵まれた人たちだけだって。僕はそんなものに自分の人生を賭けたくないですね」
そんなことをほざいている。
私は中西のパートナーになるとは思ってないし、お付き合いの申し出によろしくお願いしますと手を差し出すつもりもない。ただ、中西がパラポンパラ星人に造られたロボットだと知っている人間は私一人だし、その事について二人で話しをする機会が増えたのは事実だ。
ただの部活の先輩後輩の間柄以上に二人でいる時間は多かったが、だからといって付き合っているというほど深いものでもなかった。
中西が話してくれたことをまとめると、中西の両親もロボットで、中西を育てる、ではなくて改造するために存在しているとのことだった。人間に限らず、地球上のほとんどの生命は成長といわれる方法で姿を変えていく。
だから中西を子供として面倒を見ることになった両親は、小型のロボットを世に出してから少しずつ改造して大きくしていった。
大人といわれる程度に大きくしたら、あとは自分で行う。それは年相応に老けていくということだ。そして中西は地球で最後に造られたパラポンパラ星人によるロボットだった。
それまでに存在したロボットたちによって、地球の中心にエネルギーを蓄える作業と地球の外殻を強化する作業の段取りはほぼ終わっている。最後のロボットの中西はそれらの作業の仕上げが担当だった。
「何でパラポンさんはそんなことをするの?」
私は中西と、広い川の見える堤防の土手に座って景色を眺めていた。いちいちパラポンパラ星人というのも面倒くさいのでパラポンさんと縮めている。
「地球人が嫌いだからです。地球人じゃなかった、人間が」
「人間が嫌いな理由は?」
「さア、生理的に受け付けないんじゃないですか? 姿を見るのも嫌だって聞いたことがあるし、特に話す言葉は波長が合わないみたい」
「言葉の音域?」
「言葉にしろ、楽器の奏でる音にしろ。パラポンパラ星人はもっと全然違う音域で通信をしてて、人間の聞こえる音域、もっと言うと人間が普段話している音域と音質が凄く嫌みたいです」
「それでさっきの質問の答えは?」
「何でしたっけ?」
「あなた本当にロボット?」
「人間並みに造られてるって言ったでしょ。思い出した。何でそんなことをするかというと、地球内部に溜めたエネルギーを一ヶ所から勢いよく放出するためです。すると地球は自転しながら公転軌道を外れて太陽から遠ざかっていきます。やがて熱や大気を奪われてほとんどの生物は死滅します。そこでパラポンパラ星人が登場します」
「パラポンさんたちは何をするの?」
「資源に乏しいパラポンパラ星人たちは地球から様々な資源を頂いていくんです」
「それはいつ頃の話?」
「今から261年後に富士山からエネルギーの放出を始める予定です」
「あなたはそれまで生きているの?」
「さあ。それよりずっと前に僕のやらなければならない作業は完了しているから、どうかな? いちよう261年後より後にも、すべきことはプログラムされていますけど」
「じゃあ、261年後に人類は絶滅しちゃうんだ」
「はい。人類だけでなくほとんどの地球上の生物は死に絶えます」
そんな話をしながらも私はまだ中西がロボットだなんて信じてはいなかった。
それから十年経った。251年後に富士山は大噴火することになっている。
私は籍を入れ、翔太と夫婦になった。
翔太というのは中西の名前で、十一年前のまさかのプロポーズの結果が今の私たちだ。
私は十一年付き合って籍を入れるという直前に本心を打ち明けた。
「実は私、あなたがパラポンさんに造られたロボットだなんて本気で思ったこと、一度もなかったんだ」
「ええ!?」
翔太は本気で驚いたようだった。
「僕がロボットだって嘘ついていたの、わかってたの?」
「もちろん、ていうか、あなたは私が本気で信じてると思ってたの? ロボットの癖に?」
つい今までの癖でロボットだと言ってしまった。
「いや、だって本当はロボットじゃないから・・・・」
最後の方の言葉は徐々に小さくなっていく。
「ほらやっぱり。何だか信じてるふりをするのも、もういいかなって。疲れちゃったし」
「僕ももういいかなとは思ってたんだ。だけど何だか言い出せなくて」
「この段階でチャラにできたんだから良かったんじゃない?」
「うん。僕がパラポンパラ星人に造られたロボットだって言わなきゃ、美咲は僕と付き合ってくれなかっただろうし」
「そうだよね。あの頃私、あなたのこと大嫌いだったし」
「大嫌い!?」
「うん、凄く嫌いだった」
翔太が肩を落として落ち込む。
「でも、今は大好きだからいいじゃない」
「うん」
翔太が笑顔になって私を見た。
僕は251年後の富士山の噴火をどんな思いで見るのだろう。美咲はその時はすでにいない。その大惨事を知らずに死んでいくことが救いに思えた。
終わり
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