大衆娯楽小説 短編集

原口源太郎

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ラーメンで一儲け

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 そのラーメンどんぶりのありふれたデザインが良かったからでも、少し縁が欠けたところが気に入ったからでもなかった。
 つい先日、愛用のどんぶりを割ってしまい、新しいどんぶりを買い求めに来たのだが、そのラーメンどんぶりが貧乏学生の僕を引き付けた理由は、ただ単に、ただみたいな値段のためだった。

 自炊をしているので、米は炊く。おかずは大抵ラーメンだ。袋入りのインスタントラーメン。ラーメンには時によって卵を落としたり、もやしを入れたり、刻み葱を乗せたり。
 今日はちょっとばかり奮発して、肉入りの野菜炒めを乗せた、みそラーメンだ。
 麺を茹でて、粉のスープの素を入れる。
 新しく買ってきたどんぶりに鍋の中身を丸ごと移し、フライパンで炒めた野菜を乗せて出来上がり。
 いただきまーす。
 チュルチュル。
 うん、うまい。我ながらいい出来。
 チュルチュル、チュルチュル。
 ん?
 チュルチュル。チュルチュル。
 ん? おかしい。麺が減らない。
 気のせいかな?
 チュルチュル、チュルチュル。
 チュルチュル、チュルチュル。
 モグモグ。
 お腹がいっぱいになってきた。
 それでもまだラーメンはどんぶりの中一杯にある。
 普通ならどんぶりの中は空っぽになっているはずだ。
 僕は狐につままれたような気分になった。
 もう少し。
 チュルチュル。チュルチュル。
 僕は行けるところまで行って、ついにギブアップした。
 それでもどんぶりの中には、食べる前と同じようにラーメンがしっかり入っている。
 僕はいったん頭を冷やして冷静になるために、どんぶりはそのままにして外に出かけた。

 当てもなく歩き回っているうちに、色々な考えが頭に浮かんできた。
 いくら食べてもラーメンの麺が減らないのは間違いない。
 僕はとんでもないどんぶりを手に入れてしまったようだ。
 これで毎日の食費が浮く。いや、ラーメンを売って稼げるんじゃないかな?
 さっきはインスタントラーメンの麺だったけれど、もっと高い麺で試してみて、それが次から次へと湧いて出てくるようなら、ラーメン屋として成り立つかもしれない。
 いや、何かもっと他にも道はあるはずだ。もっともっと稼げる方法が。
 麺だけ売ろうか。それなら元手はただだから儲かるに違いない。いやいや、もっと稼げる方法はあるはずだ。
 とりあえず僕はスーパーで買える一番高い生麺を買って帰ることにした。

 家に帰ると、どんぶりはまだなみなみとラーメンを湛えていた。
 僕は一口、ラーメンをすすってみた。
 冷たくて伸びきっている。
 僕は麺を箸ですくい、流しに捨てていった。
 どんぶりからは冷たくなって伸びきった麺が次から次へと出てくるだけだ。
 僕は諦めてどんぶりの中身を全部流しにぶち空けた。
 空になったどんぶりを洗い、しげしげと眺めてみる。
 どうってことのない、ごく普通のラーメンどんぶりだ。少し普通でないところがあるとすれば、縁が少し欠けているところくらい。
 ま、いいや。
 僕はウキウキする気持ちで、スーパーで買ってきた普段口にすることのない生麺タイプのラーメンを作り始めた。

 どんぶりに盛って食べたラーメンはうまかった。
 うまかったせいか、あっという間に終わってしまった。
 ん?
 もうない?
 汁の中に残っている麺をさらった。それ以上麺は増えてこない。
 おかしいな。
 そこで僕ははっと気が付いた。
 流しに捨てたラーメンを見てみる。
 伸びきって冷たくなったインスタントラーメンの麺だ。
 麺を掴んでゴミ箱に放り込んでいく。
 麺は流しの排水口から次々とあふれ出してくる。
 どんぶりが普通じゃなかったんじゃなくて、この麺が普通じゃなかったんだ。
 流しの底で存在感を放つラーメンを見て、僕は改めて気が付いた。
 流しを丸ごと交換しなければならないことに。
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