様々な恋の行方 短編集

原口源太郎

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彼女ができたなんて嘘

彼女ができたなんて嘘

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「俺さあ、彼女ができたんだ」
 唐突に勇介が言った。
「え、彼女?」
 思わず聞き返した。
 僕は親友の勇介と大学構内の高い木々の下の道を歩いていた。
「うん。ネットで知り合ったんだ」
 勇介が僕を見て言った。
 勇介はイケメンだ。今まで彼女がいなかったのが不思議だった。だけどやっと不思議じゃなくなる日が来たようだ。
 でも。
「ネット? 大丈夫?」
「大丈夫だよ。同じ大学の子。もう会ったことがあるんだ。すげえ可愛いんだぜ」
「そうか」
 僕は複雑な思いで返事をした。
「どうした?」
「お前は僕のことを」
「待て。それ以上言うな。俺は普通だ。俺の恋愛対象は女だ。男じゃない」
「それはわかってるよ。お前は僕のことを男しか愛せないと思ってるんだろ? でも違う。今まで男に恋愛感情を抱いたことなんてなかった」
「そうか? 俺の思い違いか。ならいい。彼女ができたなんて嘘だ」
 そう言って真剣な顔で僕を見ていた勇介が微笑んだ。
「なんだ。僕を試していたのか。ひどいな」
 確かに僕は今まで男の人を好きになったことなんてなかった。恋愛対象になることさえなかった。
 勇介と知り合うまでは。
 僕は悲しくなって、泣き出しそうになった。
 そんな様子を勇介に見られたくなくて、走り出した。
「おい」
 勇介が僕を追って走り出す。
「来るな」
 そう言って僕は思いっきり走り、講堂裏に行った。一人になりたかった。
 立ち止まった僕を、追ってきた勇介がいきなり抱きしめた。
「ごめん」
 勇介が慌てて離れた。驚いた顔で僕を見る。
「おまえ・・・・」
 そう。僕は勇介が好きだ。愛している。
 僕は今まで女の人しか好きになったことがなかった。だから僕の心はずっと男だった。たとえ体が心と違うとしても。
 僕は大学に入ると男として暮らし始めた。それが正しい自分だと思っていた。勇介と知り合い、好きになるまでは。
「お前、女だったのか?」
 勇介が驚いたままの顔で言った。
 目頭が熱くなって、勇介の顔が滲んで、僕は目を伏せた。
「うん」
 やっとそれだけを言った。
「よかった。俺、お前を好きになったと気が付いて、頭がおかしくなりそうだった。俺は普通だったんだ」
「僕も、僕も勇介のことが好きだ」
 僕は涙をぬぐいながら言った。



                             おわり 
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