様々な恋の行方 短編集

原口源太郎

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いつもと違うデート

いつもと違うデート

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 今回のデートは、お互い自分のしたいことをして、相手はそれに付き合うということにした。午前中とお昼ご飯までは結衣の行きたいところ、やりたいことに僕が付き合う。午後はその逆だ。
 まず結衣は僕を買い物に連れ出した。
 実を言うと、僕はそれが苦手だった。
 結衣と付き合いだした頃に、二人でよくデートをした場所はデパートやショッピングモールで、結衣は楽しそうに自分の服や僕のための服を見て回った。小物や食品の買い物にも付き合わされた。
 結衣は買い物で色々と見て回るのが好きだったけれど、僕は好きじゃなかった。正直、自分の服にさえそれほど興味がなかったから、人の服なんてなおさらだった。
 何度かデートを重ねるうちに結衣にもそれがわかってきたようで、二人で買い物に行くことをやめてしまった。
 だけど結衣はずっと僕と買い物をしたいと思っていたのだろう。
 だから今日、僕は目いっぱい真摯に買い物に付き合った。

「この服、似合うかな?」
 そう訊かれれば、
「うーん」
と、本気で考えた。考えてもよくわからなかった。
「私に似合うんじゃない?」
と訊かれれば、
「うん、似合うよ」
と答え、
「これはダメかな?」
と言われれば、
「うーん、ダメだね」
と答えた。
 それは結衣の服もそうだったし、結衣がプレゼントしてくれた僕の服に対してもそうだった。
 二時間ほど買い物をし、僕はぐったりと疲れてしまった。
 その後で結衣の行きたいという、ちょっと高級なレストランに行った。そのために僕たちは普段のデートでは着ないような服装までしてきていた。

 食事が済んでからは僕の時間だった。
 僕の夢は結衣と二人で有名な温泉地に行って温泉に入るというものだった。一日のデートでそれは無理なので、近くの施設にある温泉で我慢した。
 僕は爺くさいと言われるけれど、温泉に行くのが大好きだった。特に秘境の宿なんて言われているところを訪ねるのは最高だった。
 逆に結衣は温泉が苦手だった。温泉が苦手というより、湯船に長く浸かっているのが苦手のようだった。
 男湯と女湯の大きな暖簾がかかっている前で僕は結衣に言った。
「待ち合わせは一時間後。あまり早く出てきちゃダメだよ。温泉を楽しむんだから」
「はーい」
 結衣は諦めた顔で言った。

 一時間後に男湯から出ていくと、結衣はすでに休憩室でくつろいでいた。
「待った?」
 僕は待ちくたびれた様子の結衣に尋ねた。
「ちょっとね」
「どれくらいで出てきたの?」
「四十五分。これでもよく持ちこたえた方だわ」
「はいはい」
 その後、僕たちは近くの喫茶店で冷たいデザートを食べた。

 それから僕たちは街の見渡せる丘の上の公園に行った。
 もう夕方になろうとしている。
 沈む夕日を見ながら二人で話をしたいというのが、僕のもう一つのやりたいことだった。
 僕たちはベンチに腰掛けて昔話をした。
 出会った頃のこと。初めて見た時の印象は? その後、相手のことをどう思っていたのか。
 そして付き合いだしてからの出来事。みんな素敵な思い出だった。
 街は徐々に夕日に照らされて、柔らかなオレンジ色に染まっていく。とても綺麗だった。

 僕たちは話し続けた。
 ふと気が付くと街には無数の明かりが灯り、空は藍色に塗り替えられていた。
「寒くなっちゃった。帰りましょう」
 結衣が立ち上がった。
 僕も立ち上がる。
「今日は楽しかった。ありがとう」
「僕のほうこそ」
「じゃ、私行くね。今までありがとう。幸せになってね。」
「うん。結衣も」
「さようなら」
「さようなら」
 結衣は荷物を持つと、背中を見せ、そのまま公園の外へと歩いていった。
 結衣は明日、自分の夢に挑戦するために外国へ行く。夢がかなうまで日本には帰ってこないつもりだ。

 僕はもう二度と見ることのできないその背中を見送った。

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