様々な恋の行方 短編集

原口源太郎

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愛おしい君

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 よくしてもらっているお得意先の店で、君はアルバイトとして勤めだしていた。
 初めて少し話をした時、まるで子供のように笑う人だなと思った。
 その時はそれきり、君のことは頭の中から消えてしまっていた。
 数週間後にまた君と話をして、その笑い声を聞いたときに以前にも会っていたことを思い出した。君は笑う時もそうだったし、話をするときも子供のように無邪気だった。
 君は美人じゃなかった。だけどなぜか僕の心に残った。
 それ以来、その店に行くことが楽しみになった。大抵君はいないか、いても僕の本来の営業相手の店長がいれば君と話をする機会はなかった。
 そんな時は店長と話をしながらも視界の隅で君の姿を追っていた。

 初めて話をしてから半年がたち、僕は君に交際を申し込む意思を固めた。
 それまでの会話で君は独身で一人暮らしをしていること、付き合っている男がいないことくらいはそれとなく聞き出していた。
 もし振られても仕方がない。当たって砕けろだ。何か行動を起こすことが初めの一歩なんだ。
 僕は必死になって自分を鼓舞した。

 君に交際を申し込もうと決めた半月後にチャンスは訪れた。
「いつもお世話になります」
 僕はいつもの営業口調で君に声をかけた。夕方の開店までまだ時間がある。
「あ、店長さんも主任さんも、ちょうど出かけてるんですう」
 君は少し舌足らずな感じで言った。
「何か注文とか聞いてますか?」
「いえ」
 君は困った顔をした。そんな表情もかわいい。
「そうですか、また来ます」
「もし何かいる物があるようでしたら電話かファックスするように言っておきますね」
「お願いします」
 そう言って僕は君を見つめた。
 君はどうしたの? といった風に首を傾げる。
「僕と付き合ってくれませんか?」
 精一杯の勇気を出して言った。
 君は口をぱっと開けて驚いた表情で僕を見た。
 無理もない。君とは一回りも年が違うのだから。
 僕は連絡先を書いたメモを渡した。
「お返事待っています」
 そう言って店を出た。

 一週間後に返事が来た。
 交際OKの返事が、こんな私でいいのですかという迷いと共に綴られていた。
 不安な日々を過ごしていた僕の未来が一気に明るくなった。
 女性とお付き合いをするのは大学の時以来だから十数年ぶりになる。あの時は大勢の人がいたサークルの中の一部だけを切り取ったような関係で、その後の人生なんて考えなかったし、なんとなくノリで付き合っていただけだった。関係は一年ほどで終わった。
 僕は君と時々会うようになった。仕事では普通に話せても、プライベートでは歳の差からうまく話ができないんじゃないかと不安だったけど、実際に会って話をしてみるとそんな不安は杞憂だった。
 プライベートの時の方が君は一層、何事にも子供のようにはしゃいでいるように見えて、愛おしく感じられた。
 素敵な彼女ができて幸せだった。
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