様々な恋の行方 短編集

原口源太郎

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愛おしい君

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 付き合い始めて半年後に、君は僕のマンションへとやってきた。
 二人での同棲生活は想像していたよりも楽しいものだった。
 アルバイトをしていて収入が少なく、労働時間も短い君は家事全般をすると言ってくれた。だけど君は夜の仕事で帰りは遅いし、できる人ができることを行うということに決めた。
 君は僕の作ったことのない料理を作ってくれたし、僕も君のために得意の料理を披露した。洗濯物のたたみ方も君とはこだわるところが違くて、お互いにこだわるところを取り入れてこだわるところとがもっと多くなってしまったとか、そんな些細なことも楽しいことだった。
 休日には近くのスーパーへ二人で買い物に行った。君が選ぶ食材を見て、何を作ってくれるのだろうなんて考えてわくわくした。そんな経験は初めてだった。
 数か月経ってもそんなわくわく感は変わらなかった。

 その日も君と二人で買い物に行った。僕はいつものようにカゴの入ったカートを押しながら陳列された商品を見ていた。
 隣を歩く君がはたと足を止めた。硬直したように前を見ている。
 僕は君の視線を追った。
 若い男がいた。
 20代半ばだろうか。
 買い物かごを手にする男が君を見た。
 男も一瞬動きを止める。そして逃げるようにその場から去っていく。
 君は微動だにせずにその姿をを目で追っていた。
「知り合い?」
 僕は尋ねた。
「え? いえ」
 戸惑ったように答える君。そして黙ったまま歩き出す。
 もっと尋ねたかったけれど、それ以上あの若い男について触れてはいけない気がした。
 僕はそっと君から離れた。

 その出来事に対して、ちょっとしたわだかまりがあったけれど君はいつもと変わらなかったし、僕も二、三日のうちにわだかまりも消えた。もう少し時が経てばその男について話ができだろうと思った。
 君の誕生日が近づいてきて、僕は一つのことを思いついた。
 今まで君にプレゼントなんてしたことがなかった。この機会に指輪をあげたいと思った。
 僕の趣味と言えばパソコンでゲームをすることと、少しばかり読書をすることだ。趣味でお金を使うことがなかったし、派手な遊びもしない。はっきり言って同年代の人に比べて僕の貯金の額はかなり多いと思う。君にプレゼントする指輪は50万円くらいを想定したけれど、僕にとって痛いというほどの額ではない。
 君にそのことを告げると、要らないとそっけなく断られた。そんな高価なものをもらったことがないし、怖くて身に着けることもできないと言った。
 僕は何度も説得して、見に行くだけということで君を連れ出すことに成功した。

 指輪やネックレスが並ぶ店で、君はあまり関心がなさそうに陳列された商品を見ていた。
 店員が来て予算を尋ねられ、僕は正直に告げた。
 店員はそれに近い指輪を見せて説明してくれる。
 君はやがて興味ありげに店員の説明を聞きだした。
 僕たちは幾つかを比べて話し合い、一つに決めた。
「ありがとう」
 君は嬉しそうに言い、いつもの無邪気な笑顔を見せてくれた。
 そんな君を見て、愛おしいと思った。

 数日後に二人でサイズ合わせをした指輪を取りに行った。
 君が指輪の入った小さな袋を受け取り、店を出た。
 二人で食事をしてからマンションに帰るつもりだった。
 人の行き交う通りを歩いているときに、君は不意に足を止めた。
 僕は振り返って君を見た。
 君は動かずに前を見ている。
 その姿は数か月前にスーパーで若い男を見た時のことを思い出させた。
 でも、君が見ているのはベビーカーを押している若い女だった。
「どうしたの?」
 君に尋ねる。
「ごめんなさい」
 なぜか君は謝った。
「え?」
「ごめんなさい。先に帰ってて」
 いつもは見せない無表情に近い君の顔を見て、僕は何も言えずに歩いた。
 少し行ったところで振り返ると、君があの親子の方へと歩いていくところだった。
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