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僕とあすかさんの物語
僕 ー 初めてあすかさんの部屋に行きます 1
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僕はあすかさんに教えてもらった店でケーキを二つ買った。
店を教えるのは私だけど、ケーキを選ぶのはあなただよとプレッシャーをかけられてしまった。あすかさんはどんなケーキなら喜んでくれるんだろう。
必死になって選んだケーキの入った袋を持って店を出た。
時折、強い風が吹いた。
あすかさんを初めて見たのは一年前だった。
大学に合格した僕は両親とともに学生生活を送るためのアパートを探しに来ていた。
数日前から話をしてあった不動産屋に行き、そこの社員に案内されて幾つかの物件を見て回った。
4件目くらいに見に行ったところで、僕たちと同じような一団と会った。スーツ姿の男の人と二人の親らしき人物。それに女の子。
見ていた部屋は違うけれど、もしかしたら同じ屋根の下で暮らすことになるのかなと思って女の子を観察した。
メガネをかけていて、黒くてまっすぐな髪の毛が肩から垂れている。
このあたりでアパートを探しているということは、同じ大学に行くのかななんてぼんやりと考えていた。そうしたら女の子も僕のことをじっと見ているのに気が付いた。
僕は慌てて部屋の中で不動産屋の話しを聞いている両親のもとに向かった。
入学式が終わり、半月くらい経ったときに講堂であの時の女の子を見かけた。すでに友人同士でがやがやしている人もいたけれど、大抵はまだ友人らしい友人もいなくて一人でいる人がほどんどだった。
僕も少人数のクラスで一緒になった人や、同じアパートの人で親しく口を利くくらいの人はできたけど、まだいつも一緒に行動を共にするといえる仲の人はいなかった。
だからかな。
アパートを見学しているときに見かけた女の子の隣に座った。自分からそんなことをするのは初めてだった。
女の子が僕を見た。あの時と同じメガネをして黒いストレートヘアだった。
「原口元太です」
僕はいきなり名前を告げた。
「あ、私、山口。山口あすか」
「僕のこと、覚えてる?」
「ええ。アパートを探していた時に、確か、会いましたよね?」
「うん。あすかさんはあのアパートにいるの?」
「いえ、全然遠いところ」
「そうなんだ。僕もあそこじゃないけど、近く」
話をして、あすかさんは見た目と同じように、どちらかというと控えめな人なんだと分かった。
講堂であすかさんを見かけるたびに隣に座った。講堂近くであすかさんが来るのを待つこともあった。
僕は親しい友人ができたし、あすかさんもそれなりに一緒にいる友人ができたらしい。でも、一番の友人は僕にとってはあすかさんだし、たぶんあすかさんにとっても僕なんだと思う。
なぜ僕があすかさんに引かれてしまったのか、それが謎だった。僕はどちらかというと派手で陽気で行動力のある女性が好きだったはずなのに。
まだあすかさんのことが好きだと決まったわけじゃない。
でも、たぶん、きっと、そうなのだろう。
あすかさんとそれなりに親しく話ができるようになってすぐに僕の誕生日を訊かれた。
僕はゴールデンウィーク中に生まれたんだよと言ったら、少しがっかりした顔をした。そんな会話をしたのは5月の半ば過ぎだったから、僕の誕生日は過ぎていた。
後で知ったんだけど、あすかさんは記念日を大切にする人だった。
夏休み前のあすかさんの誕生日には、初めて二人でご飯を食べに行った。
秋にはあすかさんの弟の誕生日のお祝いに、また二人でご飯を食べに行った。もちろん弟はそこにいなかったし、僕はその時まで弟の存在すら知らなかった。
でも、そんな些細なことでもお祝いをしようとするあすかさんは素敵だと思った。
店を教えるのは私だけど、ケーキを選ぶのはあなただよとプレッシャーをかけられてしまった。あすかさんはどんなケーキなら喜んでくれるんだろう。
必死になって選んだケーキの入った袋を持って店を出た。
時折、強い風が吹いた。
あすかさんを初めて見たのは一年前だった。
大学に合格した僕は両親とともに学生生活を送るためのアパートを探しに来ていた。
数日前から話をしてあった不動産屋に行き、そこの社員に案内されて幾つかの物件を見て回った。
4件目くらいに見に行ったところで、僕たちと同じような一団と会った。スーツ姿の男の人と二人の親らしき人物。それに女の子。
見ていた部屋は違うけれど、もしかしたら同じ屋根の下で暮らすことになるのかなと思って女の子を観察した。
メガネをかけていて、黒くてまっすぐな髪の毛が肩から垂れている。
このあたりでアパートを探しているということは、同じ大学に行くのかななんてぼんやりと考えていた。そうしたら女の子も僕のことをじっと見ているのに気が付いた。
僕は慌てて部屋の中で不動産屋の話しを聞いている両親のもとに向かった。
入学式が終わり、半月くらい経ったときに講堂であの時の女の子を見かけた。すでに友人同士でがやがやしている人もいたけれど、大抵はまだ友人らしい友人もいなくて一人でいる人がほどんどだった。
僕も少人数のクラスで一緒になった人や、同じアパートの人で親しく口を利くくらいの人はできたけど、まだいつも一緒に行動を共にするといえる仲の人はいなかった。
だからかな。
アパートを見学しているときに見かけた女の子の隣に座った。自分からそんなことをするのは初めてだった。
女の子が僕を見た。あの時と同じメガネをして黒いストレートヘアだった。
「原口元太です」
僕はいきなり名前を告げた。
「あ、私、山口。山口あすか」
「僕のこと、覚えてる?」
「ええ。アパートを探していた時に、確か、会いましたよね?」
「うん。あすかさんはあのアパートにいるの?」
「いえ、全然遠いところ」
「そうなんだ。僕もあそこじゃないけど、近く」
話をして、あすかさんは見た目と同じように、どちらかというと控えめな人なんだと分かった。
講堂であすかさんを見かけるたびに隣に座った。講堂近くであすかさんが来るのを待つこともあった。
僕は親しい友人ができたし、あすかさんもそれなりに一緒にいる友人ができたらしい。でも、一番の友人は僕にとってはあすかさんだし、たぶんあすかさんにとっても僕なんだと思う。
なぜ僕があすかさんに引かれてしまったのか、それが謎だった。僕はどちらかというと派手で陽気で行動力のある女性が好きだったはずなのに。
まだあすかさんのことが好きだと決まったわけじゃない。
でも、たぶん、きっと、そうなのだろう。
あすかさんとそれなりに親しく話ができるようになってすぐに僕の誕生日を訊かれた。
僕はゴールデンウィーク中に生まれたんだよと言ったら、少しがっかりした顔をした。そんな会話をしたのは5月の半ば過ぎだったから、僕の誕生日は過ぎていた。
後で知ったんだけど、あすかさんは記念日を大切にする人だった。
夏休み前のあすかさんの誕生日には、初めて二人でご飯を食べに行った。
秋にはあすかさんの弟の誕生日のお祝いに、また二人でご飯を食べに行った。もちろん弟はそこにいなかったし、僕はその時まで弟の存在すら知らなかった。
でも、そんな些細なことでもお祝いをしようとするあすかさんは素敵だと思った。
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