お家に帰る

原口源太郎

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 源太郎と真奈美は谷間に、大木と小さな畑に囲まれた家を見つけた。
 二人は家の前まで行き、チャイムを鳴らす。
「おはようございます」
 真奈美が大きな声で呼びかける。
 家のドアが開き、眠そうな顔をした年配の男が顔を出した。
「どうした? 凄い格好だが」
 男は真奈美の姿を見て言った。
「病院に連れて行ってほしいんです」
 男は真奈美の後ろにいる血まみれの源太郎に気付き、驚いた顔をする。
「すぐに車を出す」
「お家まで連れて行って」
 源太郎は力なく真奈美にもたれながら言った。
 男は真奈美に手を貸して源太郎を車に運び込むようにして乗せる。
「急ぐぞ」
 男はそう言って車を発進させた。
「本当に町の病院に行くのか? 近くにも医者はいるんだが」
 男は運転しながらバックシートの源太郎と真奈美に尋ねる。
「お家に帰る」
 源太郎はその言葉を繰り返した。

 源太郎の父の政信が大きなバッグを持って公園に面した通りを歩いていく。
 やがて腕時計を見ながら公園へと入っていった。

 男が運転する車が街中の通りを走ってくる。
「えらく遠くまで来たが。どこの病院だ?」
「もうちょっとまっすぐ行ったら、大きな通りを、停めて!」
 不意に源太郎は大きな声を出した。
「どうした!」
 源太郎の声につられて男も大きな声を出す。
「僕をさらった男がいた」

 公園で待つ政信の前に口髭男が現れる。
「山口さんか?」
「息子をさらったのはお前か? 息子はどこだ?」
「元気にしてるよ。金はちゃんとあるか?」
「言われた額を用意した。息子はどこだ?」
 政信はまた同じ問いかけをした。
「夕方には解放する。それまで待ってな」
「わかった」
 政信がバッグを渡そうとした時、源太郎の叫び声がする。
「お父さん!」
 源太郎はボロボロになった服を引きずるようにして走ってくる。
 口髭男は慌ててバッグをひったくり、走り出す。
 あちこちの物陰から男が現れ、口髭男を取り囲んだ。
 雅彦は源太郎を抱きしめた。
「早く病院へ!」
 源太郎の後ろから走ってきた真奈美が叫んだ。

 数日後。
 病院の個室で源太郎が寝ている。その横で真奈美が花を飾っている。
「じゃ、私帰るね。これからは源太郎君を見習って生きていくからね」
 真奈美はそっと源太郎の頬にキスをする。
 その時、病室のドアが開いて未菜が顔を出す。
 花束を持った未菜に続いて桃と知世が病室に入ってくる。
「じゃあね」
 真奈美は未菜たちと入れ替わるように部屋を出ていく。
「誰? あの人」
 未菜の問いかけに源太郎は目を開ける。
「真奈美さん」
「どういう人?」
「お前には関係ないだろ」
「何よ、せっかくお見舞いに来てあげたのに」
「誰も来てくれなんて言ってないだろ」
「じゃ、帰る」
「未菜、けんかしちゃ駄目じゃない」
 二人の会話を聞いていた桃が言う。
 未菜は唇を尖らせて桃を見る。
「桃と知世で花を活ける花瓶を捜してきて。受付に行けば貸してくれるかもしれない」
 桃と知世は病室を出ていった。
 未菜はつかつかと源太郎の元に歩み寄り、テーブルの上に持っていた花束を置く。
「何だよ」
 未菜は源太郎の、真奈美がしたのとは反対側の頬にキスをした。




                              終わり
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