初めて見る景色

原口源太郎

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 タクマは完全に意識を失ったわけではありません。おぼろげながらも、誰かがタクマを抱き上げ、建物の中へ運んでくれるのがわかりました。小さな部屋の中に寝かされ、宇宙服を脱がせてくれます。
 やがて頭がすっきりしてきました。
 顔を回して自分を助けてくれた人を見ました。そして驚いてベッドから転げ落ちそうになりました。
 金属むき出しのロボットがタクマの宇宙服をこねくり回しています。
「だれ?」
 タクマは怖い気持ちを払いのけて尋ねました。
「私はC4POO型ロボット。製造番号は816-0501です。この施設はRS-TR-X-3-8環境研究所第7分所で、私はここの管理をしています」
 細身で、人間と似た作りのロボットはタクマを見ようともせずに答えました。
「僕を助けてくれたの?」
 ロボットの優しい返答に、タクマの恐怖心は取り払われました。
「私には当たり前のことです。服の左ひじのところに穴が開いていましたので修理しておきました。ほかに異常はありません」
 そう言ってロボットは振り向きました。
 頭は人間の目と口の位置がへこんでいるだけのシンプルな形です。体もよぶんな装飾は一切なく、すっきりとした外観です。同じ型のロボットをタクマはダーイ6で見たことがありました。
「ここにはほかに誰かいるの?」
「私だけです。1年と186日後にこの施設での作業予定がありますが、それまでは私だけです」
「寂しくない?」
「寂しくはありません」
 ロボットなんだから寂しくなんかないに決まってる。くだらないことを訊いてしまったとタクマは思いました。
「そうだ、ここから北極が見えない?」
「見えます。ごく一部ですが」
「一番見晴らしのいいところに連れて行ってもらっていい?」
「いいですよ」
 その答えを聞いてタクマはベッドから跳び起きました。
 早速宇宙服を着ます。十分な空気があるのはその部屋だけなので、宇宙服は必要なのです。
 すべてをに身につけると、宇宙服のコンピューターが自動的にちゃんと着れているのかを調べて、ヘルメットのガラスにOKの合図を出します。異常を示すランプはもう点いていません。
 腰の小さなケースを開けてみると、宇宙服の応急処置用のテープがちゃんと入っていました。
 タクマは右手のボタンでヘルメットの無線のスイッチを入れました。
 それは100メートルほどしか電波が届かない宇宙服用の無線ですが、ロボットとも話ができるはずです。
「テープをもらってもいいの?」
 腰の小さなケースのふたを閉めながら尋ねました。
「それくらいいいでしょう」
 そう言うとロボットは歩き始めました。
 エレベーターで最上階まで昇ると、小さな展望室がありました。大きなガラス張りの部屋で、中央のエレベーターを囲むように大きなモニターが並び、いろいろな文字や周りの景色を映し出しています。無人でも何かの観測は続けられているようです。
「さ、こちら」
 ロボットの隣に立つと、北極のキラキラがこちらに近づいてきたかのように大きく見えました。
 残念ながらアイアンプラントの緑色は肉眼ではわかりません。実際にはそれほど北極に近づいたわけではなく、見る位置が高くなったためにキラキラが大きくなっただけなのです。
 タクマはカメラを取り出しました。そして夢中になってシャッターボタンを押します。北極の写真だけでは飽き足らず、ロボットの写真も撮り、ロボットと一緒に自分もカメラのフレームに収まりました。
 お父さんたちのいるドームが見えないかと北極と反対側の方角を見てみましたが、鉱山の丘の陰になっているのか、それらしいものは見えませんでした。
 その時になってドームに無線で連絡をしなければならないことを思い出しました。バッグから壊れた無線を取り出し、ロボットに見せます。
「これ、直せない?」
 ロボットはそれを手に取ろうともせずに答えます。
「私はそのようなデータを持っていません」
「ここに無線はない?」
「あります。少しくらいなら業務目的以外に使用してもいいでしょう」
 ロボットは別の部屋に案内してくれました。
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