Love letter

原口源太郎

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 昇降口が見える校舎の脇の茂みの向こうで大崎、河原、平、森下が小さくなっている。
 茂みの上に小型カメラ付きの棒と小さな傘の付いた集音マイクがあった。
 平が集音マイクを持ち、河原がカメラの付いた棒を持っている。森下はパソコンのキーボードを叩いて何やら操作している。
「見た?」
 森下がパソコンの画面を熱心に覗き込んでいる大崎に声をかけた。
「見た。今の澄香様の表情は今までと違う。ヤバイかもしれない」
「あの手紙を渡しちゃいけないよ」
 森下が叫ぶように言った。
「おい!」
 大崎は河原と平に合図をする。
 二人は手にしていたカメラとマイクを放り出し、大崎のあとに続いて茂みの陰から飛び出して走った。
「ややや」
 森下が河原の投げたカメラを地面の近くでキャッチし、大事そうに抱え込んだ。

 高校の校門近くに手紙がひらひらと舞い降りてくる。
 大雄は手を伸ばしてそれを受け取ろうとした。
 そこに大崎ら三人が駆け寄り、大雄を押しのける。
「な、なんだ、お前ら」
「手紙をよこせ」
 河原が言った。
「ふざけんな」
 大雄は三人を押し返し、地面に落ちていく手紙を手をのばす。
 体格のいい平が再び大雄を押しやり、手紙を手に取ろうとする。
 その瞬間、またも突風が吹き、手紙を舞い上げた。
「うお」
 平が残念そうに手を握りしめる。
 大雄がすかさず手紙を追って走り出し、あとの三人がそれに続く。

 村沢が付き合っている佐藤麻衣とにこやかに話をしながらやってきた。
 大雄たちに気が付き、足を止める。
「悪いけど、先に帰っててくれ」
 麻衣にそう告げ、村沢は手に持っていたリュックを放り出して駆け出す。
 手紙はひらひらと空を舞い、うっそうと茂る高い銀杏の木の中に消えた。
 木の下に大雄、大崎、河原、平、村沢がやってくる。
「例の手紙か」
 木の上を眺めている大雄の隣に立ち、村沢が尋ねた。
「そう」
「こいつらに邪魔されたのか?」
「いや、俺のミスだ。その後にこいつらがうじゃうじゃと現れた」
「人をゴキブリみたいに言うな」
 二人の会話を聞きつけた河原が言った。
「なんで野村の邪魔をするんだ」
「ヤバイからだ」
「ヤバイ?」
「とにかく手紙がいるんだ」
「お前らには関係ないだろ。人に見せられるか」
 それまで黙っていた大雄が河原に言った。
 そして靴と靴下を脱ぎ、銀杏の木に登り始めた。
「おい、危ないぞ」
「下りてこい」
 村沢と河原が言うが、大雄は忠告を聞き流してどんどん上っていった。

 ブーンという音とともに何かが近づいてきた。森下の制作したドローンだ。
 グラウンドの向こうの少し高くなったところに森下がいて、パソコンの画面を見ながらゲームのコントローラーのようなものを操っている。
 大崎はそれを認めると、河原の背中をそっと指で突いた。
「来い」
 そして平を見る。
「ここを頼む」
 そう告げると、森下の方へと駆け出した。河原もそれに続いた。

 森下は遠くを見ながらドローンを操作していた。
「誰かドローンを頼む」
 大崎と河原が行くと、森下はコントローラーを差し出した。
「操作の仕方がわからん」
 大崎が言った。もちろん河原も同じだ。
「じゃ、ちょっとだけ持ってて」
 放り出すようにして渡されたコントローラーを大崎が受け取る。
 森下はパソコンを操作し、すぐに大崎の持つコントローラーを取り上げた。
「パソコンの上下左右のキーでドローンのカメラを操作できるから。手紙がどこにあるか捜して」
「よし」
 大崎と河原がパソコンに張り付く。
 森下はグラウンドの向こうの銀杏の木の周りを飛ぶドローンとパソコンの画面を見ながらコントローラーを動かす。
「しかし、こんなにまでして手紙を奪う必要があるのか? それにもし手紙を手に入れたとして、それをどうする?」
 パソコンの画面を見ながら河原が大崎に尋ねた。
「手紙の内容を見てどうするか決める。内容を公にするか、あるいは本人に二度とこのような真似をしないよう忠告をするか」
「そんなことして大丈夫か? プライバシーの問題だ」
「うるさい。つべこべ言うな。澄香様を守るためだ」
「澄香様のプライバシーだってないじゃないか」
 河原は小声になって反論した。

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