おとどけもの

原口源太郎

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 翌日、松田は僕のアパート近くの商店街まで迎えに来てくれた。
 松田が役割分担を決め、僕は高級住宅街にある大きな家を調べることになった。
「俺は不動産屋とマンションの女を調べる。金持ちの豪邸のほうは頼んだ」
 松田は車の中で言った。
「はい。でも、どうやって調べます?」
「清原君は真面目に見えるから、探偵社の人間ということにして近所の店の人や近くの住人に聞いて、その家の情報を集める。そこにいるのはどのような人物なのか、どのような生活をしているのか。最近変わったことはなかったか。話をしていてこちらのことを訊かれたら、業務内容は秘密で他言できないとか、入社したばかりで詳しいことはよくわからないとか言っておけばいい。あまり目立つことはするな」
「はい」
 僕は返事をしたけれど、あまり自信はなかった。そんなことをした経験がないからだ。
 そんな心細い思いを抱いたままの僕を置き去りにして、松田の車は走り去っていった。

 僕は近くの店で世間話を装って、「あそこの家は特別立派ですね」なんて言いながら何軒かで情報収集をした。
 ひと通り近くの店を回り終えると、例の家の大きな門を少し離れたところに身を潜めて観察した。どんな人たちが出入りしているのかを見るためだ。ところが全然訪ねてくる人はいなかった。
 僕は辺りを歩き、途中で会った近所の人と思われる人たちから話を聞いた。
 何度も繰り返しているうちにコツが掴めてきた。自分は探偵で、あることを調べていると言って、別の事を聞きながらさりげなく例の家のことも聞いて情報を集めた。
 慣れないことをして体も神経もくたびれ果てたころ、松田が迎えに来てくれた。

 僕たちは帰り道の途中にあるマクドナルドに入った。
 ハンバーガーとポテトとコーヒーを乗せたトレーをテーブルに置き、僕たちは向かい合って座った。
「じゃ、まずは清原君からわかったことを話して」
 早速ハンバーガーをほおばりながら松田が言う。
「はい。家の主人はラムキ産業という上場企業の会長で、多分この人がおとどけものの受取人じゃないかと思います。近所の人達は皆、ここ何年か会長には会っていないと言っています。姿を見るのも運転手付きの車で出かけるのをたまに見かけるくらい。この人の息子が同じ会社の代表取締役ですが、そろそろ引退するようです。その会社の実質的経営者が会長だということは関係者の間では常識になっているようです」
「会長の容姿は訊いたか?」
「車で出かけるのを見たことがあるという人たちの話だと、今でも会長は若々しく、昔と同じような見た目か、昔以上に若く見えるそうです」
「若く見えるなんてもんじゃないぜ。息子が特別問題も起こしていないのに引退するってのに、親の会長は現役で会社を仕切っているんだろ?」
「ええ、多分。何か知っているんですか?」
「俺の調べたところも妙なんだ。まず清原君が格好いいって言っていたヤクザの親分について。編集部にそっちの担当がいるんで聞いてみたんだが、どうして死んだのかはっきりしない。どうも自殺じゃないかと思えるのだが、公には事故で死んだことになっている」
「自殺? まさか。凄く意欲的で自信に満ちたような人でした。自殺をするとは思えません」
 僕は組長が自殺したのではないかと聞いて、少なからず動揺した。
「むきになるな。はっきりとはわからないってことだ。わかるのは知っている連中は皆口を閉ざして事実を隠そうとしているってこと」
「なんでだろう」
「組長についての個人的なデータも手に入れたんだけど、たいして必要のないものばかりだ。ただひとつのことを除いて」
「何ですか?」
「組長は七十二歳まで生きていた」
「は? 嘘だ」
 僕は驚いて言った。
「幾つくらいに見えた?」
 松田が僕の目を覗きこむようにして尋ねる。
「四十歳前後くらい。人違いかな?」
「歳の割に、かなり若く見えたそうだ。しかし三十歳も若く見えるってのはどうかな? そこでさっきの会長の話になる」
「まさか。僕の届けていた物って」
「状況から考えると、それしかない」
 僕と松田は黙ってお互いを見つめあった。僕の頭の中は信じられない思いが渦巻いている。
「もう一軒の女のほうについてはダメだ。詳しくわからない。ただ、あの女は誰かに飼われているペットだな」
「ペット?」
「若者にわかりやすく言うと愛人だ。そこはガードが固くてオーナーがどんな人物なのか掴めない。直接俺たちが張り込んで見張るくらいしか、いい考えが浮かばないんだが」
「やります」
 そう言ったあとで、僕はハンバーガーもポテトも冷めたコーヒーにも口を付けていないことに気が付いた。
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