おとどけもの

原口源太郎

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「君たちは誰だ? 何をしている?」
 ランボルギーニを運転していた男が言った。
「どうかしましたか?」
「とぼけなくていい。なぜ私をつける?」
「その・・・・」
 僕は慌てて二人のところに行った。
「僕はあのマンションにおとどけものを届けていた者です。僕のところにおとどけものを持ってきていた人が殺されました。それも普通でない殺され方で、です。僕はその仕事をまだ続けたいし、真実も知りたい。僕が届けていたものが何だったのか、それがどこから来るのか、どうしてそのもののことを知ったのか。もし話せることがあれば、教えてください」
 僕は必死になって訴えた。
 男は僕を見たまま黙っている。考えているらしい。
「私たちはこれから食事に行くんだ。十時に女の部屋に来てくれ」
 そう言って男は車に戻っていった。

 僕たちはマンションの入り口に立って、男が帰ってくるのを待った。
 大きなエンジン音が近づいてきたので、すぐに男が来たとわかった。男の運転する車はマンションの地下駐車場へと入っていった。

 広い部屋に外国製らしい家具が置かれている。
 僕たちは男にうながされて、ソファに腰掛けた。
 まずはお互いに自己紹介をする。男は鈴木と名乗った。製薬会社の役員をしている。
 その次に僕が今までの経緯をざっと話した。
「岡部は商売をしていたのか」
 僕の話を聞いていた鈴木が口を挟んだ。
「岡部?」
 松田が尋ねる。
「詳しい話は明日にしよう。今日はもう遅いから」
 鈴木が時計を見ながら言う。
「わかりました」
 松田がそう返事をして僕を見る。
 僕も頷く。
「簡単に説明すると、岡部はうちの会社の研究施設で働いていた男だ。ウイルスに対する新薬の開発を行っていた。ある日彼はとんでもないものを発見した。細胞の活動を二倍ほど活発にさせる物質だった。細胞が活発に動き、細胞分裂が次々と行われるとは、どういうことかわかるかね?」
「若返り?」
 松田が答える。
「そんなところだ。細胞分裂の回数はあらかじめ決まっていると言われているが、岡部は細胞分裂を活発にさせ、しかも何度も分裂を繰り返すことのできる物を見つけた。言ってみれば癌細胞に近いことを正常な細胞で行えるようになったといえるかもしれない」
「つまり、おとどけものっていうのは」
 松田が狼狽えたように言う。
「そう。岡部が作った薬だ。岡部はその発見を抱えて姿を消した。十年ほど前のことだ。岡部の発見にはまだまだたくさんの課題があった。岡部の発見したものは正常な細胞だけでなく、他の物にも影響してしまう。癌細胞、ウイルス、細菌。実用化には程遠いと思われた。だが、岡部は何か算段があったのだろう。製薬会社で研究を続けるより、自分で薬を作り上げた方がいいと判断したのだと思う」
「それで、薬が完成した?」
「そうだ。五年ほど前に岡部から連絡があった。薬の値段として知らされたのは信じられないほどの金額だったし、本当に効果があるのかわからなかった。しかし私は岡部からその薬を手に入れることに躊躇はなかった」
「信じられない」
 松田が静かな声で言った。僕も同じ思いだった。
「私は何歳に見えるかね?」
 鈴木が言った。
「四十歳半ばといいたいところだけど、今までの例があるから、七十歳くらい?」
 松田の言葉を聞いて鈴木が笑った。
「私は今年九十三になる」

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