おとどけもの

原口源太郎

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 翌朝、待ち合わせ場所の商店街入り口に行くと、松田はすでに来ていた。
 僕は松田の車に乗り込んだ。
 今日は鈴木と一緒に、岡部との仲介役となっていた田辺という男のところに行くことになっている。鈴木も岡部がどこにいるのか知らないので、岡部のことを知るには田辺のところに行くしかない。鈴木の話から察すると、僕におとどけものの仕事の話を持ってきたのも田辺だと思われた。
「あの人の車は二人しか乗れないんでしたよね? そうするとこの車で行くことになりますか?」
 松田の車も2ドアだけど後ろにもシートがある。よく見ると所々綻びがある。そんなところにあの人を乗せてもいいのだろうかと少し不安になった。
「あれだけ金を持っているんだから、他にも車を持っているだろう。大勢で快適に移動できる車とか」
「そうですね」
「向こうが言いだしたことだから、何か考えているだろう」
「はい」
 マンションの前に車を停めて見上げると、鈴木がベランダからこちらを見下ろして何か言っているように見えた。
「松田さん、何か言っていますよ」
 松田もマンションを見上げる。
 鈴木は何かを放り投げると、ベランダの柵を越えて空中へとダイブした。
 すーっと空を裂き、地面にドスンと落ちた。
 僕は驚いて、急いで鈴木の落ちたところに行こうとした。
 そんな僕の腕を松田が掴んだ。松田はまだマンションの上のほうを見ている。
 ベランダには女がいた。女は部屋のほうを見て、マンションの柵のこちら側、何もない空間に身をのけ反らせている。
 そしてくるっと上体が反転し、落ちた。
 あちこちで悲鳴が上がっている。
 僕はまだベランダを見ていた。あの部屋で一体何があったのだろう。
 その時、ちらりとベランダに何かが見えた。それはすぐに見えなくなった。
「見たか?」
 松田が言った。
「はい。何かよくわかりませんが、ちらっと何かが」
「あの部屋にまだ何かがいることは確かだ。奴は二人が地面に落ちたのを確認したんだ」
 僕たちは車を降りた。
 これだけの騒ぎになっているのだから、鈴木の部屋に行くわけにはいかない。
 二人が落ちたところは血が飛び散り、鈴木も女もひどい状態だった。
 松田は近くの植え込みの中を捜して、車のキイを拾い上げた。鈴木が跳び下りる前に投げ捨てたものだ。
 マンションの地下駐車場に行き、キイのボタンを押すと、一台の車が反応した。大型のワンボックスカーだった。
 ドアを開けて中を見ると、助手席にメモがあった。メモには目的地と思われる住所と電話番号が書かれていた。
「行こう」
 松田はメモを握りしめると走り出した。僕も慌てて後を追った。

 郊外の住宅地に、色褪せた平屋のこぢんまりとした家があった。玄関周りにはヒョロヒョロとした雑草が生えている。新聞受けには何日分もの新聞が押し込まれ、入りきらない分が玄関先に積み重ねられている。
 チャイムを押し、しばらく待ったが反応はなかった。
 ドアに手をかけてみたが、カギが掛かっていて開かない。
「居ないな。少なくとも生きた人間はしばらくの間、ここにいなかったようだ」
 僕たちは家の周りを一周して調べた。
「怪しいところはない。入れそうな所もない。無理矢理入ろうと思えば入れるが」
 松田が問いかけるように僕を見た。
 僕は同意の意味で頷く。
「よし、行くか」
 僕たちは家の裏にまわり、近くに落ちていた石を拾うと、窓のガラスを割った。

 僕たちは家中をこそこそと探し回ったけれど、何も発見できなかった。
「何もないな。田辺という男はどこかに逃げたか、あるいはもう殺されてしまったか、どちらかだろう」
 僕たちは入った窓から外に出た。松田が壊れた所から手を入れて窓のカギを掛け、ガムテープで穴を塞いだ。
「俺は岡部のことを調べてみる。何かわかったら連絡するよ。部屋にいる時以外はなるべく一人にならないほうがいい」
 そう言って松田は車に乗り込んだ。
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