21 / 27
20
しおりを挟む
僕は暇を持て余して部屋で過ごし、ネットで色々なものを見た。外に出るのが怖かった。
田辺の家に行った帰りに松田に頼んでリサイクルショップに寄り、何かないかと探して木刀と大型のモンキーレンチを手に入れた。
その木刀は今、すぐ手の届く壁に立てかけてある。そしてパソコンの横には先の尖った包丁。自分の身は自分で守るしかない。
ネットで色々なニュースを見ていて、一つの記事を見つけた。おとどけものの配達先だった大邸宅に住むラムキ産業の会長が死んでいたというものだった。何日か前に亡くなっていたが、公にされていなかったらしい。やはりその人も特別な死に方をしたのだろうか。それだからすぐには公にできなかったのではないか。記事ではそんな詳しいことまで書かれていなかったからわからない。もしかしたら、僕があの家を訪れた時にはすでに死んでいたのかもしれない。
四日後に松田から連絡があった。
翌日に鈴木の葬儀があるから行ってみようとのことだった。
松田は田辺の家に行った次の日から色々なツテを頼って岡部が今、どこで何をしているのかを調べてみたが、何も掴めていなかった。鈴木の葬儀に行っても大した情報は得られそうになかったが、他に何も当てがないから藁にもすがるような思いだった。
僕たちは物陰に立って、葬儀の行われている寺を見ていた。
「名の知れた製薬会社の役員だし、実質的に経営をしてきたのは鈴木だと言われていたけれど、七十近くも歳の離れた愛人と心中したことになっているから、あまり派手にはできないらしい」
「どう見ても心中じゃなかったのですが」
「真実を知っているのは俺たちだけだ」
「あっ」
僕は寺に入っていく喪服姿の男を見て声を出した。
「どうした?」
「田辺です」
「ほう、死んでいなかったのか。行こう」
僕たちは寺の門の前に立ち、田辺が出てくるのを待った。
しめやかに行われているとはいえ、多くの人が告別式に訪れている。
線香を上げに来ただけらしく、田辺はすぐに姿を現した。
そして例の黒縁メガネの奥の細い目で僕を見た。
ギョッとした表情になり、慌てた様子で走り出す。
僕と松田も走り、すぐに追いついた。
「田辺さん」
僕は初めて、その男に対して名前で呼んだ。
「生きていたのか」
田辺は僕を見て言い、腕を取ると近くの建物の陰に引っ張っていった。
「岡部さんのことを聞かせてください」
その言葉を聞き、田辺はびくっと体を震わせた。
「なぜその名前を知っている?」
「鈴木さんに聞きました。僕はむざむざ殺されたくありません。真実を知りたいのです」
「そうか。好きにしろ」
そう言うと田辺はポケットからスマホを取り出した。
電話番号を告げる。
「電話をしても出ない。だが、その番号を頼りに岡部のところに行けるだろう。岡部がどうなったか俺は知らない。岡部から連絡があった時だけ俺はあいつのところに行くが、ここしばらくは連絡がなかったから行っていない。何か良くないことが起きたのは確かだ。あの件に関わった者はみんな死んだ。俺とお前以外は。鈴木さんが死んで、もう頼れる人がいなくなった。俺は外国に逃げる。お前も気を付けるんだな」
そう言って田辺は臆病そうに辺りを伺いながら去って行った。
松田は腕時計を見る。
「明日、行ってみよう。いよいよ事件の核心に迫れるかもしれない」
僕は昨日と同じ待ち合わせ場所で松田を待っていた。いつも約束よりも早い時間に来ていたのに、今日は遅い。
スマホで時間を確認し、約束の時間から十五分が過ぎてから松田に電話した。
繋がらなかった。
僕は財布から松田に貰った名刺を出して、雑誌の編集部に電話を掛けた。
「あの、清原と申しますが、松田さんは今朝、そちらに寄りましたか?」
「君は松田と一緒に取材していた人?」
「はい、そうです」
「松田は死んだ。今朝、ここに来る途中で事故にあって。もう取材のほうはしなくていいよ。そのうち葬式とかの日取りが決まると思うから、また電話して」
電話は切れた。
体の力が抜け、スマホを落としていた。
田辺の家に行った帰りに松田に頼んでリサイクルショップに寄り、何かないかと探して木刀と大型のモンキーレンチを手に入れた。
その木刀は今、すぐ手の届く壁に立てかけてある。そしてパソコンの横には先の尖った包丁。自分の身は自分で守るしかない。
ネットで色々なニュースを見ていて、一つの記事を見つけた。おとどけものの配達先だった大邸宅に住むラムキ産業の会長が死んでいたというものだった。何日か前に亡くなっていたが、公にされていなかったらしい。やはりその人も特別な死に方をしたのだろうか。それだからすぐには公にできなかったのではないか。記事ではそんな詳しいことまで書かれていなかったからわからない。もしかしたら、僕があの家を訪れた時にはすでに死んでいたのかもしれない。
四日後に松田から連絡があった。
翌日に鈴木の葬儀があるから行ってみようとのことだった。
松田は田辺の家に行った次の日から色々なツテを頼って岡部が今、どこで何をしているのかを調べてみたが、何も掴めていなかった。鈴木の葬儀に行っても大した情報は得られそうになかったが、他に何も当てがないから藁にもすがるような思いだった。
僕たちは物陰に立って、葬儀の行われている寺を見ていた。
「名の知れた製薬会社の役員だし、実質的に経営をしてきたのは鈴木だと言われていたけれど、七十近くも歳の離れた愛人と心中したことになっているから、あまり派手にはできないらしい」
「どう見ても心中じゃなかったのですが」
「真実を知っているのは俺たちだけだ」
「あっ」
僕は寺に入っていく喪服姿の男を見て声を出した。
「どうした?」
「田辺です」
「ほう、死んでいなかったのか。行こう」
僕たちは寺の門の前に立ち、田辺が出てくるのを待った。
しめやかに行われているとはいえ、多くの人が告別式に訪れている。
線香を上げに来ただけらしく、田辺はすぐに姿を現した。
そして例の黒縁メガネの奥の細い目で僕を見た。
ギョッとした表情になり、慌てた様子で走り出す。
僕と松田も走り、すぐに追いついた。
「田辺さん」
僕は初めて、その男に対して名前で呼んだ。
「生きていたのか」
田辺は僕を見て言い、腕を取ると近くの建物の陰に引っ張っていった。
「岡部さんのことを聞かせてください」
その言葉を聞き、田辺はびくっと体を震わせた。
「なぜその名前を知っている?」
「鈴木さんに聞きました。僕はむざむざ殺されたくありません。真実を知りたいのです」
「そうか。好きにしろ」
そう言うと田辺はポケットからスマホを取り出した。
電話番号を告げる。
「電話をしても出ない。だが、その番号を頼りに岡部のところに行けるだろう。岡部がどうなったか俺は知らない。岡部から連絡があった時だけ俺はあいつのところに行くが、ここしばらくは連絡がなかったから行っていない。何か良くないことが起きたのは確かだ。あの件に関わった者はみんな死んだ。俺とお前以外は。鈴木さんが死んで、もう頼れる人がいなくなった。俺は外国に逃げる。お前も気を付けるんだな」
そう言って田辺は臆病そうに辺りを伺いながら去って行った。
松田は腕時計を見る。
「明日、行ってみよう。いよいよ事件の核心に迫れるかもしれない」
僕は昨日と同じ待ち合わせ場所で松田を待っていた。いつも約束よりも早い時間に来ていたのに、今日は遅い。
スマホで時間を確認し、約束の時間から十五分が過ぎてから松田に電話した。
繋がらなかった。
僕は財布から松田に貰った名刺を出して、雑誌の編集部に電話を掛けた。
「あの、清原と申しますが、松田さんは今朝、そちらに寄りましたか?」
「君は松田と一緒に取材していた人?」
「はい、そうです」
「松田は死んだ。今朝、ここに来る途中で事故にあって。もう取材のほうはしなくていいよ。そのうち葬式とかの日取りが決まると思うから、また電話して」
電話は切れた。
体の力が抜け、スマホを落としていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる