おとどけもの

原口源太郎

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 僕は暇を持て余して部屋で過ごし、ネットで色々なものを見た。外に出るのが怖かった。
 田辺の家に行った帰りに松田に頼んでリサイクルショップに寄り、何かないかと探して木刀と大型のモンキーレンチを手に入れた。
 その木刀は今、すぐ手の届く壁に立てかけてある。そしてパソコンの横には先の尖った包丁。自分の身は自分で守るしかない。
 ネットで色々なニュースを見ていて、一つの記事を見つけた。おとどけものの配達先だった大邸宅に住むラムキ産業の会長が死んでいたというものだった。何日か前に亡くなっていたが、公にされていなかったらしい。やはりその人も特別な死に方をしたのだろうか。それだからすぐには公にできなかったのではないか。記事ではそんな詳しいことまで書かれていなかったからわからない。もしかしたら、僕があの家を訪れた時にはすでに死んでいたのかもしれない。

 四日後に松田から連絡があった。
 翌日に鈴木の葬儀があるから行ってみようとのことだった。
 松田は田辺の家に行った次の日から色々なツテを頼って岡部が今、どこで何をしているのかを調べてみたが、何も掴めていなかった。鈴木の葬儀に行っても大した情報は得られそうになかったが、他に何も当てがないから藁にもすがるような思いだった。

 僕たちは物陰に立って、葬儀の行われている寺を見ていた。
「名の知れた製薬会社の役員だし、実質的に経営をしてきたのは鈴木だと言われていたけれど、七十近くも歳の離れた愛人と心中したことになっているから、あまり派手にはできないらしい」
「どう見ても心中じゃなかったのですが」
「真実を知っているのは俺たちだけだ」
「あっ」
 僕は寺に入っていく喪服姿の男を見て声を出した。
「どうした?」
「田辺です」
「ほう、死んでいなかったのか。行こう」
 僕たちは寺の門の前に立ち、田辺が出てくるのを待った。
 しめやかに行われているとはいえ、多くの人が告別式に訪れている。
 線香を上げに来ただけらしく、田辺はすぐに姿を現した。
 そして例の黒縁メガネの奥の細い目で僕を見た。
 ギョッとした表情になり、慌てた様子で走り出す。
 僕と松田も走り、すぐに追いついた。
「田辺さん」
 僕は初めて、その男に対して名前で呼んだ。
「生きていたのか」
 田辺は僕を見て言い、腕を取ると近くの建物の陰に引っ張っていった。
「岡部さんのことを聞かせてください」
 その言葉を聞き、田辺はびくっと体を震わせた。
「なぜその名前を知っている?」
「鈴木さんに聞きました。僕はむざむざ殺されたくありません。真実を知りたいのです」
「そうか。好きにしろ」
 そう言うと田辺はポケットからスマホを取り出した。
 電話番号を告げる。
「電話をしても出ない。だが、その番号を頼りに岡部のところに行けるだろう。岡部がどうなったか俺は知らない。岡部から連絡があった時だけ俺はあいつのところに行くが、ここしばらくは連絡がなかったから行っていない。何か良くないことが起きたのは確かだ。あの件に関わった者はみんな死んだ。俺とお前以外は。鈴木さんが死んで、もう頼れる人がいなくなった。俺は外国に逃げる。お前も気を付けるんだな」
 そう言って田辺は臆病そうに辺りを伺いながら去って行った。
 松田は腕時計を見る。
「明日、行ってみよう。いよいよ事件の核心に迫れるかもしれない」

 僕は昨日と同じ待ち合わせ場所で松田を待っていた。いつも約束よりも早い時間に来ていたのに、今日は遅い。
 スマホで時間を確認し、約束の時間から十五分が過ぎてから松田に電話した。
 繋がらなかった。
 僕は財布から松田に貰った名刺を出して、雑誌の編集部に電話を掛けた。
「あの、清原と申しますが、松田さんは今朝、そちらに寄りましたか?」
「君は松田と一緒に取材していた人?」
「はい、そうです」
「松田は死んだ。今朝、ここに来る途中で事故にあって。もう取材のほうはしなくていいよ。そのうち葬式とかの日取りが決まると思うから、また電話して」
 電話は切れた。
 体の力が抜け、スマホを落としていた。
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