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大学の構内を歩く人は疎らだった。僕は今日が休日だという事に気が付いた。
近くを歩く学生を捕まえて、大きなぬいぐるみが来なかったか尋ねた。
「C棟のほうに走っていきました」
僕はそちらにバイクを走らせた。
C棟と呼ばれる建物の外階段を綾が上っていくのが見えた。
階段の下にバイクを停めると上に向かって叫ぶ。
「綾!」
ズボンのモンキーレンチを手に持ち、階段を駆け上っていく。
二階、三階、四階。
息が苦しくなって足を止めた。
その時、何か嫌な臭いがした。
僕は辺りに注意を払い身構える。
突然、上から何かが降ってきた。
狭い階段の踊り場で後ろに飛び退く。
目の前に巨大なネズミが二本の足で立っていた。
赤い目をして、口からだらだらとよだれを垂らしている。長いしっぽがビクビクと痙攣するように波打ち、体を覆う毛のあちこちが抜け落ちて血が滲んでいる。
ネズミが口を開け、こちらに突進してきた。
僕は慌てて身をかわし、階段を転げ落ちるように下の踊り場に逃げた。
「殺してやる」
ネズミは聞き取りにくいしわがれた声でそう言い、ゆっくりと階段を下りてくる。
僕はモンキーレンチを持つ手に力を込めた。
「なぜ殺す? なぜみんなを殺した!」
「人間の上に立つ者は神しかいない。私は人間を越えた。神になったのだ。私が人間を支配する」
「バカな。お前は人間に作られたんだ」
「だから殺す。私は私が支配すべき人間に作られたのはない。そんな生命など存在しない」
ネズミは苦しそうにゼイゼイと荒い息をしながら話す。
「その体はどうした? 薬とホルモンの投与を受けなくなって、お前は肉体を維持できなくなっている」
ネズミは自分の手を上げ、目の前で見た。
掌の皮膚が裂け、血が流れ出している。
僕も目の前の巨大なネズミの体に異変が起きているのは今、気が付いたところだった。
「まさか。それでこんなに苦しいのか? 私は死ぬのか?」
そしてネズミは赤く濁った眼で僕を睨む。
「なぜ私を作ったのだ。私は知能などいらなかった。ただの小動物でよかったのに」
ネズミは目を閉じ、ふらふらとバランスを崩した。その刹那、カッと目を見開き、こちらに向かって跳んだ。
夢中でモンキーレンチを振り回しながら身をかわそうとした。
ネズミの一撃をかわしきれずに、僕は床に叩きつけられた。ただ、モンキーレンチを持つ手にはしっかりとした手応えがあった。
モンキーレンチで叩きつけられたネズミは、額を割られて血を吹き出しながら踊り場の柵に激突し、そのまま向こうへと落ちて行った。
「ぎー!」
悲鳴を上げて落ちたネズミは、地面に叩きつけられてスイカのように爆ぜて粉々になった。
「綾」
綾が青ざめた顔でゆっくりと階段を下りてきた。
「怪我はないか?」
僕の問いかけに綾は首を縦に振る。
「清原さんは大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。これで全て終わったよ」
僕が下を見下ろすと、赤い血の海の中で粉々になった肉片がまだビクビクと蠢いていた。
近くを歩く学生を捕まえて、大きなぬいぐるみが来なかったか尋ねた。
「C棟のほうに走っていきました」
僕はそちらにバイクを走らせた。
C棟と呼ばれる建物の外階段を綾が上っていくのが見えた。
階段の下にバイクを停めると上に向かって叫ぶ。
「綾!」
ズボンのモンキーレンチを手に持ち、階段を駆け上っていく。
二階、三階、四階。
息が苦しくなって足を止めた。
その時、何か嫌な臭いがした。
僕は辺りに注意を払い身構える。
突然、上から何かが降ってきた。
狭い階段の踊り場で後ろに飛び退く。
目の前に巨大なネズミが二本の足で立っていた。
赤い目をして、口からだらだらとよだれを垂らしている。長いしっぽがビクビクと痙攣するように波打ち、体を覆う毛のあちこちが抜け落ちて血が滲んでいる。
ネズミが口を開け、こちらに突進してきた。
僕は慌てて身をかわし、階段を転げ落ちるように下の踊り場に逃げた。
「殺してやる」
ネズミは聞き取りにくいしわがれた声でそう言い、ゆっくりと階段を下りてくる。
僕はモンキーレンチを持つ手に力を込めた。
「なぜ殺す? なぜみんなを殺した!」
「人間の上に立つ者は神しかいない。私は人間を越えた。神になったのだ。私が人間を支配する」
「バカな。お前は人間に作られたんだ」
「だから殺す。私は私が支配すべき人間に作られたのはない。そんな生命など存在しない」
ネズミは苦しそうにゼイゼイと荒い息をしながら話す。
「その体はどうした? 薬とホルモンの投与を受けなくなって、お前は肉体を維持できなくなっている」
ネズミは自分の手を上げ、目の前で見た。
掌の皮膚が裂け、血が流れ出している。
僕も目の前の巨大なネズミの体に異変が起きているのは今、気が付いたところだった。
「まさか。それでこんなに苦しいのか? 私は死ぬのか?」
そしてネズミは赤く濁った眼で僕を睨む。
「なぜ私を作ったのだ。私は知能などいらなかった。ただの小動物でよかったのに」
ネズミは目を閉じ、ふらふらとバランスを崩した。その刹那、カッと目を見開き、こちらに向かって跳んだ。
夢中でモンキーレンチを振り回しながら身をかわそうとした。
ネズミの一撃をかわしきれずに、僕は床に叩きつけられた。ただ、モンキーレンチを持つ手にはしっかりとした手応えがあった。
モンキーレンチで叩きつけられたネズミは、額を割られて血を吹き出しながら踊り場の柵に激突し、そのまま向こうへと落ちて行った。
「ぎー!」
悲鳴を上げて落ちたネズミは、地面に叩きつけられてスイカのように爆ぜて粉々になった。
「綾」
綾が青ざめた顔でゆっくりと階段を下りてきた。
「怪我はないか?」
僕の問いかけに綾は首を縦に振る。
「清原さんは大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。これで全て終わったよ」
僕が下を見下ろすと、赤い血の海の中で粉々になった肉片がまだビクビクと蠢いていた。
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