私はあなたに恋をしたの?

原口源太郎

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 火曜日になっても雪美は学校に姿を見せなかった。ホームルームで担任は雪美がしばらく学校を休むと連絡があったとだけ伝えた。
 放課後には雪美が家を出ているらしいという噂が広がっていた。夏香と優樹菜は黙っていたが、土曜日に雪美の母が電話をしたのは二人だけではなかったらしい。
 当然のように雪美の親友である夏香と優樹菜の周りに人が集まってきた。
 知らぬ存ぜぬで通し、やっと解放されて校門を出たときはいつもより一時間ほども遅い時間だった。
「参った参った」
 優樹菜は肩が凝ったように頭を左右に振りながら言った。
「どうしたのかなぁ。何かあったのなら電話でもしてくれればいいのに」
「雪美の家に行ってみる?」
「そうするか。でも今日はもう遅い。明日も雪美が来なかったら行ってみよう。授業が終わったら猛ダッシュだよ」
「午後から授業をサボっちゃおうか?」
「それはまずい。雪美が知ったら怒るよ」
「そうか。そうだね」
「牧野」
 夏香は名字を呼ばれて振り返った。
 同じクラスの翔司がいた。その後ろ、翔司に隠れるようにして俊輔もいる。
「ちょっと付き合えよ。おごってやるから」
 四人は近くのハンバーガー屋に入った。四人はハンバーガーを乗せたトレイを持って空いたテーブルについた。夏香も優樹菜もハンバーガーとシェイク一つずつ。食いしん坊の二人も男子の前だから遠慮している。
「何? 雪美のこと?」
 ハンバーガーの包みを開けながら夏香が翔司に尋ねる。
「そう。な、俊輔。教室じゃ女どもがギャーギャー言ってて近寄れねえし」
「何も知らないよ」
 優樹菜はハンバーガーに全集中しているから話すのは夏香だ。
「土曜日の夜に雪美の母さんがあちこち電話したみたいだ。牧野たちのところにも電話があったんだろ?」
「・・・・」
「教えてくれてもいいだろ? 俺はいいけど、俊輔は心配で飯も喉を通らないんだってさ」
 俊輔はぱくついていたハンバーガーを喉に詰まらせそうになった。
「んぐ。バカ言うな。別に心配しちゃいないけど・・・・。ただの好奇心だ」
「雪美、家にいないかもしれない。今晩電話してみて、それでも連絡が付かなかったら明日、雪美の家に行ってみるつもり」
「俺も行く」
 俊輔が小さな声で言った。
「何?」
 よく聞こえなかった夏香が訊き返す。
「俺も行く!」
 いきなり勢いよく叫んだので、今度は優樹菜がハンバーガーを喉に詰まらせそうになって目を白黒させた。

「結局飯が炊けねえんだからよ」
 リーダー格の日に焼けた男が不満そうに言う。名前は足立だ。雪美はもちろん名前を知らない。
 いつも部屋でいつもの三人がてんでばらばらに陣取って話をしている。
 昨日は意気込んでシチューとサラダを作ってみたものの(と言ってもシチューを作ったのは大石だ)雪美も大石も飯のことをすっかり忘れていて、足立が急いでいつもの弁当屋にご飯だけ買いに走った。
「次もご飯だけ買ってきて」
 雪美が打ち解けた様子で話す。
「バカ言え。いつもいつも飯だけ買いになんて行けるかよ」
「今日はスパゲティの予定だからいいか」
「ソースは買ってあるんだし、それで二時間も三時間も待たせるなよ」
「任せて」
 雪美は自信満々で台所に向かった。
「あいつ、誘拐されてる身だってこと、すっかり忘れてやがる」
 足立が呆れたように言う。
「いいんじゃないですか。泣かれたり騒がれたりするよりよっぽどいい。かなり根性が座っていると思いますね」
「根性が座っているというより、鈍いだけなんじゃねえか?」
「似たようなものでしょ」
「そうか? 違う気がするが。所で話は変わるけど、お前はこの事が終わったらどこに行くんだ?」
「東北の方にでも」
「何か当てはあるのか?」
「いえ、何も」
「住むところもまだか?」
「はい、これから」
「そうか。俺は西の方だ。行き会うこともなさそうだな」
「はい」
「真面目に働けよ。まだ若いんだし。無理にこんなことに巻きこんじまって悪かった」
「いえ、僕だってお金が欲しかったから」
「それから、ちょっと言いづらいんだが、今日から俺は別のところに泊まる。もう俺がいなくても大丈夫だろ? 逃げ出す心配はなさそうだ」
「はい」
 大石は少し心配そうに返事をする。
「まだ相談しなきゃならねえことがあるし、荷物の用意のこともある。金を受け取ったらすぐに向こうに行きたいからよ」
「わかりました」
「あの子可愛いけど、決して変な気は起こすなよ」
「もちろんです」
「今日は火曜日か。水、木、金。あと三日だな」
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