15 / 24
15
しおりを挟む
火曜日になっても雪美は学校に姿を見せなかった。ホームルームで担任は雪美がしばらく学校を休むと連絡があったとだけ伝えた。
放課後には雪美が家を出ているらしいという噂が広がっていた。夏香と優樹菜は黙っていたが、土曜日に雪美の母が電話をしたのは二人だけではなかったらしい。
当然のように雪美の親友である夏香と優樹菜の周りに人が集まってきた。
知らぬ存ぜぬで通し、やっと解放されて校門を出たときはいつもより一時間ほども遅い時間だった。
「参った参った」
優樹菜は肩が凝ったように頭を左右に振りながら言った。
「どうしたのかなぁ。何かあったのなら電話でもしてくれればいいのに」
「雪美の家に行ってみる?」
「そうするか。でも今日はもう遅い。明日も雪美が来なかったら行ってみよう。授業が終わったら猛ダッシュだよ」
「午後から授業をサボっちゃおうか?」
「それはまずい。雪美が知ったら怒るよ」
「そうか。そうだね」
「牧野」
夏香は名字を呼ばれて振り返った。
同じクラスの翔司がいた。その後ろ、翔司に隠れるようにして俊輔もいる。
「ちょっと付き合えよ。おごってやるから」
四人は近くのハンバーガー屋に入った。四人はハンバーガーを乗せたトレイを持って空いたテーブルについた。夏香も優樹菜もハンバーガーとシェイク一つずつ。食いしん坊の二人も男子の前だから遠慮している。
「何? 雪美のこと?」
ハンバーガーの包みを開けながら夏香が翔司に尋ねる。
「そう。な、俊輔。教室じゃ女どもがギャーギャー言ってて近寄れねえし」
「何も知らないよ」
優樹菜はハンバーガーに全集中しているから話すのは夏香だ。
「土曜日の夜に雪美の母さんがあちこち電話したみたいだ。牧野たちのところにも電話があったんだろ?」
「・・・・」
「教えてくれてもいいだろ? 俺はいいけど、俊輔は心配で飯も喉を通らないんだってさ」
俊輔はぱくついていたハンバーガーを喉に詰まらせそうになった。
「んぐ。バカ言うな。別に心配しちゃいないけど・・・・。ただの好奇心だ」
「雪美、家にいないかもしれない。今晩電話してみて、それでも連絡が付かなかったら明日、雪美の家に行ってみるつもり」
「俺も行く」
俊輔が小さな声で言った。
「何?」
よく聞こえなかった夏香が訊き返す。
「俺も行く!」
いきなり勢いよく叫んだので、今度は優樹菜がハンバーガーを喉に詰まらせそうになって目を白黒させた。
「結局飯が炊けねえんだからよ」
リーダー格の日に焼けた男が不満そうに言う。名前は足立だ。雪美はもちろん名前を知らない。
いつも部屋でいつもの三人がてんでばらばらに陣取って話をしている。
昨日は意気込んでシチューとサラダを作ってみたものの(と言ってもシチューを作ったのは大石だ)雪美も大石も飯のことをすっかり忘れていて、足立が急いでいつもの弁当屋にご飯だけ買いに走った。
「次もご飯だけ買ってきて」
雪美が打ち解けた様子で話す。
「バカ言え。いつもいつも飯だけ買いになんて行けるかよ」
「今日はスパゲティの予定だからいいか」
「ソースは買ってあるんだし、それで二時間も三時間も待たせるなよ」
「任せて」
雪美は自信満々で台所に向かった。
「あいつ、誘拐されてる身だってこと、すっかり忘れてやがる」
足立が呆れたように言う。
「いいんじゃないですか。泣かれたり騒がれたりするよりよっぽどいい。かなり根性が座っていると思いますね」
「根性が座っているというより、鈍いだけなんじゃねえか?」
「似たようなものでしょ」
「そうか? 違う気がするが。所で話は変わるけど、お前はこの事が終わったらどこに行くんだ?」
「東北の方にでも」
「何か当てはあるのか?」
「いえ、何も」
「住むところもまだか?」
「はい、これから」
「そうか。俺は西の方だ。行き会うこともなさそうだな」
「はい」
「真面目に働けよ。まだ若いんだし。無理にこんなことに巻きこんじまって悪かった」
「いえ、僕だってお金が欲しかったから」
「それから、ちょっと言いづらいんだが、今日から俺は別のところに泊まる。もう俺がいなくても大丈夫だろ? 逃げ出す心配はなさそうだ」
「はい」
大石は少し心配そうに返事をする。
「まだ相談しなきゃならねえことがあるし、荷物の用意のこともある。金を受け取ったらすぐに向こうに行きたいからよ」
「わかりました」
「あの子可愛いけど、決して変な気は起こすなよ」
「もちろんです」
「今日は火曜日か。水、木、金。あと三日だな」
放課後には雪美が家を出ているらしいという噂が広がっていた。夏香と優樹菜は黙っていたが、土曜日に雪美の母が電話をしたのは二人だけではなかったらしい。
当然のように雪美の親友である夏香と優樹菜の周りに人が集まってきた。
知らぬ存ぜぬで通し、やっと解放されて校門を出たときはいつもより一時間ほども遅い時間だった。
「参った参った」
優樹菜は肩が凝ったように頭を左右に振りながら言った。
「どうしたのかなぁ。何かあったのなら電話でもしてくれればいいのに」
「雪美の家に行ってみる?」
「そうするか。でも今日はもう遅い。明日も雪美が来なかったら行ってみよう。授業が終わったら猛ダッシュだよ」
「午後から授業をサボっちゃおうか?」
「それはまずい。雪美が知ったら怒るよ」
「そうか。そうだね」
「牧野」
夏香は名字を呼ばれて振り返った。
同じクラスの翔司がいた。その後ろ、翔司に隠れるようにして俊輔もいる。
「ちょっと付き合えよ。おごってやるから」
四人は近くのハンバーガー屋に入った。四人はハンバーガーを乗せたトレイを持って空いたテーブルについた。夏香も優樹菜もハンバーガーとシェイク一つずつ。食いしん坊の二人も男子の前だから遠慮している。
「何? 雪美のこと?」
ハンバーガーの包みを開けながら夏香が翔司に尋ねる。
「そう。な、俊輔。教室じゃ女どもがギャーギャー言ってて近寄れねえし」
「何も知らないよ」
優樹菜はハンバーガーに全集中しているから話すのは夏香だ。
「土曜日の夜に雪美の母さんがあちこち電話したみたいだ。牧野たちのところにも電話があったんだろ?」
「・・・・」
「教えてくれてもいいだろ? 俺はいいけど、俊輔は心配で飯も喉を通らないんだってさ」
俊輔はぱくついていたハンバーガーを喉に詰まらせそうになった。
「んぐ。バカ言うな。別に心配しちゃいないけど・・・・。ただの好奇心だ」
「雪美、家にいないかもしれない。今晩電話してみて、それでも連絡が付かなかったら明日、雪美の家に行ってみるつもり」
「俺も行く」
俊輔が小さな声で言った。
「何?」
よく聞こえなかった夏香が訊き返す。
「俺も行く!」
いきなり勢いよく叫んだので、今度は優樹菜がハンバーガーを喉に詰まらせそうになって目を白黒させた。
「結局飯が炊けねえんだからよ」
リーダー格の日に焼けた男が不満そうに言う。名前は足立だ。雪美はもちろん名前を知らない。
いつも部屋でいつもの三人がてんでばらばらに陣取って話をしている。
昨日は意気込んでシチューとサラダを作ってみたものの(と言ってもシチューを作ったのは大石だ)雪美も大石も飯のことをすっかり忘れていて、足立が急いでいつもの弁当屋にご飯だけ買いに走った。
「次もご飯だけ買ってきて」
雪美が打ち解けた様子で話す。
「バカ言え。いつもいつも飯だけ買いになんて行けるかよ」
「今日はスパゲティの予定だからいいか」
「ソースは買ってあるんだし、それで二時間も三時間も待たせるなよ」
「任せて」
雪美は自信満々で台所に向かった。
「あいつ、誘拐されてる身だってこと、すっかり忘れてやがる」
足立が呆れたように言う。
「いいんじゃないですか。泣かれたり騒がれたりするよりよっぽどいい。かなり根性が座っていると思いますね」
「根性が座っているというより、鈍いだけなんじゃねえか?」
「似たようなものでしょ」
「そうか? 違う気がするが。所で話は変わるけど、お前はこの事が終わったらどこに行くんだ?」
「東北の方にでも」
「何か当てはあるのか?」
「いえ、何も」
「住むところもまだか?」
「はい、これから」
「そうか。俺は西の方だ。行き会うこともなさそうだな」
「はい」
「真面目に働けよ。まだ若いんだし。無理にこんなことに巻きこんじまって悪かった」
「いえ、僕だってお金が欲しかったから」
「それから、ちょっと言いづらいんだが、今日から俺は別のところに泊まる。もう俺がいなくても大丈夫だろ? 逃げ出す心配はなさそうだ」
「はい」
大石は少し心配そうに返事をする。
「まだ相談しなきゃならねえことがあるし、荷物の用意のこともある。金を受け取ったらすぐに向こうに行きたいからよ」
「わかりました」
「あの子可愛いけど、決して変な気は起こすなよ」
「もちろんです」
「今日は火曜日か。水、木、金。あと三日だな」
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる