私はあなたに恋をしたの?

原口源太郎

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 大石は雪美を見た。毛布の下で丸くなったまま動かない。
 ふたたび雑誌の文字に目を向ける。
 正直、ずっとこうやっているのもつらい。家の周りでも歩けたらどんなにかいいだろう。だけど彼女の前で辛そうなそぶりは見せたくなかった。口数少なく、冷酷な人間を演じ続けなければならない。
 その時、何か短く息を吐くような音が聞こえてきた。
 見ると雪美の姿を隠すように広げられた毛布が小さく震えている。
 泣いているのか?
 その時になって大石は、彼女に対してきつく言い過ぎたことに気が付いた。
 それにしても、それくらいのことで泣きだすなんて。
 大石は再び雑誌の記事に集中しようとした。
 しかし、しばらく努力してみたが、結局その行為を諦めた。
「俺には父親がいない」
 大石は話していた。
 本当はこんな事、話してはいけないんだ。だけど、彼女になら話してもいいと思った。
「お袋は女手一つで俺を育ててくれた。よく知らないけれど、色々と苦労したと思う。そして俺よりもお袋の方が強く俺の大学への進学を望んだ。俺は希望通り東京の大学に入った。仕送りは少なかったけれど、お袋にとってはそれが最大限の金額だった。奨学金を借りたけれど、それでも足りずに俺はアルバイトに明け暮れた。やがて少しばかりたまったバイト代で投資を始めた。株と為替だ。お袋はかなり無理をして仕送りをしているのを知っていたから、少しでも負担を軽くしてやりたいと思った。波はあったけれど、俺は上手く稼いだ。だけど稼いだ分を全てまた投資に回すことを繰り返していたから、一度の大損で全てを失った。そして家賃さえ滞納して払えなくなっていた。土日や夜にも別のバイトを始めた。そこで足立さんと知り合った。足立さんも金に困っているようだった。あっ」
 大石はそこで言葉を切った。足立のことは話さないつもりだった。それなのに名前まで喋ってしまった。
「もう隠しても仕方がない。現場のリーダー格が足立さんだ。俺は大石。足立さんには今話したことは内緒だよ」
「はい」
 雪美は毛布から顔を半分だけ出して大石を見ていた。
「足立さんがどんな組織と繋がりがあるのかわからない。俺は足立さんに誘われてこの計画に加わった。お金が手に入ったら家賃を払って大学を辞めて遠くに行く。もしできるのなら、いずれそこにお袋を呼んで一緒に暮らせたらいいと思ってる」
 そこまで話して、大石はどうしてそんなことまで話してしまったのだろうと後悔した。
 なぜこんなことをしたとの雪美の問いかけに、自分の過去のことを訊かれているような気がして邪険にしてしまった。そのことが彼女を傷つけた。今までの様子から、それくらいのことで泣き出すとは思ってもみなかった。
「ごめん、大きな声を出して」
「ううん、大丈夫」
 雪美は半分、顔を見せたままでいる。
「じゃ、おやすみ」
 そう声をかけて大石は部屋を出た。
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