幼い日の記憶

原口源太郎

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 父に会いに行く。
 なぜ母を殺したのか。その答えを聞くために。
 父の返答次第では母の時と同じように父の胸にも先の尖った鋭い包丁を突き入れる。
 今、僕には付き合っている女性がいる。父の出所を知るまでは、その女性と結婚し、幸せな家庭を築きたいと思っていた。
 けれど、場合によっては。もし父を殺してしまったのなら、その場で彼女に電話をして別れを告げ、警察に自首する。そしてもう二度と彼女には会わない。
 僕の未来に待っているはずの幸せと、今まで僕を苦しめてきた過去のどちらを取るのかといえば、僕は彼女との未来を脇に追いやって、父への復習を果たす。それほど僕は今でも父を憎いと思っていた。

 僕は簡単な荷物をリュックに入れて家を出た。もちろんリュックの中には先の鋭く尖った包丁も入っている。

 父は日当たりの悪い、ひなびたアパートにいた。
「どなたですか?」
 チャイムを鳴らしてから少し間をおいて出てきたのは、僕が想像していたよりも小さくて萎んだような老人だった。
 僕は黙って年老いた父を見た。おぼろげな記憶の父とは全く違う人のようだった。
 怪しい者を見るような目つきで僕を見ていた父が、急に表情を変えた。
「おまえは・・・・」
 そう言ったきり、父は言葉を失って佇んだ。
「そう。僕はあなたの息子。どうしてもあなたに訊きたいことがあってきました」
 父は黙って床に視線を落とした。
 そして言った。
「入りなさい」
 そう言って奥へ行く父に従って僕は部屋に入った。
 六畳一間の小さな部屋。簡易的なキッチンの横にバストイレ用のドア。
 ほとんど物のない部屋は綺麗に片付けられている。それどころか埃ひとつないように思えた。初めて父は几帳面な性格だと知った。
 部屋の中央には小さなテーブルがひとつ。
「座りなさい。今お茶を入れる」
「いえ、お構いなく」
 そう言って僕は座布団もない床に腰を下ろした。
 父は僕の言葉など聞こえなかったかのように台所に向かい、ヤカンの乗るヒーターのスイッチを入れ、お茶を入れる用意をした。
 僕はリュックサックを下して脇に置くと、口を開いていつでも中の物を取り出せるようにした。
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