異世界転性 ~竜の血脈~

草野猫彦

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第18話 快進撃

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 2層目は、床に草が生え、壁に蔦が絡んだ迷宮だった。
 天井はむしろ1層目よりも明るい。光合成でもしているのだろう。
「2層目は獣類の魔物が多いです。1層目と同じ魔物も出てきますが、虫は少ないですね」

 快進撃は続いた。

 最短の通路を、壁を壊しながら進んでいく。
 襲い掛かるのは狼や虎、熊といった野生生物が魔物化したもので、毒を持っていたり角が生えていたりする。
 それを同じように、4人と2人に分かれて倒していく。
 相変わらずリアは獣の手足をもぎ、マールが弩でとどめをさす。
 それがパーティーの中で一番レベルの低いマールを育てる、いわゆるパワーレベリングであるとはサージも気付いていた。

 4人の組み合わせも、段々と連携がこなれてきた。
 基本、敵の初撃をカルロスが盾で防ぐか、後衛の魔法で足止めする。
 ギグがそのパワーで動きを止めている間に、カルロスの剣が急所を貫いたり、サージの魔法の刃が切り裂く。

 毛皮を持った魔物が多いため、それを剥ぎ取る作業の方がよほど大変だった。これがまた、マールは上手い。
 その毛皮をサージが納めていくのだが、まだまだ収納には余裕があった。
「しかしその空間、どれだけ入るんだ?」
「ギグより大きな岩が100個以上入るよ。前に試した」
 しかもその収納力はどんどん上がっているらしい。
「…もしサージが死んだら、その中の物はどうなるんだろうな?」
「多分だけど、そのままだよ。この迷宮ではどうだか分からないけど、空間と空間の間に消えちゃう」
 そのあたりは感覚的に分かっているらしい。
「つまり一番優先的にサージを守らないといけないわけか」
「お願いします」

 迷宮の通路を進んでいくと、巨大な空間に出た。
 巨木が立ち並び、その間を鳥が渡っている。
「この階層には幾つか、こういった大きな空間があります。強い魔物がいるので、気をつけてください」
 以前のマールのパーティーは、こういった巨大空間は避けていたらしい。だがこの6人なら、問題はないと判断した。

「視界が限られているな。密集隊形で進もう」
 罠があまりない階層だということで、リアが先頭に立つ。鏃のような隊形となった。
「奇襲にだけは気をつけないとな。特に頭上!」
 叫びざま、刀を抜き放っていた。

 居合いで斬られたのは、樹上から襲ってきた豹だった。見事に顔を両断されている。
 また毛皮を剥ぎ取っている間に、リアは刀を手入れする。オーガキングのくれた刀は、これまでずいぶんと魔物を斬ってきたが、刃こぼれもせず、切れ味も鈍らない。
(いい刀だな~)
 ニマニマと笑いながら刃を拭うリアは、どう見ても危険人物であった。



 間もなく鏡のある中心部という所で、サージが音を上げた。
「ごめん、もう眠いし疲れた。魔力も限界」
 外と同じように、迷宮の中の明かりもややその明度を落としている。夕暮れ時のような感じか。
「もう外は夜ですね。この階層はこれ以上暗くはなりませんから、そろそろ野営の準備をしないと」
 ここでリアがとんでもないことを言い出しだ。
「風呂に入ろう」
 付き合いの長い人間は引きつった笑みを浮かべ、短い人間はきょとんとした表情になる。
「…このあたりには水もお湯も湧いてませんけど…」
 そんなマールの反応が一番マトモだったが、リアには通じなかった。
 土魔法で迷宮の土を抉り取ると、同じくその壁面を固める。水魔法で水を満たすと、火球でお湯を張る。
「これぞ擬似露天風呂!」
 マールがぽふぽふと拍手をしてくれたのが嬉しかったリアである。



 とりあえず眠りかけのサージを連れた男共を風呂へと放り込み、その間に食事の準備をする。
 マールが差配して、料理をする。魔法の袋のおかげで、食材や調味料、料理器具には不足していない。
「マールは料理が上手いですね」
「そうですか? 普通ですよ」
 最低限の料理しか作れないルルーと、腹に入れられればなんでもいいリアである。その二人から見ると、マールの手際はまさにお袋のものだった。

 食事を終えると、もう一度風呂の温度を上げて、女衆が湯に浸かる。リアはマールを抱っこしている。
「しかし迷宮の中でお風呂に入るなんて、無茶苦茶ですよ~」
 ぐで~んと脱力しながらマールが言った。
「私はともかく、皆はけっこう汗もかいてるし汚れてるだろう。体を清潔に保つことが可能なら、それを怠るべきではない」
 これ以降も、可能なら風呂を作る気満々のリアであった。肝心の彼女自身は、返り血も浴びていなければ汗もほとんどかいていなかったのだが。
 前世が日本人で、王都である程度贅沢に育った彼女は、単に風呂が好きなのだった。
「おい覗くなよ! 男共!」
 そんな後が怖いことをするはずもないのだが、様式美としてリアはそう言った。
「あ~、それにしてもルルーのおっぱいは大きくて綺麗だね~」
「ちょっと、聞かれてるんですよ!」
「いいじゃないか。このお椀型の形のいいおっぱい。エルフは貧乳が多いって言うけど、ハーフはやっぱり違うねえ」
「そう言いながら揉まないで…ちょお!」
 声だけで前かがみになる男たちであった。

 睡眠時の見張り役も、リアが進んで務めた。睡眠軽減のギフトは便利だ。
 一人で見張りをしている間、ニタニタと笑いながら、刀を研いでいたのは秘密である。



 翌日、体調が万全に回復した状態で守護者の間に入る。
 ここの守護者は、ヘルハウンド。漆黒の体毛に真っ赤な目をした、地獄の番犬と言われる魔獣である。
「…犬か…。ちょっと殺すのが可哀想になるな」
 そんな呑気なことを言っていられるのはリアだけである。
 だいたい熊より大きく、だらだらとよだれを垂らしている犬を、可愛いと言ってしまえる感性がおかしい。
「レベル45だってさ。特殊能力は特になし」
 鑑定の結果、防御力の高いカルロスが前に出る。
 ルルーの防御魔法をかけてもらって、相手の攻撃を盾で防ぎながら、剣でちくちくと攻撃する。
 かなりのこう着状態であった。

「仕方ないなあ」
 刀も抜かず、てくてくと接近するリア。
 当然のごとくヘルハウンドはその攻撃をリアに向けるのだが、噛み付きにかかってきたところを拳で殴る。
 ギャン! と悲鳴を上げながらも戦闘意欲は衰えていないようで、またリアに噛み付こうとするのだが、所詮は獣の脳と言うか。

 両手で顔を挟み込むと、力ずくで投げ飛ばす。腹を見せたヘルハウンドを、リアは押さえ込みにかかる。
「ほ~ら、よしよし。ここか、ここがええのんか~」
 容赦のない撫で回し攻撃に、あへあへとなるヘルハウンド。戦闘意欲は薄れさせないながらも、犬の本能で自分より強い者には逆らえない。
 しばしの間地獄の魔物と戯れたあと、ようやくリアは満足したようだった。
 ヘルハウンドはきちんと待ての姿勢でその横に佇んでいる。
「よし、じゃあ行こうか」

 そして一行は守護者を打倒することもなく、3階層へと足を踏み入れた。



 迷宮の様相は、1層に近かった。石組みの通路に、ところどころ木々が絡まっている。
「ここの敵は主にゴーレムです。ほとんどがウッド・ゴーレムで、階層の守護者がストーン・ゴーレムです」
「俺の得意な敵だな」
 意欲満々なギグに対して、珍しくルルーが要望を告げた。
「出来るだけゴーレムコアは壊さずに手に入れて。高く売れるし、実験の材料にもなるから」

 その通りとなった。

 昼前には守護者の前に到達すると、そのまま突撃する。
「レベルは55だよ~」
 前衛二人が、どかんどかんと殴り合う。その間に、酷使に耐えかねたカルロスの剣が折れた。
「ああ~! 高かったのに!」
 ちゃんと手入れをしないからだ、と思いながらもリアは予備の剣を出して渡す。
 慣れていない剣でも、同じ片手剣である。なんとかゴーレムと渡り合う。

 だがそのうち、サージが飽きてきた。
「ギグ、加速の魔法を使うから、ちゃちゃっとやっちゃってね」
 短時間の精神集中の後、やっとギグに魔法をかけると、見るからにその動きが速くなった。

 石のゴーレムに、戦鎚を叩き込む。関節部をカルロスが狙う。
 それほどの間もなく、ゴーレムは倒れこんだ。もちろんゴーレム核も無事入手である。
「これで専用のゴーレムが作れるわ~」
 ちなみにどういった目的のゴーレムを作るのかと言うと、部屋の模様替えなどに便利らしい。



 一行は4層に入った。
 完全な石組みの迷宮だ。光源も、壁に置かれた正体不明の松明しかない。
 ここの守護者はミノタウロスだと、リアたちはオーガキングから聞いていた。
 主に難易度が高いのは、迷宮の複雑さによる。マールが以前のパーティーで全滅したのも、この階層だった。
「よし、じゃあ壁壊し作戦で行くか」
 もはや誰もそれを止められない。

 石壁を素手で破壊していくリア。さすがにここまでくると集まってくる敵も強いのだが、継戦してきた一行も相当にレベルが上がっている。
 双頭の蛇とか、巨大な毒蜘蛛とか、相変わらずの獣連中は、特殊な能力がない限りは問題なく倒せる。
 そして特殊な能力を持っている敵は、リアが一刀で仕留めていた。
 実はオーガキングとの戦いで、剣術スキルがレベル8に上がっていたのだ。

 山のように出現する敵を、ルルーが火壁を作って牽制し、カルロスとギグは力技で魔物を倒すことに慣れてきたのが、叫び声を上げて戦っている。
 サージとマールは変わらず、前衛をかいくぐってきた魔物を矢と魔法で仕留めている。

 小休止を入れて、これからの予定を組む。
「マール、5層はどんなところなんだ?」
「聞いた話では、岩砂漠のような場所らしいです。迷宮と言うよりは、部屋の連続と言うか」
「よし、じゃあそこに行ってから、風呂を作るか」
 ぶれないリアであった。

 ミノタウロスは悲惨であった。
 普通に戦えば、多くの探索者をひき肉にしてきた強者であったろうはずが、何しろリアである。
 オーガキングよりははるかに弱い、という理由で、簡単に倒してしまう。
 速度に物を言わせて背後に回り、両膝の裏を切断。
 巨大な戦斧を持っていた腕の、肘の腱を切断。
 あとは戦士二人に虐殺してもらった。
「ミノタウロスって食えるのかな…」
「リア、一応ミノタウロスは亜人に属されています。食べない方がいいかと」



 かくして一行は5層へと潜る。
 ここが探索者にとっての一つの壁になるのだが、それはまだ誰も知らない。
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