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一度、「どこまで飲めるのか試したい」という希望を受けて、彼女の深酒に付き合ったことがある。
浴びるように酒を飲み、ようやく酔った兆しを見せた彼女は、怒るでもなく、眠たそうにするでもなく、さめた目で、少しだけ饒舌になった。
そして私に向かって、奇妙な持論を打ち明けた。
「お姉ちゃん。私、人間はみんな、呪われてるんだと思う」
「それは……どういうこと?」
「だからね、他の動物の血を流さなきゃ、生きていけないっていう呪い。
お姉ちゃんも、お肉、食べるでしょ?
豚のお肉とか、魚のお肉とか。
私の場合は、それがたまたま同種ってだけの話」
私はふふっと笑った。
あれだけ弱かった妹が。
自分のことを責め続けていた妹が。
こんなにも図太い考え方を持つようになった。
私は嬉しかった。
「そっか。そうだよね」
「そう。そうなんだよ」
そう言うと妹は、おもむろに私の手をとった。
そしてその指に自分の指を絡めたり、手の甲をなめるように触った。
自分の顔が熱くなるのを、私は感じた。魔性の女だ。こんなことされて、そりゃあおちない男がいるはずもない。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「……なに?」
「お姉ちゃんの婚約者、いつも盗んじゃってごめんね?」
そのとき既に、私は妹に、四人目の婚約者を奪われた後だった。
「ばか」
私は彼女の手を払って、肩でどんと小突いた。
婚約者を奪われることくらい、どうってことない。
結婚して他の女に浮気されるくらいなら、妹の餌になってもらった方がまし。
それに……
「いつも言ってるでしょう。私、信じてるから」
「うん」
私の最愛の小悪魔は、くすくすと笑った。
「私の誘惑になんて釣られない、お姉ちゃんだけのことを愛してくれる運命の人が、いつか現れるから。でしょ?」
「そう」
「本当にいるのかなぁ? そんな人」
「いるよっ。いるに決まってるでしょ!」
私はまた、彼女の肩を小突いた。
妹は、口を開けて笑った。
そんな人が、もし現れなくても。
私はこの性悪な小悪魔の笑顔がいつまででも見られるのなら。
それでいいや、と思ってしまっているのも事実だ。
でもこれは、私だけの秘密だ。
浴びるように酒を飲み、ようやく酔った兆しを見せた彼女は、怒るでもなく、眠たそうにするでもなく、さめた目で、少しだけ饒舌になった。
そして私に向かって、奇妙な持論を打ち明けた。
「お姉ちゃん。私、人間はみんな、呪われてるんだと思う」
「それは……どういうこと?」
「だからね、他の動物の血を流さなきゃ、生きていけないっていう呪い。
お姉ちゃんも、お肉、食べるでしょ?
豚のお肉とか、魚のお肉とか。
私の場合は、それがたまたま同種ってだけの話」
私はふふっと笑った。
あれだけ弱かった妹が。
自分のことを責め続けていた妹が。
こんなにも図太い考え方を持つようになった。
私は嬉しかった。
「そっか。そうだよね」
「そう。そうなんだよ」
そう言うと妹は、おもむろに私の手をとった。
そしてその指に自分の指を絡めたり、手の甲をなめるように触った。
自分の顔が熱くなるのを、私は感じた。魔性の女だ。こんなことされて、そりゃあおちない男がいるはずもない。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「……なに?」
「お姉ちゃんの婚約者、いつも盗んじゃってごめんね?」
そのとき既に、私は妹に、四人目の婚約者を奪われた後だった。
「ばか」
私は彼女の手を払って、肩でどんと小突いた。
婚約者を奪われることくらい、どうってことない。
結婚して他の女に浮気されるくらいなら、妹の餌になってもらった方がまし。
それに……
「いつも言ってるでしょう。私、信じてるから」
「うん」
私の最愛の小悪魔は、くすくすと笑った。
「私の誘惑になんて釣られない、お姉ちゃんだけのことを愛してくれる運命の人が、いつか現れるから。でしょ?」
「そう」
「本当にいるのかなぁ? そんな人」
「いるよっ。いるに決まってるでしょ!」
私はまた、彼女の肩を小突いた。
妹は、口を開けて笑った。
そんな人が、もし現れなくても。
私はこの性悪な小悪魔の笑顔がいつまででも見られるのなら。
それでいいや、と思ってしまっているのも事実だ。
でもこれは、私だけの秘密だ。
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