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喫茶店で見つけた美尻を触ったり揉んだりしようとする男の話
しおりを挟むそれは一目惚れでした。
何気なく入った駅前の喫茶店。
パタパタと駆け寄ってきたエプロンの女性。
私の注文を受け取とって、くるっと背中を見せると露(あらわ)になったもの。
交差するエプロンのヒモのした、ジーンズのような、それでいてもっと柔らかく身体にフィットするような生地で出来た臙脂(えんじ)色のパンツルック。
そこにある見事な双丘を目にした瞬間、身体中の細胞が沸騰したような感覚が私を襲ったのです。
決して大きくはありません。
しかしキュッと音が聞こえてきそうなほど、形(なり)良く上向きに突き出した見事な造型が実際よりも豊かなボリュームを感じさせるかのようでした。
しなやかな柔らかさと弾力、滑らかな感触とぬくもり。
およそその部分に人が感じうる魅力というものを全て完璧に備えていることを、ぴっちりとした布地越しに高らかに宣言しているかのようでした。
彼女が歩くたびにプルプルと上下に品良く揺れ弾みながら遠ざかっていくそれから一時たりとも目が離せません。
やがて厨房らしき場所へとその姿が消えるまでそのままじぃっと凝視してしまっていました。
触ってみたい。
思う存分好き放題に心行くまで、撫で廻して揉みしだきたい。
触って揉んで突ついてつねって叩いてキスして舐めて噛んで顔を埋めてしまいたいと願ってしまったのはもはや必然としかいいようがありません。
ああまで魅力的で美しいものなどこれまで見たことが無かったのだから。
自分が今滅多に無い大変貴重で類稀な衝撃的な体験に遭遇していることは間違いなかったのだから。
その渇望を、衝動を持ってしまったことを一体この世の誰が責められるでしょうか。
どんな権威や概念が問題視し、悪徳だと断じることができるでしょうか。
正しく異性を求める機能を持っている健全な人間であればまったく自然で当たり前のこと。
美しく魅力的なものを求める心を否定してしまったら、何のためにそれらが存在するのか誰にも説明することはできないでしょう。
などと、埒も明かないことを考えているうちに彼女がこちらに向かってきます。
私が注文したコーヒーをトレーに持って、早くも無く遅くも無い足取りでみるみる近づいてきます。
私はその時初めて彼女の顔を正面から確認しました。
清楚で素敵な方でした。
年の頃は20代から30代といったところ。(私は女性の年齢を推察するのが苦手です)
バランスよく配置された目鼻立ち、はにかんだ微笑みが似合いそうな物静かな美貌とでもいいましょうか。
世間並みに見れば間違いなく「美人」であることは疑いようもありません。
深閑とした暗い森の奥、そこだけ日が射す場所に凛と咲く一輪の白百合のような。
「佳人」という言葉で表現してもそう差し支えないでしょう。
ただ先ほど目にした物の持ち主としては、いささか平凡な印象を持ってしまったかもしれません。
最もこれは彼女が悪いわけではなく、自分の心の優先度、価値観の問題なのだとは思います。
正直、自分にとってお尻という器官の重要性に比べたら顔の目鼻立ちなどさほどのものでもなかったのです。
勿論、綺麗に整っているにこしたことはありませんが、あくまでも副次的なものでしかなく、そちらが例えダメでも大きな落胆とか憤慨とか。
拒絶とか嫌悪とか。
そんなマイナスの心証はあまり起こらないのです。
持ち得ないのです。
私にとっては女性の顔の出来などその程度のものなのです。
極論すると、「究極的に完璧なイデア的な尻」とでもいうものがあったとするなら、恐らくその持ち主がどれだけ(自分にとって)醜かったとしても、まったく問題なく許容できると思います。
どのような醜女(しこめ)であろうと、究極的な尻が放つであろう魅惑の光の眩さ、無限の美的性的価値の大きさに圧倒されてしまい、どうでもいいことになってしまうのだろうと、そう思うのです。
仮に冥界に降ったイザナミがそんな尻の持ち主で、さらに自分がイザナギであったなら、あの神話の結末も全く違ったものになっていたであろうことをこれっぽっちも疑っていません。
よって、滅多に見れない美人を前にして「いささか平凡」などと、聞き様によってはあまりにも傲慢で不届きとも受け捉えかねない感想を持ってしまったのも、ひとえに彼女の美貌さえ霞ませる素晴らしい臀部の盛り上がりに原因があったのだと釈明させていただきたい。
そうして不躾な視線を彼女の顔に投げ続けていたのだから、あちらがこちらの視線に気がつくのもすぐでした。
歩きながら、一瞬目をまあるく見開いて、はにかんだような微笑み。
まったく想像通り、そんな表情が絵に描いたように似合っていました。
そしてちょっと怖気づいたような、困惑したような様子で「ご注文のコーヒーです」という言葉とともに私の前にカチャリと説明どおりのモノをおきます。
コーヒーと、恐らく彼女のものらしい柑橘系の香りがすぅっと自分の中へと流れ込んできます。
「今だ」と思いました。
絶好の千載一遇のチャンスだと確信しました。
「貴女のお尻を触らせて欲しい」。
「思う存分飽きるまで揉みしだかせていただきたい」。
そう要求する最高の機会がまんまと訪れたとしか思えませんでした。
この瞬間、彼女に投げかける言葉など他にありえませんでした。
それは当然であり必然でしかなかったのです。
エントロピーの法則とか万有引力とか、そういった宇宙を司る絶対的法則のようなものだったのです。
……それなのに。
「どうもありがとう」。
私の口からでたのはそんなありきたりで平凡、なんの意味もなさそうな凡庸な言葉でした。
もうワケがわかりません。
何故よりによってこんなチャンスを棒に振ってしまうのか。
そう言おうと堅く心に誓ったはずなのに、一瞬で自分自身を裏切っている己の不可解さにただ混乱に包まれます。
さらに情けないことに、そのときの自分は心にも無い薄っぺらいとしかいいようがない微笑みらしきものを浮かべていました。
別に笑おうと思っていたわけでもないのに、あたかも彼女のご機嫌をとるように愛想笑いを浮かべていたらしいのです。
その表情の歪ませぶりは、まるで逃げ腰である心の様相そのままの情けなく不甲斐ないものであっただろうことはたとえ自分で確認することは出来ずとも想像に易いことでした。
本来であれば力強い引き締まった益荒男のような顔つきで、あの言葉を堂々と腹の底からの野太い声で言い放っていたはずなのに。
恐らくそれが、彼女に要求することに最も相応しい態度であり気勢であると確信していたはずなのに。
明らかに何かに怯え、躊躇した末に妥協した。
そうとしか言いようの無い、惨めで情けない卑怯な小心者の姿が心に思い浮かび、なんともいえない恥ずかしく苛立たしく悔しい思いに囚われたのでした。
もう暗澹とした心持に包まれて、「ああっ」と顔を両手で覆って女々しくこの場を立ち去ってしまいたい衝動が沸き起こりました。
しかし何故か彼女はそんな私の言葉と態度に気を悪くした様子もなく、表情をそれまでよりも人懐っこい柔らかなものに変えて「どうぞ、ごゆっくり」などというのです。
むしろ少し好感を持ったような雰囲気を醸しだすのです。
明らかに心証を良く出来た手応え、想定外の成果に乱れていた心の波がみるみる落ち着いていきました。
何故かわからないけど、どうやらまだ希望が潰えていないらしいことに、みるみる冷静になっていきます。
奥へと戻っていく彼女のお尻がプルプルと揺れるのを凝視するうちに、完全に落ち着いていました。
勿論、すっかり冷静になった自分の心の中では「次こそは」という決意だけです。
そうして彼女への決死のアプローチが繰り返されたのでした。
その日帰りがけに。
また次に行ったときに。
名前と連絡先を聞いたときも。
初めて二人で出かけたときも。
その都度「尻を触らせて欲しい」という言葉がそこまで出掛かっているのに、全くでないという事が繰り返されました。
その代わりに私の口から出るのは、「やあ」とか「元気?」とか「今度どこか行かない?」とか「その服似合ってるね」とか。
もうすぐ目の前に目的のものが、手を伸ばせば難なく届く場所にあるのにも関わらず、何故かそんな腑抜けた言葉と軟派な態度で終始して。
そして彼女はそんな自分の様子にいちいち好感をもって胸をときめかせているのが明らかなのです。
今日、初めてキスをしました。
抱きしめて顔を上げた彼女の唇に自分のモノを押し付けました。
完全に私を受け入れてうっとりと浸っている様子の彼女。
その細い腰に巻いた腕は以前からずぅっと何より恋焦がれているお尻までわずかの距離でしかありません。
クリーム色のロングスカート、薄く滑らかな布地に浮かび上がるやわらかくしなやかそうな、ちょっとした彼女の動きに従ってあちらにぷるん、こちらにぷるんと控えめな風情で揺れるなんとも愛らしく美しい二つの盛り上がり。
もうギリギリ触れるか触れないかのところまで来ていました。
でもやっぱり私は今回もそれを触ることができませんでした。
二人の関係がもはや男女の最終段階まで近づいていることは明らかです。
生まれたままの姿でありのままの互いを隅から隅まで愛し合う、そんなところまで来ているはずなのです。
さすがにそこまで至ればどれだけあの謎の反発力が強力だったとしても、自然と流れに沿って目的を達成し念願を成就できるはずだという、希望あるいは羨望、切望のようなものと同時に。
もしかしたら「その時」を迎えてもそうできないのではないか、やはり何か問答無用の「力」としか言いようがないものに阻まれて頓挫し、場合に寄ればそのまま一生叶うことがないまま終わってしまうのではないかという恐怖が生まれて相争うように渦を巻き始めました。
しまいには答えが明らかにされて、結果を突きつけられることを厭う様な心持にすらなっている始末。
この自分の最も激しい欲求を、根源的な渇望をいつもギリギリで留めて抑え込んでしまう理解不能の力が一体何なのか、何に由来するものなのかはわかりません。
もしかしたら理性的に了解することなど不可能なものなのかもしれません。
相変わらず私に出来ることといえば、いつか必ずこの反発力に打ち勝って己の情欲を、行き場を失ってはちきれんまでに膨張して肥大した凄まじいまでの欲求を満たして晴らせる日がくることを信じて待ちわびることだけなのでした。
了
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