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クールでオデコなメガネっ娘委員長はボクのことがどうやら好きらしい。
しおりを挟む委員長はボクのことがどうやら好きらしい。
一ミリも崩すことなくキチッと完璧に纏った学校指定の制服、膝下15センチのスカート。
かざりっけの無いシンプルなカチューシャで前髪を一本も垂らすことなく露にされたきれいな額(ひたい)、メガネの下の無表情だけど整った顔。
必要なことだけを限界まで最適化された言葉で告げる、起伏の少ない澄んだ声。
クールでオデコなメガネっ娘というテンプレみたいにキャラ立ちしているクラスの委員長。
そんな彼女が自分に好意を寄せているというのに気がついて、もう半年ほど経つんだろうか。
何気なく視線を感じて振り返るたびに目に映る、ついっと顔を逸らす姿。
担任に指名された雑用をしている時、ふと気がつくと側にいて手伝ってくれたりなんて序の口。
恐らく自然で何気ないと思っているのは本人だけの、わかりやすくて明らかなアプローチの数々。
それでいて面と向かって話をするときなんかは相変わらず無表情でクールな態度を崩さないのがなんだかおかしいくらい。
我ながら鈍い方だと思うけど、こうまではっきりやられればさすがにわからないわけが無い。
聞けば、クラスのみんなはとっくに気がついていて知らぬは当人ばかりなりって感じだったらしい。
正直、人に好意を持ってもらえるというのはとてもうれしい。
ましてや相手はあの委員長。
成績優秀で美人、学校全体で見てもトップレベル。
ちょっと浮世離れした雰囲気があるけど、魅力的な女の子なのは疑いようが無い。
ボクにとっては本来手の届くわけがない高嶺の華。
こんな幸運、もう一生ないだろうことは確実の。
だからそんな相手に好意を持ってもらえてることが明らかなこの状況、さっさとこっちから一歩を踏み出して正式にお付き合いをするべきなんだろうけど。
なんでかボクはそうする気になれない。
………
午後は雨が降るっていう天気予報はちゃんとチェックしていた。
だから下駄箱でざーざーという音と湿った空気を感じた途端、反射的に鞄の中の折り畳み傘に手が伸びるのは自然なことだった。
でもその挙動を止めたのはすぐ目の前の靴箱の陰から発せられる圧倒的な雰囲気。
ここからは直接視認できないそこにいるものが放つ存在感。
バトル系のマンガとかで「気」とかよくでてくるけど、そんな禍々しささえ感じかねないオーラのようなものがゆらゆらと揺らめいているのを明確に感じ取ってしまったから。
……いる。
間違いない。
彼女だ。
もうこの頃ではそんな風に何をやってくるのか大体わかるようになってしまっていた。
それくらいボクにとっては彼女のアプローチが日常になっている。
握った傘から手を離し、鞄のふたを閉める。
全く何も気づいていない素振りで足を踏み出し、そのまま先へ行こうとすると。
「ヤマダくん」
想像通り。
予感的中。
「ああ、やっぱりね」っていう脱力感に包まれながら、平坦で滑らかな声に向かって振り返る。
靴箱の側面に背中を預けて寄りかかるようにしてこちらを見ている、相変わらず何を考えているのかわからない無機質な印象を受ける整った顔。
「や、やあ」
「今帰り?」
「うん。委員長も?」
「ええ、そうなの。たまたま偶然この時間になっちゃたの。本当に奇遇ね」
嘘だ。
絶対、ここで待ってたんだ。
放課後、仲の良い悪友が部活に向かうまで相当だらだら話込んでたから、今はもう生徒の姿もまばらな時間。
たまたま偶然一緒の時間になるなんてありえないわけじゃないけど、さすがにそのまま受け入れるには無理がある。
表情一つ変えずにいけしゃあしゃあと言い放つ彼女になんだかよくわからない緊張感を抱いてしまう。
そしてもうここまでくれば彼女の「今日のプラン」を完璧に把握できてしまっていた。
たぶんこの雨というシチュエーションを最大限に利用したアプローチを考えているんだろう。
雨の降る放課後、偶々居合わせた二人。
あるのは一本だけの傘。
恋に恋しちゃう思春期真っ盛りのヤツらが必ず一度は夢見るであろう、例のアレ。
だから次に出てくる彼女のセリフも見事に予想通りのものだった。
「傘、持ってるの?」
ほうら来た。
どうせボクが持ってるといえば彼女は持っていないと言うんだろう。
逆もまたしかり。
分岐に関わらず確実に目的を達成できる、予定調和的なやり口。
でも彼女の性格だと、どちらかと言えば自分が提供する側になりたいというのが本音だろうから。
「わ、忘れちゃったんだー」
棒読みで答えた。
さすがにわざとらしかったかと思うも、彼女は全然気にした様子も無い。
いや、ポーカーフェイスすぎてどう思ってるのか全くわからない。
「そう。じゃあ……」
そうして取り出された傘。
メガネの向こうから向けられる、揺ぎ無い視線。
「入れてあげる。別に私はどうでもいいんだけど、クラス委員長としてはほっとけないわね」
その声音も表情も相変わらずなんの揺らぎもない、平坦で無機質なもの。
だけど断りようも無い、有無を言わせぬプレッシャーが満ち溢れていた。
なんとも言い難い気持に包まれながら、彼女と一つの傘を握り合って駅まで向かう。
時々車が横を通って水を撥ねるたびに、「きゃあ」とか全然感情のこもってない声で言いながらボクの方に体を寄せてくる。
校則手帳に書いてあるお手本のような着こなしの制服の上から確かな感触を伝えてくる、柔らかな膨らみを押し当ててくるのは勘違いじゃない。
それもまた彼女の目的の一つだったんだろう。
わざわざ車道側のポジションも狙って取っているはず。
そうして今日も彼女の意向に逆らえずに諾々と流されているボク。
もはやわかってやっているのか天然なのかもよくわからない。
確かなのは、あまり刺激することなく曖昧な態度で極力可能な限り彼女の望む通りにやっておいた方がいいのだという諦観のような自分の想い。
なんとなくこのままの状態が良いような、あるいは駄目なような、勿論彼女を嫌いじゃないしボク自身そういうのに何か甘酸っぱい期待をしているのは事実だったりするんだけど。
でもやっぱり全面的に受け入れるのがちょっと怖いような。
そんな明確な言葉にできない、なんとも奥深くて悩ましい気持。
駅に着くまで、ずっと彼女の視線を頬に感じていた。
進行方向なんてまるで目もくれずにあの綺麗なガラスのような瞳でじっとメガネ越しに食い入るように自分を見詰める視線の圧力。
そこに込められたものを否応も無く想像させられて、ますます逃げ場が無い場所に追い込まれたような焦燥感に包まれながら。
ボクは最後まで気がつかないフリをした。
了
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