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デビュタント
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月日は流れ、私たちは十五歳になった。十五歳といえば、この世界の成人で、貴族の子女は必ずデビュタントの夜会に参加することになっている。
一年に一度、王城で開かれるデビュタントの夜会は、私たちにとって、大人になるための通過儀礼だ。この夜会の終了をもって私たちは大人として扱われる。
デビュタントの夜会の夜。王城に乗り付けた馬車で、私は真っ白なドレスをまとってクリストフ様が迎えに来るのを待っていた。
純白のドレスは始まりの象徴で、デビュタントと結婚式だけにしか着られない。初々しくふわりと広がるスカートは、社交界の始まりによく似合う。
私は美しく重なるスカートを撫でつつ感傷に浸っていた。
十歳で記憶を取り戻す前は、このデビュタントでエスコートしてくれる最高の婚約者が欲しいと思っていた。
十二歳で、クリストフ様と婚約してそれから三年。成長したクリストフ様は誰もが羨む素敵な王子様だ。
最高の身分に整った容姿。その上、学問や武芸においても優秀で、最近では事業経営の真似事まで始めていると聞く。
時々笑顔が怖いことと、私が将来的な干物生活を諦めきれないこと以外は完璧な婚約者だ。
今でも私は、干物生活を続けていて。普段は猫をかぶって過ごしているけれど、実態は理想の令嬢から遠ざかる一方だ。
そんな私が、貴族女性の代表でもある王子妃になるなんてふさわしくない。
だから、仲良くなれたと思っているクリストフ様に『自分は王子妃にふさわしくない』と折に触れて伝えてきた。
するとその度に、『リズはそのままで良いんだよ』なんて少し低くなった甘い声で返されてしまう。
全然伝わらなくて歯がゆい。そのままでなんて良いわけない。
だけど、クリストフ様の言うこともわかるのだ。
……だって、ずっと猫をかぶり続けているから、クリストフ様は本当の私のことなんてまったく知らないのだもの。
まもなくクリストフ様がやってきて、馬車の扉を開けた。そして、私を見て一瞬目を見張り、すぐにその黄金の瞳を細めた。
「リズ。すごく綺麗だ」
そして、慈しむような優しい声音で、次々と褒めてくれる。だけど、ばっちりと決めた正装のクリストフ様のきらきらしさは私の比ではない。
いつもは可愛い雰囲気を残しているけれど、今日は前髪を上げているせいか、いつもより大人っぽくて新鮮だ。
「クリストフ様もすごく素敵です」
そう言うと、クリストフ様はまぶしいくらいの笑みを浮かべた。
そうして、クリストフ様に手を借りてテロップを降りていると、段差で身長差がなくなった耳元にクリストフ様が唇を寄せてくる。
「ねえ、結婚式みたいだと思わない?」
私は思わず最後の段差を踏み外しかけ、クリストフ様にしっかりと支えられた。お礼を伝えると、クリストフ様が艶っぽく笑う。
身体を離してしっかり立ち、ちらりと自分の衣装を見る。確かに白いドレスという点では同じだけれど、デビュタント女性は皆白いドレスなのだ。
「そう言われれば、そんなこともないような……?」
クリストフ様を待つ間に、何人も白いドレスの令嬢を見かけたし、会場はもっとだろう。これだけ集まれば結婚式というかんじもしない。
だからといって、それをそのまま正直に伝えて、笑顔を曇らせるのも申し訳ない気がした。
「リズのウェディングドレス姿も綺麗だろうな。今から楽しみだよ」
曖昧な答えを肯定ととったのか、クリストフ様の続けた言葉に私は目を瞬かせた。そうして、ついクリストフ様の顔をじっと見てしまう。
こんなキザなセリフが似合うなんて、さすがは王子様。恥じらいもなく、さらりと言ってのけるのが本当にすごい。
婚約直後からキザな言動が多かったし、絶対タラシの素質がある。三年で随分慣れたけれど、それでもしばしば反応に困ってしまう。
「ん? どうしたの?」
「いえ……。ありがとうございます……?」
とりあえずお礼を言って、クリストフ様の腕を取ると会場となっている大広間へと向かった。
身分順での入場になるため、私たち――というよりはクリストフ様の入場は一番だ。入場する扉の前で私たちはそのタイミングを待っていた。
注目を浴びるのは目に見えていて、すっと背筋が伸びる。
十歳のお披露目のとき、同じようにお父様と入場したことを思い出す。あのときはもっと緊張したのに、もっと盛大なデビュタントでこんなに落ち着いていられるのは、中身が変わったからだろうか。それとも、隣にクリストフ様がいるからだろうか。
そんなことを考えていると、腰に腕を回されてぐいと引き寄せられた。こんなふうにクリストフ様が距離を詰めてくるのは珍しい。
驚いて顔を見やると、クリストフ様はわずかに緊張した面持ちでこちらを見つめていた。
成長したとはいっても、まだ十五歳。大舞台では不安にもなるだろう。
「緊張しているのですか?」
微笑みながら声を潜めて話しかける。人は少ないけど、周りにいるし、ハンス様やステファン様がそろそろ来てもおかしくない。
「……違うよ」
クリストフ様は不満そうに眉をひそめた。これくらいの歳だと素直に不安を伝えるのは恥ずかしいのかもしれない。
「クリストフ様なら大丈夫です」
これでも中身は彼より歳上だし、クリストフ様がずっと頑張ってきたことも知っている。
しっかりと目を見つめて、にっこり笑って伝えると、クリストフ様は複雑な表情になった。
「だから違うって……っ!」
ため息とともに、腕が戻される。もうすぐ入場だもの。気を引き締めていかないと……。
高らかなファンファーレとともに、扉が開く。クリストフ様と一緒に会場に入るとどっと拍手が沸き起こった。
お披露目会とは、比較にならないほどの人の波。輝かんばかりの装飾は、まるで別世界だ。
溺れそうな視線の中を、クリストフ様の腕をとって進む。クリストフ様の礼に合わせて、完璧な淑女の礼を披露すれば、割れんばかりの拍手が会場を包んだ。
一歩、また一歩と上等な赤絨毯を進む。そうして、その先の王へと拝謁すれば、私たちは大人になるのだ。
王の御前で、もう一度礼をとって言葉を待つ。落ち着いた声で名前を呼ばれて顔を上げれば、対峙した王は、優しげな笑みを浮かべていた。
その瞳の金色は、クリストフ様とよく似ていて、胸が痛む。
ごめんなさい。
口には出せない気持ちを込めて、私は深く膝を折った。
無事に拝謁を終えたその後は、様々な方に取り囲まれて、目まぐるしく挨拶をし続けていった。貴族名鑑はもう完全に頭に入っている。それぞれの領の特産品や産業について、気になっていた話題を丁寧に教えてもらえ、とても有意義な時間となった。
数え切れないほどの挨拶をこなしていると、ざわめきを切るように、柔らかな旋律が流れ始めた。
デビュタントたちの拝謁が終わり、ダンスタイムが訪れたのだ。
「僕たちも踊ろうか」
差し出された手は優雅で、周りの貴婦人や令嬢たちがため息をつく。
その手を取って、胸におさまると、クリストフ様がにこりと微笑みかけてきた。周囲から黄色い歓声が聴こえる。もちろん淑女としては褒められたことではないので、こんなことは普通起こらない。
こんなに素敵な王子様なのだもの。皆が夢中になるのもわかるわ。
……これだけ人気があれば、私との婚約が破談になってもいくらでも他の方を選べるはず。
クリストフ様は良くしてくれている。こんなに素敵な婚約者は他にいない。
クリストフ様と婚約してすぐに、有閑婦人に収まるために他の婚約者を探すことなんて、考えられなくなってしまった。
それでも私は、自由な暮らしを諦めきれない。
普通に働いて、親しい人と笑い合って、家に帰ればぐだぐだのんびり過ごしたい。
それだけのことなのに……、貴族女性としてそんな生き方は認められない。
勘当覚悟で家出して庶民として暮らしたい。
だけど、そんなことをしたら、家に処罰があるだろうし、クリストフ様の経歴にも傷をつけてしまう。そう思うと踏ん切りも付かず、ずるずるとここまで来てしまった。
「何を考えているの? 僕をその瞳に映してはくれないの?」
踊りながら気もそぞろな私を心配したのか、クリストフ様が声をかけてくる。じっと見つめてくるその瞳に苦笑しつつ、私も彼を見つめ返す。
「いえ、将来のことを考えていたのです」
私の言葉に、クリストフ様は少し黙って。後ろめたい気持ちを隠して、私はただじっとその瞳を見つめた。
「妬けるな」
クリストフ様がぼそりと言って、右手をつなぐ力が強くなった。同時に抱きしめられているかのように背中に圧がかかる。なんとも言えずに、私は微笑んだ。
クリストフ様が言葉を重ねることもなく、私たちはただ粛々と踊る。
一曲めが終わり、二曲目に入った。婚約者でなければ、続けて踊れない曲。
二曲目も半ばに差し掛かったあたりで、気まずい沈黙に耐えられなくなった私は口を開いた。
「もう少ししたら、学園に入学ですもの」
その言葉に、険しかった顔がふわりとほころんだ。その顔になぜか泣きたいような気分になる。
「……そうしたら毎日逢えるね」
出会った頃は、歳に似合わぬ色気に戸惑ったけれど、仲良くなるにつれて様々な顔を見てきた。
「でも、今はせっかくの夜会を楽しもう」
きらきらした王子様然とした笑顔。もし、私の願いが叶うなら、この人とはもう一緒にいられない。
ちらりと浮かぶ未練を振り払い、私はうなずいた。
一際大きく踏み出したクリストフ様に合わせて、大胆に一歩を踏み出す。沸き立つ周囲に楽しくなってその顔を見やれば、とろりと深い金色が優しく私を捉えていた。
互いの視線が絡んでどちらともなく、くつくつと笑う。
こうして夜は更けていき、そのまま楽しく夜会は続いた。
一年に一度、王城で開かれるデビュタントの夜会は、私たちにとって、大人になるための通過儀礼だ。この夜会の終了をもって私たちは大人として扱われる。
デビュタントの夜会の夜。王城に乗り付けた馬車で、私は真っ白なドレスをまとってクリストフ様が迎えに来るのを待っていた。
純白のドレスは始まりの象徴で、デビュタントと結婚式だけにしか着られない。初々しくふわりと広がるスカートは、社交界の始まりによく似合う。
私は美しく重なるスカートを撫でつつ感傷に浸っていた。
十歳で記憶を取り戻す前は、このデビュタントでエスコートしてくれる最高の婚約者が欲しいと思っていた。
十二歳で、クリストフ様と婚約してそれから三年。成長したクリストフ様は誰もが羨む素敵な王子様だ。
最高の身分に整った容姿。その上、学問や武芸においても優秀で、最近では事業経営の真似事まで始めていると聞く。
時々笑顔が怖いことと、私が将来的な干物生活を諦めきれないこと以外は完璧な婚約者だ。
今でも私は、干物生活を続けていて。普段は猫をかぶって過ごしているけれど、実態は理想の令嬢から遠ざかる一方だ。
そんな私が、貴族女性の代表でもある王子妃になるなんてふさわしくない。
だから、仲良くなれたと思っているクリストフ様に『自分は王子妃にふさわしくない』と折に触れて伝えてきた。
するとその度に、『リズはそのままで良いんだよ』なんて少し低くなった甘い声で返されてしまう。
全然伝わらなくて歯がゆい。そのままでなんて良いわけない。
だけど、クリストフ様の言うこともわかるのだ。
……だって、ずっと猫をかぶり続けているから、クリストフ様は本当の私のことなんてまったく知らないのだもの。
まもなくクリストフ様がやってきて、馬車の扉を開けた。そして、私を見て一瞬目を見張り、すぐにその黄金の瞳を細めた。
「リズ。すごく綺麗だ」
そして、慈しむような優しい声音で、次々と褒めてくれる。だけど、ばっちりと決めた正装のクリストフ様のきらきらしさは私の比ではない。
いつもは可愛い雰囲気を残しているけれど、今日は前髪を上げているせいか、いつもより大人っぽくて新鮮だ。
「クリストフ様もすごく素敵です」
そう言うと、クリストフ様はまぶしいくらいの笑みを浮かべた。
そうして、クリストフ様に手を借りてテロップを降りていると、段差で身長差がなくなった耳元にクリストフ様が唇を寄せてくる。
「ねえ、結婚式みたいだと思わない?」
私は思わず最後の段差を踏み外しかけ、クリストフ様にしっかりと支えられた。お礼を伝えると、クリストフ様が艶っぽく笑う。
身体を離してしっかり立ち、ちらりと自分の衣装を見る。確かに白いドレスという点では同じだけれど、デビュタント女性は皆白いドレスなのだ。
「そう言われれば、そんなこともないような……?」
クリストフ様を待つ間に、何人も白いドレスの令嬢を見かけたし、会場はもっとだろう。これだけ集まれば結婚式というかんじもしない。
だからといって、それをそのまま正直に伝えて、笑顔を曇らせるのも申し訳ない気がした。
「リズのウェディングドレス姿も綺麗だろうな。今から楽しみだよ」
曖昧な答えを肯定ととったのか、クリストフ様の続けた言葉に私は目を瞬かせた。そうして、ついクリストフ様の顔をじっと見てしまう。
こんなキザなセリフが似合うなんて、さすがは王子様。恥じらいもなく、さらりと言ってのけるのが本当にすごい。
婚約直後からキザな言動が多かったし、絶対タラシの素質がある。三年で随分慣れたけれど、それでもしばしば反応に困ってしまう。
「ん? どうしたの?」
「いえ……。ありがとうございます……?」
とりあえずお礼を言って、クリストフ様の腕を取ると会場となっている大広間へと向かった。
身分順での入場になるため、私たち――というよりはクリストフ様の入場は一番だ。入場する扉の前で私たちはそのタイミングを待っていた。
注目を浴びるのは目に見えていて、すっと背筋が伸びる。
十歳のお披露目のとき、同じようにお父様と入場したことを思い出す。あのときはもっと緊張したのに、もっと盛大なデビュタントでこんなに落ち着いていられるのは、中身が変わったからだろうか。それとも、隣にクリストフ様がいるからだろうか。
そんなことを考えていると、腰に腕を回されてぐいと引き寄せられた。こんなふうにクリストフ様が距離を詰めてくるのは珍しい。
驚いて顔を見やると、クリストフ様はわずかに緊張した面持ちでこちらを見つめていた。
成長したとはいっても、まだ十五歳。大舞台では不安にもなるだろう。
「緊張しているのですか?」
微笑みながら声を潜めて話しかける。人は少ないけど、周りにいるし、ハンス様やステファン様がそろそろ来てもおかしくない。
「……違うよ」
クリストフ様は不満そうに眉をひそめた。これくらいの歳だと素直に不安を伝えるのは恥ずかしいのかもしれない。
「クリストフ様なら大丈夫です」
これでも中身は彼より歳上だし、クリストフ様がずっと頑張ってきたことも知っている。
しっかりと目を見つめて、にっこり笑って伝えると、クリストフ様は複雑な表情になった。
「だから違うって……っ!」
ため息とともに、腕が戻される。もうすぐ入場だもの。気を引き締めていかないと……。
高らかなファンファーレとともに、扉が開く。クリストフ様と一緒に会場に入るとどっと拍手が沸き起こった。
お披露目会とは、比較にならないほどの人の波。輝かんばかりの装飾は、まるで別世界だ。
溺れそうな視線の中を、クリストフ様の腕をとって進む。クリストフ様の礼に合わせて、完璧な淑女の礼を披露すれば、割れんばかりの拍手が会場を包んだ。
一歩、また一歩と上等な赤絨毯を進む。そうして、その先の王へと拝謁すれば、私たちは大人になるのだ。
王の御前で、もう一度礼をとって言葉を待つ。落ち着いた声で名前を呼ばれて顔を上げれば、対峙した王は、優しげな笑みを浮かべていた。
その瞳の金色は、クリストフ様とよく似ていて、胸が痛む。
ごめんなさい。
口には出せない気持ちを込めて、私は深く膝を折った。
無事に拝謁を終えたその後は、様々な方に取り囲まれて、目まぐるしく挨拶をし続けていった。貴族名鑑はもう完全に頭に入っている。それぞれの領の特産品や産業について、気になっていた話題を丁寧に教えてもらえ、とても有意義な時間となった。
数え切れないほどの挨拶をこなしていると、ざわめきを切るように、柔らかな旋律が流れ始めた。
デビュタントたちの拝謁が終わり、ダンスタイムが訪れたのだ。
「僕たちも踊ろうか」
差し出された手は優雅で、周りの貴婦人や令嬢たちがため息をつく。
その手を取って、胸におさまると、クリストフ様がにこりと微笑みかけてきた。周囲から黄色い歓声が聴こえる。もちろん淑女としては褒められたことではないので、こんなことは普通起こらない。
こんなに素敵な王子様なのだもの。皆が夢中になるのもわかるわ。
……これだけ人気があれば、私との婚約が破談になってもいくらでも他の方を選べるはず。
クリストフ様は良くしてくれている。こんなに素敵な婚約者は他にいない。
クリストフ様と婚約してすぐに、有閑婦人に収まるために他の婚約者を探すことなんて、考えられなくなってしまった。
それでも私は、自由な暮らしを諦めきれない。
普通に働いて、親しい人と笑い合って、家に帰ればぐだぐだのんびり過ごしたい。
それだけのことなのに……、貴族女性としてそんな生き方は認められない。
勘当覚悟で家出して庶民として暮らしたい。
だけど、そんなことをしたら、家に処罰があるだろうし、クリストフ様の経歴にも傷をつけてしまう。そう思うと踏ん切りも付かず、ずるずるとここまで来てしまった。
「何を考えているの? 僕をその瞳に映してはくれないの?」
踊りながら気もそぞろな私を心配したのか、クリストフ様が声をかけてくる。じっと見つめてくるその瞳に苦笑しつつ、私も彼を見つめ返す。
「いえ、将来のことを考えていたのです」
私の言葉に、クリストフ様は少し黙って。後ろめたい気持ちを隠して、私はただじっとその瞳を見つめた。
「妬けるな」
クリストフ様がぼそりと言って、右手をつなぐ力が強くなった。同時に抱きしめられているかのように背中に圧がかかる。なんとも言えずに、私は微笑んだ。
クリストフ様が言葉を重ねることもなく、私たちはただ粛々と踊る。
一曲めが終わり、二曲目に入った。婚約者でなければ、続けて踊れない曲。
二曲目も半ばに差し掛かったあたりで、気まずい沈黙に耐えられなくなった私は口を開いた。
「もう少ししたら、学園に入学ですもの」
その言葉に、険しかった顔がふわりとほころんだ。その顔になぜか泣きたいような気分になる。
「……そうしたら毎日逢えるね」
出会った頃は、歳に似合わぬ色気に戸惑ったけれど、仲良くなるにつれて様々な顔を見てきた。
「でも、今はせっかくの夜会を楽しもう」
きらきらした王子様然とした笑顔。もし、私の願いが叶うなら、この人とはもう一緒にいられない。
ちらりと浮かぶ未練を振り払い、私はうなずいた。
一際大きく踏み出したクリストフ様に合わせて、大胆に一歩を踏み出す。沸き立つ周囲に楽しくなってその顔を見やれば、とろりと深い金色が優しく私を捉えていた。
互いの視線が絡んでどちらともなく、くつくつと笑う。
こうして夜は更けていき、そのまま楽しく夜会は続いた。
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