10 / 223
アニエルカ・スピラと紅茶。
10話
しおりを挟む
アニーが指で写真フレームを作り、片目でユリアーネを覗いている。
「ふむふむ」
「……なにしてんの?」
たまらずダーシャが疑問を問いかける。
作業を続けたまま、アニーは眉を顰めて唸る。
「いや、視界にビロルさんが入り込んでくるので、うまく消しながら良い構図を探してるんです」
「俺、なんかした? さっきから」
収拾がつかないため、ダーシャが先に進める。この二人がいるとなにもかもが台無しになってしまう。ひとつ咳払いし、場を正した。
「申し訳ない。ダーシャ・ガルトナーです。えーと、ユリアーネ・クロイツァーさん。まず志望動機をお願いします」
と、会話を促す。アニーとビロルはなんだかんだ戻りそうにないので、放置しておくことにした。そのうちカッチャが迎えにくるだろうと予想。渡された履歴書を見ながら、話をすすめていく。
声をかけられ、静かにユリアーネは口を開いた。
「はい、コーヒーが好きで、将来は自分のお店を持ちたいと思い、その勉強として応募させていただきました」
「紅茶はどうっスか?」
結局、横からアニーが入ってくる。美少女ということでウキウキしているようだ。満面の笑みで問いかける。肯定的な返答を期待していたが、
「紅茶はあまり。ほとんどコーヒーです」
と、ユリアーネに否定され、アニーは少ししょんぼりとする。
「もう採用でいいんじゃないですかー? 人数いた方がいいのは本当だし、接客とかもよさそうだし」
それに可愛いし、という言葉もつけたそうとしたが、ビロルは一瞬で引っ込めた。あまりほいほいと可愛いを言うと、軽い男に思われる可能性がある。焦らせるくらいのほうがちょうどいい。この子は責任感のあるアニキが好きだ。そうに違いない。そうであってくれ。
「そうっスよ。どうせボクの店に引き抜くつもりなんで、ボクが教育したいです」
さらっと邪な考えを流しながら、アニーはユリアーネの背後にまわり両肩を軽く叩く。 予め確保しておこうという魂胆のようだ。
隠そうとしないアニーにダーシャは乾いた笑いを浮かべる。
「そういうのは心の中で思っててくれる? でもどうしてウチの店に? ベルリンにはたくさんカフェはありますよね?」
とりあえず、ありきたりな質問をする。だが実際にベルリンにはかなりの数のカフェがあり、それぞれコンセプトがあるお店も多い。理由を問うてみる。
しかし、その間にアニーが割って入る。
「そんなもん、どうだっていいじゃないっスか。採用です、採用」
ふくれっ面で強引に話を進めようとする。
少し恥ずかしそうにしたユリアーネは、はにかみながら口を開いた。
「コーヒーの……導きです」
「え?」
「お?」
なにやら聞き慣れない会話の流れになり、ヴァルトの面々は発言の内容を反芻して飲み込む。が、うまく消化できず、ユリアーネが次に発現するまで待つことになった。
タイミングを見計らって、肩をこわばらせながらユリアーネは続けた。やはりそういう反応になりますよね、と前置きをしつつ。
「趣味でコーヒー占いをやっているのですが、それでここしかない、と出ました」
数秒、自身で思案してみたが、埒があかないのでアニーはダーシャの方に顔を向ける。うわ、美少女からのおじさんはキツい。
「店長、コーヒー占いってなんですか? 四〇なんだから詳しいでしょ」
「なんだからって何よ。まだ三八だし。たしか、トルコとか中東あたりで、昔から伝わる占いだったかな。飲み終わったカップに沈殿した模様で占うとか」
うろ覚えだが、たしかに聞き覚えがあるダーシャは、脳裏にある情報をまとめてみる。しかし実際にやったことも、見たこともない。聞いたことあるだけ。
「ふむふむ」
「……なにしてんの?」
たまらずダーシャが疑問を問いかける。
作業を続けたまま、アニーは眉を顰めて唸る。
「いや、視界にビロルさんが入り込んでくるので、うまく消しながら良い構図を探してるんです」
「俺、なんかした? さっきから」
収拾がつかないため、ダーシャが先に進める。この二人がいるとなにもかもが台無しになってしまう。ひとつ咳払いし、場を正した。
「申し訳ない。ダーシャ・ガルトナーです。えーと、ユリアーネ・クロイツァーさん。まず志望動機をお願いします」
と、会話を促す。アニーとビロルはなんだかんだ戻りそうにないので、放置しておくことにした。そのうちカッチャが迎えにくるだろうと予想。渡された履歴書を見ながら、話をすすめていく。
声をかけられ、静かにユリアーネは口を開いた。
「はい、コーヒーが好きで、将来は自分のお店を持ちたいと思い、その勉強として応募させていただきました」
「紅茶はどうっスか?」
結局、横からアニーが入ってくる。美少女ということでウキウキしているようだ。満面の笑みで問いかける。肯定的な返答を期待していたが、
「紅茶はあまり。ほとんどコーヒーです」
と、ユリアーネに否定され、アニーは少ししょんぼりとする。
「もう採用でいいんじゃないですかー? 人数いた方がいいのは本当だし、接客とかもよさそうだし」
それに可愛いし、という言葉もつけたそうとしたが、ビロルは一瞬で引っ込めた。あまりほいほいと可愛いを言うと、軽い男に思われる可能性がある。焦らせるくらいのほうがちょうどいい。この子は責任感のあるアニキが好きだ。そうに違いない。そうであってくれ。
「そうっスよ。どうせボクの店に引き抜くつもりなんで、ボクが教育したいです」
さらっと邪な考えを流しながら、アニーはユリアーネの背後にまわり両肩を軽く叩く。 予め確保しておこうという魂胆のようだ。
隠そうとしないアニーにダーシャは乾いた笑いを浮かべる。
「そういうのは心の中で思っててくれる? でもどうしてウチの店に? ベルリンにはたくさんカフェはありますよね?」
とりあえず、ありきたりな質問をする。だが実際にベルリンにはかなりの数のカフェがあり、それぞれコンセプトがあるお店も多い。理由を問うてみる。
しかし、その間にアニーが割って入る。
「そんなもん、どうだっていいじゃないっスか。採用です、採用」
ふくれっ面で強引に話を進めようとする。
少し恥ずかしそうにしたユリアーネは、はにかみながら口を開いた。
「コーヒーの……導きです」
「え?」
「お?」
なにやら聞き慣れない会話の流れになり、ヴァルトの面々は発言の内容を反芻して飲み込む。が、うまく消化できず、ユリアーネが次に発現するまで待つことになった。
タイミングを見計らって、肩をこわばらせながらユリアーネは続けた。やはりそういう反応になりますよね、と前置きをしつつ。
「趣味でコーヒー占いをやっているのですが、それでここしかない、と出ました」
数秒、自身で思案してみたが、埒があかないのでアニーはダーシャの方に顔を向ける。うわ、美少女からのおじさんはキツい。
「店長、コーヒー占いってなんですか? 四〇なんだから詳しいでしょ」
「なんだからって何よ。まだ三八だし。たしか、トルコとか中東あたりで、昔から伝わる占いだったかな。飲み終わったカップに沈殿した模様で占うとか」
うろ覚えだが、たしかに聞き覚えがあるダーシャは、脳裏にある情報をまとめてみる。しかし実際にやったことも、見たこともない。聞いたことあるだけ。
0
あなたにおすすめの小説
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
四人の令嬢と公爵と
オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」
ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。
人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが……
「おはよう。よく眠れたかな」
「お前すごく可愛いな!!」
「花がよく似合うね」
「どうか今日も共に過ごしてほしい」
彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。
一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。
※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 190万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる