9 / 223
アニエルカ・スピラと紅茶。
9話
しおりを挟む
「じゃ、まずは志望動機をお願いするっス」
「バッカ、そんなもん遊ぶ金欲しさ以外にあるわけないだろ。出れる時間帯はどこ? フロアとキッチンどっちがいい?」
「うん、なんでいるのキミ達」
事務所には、面接希望の子ひとりに対して、店側が三人という圧迫面接のような見た目になっている。小さな木製テーブルとイス四脚。三方向から質問が飛んでくる。
「なんでって、だってめっちゃ美少女っスよ! 店長が警察に連れていかれるの見たくないんです」
机を叩いて立ち上がりアニーは主張する。
「なんで手を出す前提なのかわからないけど、キミ達、今はバイト中だからね」
この間にも給料は発生している。店の方は比較的空いているとはいえ、ホールはカッチャひとりでなんとかなるわけではないだろう。せめてどっちかだけでも戻ってほしい。
「なんか困ったことがあったら、俺を頼ってくれ。ビロルだ、よろしく」
と、ビロルは少女に握手を求める。女子供には甘い、と自負してはいる。これだけ可愛ければ、色々と周りからも甘やかされてきたはずだ。でも兄貴ぶんとして、可愛い子でも働くときは厳しくする。よく言うだろ? 『甘いものは別腹』って。
「いや、なんの話!?」
「? なんスか店長、いきなり」
誰もなにも言ってないのに、いきなりツッコミだした店長の不安定な情緒をアニーは心配した。
「あ……いや、ゴメン」
あまりにも彼らに翻弄され続けすぎて、心の声が幻聴として聞こえてきている。ダーシャは、言われた通りやっぱりちょっと休みが必要なのかもしれない、と頭の隅に考え始めた。
「いやー、よかったっスね。『代返くん』があるおかげで、店長が休んでもなんとかなりそうです」
と、アニーはICレコーダーを手に、自慢げにかざす。数百時間の録音と編集を重ね、生み出された仮の店長『代返くん』。別にアニーが面接の電話を引き受けてもいいはずだが、なにかあったときに責任は取りたくない。
ダーシャはよく考えたら、体調を気づかったのも彼らだが、心身の疲労の原因も彼らだ。感謝するのは間違っている気がする。
「あの……」
少女そっちのけで会話をしてしまい、アニーは、しまった、と謝罪した。
「申し訳ないっス。いやー、それにしても本当に可愛いっス。眼福、ってこのことですね。ビロルさんを見てからだと、より遠近法が狂ったのかってくらい顔も小さいですし」
「さらっと失礼なこと入れるな」
彼女の名前はユリアーネ・クロイツァーというらしい。白く透けそうな透明感のある肌、ミルクティー色の艶のある髪、ぽってりとした桜色の唇、色素の薄いグレーの濡れた瞳。モデルか芸能人の仕事と間違えて応募してきたのではないかと怪しむほど、完璧すぎる容姿だった。
「バッカ、そんなもん遊ぶ金欲しさ以外にあるわけないだろ。出れる時間帯はどこ? フロアとキッチンどっちがいい?」
「うん、なんでいるのキミ達」
事務所には、面接希望の子ひとりに対して、店側が三人という圧迫面接のような見た目になっている。小さな木製テーブルとイス四脚。三方向から質問が飛んでくる。
「なんでって、だってめっちゃ美少女っスよ! 店長が警察に連れていかれるの見たくないんです」
机を叩いて立ち上がりアニーは主張する。
「なんで手を出す前提なのかわからないけど、キミ達、今はバイト中だからね」
この間にも給料は発生している。店の方は比較的空いているとはいえ、ホールはカッチャひとりでなんとかなるわけではないだろう。せめてどっちかだけでも戻ってほしい。
「なんか困ったことがあったら、俺を頼ってくれ。ビロルだ、よろしく」
と、ビロルは少女に握手を求める。女子供には甘い、と自負してはいる。これだけ可愛ければ、色々と周りからも甘やかされてきたはずだ。でも兄貴ぶんとして、可愛い子でも働くときは厳しくする。よく言うだろ? 『甘いものは別腹』って。
「いや、なんの話!?」
「? なんスか店長、いきなり」
誰もなにも言ってないのに、いきなりツッコミだした店長の不安定な情緒をアニーは心配した。
「あ……いや、ゴメン」
あまりにも彼らに翻弄され続けすぎて、心の声が幻聴として聞こえてきている。ダーシャは、言われた通りやっぱりちょっと休みが必要なのかもしれない、と頭の隅に考え始めた。
「いやー、よかったっスね。『代返くん』があるおかげで、店長が休んでもなんとかなりそうです」
と、アニーはICレコーダーを手に、自慢げにかざす。数百時間の録音と編集を重ね、生み出された仮の店長『代返くん』。別にアニーが面接の電話を引き受けてもいいはずだが、なにかあったときに責任は取りたくない。
ダーシャはよく考えたら、体調を気づかったのも彼らだが、心身の疲労の原因も彼らだ。感謝するのは間違っている気がする。
「あの……」
少女そっちのけで会話をしてしまい、アニーは、しまった、と謝罪した。
「申し訳ないっス。いやー、それにしても本当に可愛いっス。眼福、ってこのことですね。ビロルさんを見てからだと、より遠近法が狂ったのかってくらい顔も小さいですし」
「さらっと失礼なこと入れるな」
彼女の名前はユリアーネ・クロイツァーというらしい。白く透けそうな透明感のある肌、ミルクティー色の艶のある髪、ぽってりとした桜色の唇、色素の薄いグレーの濡れた瞳。モデルか芸能人の仕事と間違えて応募してきたのではないかと怪しむほど、完璧すぎる容姿だった。
0
あなたにおすすめの小説
昨日、あなたに恋をした
菱沼あゆ
恋愛
高すぎる周囲の評価に頑張って合わせようとしているが、仕事以外のことはポンコツなOL、楓日子(かえで にちこ)。
久しぶりに、憂さ晴らしにみんなで呑みに行くが、目を覚ましてみると、付けっぱなしのゲーム画面に見知らぬ男の名前が……。
私、今日も明日も、あさっても、
きっとお仕事がんばります~っ。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
君に恋していいですか?
櫻井音衣
恋愛
卯月 薫、30歳。
仕事の出来すぎる女。
大食いで大酒飲みでヘビースモーカー。
女としての自信、全くなし。
過去の社内恋愛の苦い経験から、
もう二度と恋愛はしないと決めている。
そんな薫に近付く、同期の笠松 志信。
志信に惹かれて行く気持ちを否定して
『同期以上の事は期待しないで』と
志信を突き放す薫の前に、
かつての恋人・浩樹が現れて……。
こんな社内恋愛は、アリですか?
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる