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エスプレッソとコーラ。
51話
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窓際で物思いにふける美少女。それだけでも絵になる。アニーはそれを凝視し、目に焼き付ける。
(それにしても、ユリアーネさんの寝相が悪すぎて、いつも床に落とされてるなんて、口が裂けても言えないっス……でも、そこがギャップでいいんスけどね)
もちろん、アニーの部屋にベッドはひとつしかない。当然同じベッド。なのだが、ユリアーネはお淑やかな印象とはかけ離れた寝相の悪さ。ゆえに、押し出されるように起きてしまう。
しかし、本人はそんなことには全く気づかず、ユリアーネはアニーの早起きに感心する。
「……よし、たまには他の店にも行ってみましょう。良いところは取り入れ、お店の改善をはかります」
紙の資料を机でトンッ、と叩いて揃えカバンにしまう。所作はとても美しく優美なのだが。
別室の台所から戻ってきたアニーが、制服に着替えながら問う。
「今日ですか? たしかにユリアーネさん休みですけど……なにかアテとかあるんですか?」
二人の目線が合う。外では鳥が羽ばたく音がした。
「ありません。ですが、直したり参考にしたりできるところは、色んなお店から得ることもできるはずです。他からの刺激がないと、案外気付きませんからね」
はっきりとユリアーネは答える。正解などなにもない。が、その端尾すら掴めていない現状。ならば、他の店のいいところを自分達なりに消化して真似すること。そのための偵察。
実質、ベルリンには数え切れないほどのカフェが存在している。チェーン店の大きなカフェから、個人経営のこぢんまりしたものまで様々だが、インテリアやメニューなど、それぞれこだわりを持った店が多く、勉強になるのは間違いない。
着替え途中のアニーだが、腕を組んで、うんうん、と頷く。
「さすがっスね。 改善案、楽しみにしてます。店のほうはボクと店長に——」
「いえ、アニーさんも一緒に行っていただきます。一応は本物の店長なわけですから。お店の改善には、アニーさんの力も必要なわけです」
若くしてカフェ『ヴァルト』のオーナーとなったユリアーネは、まだ経験というものが絶対的に足りていない。ゆえに、他店舗を見てもどこをどう真似すればいいのか、わからないことが山のようにある。
例えば、ドリップコーヒーとエスプレッソ、どちらを売りにしたほうがいいのか。ドイツでは、二〇世紀初頭にメリタという、ペーパードリップの元祖ともいえるメーカーが創業し、ドイツにコーヒー文化が栄えた。ゆえに、ドリップ派が多いのだが、エスプレッソやコールドブリューも増加傾向だ。
「へ? でもボク、今日シフト入って——」
「休んでください。そもそも、働きすぎです。私達は学生なんですから。ミディジョブの金額を超えないようにしてくださいね」
半ば強引にユリアーネは、シフトに入るはずだったアニーを休ませる。ほぼ毎日シフトに入っており、学生なのかと疑ってしまうほど。
ドイツでは、雇用形態で『ミニジョブ』『ミディジョブ』『それ以上』と言う風に、大きく分けられる。ミニジョブは月に五二〇ユーロ、ミディジョブは一三〇〇ユーロ。もしその額を超えるようだと、税や補償費などの影響で、相応に給料が引かれることになるので、それぞれ計画的に働く必要があるのだ。
「てことは……一緒にお出かけですか!? 初めてっス!」
着の身着のままでアニーは喜ぶ。二人で揃って出かけるということは今までになかったので、ようやく身を結んだ、と小躍りをする。
「……えぇ、むしろ遅いくらいかと思いますけど……」
まさかそんな喜び方をするとは思っていなかったユリアーネは、若干ひきつつも意を決した。
(それにしても、ユリアーネさんの寝相が悪すぎて、いつも床に落とされてるなんて、口が裂けても言えないっス……でも、そこがギャップでいいんスけどね)
もちろん、アニーの部屋にベッドはひとつしかない。当然同じベッド。なのだが、ユリアーネはお淑やかな印象とはかけ離れた寝相の悪さ。ゆえに、押し出されるように起きてしまう。
しかし、本人はそんなことには全く気づかず、ユリアーネはアニーの早起きに感心する。
「……よし、たまには他の店にも行ってみましょう。良いところは取り入れ、お店の改善をはかります」
紙の資料を机でトンッ、と叩いて揃えカバンにしまう。所作はとても美しく優美なのだが。
別室の台所から戻ってきたアニーが、制服に着替えながら問う。
「今日ですか? たしかにユリアーネさん休みですけど……なにかアテとかあるんですか?」
二人の目線が合う。外では鳥が羽ばたく音がした。
「ありません。ですが、直したり参考にしたりできるところは、色んなお店から得ることもできるはずです。他からの刺激がないと、案外気付きませんからね」
はっきりとユリアーネは答える。正解などなにもない。が、その端尾すら掴めていない現状。ならば、他の店のいいところを自分達なりに消化して真似すること。そのための偵察。
実質、ベルリンには数え切れないほどのカフェが存在している。チェーン店の大きなカフェから、個人経営のこぢんまりしたものまで様々だが、インテリアやメニューなど、それぞれこだわりを持った店が多く、勉強になるのは間違いない。
着替え途中のアニーだが、腕を組んで、うんうん、と頷く。
「さすがっスね。 改善案、楽しみにしてます。店のほうはボクと店長に——」
「いえ、アニーさんも一緒に行っていただきます。一応は本物の店長なわけですから。お店の改善には、アニーさんの力も必要なわけです」
若くしてカフェ『ヴァルト』のオーナーとなったユリアーネは、まだ経験というものが絶対的に足りていない。ゆえに、他店舗を見てもどこをどう真似すればいいのか、わからないことが山のようにある。
例えば、ドリップコーヒーとエスプレッソ、どちらを売りにしたほうがいいのか。ドイツでは、二〇世紀初頭にメリタという、ペーパードリップの元祖ともいえるメーカーが創業し、ドイツにコーヒー文化が栄えた。ゆえに、ドリップ派が多いのだが、エスプレッソやコールドブリューも増加傾向だ。
「へ? でもボク、今日シフト入って——」
「休んでください。そもそも、働きすぎです。私達は学生なんですから。ミディジョブの金額を超えないようにしてくださいね」
半ば強引にユリアーネは、シフトに入るはずだったアニーを休ませる。ほぼ毎日シフトに入っており、学生なのかと疑ってしまうほど。
ドイツでは、雇用形態で『ミニジョブ』『ミディジョブ』『それ以上』と言う風に、大きく分けられる。ミニジョブは月に五二〇ユーロ、ミディジョブは一三〇〇ユーロ。もしその額を超えるようだと、税や補償費などの影響で、相応に給料が引かれることになるので、それぞれ計画的に働く必要があるのだ。
「てことは……一緒にお出かけですか!? 初めてっス!」
着の身着のままでアニーは喜ぶ。二人で揃って出かけるということは今までになかったので、ようやく身を結んだ、と小躍りをする。
「……えぇ、むしろ遅いくらいかと思いますけど……」
まさかそんな喜び方をするとは思っていなかったユリアーネは、若干ひきつつも意を決した。
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